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タフブックがここまで「頑丈」なその理由

 パナソニック コネクト株式会社は2023年8月3日、「タフブックの頑丈設計に関する勉強会」を開催した。

 「タフブック」は過酷な環境での長期使用に耐え得る頑丈さをを備えた端末として1996年に発売されたシリーズ。グローバルで約27年間にわたりフィールドワーカーに使用されており、過酷な現場でPCを使う顧客からの声を反映して設計ノウハウを積み上げてきたという。

「CF-33」と「FZ-40」

頑丈ノートPCシェアで21年連続グローバルNo.1のタフブック

パナソニック コネクト株式会社 モバイルソリューションズ事業部 マーケティング部 グローバルマーケティング課 山川彩氏

 まず、パナソニック コネクト株式会社 モバイルソリューションズ事業部 マーケティング部 グローバルマーケティング課の山川彩氏が事業の概要を紹介した。タフブックは粉塵や油が舞う工場環境など厳しい現場でも使える頑丈なPCだ。車内の激しい振動や直射日光下による高温にも強いことから、国内外の警察でも使われている。

 屋外での保守点検用途でも多く用いられている。水濡れなどのアクシデントにも強いことから水回りの点検や故障診断などの現場でも、安心して業務に集中することができるプロフェッショナル向けの道具として使われている。

過酷な現場で使えるPC「タフブック」

 ラインナップは現場の環境に合わせられており、現在は音声通話も可能な頑丈なハンドヘルドAndoroid端末として「FZ-N1」、タブレットとして用いることができる10.1型の「FZ-G2」、頑丈ノートPCとして12.0型の「CF-33」、14.0型の「FZ-40」がラインナップされている。

タフブックのラインナップ

 ターゲット業界は製造、物流、建設/保守/インフラ、公共/サービス、流通/小売、医療/福祉など。現場生産性を向上させる現場DXを目指している業界に導入/活用されている。

タフブックのターゲット業界

 導入実績は自動車業界では車両点検用端末として売上高ランキングでトップ企業の8割、同じく電気では9割、ガスでは7割、消防では人口の多いトップ30局において7割となっており、VDC調べでは、頑丈ノートPCのシェアで21年連続グローバルナンバーワンとなっている。

業界での導入実績

頑丈だけではなく、あらゆる環境でロバストに用いられるタフブック

独自試験も行なって各種性能を実現

 さまざまな環境で用いることができるようにタフブックはMIL規格準拠の落下・衝撃試験のほか、パナソニック独自の210cmからのコンクリートへの落下試験なども行っている。また耐振動性能、PC内部を減圧した状態での防塵性能試験や、全方向からジェット水流をかけ続ける防滴性能試験なども行なわれている。

 頑丈さだけではなく、放熱設計や操作性などにも工夫がある。放熱に関してはCPUからの熱を速やかに逃すためのヒートシンク設計が行なわれており、ファンもシロッコファン(板状の羽を筒状につけて排気するファン)とした。Wi-Fiや5G通信モジュールの熱を逃しやすくするために銅プレートも追加されており、5Gの性能を活かすことができるという(詳細は後述)。

 本体カラーも当初は黒基調だったが、アリゾナの砂漠で使われたときに「熱を吸収しやすい」課題が明らかになったためシルバー基調に変更された。太陽光を反射し、過熱を防止する。熱反射性塗料なども試験したがあまり効果がなく、結局これが一番いいと判断された。

現場の声を活かした性能と実現するための技術力

 タッチパネルの操作性においても、アルゴリズムを改良することで水濡れや手袋を付けたままでも操作しやすくなっている。手袋をつけていると、そのぶん静電スクリーンから距離が離れるため、信号が周囲のノイズに埋もれやすくなる。それをベンダーとも協力してピークだけを検出するようにチューンした。「FZ-G2」ではユーザーが切り替えなければならなかったが、「FZ-40」からは、指かペンかグローブかを自動で検知して、最適な状態にチューニングモードを自動変更できるようになった。

 水滴付着時は最大ピークの2点だけを検出するアルゴリズムを用いる。ノイズから水の付着を検知するとウォーターモードに切り替わって、最大の二点だけに絞って、最適に操作ができるようにする。

 またモジュラー構造となっており、本体を買ったあとにも、本体全体を買い替えることなくガジェットを買い足すことで新しい機能を追加できる構造となっている。費用を抑えることができる。また、環境にも配慮した設計となっているという。

端部は2色成形で落下衝撃を吸収

耐落下・耐振動、耐水・体温度、長期使用リスクへの対応

 続いて、耐落下・耐振動、耐水/体温度、長期使用リスクへの対応について、主にパナソニック コネクト株式会社 モバイルソリューションズ事業部 技術総括部 タフブックプロジェクトマネージャーの松岡大輔氏から、より詳細な解説が行なわれた。

