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理研、シリコン量子ドットデバイス中で高精度スピン交換操作の実装に成功

~シリコン量子ドットを用いた量子コンピュータの実現へ期待高まる

本研究で用いたシリコン量子ドット試料の電子顕微鏡写真

 理化学研究所(理研)は3月25日、シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンにおいて、電気的雑音の影響を低減する2スピン制御の方法を開発し、99.6%と高精度なスピン交換操作の実装に成功したと発表した。

 この成果は、近年注目を浴びているシリコン量子ドットを用いた量子コンピュータの実現において重要な課題である、量子ビットの操作がどれだけ理想的な操作に近いかを表す「忠実度」の高い、2量子ビットゲート(2量子ビット間のもつれ操作)の実装に指針を与えるもので、今後の研究開発を加速させるものという。

 近年、半導体デバイスの微細化による情報処理能力の向上が限界を迎えつつあり、新しい動作原理に基づく次世代型コンピュータの実現が望まれており、量子力学の原理に基づき、複数の情報を同時に符号化することで超並列計算を実行する「量子コンピュータ」が有望視されている。そのうち、シリコン量子ドット中の電子スピンを用いた「シリコンスピン量子コンピュータ」は、制御性が優れることに加えて、既存産業の集積回路技術と相性が良いことから、大規模量子コンピュータの実装に適していると考えられている。

 しかし、実現に向けて解決すべき課題の1つに「2量子ビットゲート」がある。これは、2つの電子の軌道がたがいに重なり合うときに生じるスピンに関係した相互作用である「交換相互作用」を利用したものであるが、交換相互作用の大きさは半導体中の電荷不純物による電気的雑音の影響を受けて、本来、磁気的雑音の影響しか受けないはずのスピンでも、2スピンの操作時には電気的雑音が影響してしまっていた。これにより、大規模な量子ビットコンピュータの実現に必要な「誤り耐性量子計算」に必要とされる高精度において、スピンの交換操作を行なうのは困難とされていた。

 今回、研究チームでは、核スピンによる影響の少ないシリコンを用いた量子ドットの使用や、試料設計や動作条件を最適化し、前述の交換相互作用を量子ビットの周波数(350MHz程度の高周波)で交流変調させることで電気的雑音を低減できたとする。

2つのスピン状態の間のラビ振動の測定結果

 実験では、↑↓>と↓↑>の2つのスピン状態(前者は左側の量子ドット内の電子スピンが上向き、右側の量子ドット内の電子スピンが下向きの状態を表し、後者はその逆を表す)の間で、エネルギー分裂に共鳴的に交流変調された外場を印加したときに、それらの間の遷移が周期的に起こる「ラビ振動」を観測し、理想的なほぼ減衰のない振動が観測された。このことから、高い精度でスピン操作が行なわれたと考えられるとする。

 同チームは、シリコン量子ドット中の電子スピンでは、この成果に加え、すでに長い量子情報保持時間、高精度の1スピン操作、スピンの量子非破壊測定など量子コンピュータ実現に向けた基本要素が実証されており、今後の基本原理検証を超えた大規模量子コンピュータの実現に向けた研究開発が期待できるとしている。