レビュー

「ALIENWARE Alpha」長期レビュー【最終回】

~Core i7-4770KとSSHDに換装してパワーアップ

 前回の長期レビューから3カ月もの間が開いてしまったため、忘れている方も多くおられるかも知れないが、ALIENWARE Alpha長期レビューの最終回は“改造編”をお届けしたい。

 実はその前にちょっと触れておきたいのが、6月下旬に行なわれたアップデート「3.0.7.31」。このアップデートで独自の「Alpha UI」が廃止され、代わりに「Launcher4Kodi」をベースにカスタマイズスキンを採用した「HiveMind」が導入されたのだ。

 Luncher4Kodiは日本ではあまり馴染みがないランチャーソフトだが、10フィートUIに最適化されており、ゲームコントローラでの操作が可能となっているのが特徴だ。また、WindowsのシェルとしてExplorerの代わりに、PC起動時に自動起動することもでき、さまざまなカスタマイズが可能なことから採用されたようだ。

 Alpha UIからは独自性が失われてしまったわけだが、代わりに写真や動画、音楽を再生する機能が備わった。またiTunesをインストールすれば(厳密にはBonjourサービスのみでOKだが)、オーディオと写真のみのAirPlay再生も可能だ。一方、HDMI IN機能によるHDMI映像のパススルー表示などの機能も受け継がれているほか、コントローラによる操作のショートカットに、タスクの切り替えやアプリの強制終了、マウスポインタの操作機能が加わり、利便性が向上した。

 XboxやPlayStationは以前からゲームコントローラだけで音楽や写真、動画再生が可能であったのだが、ALIENWARE Alphaはマウスとキーボードを別途用意してWindowsデスクトップで利用しなければならず、その点の使い勝手の面では劣っていたわけだが、Luncher4Kodiの採用により汎用性が高まり、リビングに置くほかのゲームコンソールに劣らない使い勝手を実現できたと言える。

 またLucher4Kodiの採用によりカスタマイズ性が高まり、自分の好きな色のテーマや、サードパーティ製のテーマを選ぶこともできるようになった。この点も歓迎したい変更だと言えるだろう。ただしSteamの起動に関しては、メイン画面から「ゲーム」を選んでから再度Steamのアイコンを選ぶという2段階の手順を踏むことになり、この点はゲームしか遊ばないユーザーにとって改善の余地があるだろう。

新しく導入されたHiveMindのUI
Steamの起動は「ゲーム」の下に置かれるようになった
ビデオの再生が可能
画像の閲覧も可能のようだ
こちらは音楽の管理。アドオンによってさらに機能拡張できると見られる
設定画面
スキンの選択画面。Luncher4Kodiをベースにしていることがわかる
Kodiのデフォルトのスキン
バックグラウンドのカラーなどが選択可能となった
フォントも変更可能。HiveMind独自のフォントも用意されたようだが、日本語は表示できない
設定で英語に変更すればHiveMind独自フォントが利用可能になる
それほど難しい英語でもないので、こちらの方がかっこいいだろう
AirPlayを利用するためには、まずiTunes(Bonjourサービス)をインストールし、設定-サービス-Zeroconfの設定をオンにする
これによりAirPlayが可能になる
iPhone上からKodiはAirPlay対応スピーカーに見える

小さなAlphaをパワーアップしよう

※※ 注意 ※※

  • 改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。
  • この記事を読んで行なった行為(改造など)によって、生じた損害は筆者および、PC Watch編集部、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
  • 内部構造などに関する記述は記事作成に使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません
  • 筆者およびPC Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

 第3回前回で検証したように、標準のCore i3-4130T(2.9GHz)や4GBメモリ、500GB HDDという構成は、今やローエンドの部類に入るのだが、一般的な3Dゲームをプレイするのにあたって特に支障はなく、十分な性能ではある。しかしメーカーに与えられたスペックに満足できず改造したいというのが我々のようなDIYerだ。

 そこで今回の強化ポイントは3つ。1つ目はメモリだ。最近メモリ6GB以上を要求するゲームも出ているので、標準の4GBは心許ない。2つ目はHDDで、やっぱり標準の500GB HDDではOSの起動やゲームの起動でストレスを感じる。そして3つ目がCPUで、やはり4物理コアは欲しいという自作廃人の精神衛生上の問題の解決だ。

 第1回で紹介した通り、ALIENWARE Alphaは簡単に内部にアクセスして各パーツにアクセスできるようになっている。底面4本のネジを緩めて、爪に注意しながら外殻を外すだけだ。

