レビュー
「ALIENWARE Alpha」長期レビュー【1回目】
~デル初“家庭用ゲーム機”の完成度を見る
(2015/2/9 06:00)
デル株式会社は、Steamでゲームをプレイすることを前提とした小型ゲーミングPC「ALIENWARE Alpha」を発売した。直販価格は64,584円からだ。今回、スタンダードモデルを長期お借りする機会を得たので、数回に分けてレビューをお届けしよう。
ALIENWARE Alphaは、Steamのゲームプレイに特化したゲーミングPCである。SteamはTVとゲームコントローラに最適な10フィートUI「Big Picture」を実装していることもあり、“Windowsで必要最低限の操作や設定がコントローラでできるUIさえ備えれば、Steam専用ゲームコンソールのように振る舞う”ことが可能だった。それを具現化したのが、ALIENWARE Alphaだと言えるだろう。
そんなわけで、デルとしては、ALIENWARE AlphaをゲーミングPCではなく、ゲーミングコンソール、つまりPlayStation 4やXbox Oneと同じ家庭用ゲーム機として位置付けている。マーケティング的に言ってしまえば、デルにとって全く新しいジャンルのきっかけとなる戦略的な製品だ。しかしそのプラットフォームは、汎用PCと同じx86のCPUやWindows 8.1を採用しており、ほかのデル製品と同様BTOができる、ただそれだけのことだ。
1回目は、ゲームコンソールとしての素質を見るべく、ハードウェアを見ていこう。
小型筐体に高性能を詰め込む
パッケージはエイリアンの頭が描かれた真っ黒のパッケージで、ALIENWARE Alphaという製品名はラベル以外見えない、シンプルなものとなっている。開封すると、1枚の紙にコントローラの操作方法が書かれた紙があり、基本的に全ての操作はコントローラで完結することが分かる。その紙の裏側には、保証規約やXbox 360コントローラのドライバと説明書が入っている封筒が貼り付けられているのだが、これは使うことはないだろう。
紙をめくるといよいよ本体とご対面だ。緩衝材で大きく3つのパーティションに分かれており、左はXbox 360のコントローラとWindows PC向けのレシーバ、単3電池2本、中央にはALIENWARE Alpha本体、そして右側にはHDMIケーブルやACアダプタ、リカバリUSBメモリなどが収納されている。
付属するコントローラはXbox 360で使用されるコントローラそのものである。また、レシーバも市販のものそのものだ。デルとしてはPlayStation 4やXbox Oneと同じ家庭用ゲーム機として位置付けているので、この辺りは正直言って恥ずかしい限りである。
もちろん、Xbox 360のコントローラは事実上Windows PCのゲーミングコントローラの標準となっているため、Windows上で走るゲームの多くはこのコントローラに最適化されているし、ユーザーも馴染みやすいので、採用自体に間違いないと思うのだが、本来競合と位置付けている製品をあっさりそのまま採用するのは、いかがなものだろうか。筐体はそのままで良いので、ロゴぐらいは変えて欲しかったところだ。
なお、当然のことながらマウスとキーボードは別売りである。マウスとキーボードがあればWindows 8.1のデスクトップにアクセスすることも可能だが、付属のコントローラしか接続しない場合はアクセスできないように制限がかかる。詳細については次回述べることにする。
ACアダプタも見ていこう。付属しているACアダプタは19.5V出力で、130Wの出力が可能。近年ノートPCの低消費電力化により、こうした大出力の大型ACアダプタを見かけることはめっきり少なくなったが、ALIENWARE Alphaは35W版と言えどもデスクトップCPUとディスクリートGPUを採用しており、この辺りは余裕を見越しての採用だろう。後のレビューで消費電力も計測してみたい。
さて、本体を見ていく。本体サイズは200×200×55mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約2kgとなっており、ゲーム可能な高性能なデスクトップPCとしてはかなり小型だ。35WのCPUを搭載したデスクトップPCは、同じくデルの「OptiPlex 3020マイクロ」(182×176×36mm/同)や、日本HPの「HP EliteDesk 800 G1 DM」(175×177×34mm/同)など、もっと小さいマシンが挙げられるが、本製品はディスクリートGPUをも搭載していることを考えると、かなり健闘していることが分かる。一方で、PlayStation 4やXbox Oneなどの家庭用ゲーム機と比較するとかなり小さく、TVサイドにも置けるサイズとなっている。
フォルムとしては、新型の「Mac Mini」がもっとも近いのだが、ALIENWARE Alphaの方が角ばった印象だ。また、正面から見て右下の角が取れており、ここに三角形のイルミネーションを仕込んでいるなど、コンセプトを象徴するアクセントとなっている。上面と底面、背面は梨地だが、そのほかの3面は光沢のあるピアノブラックで、そこそこ高級感がある印象だ。