パナソニック コネクト株式会社 モバイルソリューションズ事業部 技術総括部 タフブックプロジェクトマネージャー 松岡大輔氏

 落下に対しては地面とあたりやすいコーナー部に緩衝材を配置。タフブックは故障によるダウンタイムがビジネス損失につながる現場で用いられることが多いことから、薄型を維持しながら衝撃に強い構造を実現した。具体的には内部に強度を保持する樹脂のパーツがあり、異なる材料を組み合わせて成形する「2色成形」技術を用いて表面にエラストマー(ゴム)を形成している。

コーナー部には緩衝材

 これにより、コーナーから落下したときは、樹脂で強度を確保しつつ、ラバーで衝撃を吸収する。タブレット端末も同様で、コーナー部分にラバー部品を用いて衝撃に備えるようにしている。

コーナーは樹脂とラバーで衝撃を吸収
タブレットタイプも同様の構造

 液晶についても天板に補強をもたせて液晶を守る構造となっている。タッチスクリーンのガラスも極力薄くしている。端からクラックが入りやすいのでマグネシウムで保持して局所的な力が加わらないようになっているという。

コネクタはフローティング構造、バックフリップタイプ

コネクタを浮かせたフローティング構造

 コネクタ部にも工夫がある。固定された構造だと落下時の衝撃によりコネクタに負荷が集中してしまい破損してしまう。そこでコネクタ部は敢えて固定せずに浮かせる「フローティング構造」となっている。これにより落下や振動にコネクタが追従して動けるようになり、揺れが激しい車内の振動にも耐え得る堅牢性を実現した。もともとは重量物でかつ取り外しの多いバッテリとの接続を切れないように発案されたものだが、今は主なコネクタ部はこの構造になっている。

 また、落下や振動への耐久性を向上させるために、FPCとの接続が外れにくい「バックフリップタイプ」のコネクタを採用。FPCを挿入してロックを後ろに倒すタイプのコネクタで、振動により強くなる。従来はフロントフリップタイプだったが、落下時に衝撃でFPCが応力をかけ、レバーを持ち上げてしまう方向に働いてしまうことで外れてしまう事例があった。つまり衝撃で脱落する可能性があるということで、「FZ-40」から変更になった。

バックフリップタイプコネクタ
従来品は衝撃で脱落する可能性があった

 このようにタフブックは過酷な環境下での業務に用いるために市場での不具合を確実にフィードバックし、妥協に許さない設計思想で作られているという。

防水シーリングには溝部にシリコンを塗布

DCジャックスライドカバー

 耐水については、DCジャック接続部は開閉するフタだけであることも多いが、邪魔になったり、ちぎれたりすることがある。そこで「FZ-40」では、つまみをを下げるスライド式にした。これにより狭い環境での作業でも邪魔にならなくなったが、そのぶん、緻密な設計や、生産上も高い組み立て精度が必要だったという。実際には蓋を閉めた状態で光を裏側から当て、隙間ができていないかどうかを確認することで、防水性を担保した。

DCジャック接続部。蓋を閉めた状態
つまみを下げると接続部が現れる

 防水のためのシーリングにはシリコンが塗布されている。ロボットで塗布して、UVで光硬化させるのだが、複雑な構造の溝には急カーブや高低差もあり、塗布膜を均等の厚さにすることは難しかったという。吐出部を工夫すればいいのではないかとも思うかもしれないが、それほど単純ではなく、工場の温度や湿度によっても塗布膜の厚さが変わってしまうためだ。許される誤差範囲はおよそ0.3mm程度で、特に、塗り始め部分と塗り終わり部分は「重ねつつ、重ねすぎない」くらいの微妙な調整が必要だったそうだ。

シーリングにはシリコンを塗布
ロボットで塗布するが、厚さを一定にするのは難しかった

-10℃から50℃で安定して使えるための高温対策

真夏の車両で高熱になったあと、雨に濡れても大丈夫

 タフブックの動作保証温度は、-10℃から50℃。テストも多様な環境を想定して行なわれている。真夏の自動車内のダッシュボードに置かれていた端末が、その後に水濡れして壊れたという事例があったことから、実際に高温環境で保管したあとで防水試験を行なうといった、実際の利用シーンを想定した試験を行なうことで過酷な環境でも長期間安心してリスクなく使えるようにしているという。

 放熱は基本的にはファンとパワーマネジメント。「FZ-40」ではCPUと電源回路からの熱をヒートパイプを使って放熱フィンで放熱しているが「極力CPUとフィンのあいだの距離を短くしている」という。つまり速く熱を輸送して放熱するしかない、というわけだ。ファンもシロッコファンを使って風量も増加させた。

