やじうまミニレビュー

今日発売のロジクール「MX Master 3」の磁石ホイールが限りなく静かで軽やかな新体験だった

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。
MX Master 3

 株式会社ロジクールは本日(9月27日)より、ハイエンドマウス「MX Master 3」の販売を開始した。本製品はロジクールのハイエンドモデルである“MXシリーズ”の最上位マウスとなっており、ほかのマウスとは一線を画す技術が投入されている。

 筆者は前モデルのMX Master 2Sを発売当初の2017年から仕事で使い続けており、今回MX Master 3を使用する機会を得たので、MX Master 2Sからどのような違いがあるのか写真とともに紹介していく。MX Master 3の機能については別記事(ロジクール、2年ぶりのハイエンドマウス「MX Master 3」)も参照されたい。

【表】MX Master 3と2Sの大まかな違い
MX Master 3MX Master 2S
センサーDarkfield不可視レーザー
解像度200~4,000dpi(50dpi刻み)
ボタン数7
電池充電式リチウムポリマー
駆動時間最大70日
操作距離約10m
無線方式Unifying(2.4GHz帯)、Bluetooth
インターフェイスUSB Type-CMicro USB
スクロールMagSpeed電磁気スクロールSmartshift Wheel
サムホイール
ボタンカスタマイズ○ ※事前定義済みプロファイルつき
Flow最大3台
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)84.3×124.9×51mm85.7×126×48.4mm
重量141g145g
税別直販価格13,500円12,750円

デザインは変わったが基本的な使い心地は変わらず

MX Master 3(左)と前モデルのMX Master 2S。クリックボタンのデザインが大きく異なるので、一見すると別物のように感じるが、ウエストのくぼみなどを含めたつかみの部分の形状はあまり変わっておらず、ほとんど違和感はない

 MX Master 3では2Sからデザインが変わっており、一見すると別物のマウスになったように見えるが、じつは手にしたときの感触や操作感にあまり大きな違いはない。筆者はとくに手に慣れさせる必要なく、MX Master 3に移行できた。むしろ2Sと交互に使ってみても、後述するホイールについては別として、違和感を感じないくらいだ。

 Logitech(ロジクール本社)のプロダクトマネージャーはMX Master 3の発表会にて、同社の開発モットーとして、良いところは残し、改善すべきところを改善するという思想があると語っており、評価の高かったMX Master 2Sをまったくの別モデルとして作るのではなく、その良質な部分は継承させつつ、さらなる改良を加えていくという意図で設計されたため、MX Master 3を2Sと同じ感覚で扱えるのだろう。

 実際に親指を置くウエストの部分のくぼみは感触的にほぼそのままという印象。若干違いを感じるとすれば、人差し指の付け根あたりの位置に来る出っ張り部分だ(電池残量表示のLEDがある)。とはいえ、手のひらで覆い被せるように持つのではなく、普段から手首を傾けてやや右寄りに持つように使っている筆者からすると、手のひらでふれる部分に多少の違いを感じるが、この出っ張りによる傾斜を強く意識することはない。

 以下、MX Master 3と2Sの比較写真を並べている。左側がMX Master 3だ。

クリックボタンのデザインが大きく変わっているが、クリック感はMX Master 3のほうが軽く感じる。ただ、筆者が使用している2Sは長期運用によって経年劣化しているのでなんとも言えないところ
MX Master 3も2Sもウエストのくぼみはほとんど同じだ。そのため、つかんだときの感触に大きな違いを感じない
右側面については形状的な違いが一番少ない箇所だろう
底面は左右のすべり止めシールが小さくなったくらいで、ペアリング先のデバイスを変えるEasy-Switchボタンや電源スイッチは同じ
ホイールのすべり止めは、MX Master 2Sではゴムが貼られていたが、金属加工のみになった
MX Masterシリーズの特徴の1つと言えるサムホイール。MX Master 3ではかなり大型化しつつ、金属の中央ホイールと同じく、ゴムは使われなくなった。回したときのヌルヌルとした引っかかりのない感触は変わらないが、大型化したので回しやすい。さらに、サムホイールが大きくなったことで、戻る/進むボタンが下に移動。2Sでは進むボタン押すときに親指を少し曲げて押す必要があったが、指を曲げずに即座に押せるようになった
標準でアプリやデスクトップ切り換えが割り当てられているジェスチャーボタンに目印がつき存在感を主張するようになった。2Sでは見た目だけではボタンがあるかどうがわかりにくかった
ジェスチャーボタンの下にくぼみが作られており、直感的に押せるとわかる見た目に。実際に押すと、このくぼみ部分がつぶれるようになっている。押したときの感触はMX Master 3のほうが柔らかい
充電用のUSB端子はMicro USBからType-Cへと変更された