 メモリが装着されているスロットは、CPU側のシロッコファンを外すだけ(それも片手でつまみをつまんで引き上げるだけ)でアクセス可能だ。標準では4GBを1枚装着されているので、もう1枚4GBモジュールを装着するか、2枚同じモジュールをセットで購入して換装しても良い。今回は4GB×2のDDR3-1600 SO-DIMMモジュールを装着した。

 なお、先日リンクスインターナショナルより発売された、世界最大容量となる1枚あたり16GBのI'M Intelligent Memory製「IMM2G64D3LSOD8AG-B15E」を2枚挿してみたが、残念ながら認識されず起動しなかった。8GB×2で16GB構成なら可能と思われるが、今回は機材がなく試せなかった。とりあえずデュアルチャネルで8GBもあれば十分だろう。

 2つ目はHDD。近年はシステムドライブはSSDが当たり前となっているのでそれでも良かったのだが、手頃な256GBモデルは、1ゲームあたり40GBや60GBの容量も珍しくない昨今の事情を考えると心許ない。

 前回紹介したように、本機のストリーミング機能を使えば家中のゲームを1カ所(本機)に集められるので、できればライブラリとして使えるよう大容量なものが望ましい。500GB前後のモデルも手頃になってきたが、それでは標準のHDDと容量的になんらアップグレードになっていないので、1TBは欲しいところ。だが1TBは5万円近くするので、CPUやメモリアップグレードの予算も入れると、これもあまり現実的ではない。

 と言ったところで、結局はSSHDに落ち着いた。今回は手元にあった東芝製の750GBモデル(7,200rpmなので、この点も標準の500GB/5,400rpmから性能向上している)を利用したが、同じ2.5インチで1TBモデルも1万円前後であるので、SSDと比較してリーズナブルに容量拡張できる。

 本機には標準で7mm厚のドライブが入っており、マウンタも7mm厚に揃えられているのだが、実際はHDD部のシャーシがくり抜かれていて、9.5mm厚のドライブでも問題なく装着できるので安心されたい。

 特に個人データが入っておらず、Steamのゲームも再ダウンロードできるので、今回は標準のバックアップユーティリティ「AlienRespawn」でリカバリUSBメモリを作り、まっさらなSSHDにリカバリしてシステムを構築した。最終的なWindows Updateも含めて、所要時間は3時間ぐらい見ておきたい。

 一方クローンのユーティリティを使う手もあるが、その場合はBIOSで一旦Secure Bootを無効にしてから起動し、その状態でクローンを行なう必要がある。Secure Bootは起動デバイスと紐付いているため、無効にしておかないとクローン後のSSHDで起動しようとした時点でブルースクリーンになり起動できないからだ。

メモリスロットはシロッコファンの下にありすぐにアクセス可能
16GBモジュールを2枚挿してみたが動作しなかった
本体底面からHDDにアクセスする
今回換装するSSHD(左)と取り外した標準のHDD
標準の厚みは7.5mmだ
9.5mm厚の2.5インチHDDも問題なく入る
AlienRespawnの起動画面
AlienRespawnでリカバリ用メディアを作成する。容量8GB以上が必要だ
中途の手順は省略するが、BIOSでUSBメモリからブートさせて、その後ウィザードに従う。写真は余談で、復元後の自動アップデートでWindows 10への予約について問われた

CPUをどう調達するのか?

 さて最後の改造ポイントのCPUだ。製品情報を見れば分かる通り、ALIENWARE Alphaはシリーズを通してTDP 35WのCPUが搭載されている。最下位がデュアルコア/HT対応で2.9GHz駆動のCore i3-4130T、中位がクアッドコア/HT非対応で2GHz~3GHz駆動のCore i5-4590T、最上位がクアッドコア/HT対応で2GHz~3GHz駆動のCore i7-4765Tだ。

 以下の表はTDP 35Wのデスクトップ向け第4世代Coreプロセッサを抜き出したものだ。2コアのCore i3が一番選択肢が多いが、差は最大で400MHzの動作クロックと1MBのキャッシュ容量差のみ。正直この中でアップグレードするのは賢くない。Core i5へアップグレードするなら最上位の4590Tが賢明だが、これは中位モデルを最初から選べば良い話だ。