シロッコファンで排熱

 また、複数の周波数帯を同時に使用するキャリアアグリケーションなども行なわれるようになっており、ワイヤレスの消費電力が増えている。記憶媒体もSSDになっていることから、ドライバもチューニングして、 高温環境下でも安定して使えるようにして顧客に提供しているという。5Gモジュールには放熱用ゴムを使って筐体に熱を逃して放熱するようにしている。

ヒートパイプは極力短く、できるだけ速やかに放熱するように工夫されている

長期使用リスクにも対策

摩耗しにくい素材を使っているI/Oポートカバー

 長期使用リスクに対しても対策している。繰り返し使われるI/Oポートのカバーは接触によって摩耗する。そうなると水が入ってきやすい。通常のプラスチックだと何度も開閉することでうまく閉まらなくなってしまうこともあるが、環境変化や傷に強い独自素材の選定により確実に防水性を担保し、長期間使用できるようにしている。

 なお、顧客の多くはセキュリティサポートや、ワイヤレスのトレンドの変化への対応の理由で、4~5年単位で買い換えることが多いという。ただし工場で用いられるPCの場合は、LTSC(Long-Term Servicing Channel)、つまり長期保証のOSを使って7年程度使う顧客もあるとのこと。

バッテリの安全設計

 バッテリ消耗リスクに対しても対策している。ソフトウェアで電流/電圧/温度などの異常を検出し、予測診断を行なう自動予測モニタリング、劣化度合いに応じて充電電圧を制御するアクティブスマート充電、そして延焼を防止する防火バリアなどを備えている。

バッテリセル間には延焼を防ぐための防火バリア、燃焼時にガスを放出する仕組みも

 防火バリアは、バッテリセルが発火してしまったときに延焼を防ぐための障壁で、不燃性の雲母断熱材が用いられている。文字通りのファイアウォールブロックだ。また、本体にはスリットが設けられている。通常は防水シートで覆われているが、バッテリが発火したときにはその熱で防水シートが溶け、スリットからガスを排出する。この構造は特許となっている。

バッテリセルは延焼を防ぐ防火バリア付き
発火時のガスを排出するスリット
スリットの裏は通常は防水シートで覆われているが、発火すると熱で溶ける

FZ-G2にはmicroSDカードスロットモジュールが追加

FZ-G2

 7月に発表された「FZ-G2」シリーズの新モデルも改めて紹介された。国内法人向けに10月下旬から発売される。「FZ-G2」シリーズは、2021年の発売以来、粉末が舞う食品工場や医薬品工場の製造実行システム(MES)の操作端末や、屋外での設備点検/メンテナンスの業務用端末、警察や消防隊員用端末として、さまざまな現場で活用されている。

ターゲット業界

 新モデルでは、第12世代Core(Core i5-1245U)を搭載。マルチタスクでも高いパフォーマンスを発揮する。従来モデル比で約1.3倍高速化しており、省電力とハイパフォーマンスを両立したモデルだという。

Core i5-1245Uで省電力をハイパフォーマンスを両立

 また、必要な機能を後から追加できるモジュラー構造のオプションとして、新たに「microSDカードスロット」が追加された。点検時のCADデータなど、通信では送受信が難しい大容量データや、現場スペースの都合上でUSBが挿せない環境、自動車整備の際に更新するカーナビのデータ等の受け渡しが便利になるとしている。またバックアップにも用いることができる。

アタッチメントオプションにmicroSDカードスロットが追加

 このほか、サステナブルな取り組みについても紹介された。CO2排出量削減や太陽光パネル設置などの取り組みのほか、モジュラー構造をとることで流通負荷が軽減でき、本体を買い替えすることなく機能追加ができる点がアピールされた。

サステナブルな取り組みも

現場の業務を止めないPC

パナソニック コネクト株式会社 モバイルソリューションズ事業部 技術総括部 プロジェクトマネジメント総括担当 長畑 伸治氏

 最後に、技術の責任者であるパナソニック コネクト株式会社 モバイルソリューションズ事業部 技術総括部 プロジェクトマネジメント総括担当の長畑伸治氏がまとめた。長畑氏は、パナソニックコネクトではこれまでに現場からのフィードバックをもとに、1,000項目を超えるをチェックリストを作っており、このリストと、300件以上の有効特許を組み合わせることで、「顧客に安心して使ってもらえる、現場をの仕事を止めないタフブックを今後も開発して貢献していきたい。この考えはパナソニックコネクトの方針である現場課題を解決することで、より良い未来を作っていくことにもつながる」と述べて勉強会を締めくくった。

1,000項目のチェックリストと300以上の特許でダウンタイムを最小化