ホイールが別物に。動作音は限りなく小さく、回転は軽やか

 MX Masterシリーズのマウスの最大の特徴と言えば「SmartShift」機能を搭載するスクロールホイールだ。ホイールの回転速度によってひと回しひと回しで抵抗が感じられるラチェットモードから、抵抗がまったくなくなるフリースピンモードに自動的に移行することができ、縦に長いWebサイト、長文が書かれたテキストエディタ、膨大な行数のExcelシートなど、ホイールをガシガシとがんばって回さずとも、一瞬で深い位置まで導いてくれる。

 MX Masterが愛されるのは、このホイール機能があるからと断言してもいいくらい便利なものであり、兄弟機でモバイル向けの「MX Anywhere 2S」もフリースピンモードは使えるのだが、自動切り替えには対応しておらず、MX Masterが唯一無二の存在である。なお、筆者は自宅でトラックボールの「MX Ergo」を使用しているが、MX Ergoのホイールにもこれは採用されておらず、大量スクロールが必要なときにはかなり不便な思いをする。

 そのMX Masterならではのホイール機能だが、MX Master 3のそれは2Sとは著しく感触が異なっている。はじめてMX Master 3のホイールを回したときに思わず「うわ」と声が出てしまったくらいだ。

 以下の動画でそれぞれのホイールを回す音を聞いてもらえれば、その違いがわかるだろう。

結構うるさいMX Master 2Sのホイール
非常に静かなMX Master 3のホイール

 MX Master 3では、今回から新たに「MagSpeed電磁気スクロール」が実装された。ロジクールの発表会では以下のスライドで説明されたが、簡単に言うとラチェットモード時には磁石の反発でホイール回転時の抵抗を生み、フリースピンモードでは極性を変えて反発を消し、抵抗がない高速回転を可能にするというものだ。

MX Master 3の発表会で使われた「MagSpeed電磁気スクロール」の説明スライド

 MX Master 2Sではラチェットモードでホイールを回すときに、コリコリとした感触と音があったわけだが、MX Master 3ではこれがなくなっている。もちろん回転には抵抗があり、3回し、4回しと意識的に操作できる。できるのだが、その抵抗はかなり弱くて静かだ。ラチェットモード時の回転音はほぼ無音と言っていいだろう。はじめてMX Master 3のホイールを操作したさいには、フリースピンモードになってるのではないかと思うくらい抵抗が小さい。

 ホイールを勢いよく回したときに移行するフリースピンモードもかなり静かで、MX Master 2Sではフリースピンモードを止めたときにガチャッというメカニカルな切り替え音が聞こえるのだが、MX Master 3はカチッと慎ましやかな音がかすかに聞こえる程度。磁石によってモードの切り替えがスムーズに行なわれるようになったわけだ。

前モデルMX Master 2Sのホイール
発表会場に展示されていたMX Master 3のホイールの大型模型
MX Master 3のホイールの試作品。動作確認もできた

 同社としては静音性にも配慮したかったとのことなので、今回の新機構はホイールの精度も上げつつで、大成功なのだろう。しかし、個人的には2Sの回している感がはっきりと伝わってくるホイールには気持ちよさがあった。メカニカルスイッチのキーボードを愛用する人が、静音タイプのフニャフニャしたキーボードを使った場合に感じる違和感に近いかもしれない。打鍵時のフィードバックから反発と音が削られてしまい、爽快さが消えてしまった感じだ。

