【MemCon 2009レポート】
2009年の半導体メモリ市場をSamsungが展望

Hyatt Regency Santa Claraの外観

会期:6月22~24日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
   Hyatt Regency Santa Clara



 MemConの講演トラック2日目は、半導体メモリの最大手ベンダーSamsung Electronicsによるキーノート講演で始まった。講演者は、米国法人Samsung Semiconductorでメモリマーケティング担当バイス・プレジデントを務めるJim Elliot氏である。

 Samsungは2009年の半導体メモリ市場(世界全体、金額ベース)を前年比10%減の420億ドルになると予測した。2007年が前年比1%減の580億ドル、2008年が同20%減の490億ドルだったので、半導体メモリ市場は3年連続で減少することになる。

 市場成長にブレーキをかけ続けている大きな要因が、価格の急速な下落である。1Gbit DDR2 DRAMのスポット価格は、2006年末時点で13ドルであった。それが2007年には4ドル~6ドルと半分以下に下がった。2008年前半には価格は2ドル~3ドルとなり、2008年末には1ドルを割り込むところにまで落ち込んだ。2年間で同じチップの価格が約20分の1に下がってしまったのである。言い換えると、DRAMベンダーは20倍の数量のチップを販売しなければ、同じ金額の売り上げを稼げないことになる。短期間には「不可能」とほぼ断言して良い状況だろう。

 当然の結果として起こったのは、DRAMベンダーの売り上げ低迷と利益の減少(または損失の拡大)である。2007年~2008年にかけて、DRAMベンダー各社の業績は坂道を転げ落ちるように悪化した。そして2008年後半からは、世界同時不況が半導体業界全体の市場を縮小させた。比較的良好だったNANDフラッシュメモリの事業は2008年後半に急速に悪化し、赤字に転落するベンダーが相次いだ。

 2008年第4四半期には、主要な半導体メモリベンダーのすべてが赤字となり、Samsungの推計では赤字の合計額は65億ドルに達した。2007年第2四半期~2009年第1四半期までの累積損失は232億ドルに上る。メモリ事業を長期的に持続可能な金額の赤字ではない、とElliot氏は講演で述べていた。

 半導体メモリベンダーによる積極的な設備投資(製造能力の増強)も、業績を悪化させる要因となった。2007年の設備投資額は同年の売上高の51%に達しており、明らかな過剰投資となっていた。2008年も設備投資額は同年の売上高の41%と非常に高い水準だった。反動で2009年の設備投資は大幅に縮小される。売上高に対する比率は13%に下がり、金額は2007年の6分の1近い水準となる。

講演の主な内容半導体メモリ市場の規模(金額)と成長率の推移(1997年~2009年)1Gbit DDR2 DRAMのスポット価格の推移(2006年~2008年)
半導体メモリベンダー各社の四半期業績推移(2007年第1四半期~2009年第1四半期)半導体メモリの販売額と設備投資額の推移(2002年~2009年)

●2009年のPCと携帯電話機はマイナス成長

 半導体メモリの主な応用分野であるPCと携帯電話機の市場もSamsungは推定した。

 PCの2009年の世界出荷台数は前年比3%減の2億8,800万台と予測する。PCの出荷台数が前年割れとなるのは、2001年以来である。2009年の内訳は、デスクトップPCが前年比16%減、ノートPCが同6%減である。ネットブックは前年比222%増と、2008年の3倍を超える出荷台数を予測する。

 PC1台当たりの主記憶(DRAM)搭載容量は、2009年に前年比16%増とあまり伸びない。2008年以前は年平均41%増で急速に搭載容量を拡大してきたので、急激な鈍化といえる。記憶容量が少なめであるネットブックの増大が、全体の伸びを抑えることになる。

PCの出荷台数推移(2001年~2009年)PC1台当たりの主記憶(DRAM)搭載容量の推移(2001年~2009年)

 携帯電話機の2009年の世界出荷台数は前年比8.2%減の10億6,700万台と予測する。携帯電話機の出荷台数が前年割れとなるのは、2001年以来である。携帯電話機の市場は標準的な携帯電話機とスマートフォンに分けており、標準的な機種は前年比11%減の9億台に減少するものの、スマートフォンは同9%増の1億6,700万台と市場が拡大する。

 携帯電話機1台が搭載するNANDフラッシュメモリとDRAMの容量は近年、急速に増えてきた。2006年にはNANDフラッシュメモリとDRAMの合計で70MBだったのが、2009年には10倍の713MBに増えるとSamsungは予測する。特にスマートフォンはメモリの搭載容量が大きく、2008年時点で1台当たりの平均が2.3GBに達すると推定する。この容量はPC 1台当たりの主記憶容量2.07GBよりも大きい。2008年のスマートフォンの出荷台数は1億5,400万台、1台当たりのNANDメモリ搭載容量は2.2GBと推定しているので、合計で3.4億GBのNANDフラッシュメモリがスマートフォンに搭載されたことになる。

携帯電話機の出荷台数推移(2001年~2009年)携帯電話機1台当たりの主記憶(DRAMおよびNANDフラッシュメモリ)搭載容量の推移(2001年~2009年)