モデルナンバーコア数定格周波数最大周波数キャッシュHT
Core i74785T42.2GHz3.2GHz8MB
4765T2GHz3GHz
Core i54590T2GHz3GHz6MB×
4570T22.9GHz3.6GHz4MB
4460T41.9GHz2.7GHz6MB×
Core i34370T23.3GHz-4MB
4360T3.2GHz-
4350T3.1GHz-
4330T3GHz-
4170T3.2GHz-3MB
4160T3.1GHz-
4150T3GHz-
4130T2.9GHz-

 そしてCore i7なら4785Tを選ぶのが良いだろうが、そもそもTDP 35Wのプロセッサは全てバルクのみでリテールパッケージはなし。入手ルートが限られており、正直なところCPUに関してアップグレードの選択肢は無いに等しいように見える。

 ところが外国のALIENWARE Alphaのフォーラムを調べて見たところ、Alphaは「どんなHaswellプロセッサでも使える」という書き込みがあった。具体的には、どんなCPUを搭載していようと、電源が自動でCPUの消費電力を抑制する仕組みが入っているため、Core i7-4790Kでも動作したという。

 35Wのシステムに84WのCPUを載せるのは少し躊躇するが、物は試しということで、手持ちのCore i7-4770K(3.5GHz~3.9GHz)を載せてみたところ、これが難なく動いてしまった。フォーラムの書き込みは本当だったようだ。

標準のCore i3-4130Tを取り外し
代わりにCore i7-4770Kを装着し、グリスを塗る
Core i7-4770Kが動作した

 CPU回りのパラメータ設定に詳しい、ASRockでZ97 OC Formulaの開発を担当したNick Shih氏に尋ねてみたところ、Haswellではコアに流す電流量を制限するパラメータ「Core Current Limit」が設定できるようになっているのだが、これを一定値に制限するとそれ以上の電流が流れず、代わりにその制限電流量内で動作できるクロックに自動的にダウンクロックして動作するようになっているという。よって、システム側の設定できちんと電流量を定めていれば、許容量を超える電流が流れて電源を壊すようなことを避けられる。

 ALIENWARE Alphaに関して言えば、Core i7-4770Kを搭載し、4コア同時に高い負荷が掛かった場合、動作クロックは2.7GHzに留まった。定格は3.5GHz、4コアのTurbo Boostは3.6GHzなので、800MHz以上低下したことになる。しかし瞬間的な軽い負荷の場合は4コアでも3.5GHz達する時は確認できたし、1コアの場合は最大3.9GHzまで上がる時もあった。つまりクロックの制限は静的なものではなく、あくまでも電流量をベースとした動的なものであることが分かる。これならば最上位モデルに搭載されるCore i7-4765Tを超える性能も期待できるし、TDP 35WのCPUを無理して買う必要もない。実によくできた仕組みだ。

 Core Current Limitは一部マザーボードのBIOSで設定できるほか、Intelが提供している「Extreme Tuning Utility」(XTU)を介しても読み取ったり設定できるようになっている。ALIENWARE AlphaについてはXTUで確認できなかったが、ハードウェアの情報を読み取るユーティリティ「HWiNFO64」で確認したところ、47Aに設定されていた。

 そこで筆者が普段使っているZ87 OC Formulaでも、BIOSでCore Current Limitを47Aに設定してCore i7-4770Kを動作させてみたところ、ALIENWARE Alphaと全く同じ挙動になった。IntelはIvy Bridge世代からConfigurable TDPという仕組みを導入しており、TDPをメーカー自身が定めて、動作クロックの動的な変動をCPUに任せる仕組みを用意しているのだが、Core Current Limitの設定でそれに近いことができる。自作PCにおいても有意義なパラメータ設定だと言える。

ALIENWARE AlphaのCore Current LimitをHWiNFO64で確認したところ、47Aに制限されていることが分かる
同じようにZ87 OC FormulaでもCore Current Limitを47Aに制限したところ、同じ挙動となった
ALIENWARE AlphaでCore i7-4770Kが動作している様子
3DMarkのFire Strike Combined Testでは最大3.2GHzまで上がる模様
CPUのみに負荷がかかるPhysics Testは最大2.8GHzだった
OCCTのPower Supplyテストでは最大2.7GHzで推移した
後述するPCMark 8のテスト中は最大3.9GHzまで上がることもある

