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理研、従来の100倍以上の高い温度で量子ビット動作を実現

 理化学研究所(理研)開拓研究本部石橋極微デバイス工学研究室の大野圭司専任研究員、産業技術総合研究所(産総研)ナノエレクトロニクス研究部門ナノCMOS集積グループの森貴洋主任研究員らの共同研究グループは24日、シリコン量子ビットを10K(約-263℃)の高温で動作させることに成功したと発表した。

 これまで量子スピンを用いたシリコン量子ビットは、既存のシリコントランジスタ製作技術で製造できたが、0.1K(約-273℃)以下の極低温環境でしか動作せず、その冷却には大型の装置が必須。これ以上の高温で量子ビットを動作させるには、熱エネルギーによる撹乱に負けない、より強く局在した電子が必要だった。

 今回、研究チームは既存の製造技術で達成できる、不純物を利用する方法を採用。不純物が形成するエネルギー準位を利用すれば、不純物1個が原子サイズの量子ドット閉じ込めの実現に相当するとされている。

 これまで同様の技術には、不純物としてリンをはじめとする一般的な不純物(浅い不純物)が利用されてきたが、浅い不純物には電子が強く局在しない問題があった。そこで研究チームは、アルミ不純物と窒素不純物が近接して作る不純物ペアからなる深い準位を形成する、「深い不純物」を用いた。

 深い不純物から量子ビット状態を電気信号として読み出すには、深い不純物のなかの電子をトランジスタの電極に取り出す必要があり、その電子の移動はトンネル効果によって引き起こされる。しかし、従来のトランジスタ構造ではトンネル障壁が厚くなりすぎてうまく電子を取り出せなかった。そこで今回、トンネル電界効果トランジスタ素子を採用し、障壁を薄くすることで電子の取り出しに成功した。

トンネル電界効果トランジスタ素子の採用

 電子スピン状態の読み出し方法には、「スピン閉鎖現象」を採用。読み出したい不純物の電子を電極へ取り出すさいに、もう1つ別の不純物(遮断器不純物)を経由してからでないと取り出せないようにし、パウリの排他律として知られる量子力学的効果により、2つの不純物のスピン状態を比較して取り出すようにした。この手法に加え、磁気共鳴技術で電子スピン状態の操作を行なうことで、量子ビットの動作を確認した。

スピン閉鎖現象

 今回、ターゲット不純物としてアルミ-窒素不純物ペアの深い不純物を採用したが、遮断器不純物には素子にもともと入っている浅い不純物を用いたため、そこがボトルネックとなり、最高動作温度は-10Kに留まっている。今後、遮断器不純物にも、別途深い不純物を用いることで、さらなる高温動作が期待できるとしている。