 ここから講演者のElliot氏は、話題をSSD(Solid State Drive)に転じた。クライアント向けSSDの世界出荷台数は、2007年~2012年に年平均137%増と急激に伸びると予測した。SSD 1台当たりの記憶容量も急速に拡大する。2007年~2012年に年平均323%増と1年で4倍を超える勢いで伸びる。2012年の出荷台数は8,000万台、出荷金額は40億ドル以上(単価50ドル以上)となる。

 またエンタープライズ向けSSDの出荷台数は2007年に50万台だったのが、2012年には800万台に増加すると予測した。出荷金額は20億ドルとなる。2012年のエンタープライズ向けハード・ディスク装置(HDD)の出荷台数に対するエンタープライズ向けSSDの比率は15%になるとみる。出荷金額の比率では、HDDの35%に達すると見込んでいる。

SSD(Solid State Drive)が備えるさまざまな特徴クライアント向けSSDの世界出荷台数予測(2007年~2012年)エンタープライズ向けSSDの世界市場予測(2007年~2012年)

●2009年はサーバーでDDR3の需要が急増

 Samsungはこのほか、24日の「低消費電力/DDR3」講演トラックでDDR3 SDRAMの製品戦略を公表した。講演者はSamsung SemiconductorでDRAMマーケティングのアソシエートディレクターを務めるSylvie Kadivar氏である。

 DDR2とDDR3が市場に占める比率(記憶容量ベース)を比べると、2008年はDDR2が95%以上、DDR3が5%以下であり、DDR2が市場のほとんどを占めた。これが2009年には大きく変貌し、DDR3が35%を占めるようになるとSamsungは予測する。

 DDR3の比率が急拡大する主な理由は、サーバーでDDR3の需要が急増するからだという。2008年にはDDR3市場の88%をノートPC、10%をデスクトップPC(ワークステーションを含む)が占めており、サーバーの割合はわずか2%に過ぎなかった。それが2009年には、サーバーの割合が20%と18ポイントも増える。ノートPCの割合は55%、デスクトップPC(ワークステーションを含む)の割合は25%となる。

 サーバーでDDR3の需要が急増するのは、主記憶の待機時消費電力を下げるためだとSamsungは説明する。2009年5月15日に発行したサーバー向けの省エネルギー自主規格「Energy Star Computer Server」に準拠させるために、DDR3の採用が急増するというシナリオである。

 「Energy Star Computer Server」では、4GBを超える主記憶を有するシステムでは増設メモリの待機時消費電力をGB当たり2W以下に抑えなければならない(仕様書のTable4)。最近のサーバーは、主記憶のSDRAMモジュールにDDR2 FB-DIMMを使うことが多い。しかしDDR2 FB-DIMMではGB当たりの待機時消費電力が2Wを超えてしまう。このため「Energy Star Computer Server」に準拠しない。そこで主記憶のSDRAMモジュールをDDR3 Registered DIMM(RDIMM)に変更し、GB当たりの待機時消費電力を2W以下に下げる。

 SamsungがDDR2-667のFB-DIMMとDDR3-1066のRDIMMを比較したところ、記憶容量4GBのモジュールの待機時消費電力はそれぞれ9.12Wと3.57Wとなった。DDR2 FB-DIMMはGB当たりで2.28Wとなり、「Energy Star Computer Server」の許容値を満足しない。これに対してDDR3 RDIMMはGB当たりで0.8925Wとなり、許容値を満足する。

 DDR3 RDIMMの待機時消費電力が低いのは、DDR3 SDRAMの消費電力が低減されていることと、FB-DIMMに搭載されていたAFB(Advanced Memory Buffer)チップがRDIMMでは省かれているためだ。Samsungは電源電圧が1.35Vと低い4Gbit DDR3 SDRAMを2009年1月に発表するなど、電源電圧を下げることでDDR3 SDRAMの待機時消費電力を削減した。また4Gbit DDR3 SDRAMでは50nm技術とDRAMとしては微細な加工技術を採用したことも、消費電力の低減に寄与したとしている。

DDR3の比率と用途別の割合(2008年と2009年)「Energy Star Computer Server」とDIMMの待機時消費電力
DDR2 FBDIMMとDDR3 RDIMMの消費電力の違いSamsungにおけるSDRAMの電源電圧ロードマップ

 Samsungの本社所在地は韓国である。国際学会や展示会などで韓国Samsungの幹部が講演した場合、プレゼンテーションスライドには独特のクセが見られることが多い。図版や色使いなどに、米国企業や欧州企業、日本企業とも違う好みが感じられるのだ。しかしMemCon 2009のSamsungによる講演からは、そういったクセがあまり感じられなかった。米国法人が作成した講演スライドだから、クセがなかったと推測することは難しくない。しかし講演内容を韓国本社が事前に精査したときに大幅な修正を加えていたら、クセのある講演スライドになっていた可能性は十分にある。このため講演スライドからは、米国法人の自主性がある程度は尊重されていることが読み取れるのだ。この点はかなり興味深かった。

(2009年 6月 29日)

[Reported by 福田 昭]