前面はエイリアンをかたどった電源スイッチとLED、USBを2基装備。一方背面のインターフェイスはHDMI入力、HDMI出力、S/PDIF出力(角型)、Gigabit Ethernet、USB 3.0を2基装備する。底面にもカバーがされた隠しUSBポートがある。ここに無線キーボード/マウスのレシーバーを接続しておけば、外部から見えることもないだろう。
本製品は一見背面の排気口しかないように見えるのだが、側面は底面の近くで斜めにカットされており、ここから内部に吸気して、2基のファンで排気するようになっている。この構造は理に適っており、3Dゲームプレイ中に本体が特段熱くなるようなことはまったくなかった。
内部までカスタム部品でしっかり設計
本製品は底面四隅のネジを外し、緩い爪を外していけば、外装が全て取れ(つまりフレームと外装の2層構造になっている)、簡単に内部にアクセスできる。このためユーザーの手でHDD交換やメモリ増設も可能となっているのが特徴だ。
開けてすぐ目につくのは2つの大きなクーラーである。今回お借りした個体はGPU側がFoxconn製、CPU側がSUNON製だった。ファンブレードの数はCPU側が23枚、GPU側が43枚と、いずれも素数となっており、これにより共振を防いでいると見られる。実際の稼動音も、アイドル時/負荷時ともに非常に静かだった。
ファン部はラッチをつまむだけで外れるようになっており、これによりメモリスロットとM.2スロット(無線LANカード装着済み)にアクセスできる。その後ろに、CPUとGPUのヒートシンクが見える。両方ともネジを外すことでアクセスできるが、GPU側は換装不可なので特に意味はなく、CPU側もソケット式のため交換はできるものの、交換すると保証外になってしまうため、ここまで外す必要はないだろう。さすが専用設計とも呼ぶべきか、内部は非常にスッキリしており、メンテナンス性も良い。
さてパーツ個々を見ていこう。今回お借りしたマシンはスタンダードモデルであるが、CPUにはCore i3-4130Tを搭載している。クロックは2.9GHzで、デュアルコア/4スレッドとなっている。メインストリーム向けの3Dゲームなら、過不足がない性能だと言えるだろう。メモリは4GBのシングルチャネルでやや物足りないが、先述の通りメンテナンスが容易なので、すぐに増やせるだろう。
GPUはカスタムGeForce GTXとされており、特に型番は振られていないのだが、MaxwellのGeForce GTX 860Mをベースにカスタムしたものとされている。GPUには「N 5R-GX-A2」という印刷があり、どうやら確かにデル向けカスタム品のようである。これについては後にGPU-Zで検証したい。
ストレージにはWestern Digitalの「WD Blue」の500GBが装着されていた。快適に動作するという意味ではやはりSSDの採用が欠かせないのだが、本製品はSteamのゲームプレイを前提としており、昨今肥大化の一途を辿るゲームにとって、速度よりもむしろ容量があった方が将来的にも安心できる。
もし同価格帯でSSDを積むのなら、128GBが妥当だと思われるのだが、次期のバトルフィールドのインストール容量は60GBに達すると言われており、SSDの容量では“ゲームを数本インストールしたら終わり”となってしまいかねず、正直実用的ではない。加えて、ALIENWARE AlphaはPlayStationやXbox Oneのような光学ドライブも内蔵されておらず、基本的にSteamからローカルストレージにダウンロードして利用するスタイルであることを考えると、HDDの採用は妥当だ。どうしても速度に不満があるのならば、ユーザー自身がSSDに交換することもできるため、問題はないだろう。
HDオーディオコーデックはRealtekの「ALC3220」であった。これもどうやらデル専用品のようである。ネットワークコントローラもRealtek製の「8151GD」で、同じく一般では見かけないモデルとなっている。NVIDIAやRealtekにカスタムモデルを作らせるとは、さすが世界を股にかける大手PCメーカーといった雰囲気だ。
「さすが」の本体の完成度だけに惜しいコントローラ周り
このように、ALIENWARE Alphaの本体は汎用のx86 PCながらカスタム特注部品を多く採用し、なおかつ冷却性やメンテナンス性にも優れた設計となっていることが分かる。自作PCユーザーの視点で本製品を分析してみると、“さすが大手のデルだなぁ”と思わせる部分が多く、マニアとしてかなり物欲をそそる製品に仕上がっている。
それだけに、コントローラ周りだけは残念だ。本体は凝った設計になっているのに対し、コントローラは既成品で、しかもレシーバーは長いケーブルを経由しての外付けである。これを“家庭用ゲーム機”と呼ぶには、些か無理があるように思う。せめてレシーバだけでも本体に内蔵できたら、筆者の評価は異なっていただろう。
加えて、当然のことながら本機はXbox 360のようにコントローラのホームボタンを押すだけで本体を起動することもできず、さらに本体の電源が切れてもコントローラの電源は切れないという仕様だ。つまりTVサイドに置いておくと、ゲームをプレイしようと思い立った時に「よっこらせ」とTVの近くまで行き電源ボタンを押し、電源を切ったらコントローラから電池をいったん外す(自動電源OFF機能があるが、入るまでには時間がかかる)必要がある。ここまで来たら、むしろファミコン時代のスタイルに逆戻りした方が、幸せになれるかも知れない。
さて、次回はUI周りについてお届けする。