【AFDSレポート】
AMD Aシリーズを発表し多数の搭載ノートブックPCを展示
~未発表のデスクトップLlanoも公開

シアトル市内のSF博物館で行なわれたAシリーズの発表会

会期:6月13日~16日(現地時間)
会場:アメリカ合衆国ワシントン州シアトル市SF博物館



 米AMDは、6月13日~16日(現地時間)の会期で「AMD Fusion Developer Summit」(AFDS)という開発者向けのイベントを米国ワシントン州ベルビュー市で開催している。これに合わせ同社は、ベルビュー市に隣接するシアトル市のSF博物館において記者会見を開催し、14日未明(米国時間)に発表したAMD AシリーズAPU(コードネームLlano)のお披露目と、搭載ノートブックPCの展示を行なった。

●Aシリーズで140以上のデザインウインを獲得

 今回の記者会見にはAMDの2人の副社長が登場し、それぞれ製品や戦略の説明を行なった。冒頭と最後に登場したのは、副社長兼CMO(最高マーケティング責任者)のナイジェル・デッソー氏で、マーケティング戦略などについて説明した。デッソー氏は「現在のデジタルワールドでは、何よりもユーザー体験がリッチであることが重視されている。我々のAシリーズはCPUとGPUの融合を実現することにより、ユーザーにより良い体験を提供できる」と説明した。

 続いて、CFO(最高財務責任者)兼暫定CEO(最高経営責任者)のトーマス・サイフェルト氏がビデオで登場し「Aシリーズをリリースできたことを嬉しく思う。我々の顧客は140を超えるデスクトップPCとノートブックPCの設計をすでに終えており、それらのうちのいくつかは今後数週間のうちに発表されるだろう」と述べた。

副社長兼CMOナイジェル・デッソー氏ビデオレターで登場したCFO兼暫定CEOのトーマス・サイフェルト氏

●AMD史上最大の発表会、「Aシリーズは最強のAPU」

 デッソー氏の後に登場したのが、上級副社長兼AMD製品事業本部 事業本部長リック・バーグマン氏で、Aシリーズの特徴について解説した。バーグマン氏は「今まさに起きている従来型のプロセッサからヘテロジニアスなプロセッサへの移行は、この30年のPC業界の歴史の中でも非常に大きなシフトだ」と説明。また、「我々はAシリーズを発表するにあたり、3つのメッセージを発信している。それはブリリアント(輝かしい)なHD、ノートブックPCでのスーパーコンピューティング、そして1日中利用できるバッテリ持続時間だ」と述べた。

 ブリリアントなHDとは、HDコンテンツをAシリーズで再生すると、よりクリアで綺麗な映像で楽しむことができることを意味している。Aシリーズには、ビデオ高画質化機能が内蔵されており、それを利用することでややシャープネスなどを補正できる。また、UVD3というHD動画をデコードできるハードウェアも内蔵しており、低いCPU負荷率でフルHD動画を再生することも可能だ。

 ノートブックPCでのスーパーコンピューティングとは、Aシリーズに内蔵されているGPUが300GFLOPS超という、従来の単体GPU並の処理能力を備えていることを意味している。業界標準のGPGPU APIであるOpenCLに対応したソフトウェアを利用すると、GPUを利用して高速に演算することができる。例えば、従来CPUで処理させていたトランスコード作業では、CPUにやらせるよりもGPUを利用して処理させた方が高速に出来ることが多い。今後はそうしたメディア系の処理だけでなく、Internet Explorer 9などのWebブラウザもGPUをより活用するようになってきており、GPUの性能がCPUと同じように問われる時代になってきているのだ。

 また、Aシリーズは、32nmプロセスルールで製造されており、従来の45nmプロセスルールに比べて省電力になっている。AMDは、標準的な6セルバッテリ+アイドル状態で10時間近い駆動が可能であるというデータを公表しており、「1日中利用できるバッテリ駆動時間」とはこのことを意味している。

 バーグマン氏はそうしたAシリーズの特徴を一通り説明した上で、「今回のAシリーズの発表会はAMD史上最大のモノだと言ってよい。現在業界はAPUへの転換期にあり、我々のAシリーズAPUは世界最強のAPUだ」と述べた。

上級副社長兼AMD製品事業本部 事業本部長リック・バーグマン氏APUの登場はPC業界30年の歴史の中で最大の出来事だとバーグマン氏AMDのAPUラインナップ。組み込み向けのGシリーズ、ネットブック/タブレット向けのC/Zシリーズ、薄型ノートブックPC向けのEシリーズ、そして今回発表されたメインストリームノートブックPC向けのAシリーズ
Aシリーズの特徴を説明するスライドAMDがAシリーズの特徴としてアピールしている3つのポイントHD動画をより高いクオリティで楽しむことができる
単体GPUクラスのGPUを内蔵することで、スーパーコンピューター並みの演算能力がノートブックPCにAシリーズ搭載ノートブックPCは充電なしに8時間以上使うことができる