 もちろんメカニカルキーボードの音が苦手という人もいるだろう。近年ではマウスですらクリックボタンが静音化された製品が売られているくらいだし、MX Master 2Sのホイールは勢いよく回せばそれなりの音がするので、案外周りにはうるさいなと思われていた可能性がある。静かな場所でも気兼ねなくスクロールしまくれると考えれば、今回の改良は喜ぶべきことだ。

 そして、MagSpeed電磁気スクロールになって、明らかに良くなった点もある。それはフリースピンモードへの移行が機敏になったことだ。今回のホイールの素材はステンレスで、これまでのアルミニウムよりも重いのだが、磁石を使った新機構になったためか、ホイールを回すときの動作自体はかなり軽い。それゆえ、MX Master 3では2Sのときほど、勢いよくホイールを回さずにすぐにフリースピンモードが動作する。フリースピンモードを多用していた人なら使いやすくなったと感じられると思う。

 なお、SmartShiftの感度はLogicool Optionsから変更できるが、MX Master 2Sの場合、感度を下げ過ぎるとちょっとした動作でもフリースピンモードに移行しようとして、ガチャガチャと音を立てながら切り替えが頻発し、さすがにうるさい。逆にMX Master 3なら切り替えが静かでスムーズなので、感度を最低に下げても気にせず使える。新機構の違いはこういった点にも表われている。

ラチェットモードからフリースピンモードに移行するためのSmartShiftの感度はLogicool Optionsで調整できる

 このほか、PC間でシームレスに1つのマウスを共有する「Flow」の機能はMX Master 2Sのころと大きく変わっていない。MX Master 3でも接続先を切り換えるためのEasy-Switchボタンが底面にあるため、複数台のPCをMX Master 3で同時に使いたいならFlowを有効にしたほうがいい。画面端にカーソルを移動させれば、勝手に接続先を切り換えてくれるからだ。Flowの使い方などに関しては以前のレビュー記事を参照されたい(ロジクールの最上位マウス「MX MASTER 2S」がもたらすマウスのさらなる進化を体験)。

Flowの設定画面。接続先PCの切り替えは画面の境界線上で行なわれ、切り替わりに若干のラグが生じる

 ただ、PC間で接続先が切り替わるさいには若干のラグがあるし、画面端での操作などで意図せずに切り替わってしまうこともあるため、個人的にはMX Ergoのように本体の表側にEasy-Switchボタンを置いてくれたほうが使いやすいのだが……。

 また、MX Master 3では、Logicool Optionsで特定のアプリについてあらかじめプログラマブルボタンへの機能割り当てが行なわれるようになった。たとえば、Photoshopならサムホイールの設定が「ブラシのサイズ」となっていて、2Sで同様の設定を出しても、こうは表示されない。ショートカットキーを登録せずに、一目瞭然の機能名で振ってあるので便利と言えば便利だが、自分の普段の割り当てとは違うというユーザーは少なからずいるだろうから、ヘビーユーザーからするとお節介に感じるかもしれない。

Logicool Optionsのインストール時に特定アプリのプロファイルを適用でき、インストール後には画面のようにあらかじめアプリが登録されている
これはPhotoshopのプロファイルでサムホイールの設定を呼び出したところ。割り当て機能が「ブラシサイズ」になっているのがわかる。先代のMX Master 2Sでは最新のLogicool Optionsをインストールしてもこのように表示されない
Chromeではサムホイールの機能が「タブ間をナビゲート」になっており、タブの切り替えを行なえる

 前モデルからさらに作り込まれたMX Master 3だが、正直なところ2Sに満足しているなら、わざわざ乗り換える必要性は低い。2SのときはFlowという新機能の提供があったが、今回はブラッシュアップに留まっているからだ。ただ、MagSpeed電磁気スクロールは店頭で一度ふれてみることをおすすめする。軽くてスムーズかつ静かな動作を実現しており、最初は違和感に戸惑いつつ、新鮮な感覚も味わえるはずだ。それから購入を検討してみてもいいだろう。