パワーアップした効果を確かめる

 メモリ倍増、HDD高速化/増量、さらにはデルも想定外であろう高速CPUへの交換でどのぐらいパワーアップしたのだろうか。

 まずは起動時間だが、標準のHDDとSSHDのいずれも3.0.7.31にアップデートした上で、デフラグを実行。その後3回ほどWindowsを起動してからの時間を計測してみた。その結果HDDは1分かかったのに対し、SSHDは37秒66と約40%高速化できた。実際の動作もキビキビしていて気持ちいい。

 続いては「3DMark」を走らせてみた。Ice StormやCloud Gate、Sky Diverなどグラフィックスが軽いベンチマークの場合、最大48%(Cloud Gate)ものスコアの向上が認められたが、Fire Strikeなどの重いグラフィクス処理の場合、残念ながら目を見張るほどの性能向上が見られなかった。

 Ice StormのみGraphicsのスコアが大幅に上がっているが、それ以外はPhysicsのスコアのみで大差が付いている。いずれもGPUを重点とした3Dテストのため、最終スコアに大差はない。

 一方「ファイナルファンタジーXIV 新生エルオセア ベンチマーク キャラクタ編」(比較のためにあえて古いバージョンを利用)は、スコア向上が見られなかった。こちらはGeForce GTX 860MがベースのGPUがボトルネックとなっているのだろう。

【グラフ1】3DMark Ice Storm
【グラフ2】3DMark Cloud Gate
【グラフ3】3DMark Sky Diver
【グラフ4】3DMark Fire Strike
【グラフ5】3DMark Fire Strike Extreme
【グラフ6】ファイナルファンタジーXIV 新生エルオセア ベンチマーク キャラクタ編

 一方、実利用環境を想定したPCMark 8は、Home acceleratedで約11%、Creative acceleratedで約39%、Work acceleratedで約17%の性能向上が見られた。Creativeでは特にビデオや音楽などの処理で大幅な性能向上が見られる。SSHDと4コア8スレッドの面目躍如と言ったところだ。

Core i3-4130TのPCMark 8/Home accelerated
Core i7-4770KのPCMark 8/Home accelerated
Core i3-4130TのPCMark 8/Creative accelerated
Core i7-4770KのPCMark 8/Creative accelerated
Core i3-4130TのPCMark 8/Work accelerated
Core i7-4770KのPCMark 8/Work accelerated

 気になるCPU温度と消費電力だが、OCCTでPower Supplyテストを行なったところ、Core i3-4130Tが約65℃/90W前後となっていたところ、Core i7-4770Kが約89℃/120W前後となった。CPU温度に関してはやや不安要素があるが、OCCTほど高負荷なツールもないので、実用においては問題ないだろう。デルが最初から130WのACアダプタを添付したのも、この負荷を見越したものに違いない。ちなみにゲーム中の消費電力(METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES)は、前者が70W前後だったのに対し、後者は90W前後であった。性能と消費電力はトレードオフなので致し方ない。

 今回手持ちのCore i7-4770Kを使ったが、中のグリスが改善されたCore i7-4790Kならもう少し温度が低くなりそうだし、4.4GHzという非常に高い動作クロックも期待できる。だが昨今の円安で、Core i7-4790Kと言った上位CPUはあまり値頃感がないのも事実で、これをALIENWARE Alphaのアップグレードにするのはややもったいない。よって3万円未満のCore i5-4690Kが1つの落としどころになるのではないだろうか。いずれにしても最下位のCore i3-4130Tは、「ククク、ヤツはCore i3ラインナップの中でも最弱」なモデルなので、そこから脱する意味でもアップグレードはしたいところだ。

いろんな使い方ができるゲーミングPC

 この5カ月間ALIENWARE Alphaを使い続け、本当に長期レポートとなったわけだが、1ハイエンドユーザーとしてもなかなか楽しませてくれるマシンであった。超小型で洗練された内部構造はハードウェアとして見ていて楽しいし、Steamのライブラリを統合して一括集中管理しつつ、Steamのストリーミング機能で家中さまざまな場所でゲームをプレイできる。性能に不満を持ったのであれば、汎用的なパーツを用いてアップグレードすることも可能だ。そして6月末のアップデートでリビングの動画や音楽再生用マシンとしてもなかなか使える仕上がりとなった。

 いかんせんハードウェアからソフトウェアまでの作りがTVを前提としたものなので、PCらしくはないのだが、デルはゲームコンソールと言い切っているわけで、その辺りはPlayStationやXbox、Wiiなども同じだ。特にSteamのゲームをメインにプレイし、TVを所持しているユーザーは、導入を検討してみるべきだろう。

(劉 尭)