●MicrosoftなどがAPU対応ソフトウェアをデモ

 バーグマン氏のAシリーズ APU解説の後、再びデッソー氏が登壇し、パートナーの紹介を行なった。紹介されたのはMicrosoftなどのソフトウェアパートナーで、APUの内蔵GPUを利用して演算を行なうアプリケーションが紹介された。

 その後、デッソー氏はAMDがAシリーズ以降で新しく導入する、Visionロゴに製品名が入る2011年度版のロゴを紹介した。

 それで終わりかと思われたとき、デッソー氏は「One more thing…」とAppleのスティーブ・ジョブスCEOのお約束のフレーズをパロディとして利用して会場を笑わせ、現在AMDのマイクロプロセッサを利用して映画作成を行なっている、映画監督のロバート・ロドリゲス氏を壇上に呼び、どのように映画作成に役立てているかについて語り合った。ロドリゲス氏は映画スパイキッズの続編となるスパイキッズ4を現在制作中で、8月には全米でロードショーされる予定だという。

Microsoft OEM部門担当取締役スティーブ・グッゲンハイマー氏(左)を壇上に招いて、MicrosoftのAPU対応ソフトウェアをデモデモでは、宇宙シミュレーションをリアルタイムでレンダリングしながら、Kinectを利用してそれを操作するという様子が公開されたUnlimited RealitiesのデモではAPUを利用したユーザーフレンドリーなUIが紹介された
Motion DSPのデモでは、Aシリーズの機能を利用して、動画をリアルタイムに高画質化する機能が紹介された2011年製品向けのロゴプログラムでは、Visionロゴの上部にA8などの製品名が入る映画監督のロバート・ロドリゲス氏(左)は、映画製作にAMDのマイクロプロセッサを利用しているという

●複数OEMベンダのノートブックPCが展示。未発表のデスクトップPC版も

 発表会終了後、展示会場においてAシリーズを搭載したノートブックPCなどが公開された。表は筆者が独自に作成したスペックリストで、デバイスマネージャなどの表示などから調査したものになる。このため、実際に出荷される製品ではこの通りではない可能性があることをお断りしておく。

 いずれの製品も各メーカーの担当者などはおらず、具体的にいつ出荷されることになるのか、日本向けに出荷される可能性があるのかなどに関しては不明だ。AMDの広報担当者によれば、サイフェルト氏の発言の通り今後数週間以内での発表になるとのことだったので、順次OEMメーカーから発表があるだろう。

【表】展示ノートブックPCと液晶一体型PC(Dell)のスペック(筆者作成)
メーカー製品名搭載プロセッサiGPUdGPU液晶
Acer5560GA8-3500MRadeon HD 6620GRadeon HD 6650M1,366x768ドット
Acer7560GA8-3500MRadeon HD 6620GRadeon HD 6650M1,600x900ドット
ASUSK43TAA8-3500MRadeon HD 6620GRadeon HD 6700M or 6600M1,366x768ドット
Dell未確認未確認未確認未確認未確認
GatewayNV55S16A6-3400MRadeon HD 6520GRadeon HD 6700M or 6600M1,366x768ドット
HP4535SA4-3300MRadeon HD 6480G-1,366x768ドット
HPDV6A4-3310MXRadeon HD 6480G-1,366x768ドット
HPG6A4-3300MRadeon HD 6480G-1,366x768ドット
LenovoZ575A8-3500MRadeon HD 6620G-1,366x768ドット
MSIMS-16GOA8-3500MRadeon HD 6620GRadeon HD 6400M1,366x768ドット
PackardBellTS44SBA6-3400MRadeon HD 6520GRadeon HD 6700M or 6600M1,366x768ドット
東芝未確認A8-3500MRadeon HD 6620G-未確認

 各製品のスペックを見てわかることは、多くの製品が、末尾に「MX」が付く45WのSKUではなく、末尾に「M」が付く35WのSKUを採用していることだ。これが、これらのシャシーで45Wが入らない設計になっているのかそうでないかは、各メーカーの担当者などがいなかったため不明だが、より薄型のノートブックPCが業界全体のトレンドであることを考えると、各メーカーが35WのSKUを前提にシャシーの設計をしている可能性は高いと言えるだろう。

 また、会場には未発表のデスクトップPC版Llanoと思われる製品が展示されており、Windowsのシステムプロパティで確認したところ「AMD A8-3850 APU 2.9GHz」という表記が確認できた。

Acer 5560GAcer 7560GASUS K43TA
Dellの製品名不明の液晶一体型PCGateway NV55S16HP 4535S
HP DV6HP G6Lenovo Z575
MSI MS-16GOPackardBell TS44SB東芝の製品名不明のノートブックPC
WindowsのシステムプロパティにAMD A8-3850 APU 2.9GHzと書かれた、デスクトップPC。デスクトップPC版Llanoだと思われる

(2011年 6月 16日)

[Reported by 笠原 一輝]