笠原一輝のユビキタス情報局

ソニーモバイル「Xperia Tablet Z」開発者インタビュー

~薄さ軽さだけでなく、見えないところもすごいんです

ソニーが発売する予定のXperia Tablet Z。NTTドコモからSO-03Eとして、ソニーマーケティングからSGP312JPとして販売される予定

 ソニーモバイルコミュニケーションズ(以下ソニーモバイル)が開発した「Xperia Tablet Z」は、10.1型の液晶を搭載したタブレットで、薄さ6.9mm(最薄部)で重量が495gと、このクラスのタブレットとして軽量薄型を実現した製品だ。3月22日にNTTドコモから「SO-03E」としてLTEモデム内蔵版が販売されるほか、ソニーマーケティングからWi-Fi版「SGP312JP」が4月13日より販売開始される予定だ。

 本記事ではそうしたXperia Tablet Zを開発したソニーモバイルの開発陣にお話しを伺ってきた。そこから見えてきたことは、従来のXperia Tablet Sに比較して2mmも薄くなった薄型ボディの秘密が機構設計にあったこと、さらには新規開発されたWUXGAディスプレイ、こだわりのカメラなど、デザインにばかり注目が集まりがちなタブレットだが、実は見えない部分こそ“すごい”設計になっているということだ。

薄さ6.9mm、重量495gと10.1型液晶搭載タブレットとしては世界最薄を実現

 今回のXperia Tablet Zが1月末にNTTドコモの発表会において発表された時、正直筆者は2つの意味で驚かされた。1つ目は、前モデルとなる「Xperia Tablet S」が9月に発表されてからわずか4カ月しか経ってないのに、フルモデルチェンジというべきデザインが一新されたこと。通常、タブレットでも、PCでもそうだと思うが、ボディのデザインが一新されるようなフルモデルチェンジというのは1年に1度というのが通例だ。こうした製品で変更するのにお金がかかるのがデザインや、それを規定する金型だったりするので、メーカーはそこを変えるのは必要最小限にとどめるのが通例で、四半期でモデルチェンジする場合には、プロセッサのクロックを上げたり、メモリやストレージの容量を増やしたりと、内部コンポーネントを切り換える程度のマイナーバージョンアップに留まるからだ。

 そして2つ目の驚きは、Xperia Tablet Sも薄さや軽さという点では相当気合いの入った製品だった(別記事参照)が、わずか4カ月で登場したその後継モデルは、それを上回る薄型軽量を実現した製品に仕上がっていたことだ。

 以下の表はXperia Tablet Z、Xperia Tablet S、そしてSの前モデルとなるSony Tablet Sの3製品のスペックを比較したものだ。

【表1】Xperia Tablet Z、Xperia Tablet S、Sony Tablet Sのスペック
ブランド名Xperia Tablet Z(Wi-Fiモデル)Xperia Tablet SSony Tablet S series
OS初期導入OSAndroid 4.1Android 4.0Android 3.1
SoCブランド名Qualcomm Snapdragon S4 Pro APQ8064NVIDIA Tegra3NVIDIA Tegra2
CPU4コア4コア2コア
最大クロック周波数1.5GHz1.5GHz(シングル) / 1.4GHz(クアッド)1GHz
GPUAdreno 320ULP GeForce (12エンジン)ULP GeForce (8エンジン)
メインメモリ2GB1GB1GB
ストレージ種類eMMCeMMCeMMC
容量32GB64/32/16GB32/16GB
液晶10.1型(1,920×1,200ドット)9.4型(1,280×800ドット)9.4型(1,280×800ドット)
無線WWANNTTドコモ SO-03Eのみ搭載未対応オプション
Wi-FiIEEE 802.11a/b/g/nIEEE 802.11a/b/g/nIEEE 802.11b/g/n
Bluetooth4.03.02.1
カメラフロント200万画素100万画素VGA
リア810万画素800万画素500万画素
I/Oポートマルチポート
microUSBA+B
MHL対応
SDカードスロットmicroSDカードスロット
内蔵マイク
NFC
ヘッドフォン出力
スピーカーステレオステレオステレオ
防水・防塵防水(IPX5/7)、防塵(IPX5X)防滴(IPX4相当)
バッテリ公称駆動時間(Web閲覧時)8.2時間10時間以上5時間
バッテリ容量6,000mAh6,000mAh5,000mAh
サイズ266mm240mm241.2mm
172mm174.2mm174.3mm
厚さ16.9mm8.8mm10.1mm
厚さ27.2mm11.85mm20.6mm
重量495g570g598g

 表に色をつけた部分が従来のXperia Tablet Sに比べてスペックが変更ないしは向上している部分となる。やはり率直に感心したのは、同じ容量のバッテリを積んでいながら、最薄部で6.8mmと2mmも薄型化を実現し、重量が495gと70g以上軽くなっていることだ。これにより、現時点では10.1型液晶搭載タブレットとしては世界最薄、国内最軽量を実現している。現状ではタブレットの薄さや重さを決定する最大のファクターは、バッテリの容量であり、同じ容量を搭載していながら軽くなっているということは、設計者がどこか工夫したに違いないからだ。

 さらに、薄さや軽さという意味では不利な方向に働く防水、防塵の機能をサポートしたことも、率直に言ってすごい。防水、防塵対応するには、ボディにシール剤を注入するなど、防水、防塵でなければ必要の無い部材が必要になる。つまりそれらの分だけ厚くなったり、重くなったりする可能性があるはずで、そうでないなら、やはり何らかの工夫がされていると考えるべきだろう。

 このあたりのことを詳しく聞いてみたい、それが今回ソニーモバイルにインタビューしてみようと思い立った理由だ。

上がNTTドコモのSO-03E、下がソニーマーケティングのSGP312JP。色は上が黒、下が白
裏面。裏面はNTTドコモ版も、ソニーマーケティング版も違いはないようだ
Wi-Fi版にはオプションで用意されているクレイドル、角度調整できる。ドコモ版には若干仕様の異なる卓上ホルダが同梱

ソニーモバイル、VAIO&Mobile事業部それぞれの良さを融合してタブレットを設計

ソニーモバイルでXperia Tablet Zを設計した開発陣。前列左から商品企画担当田中氏、カメラ担当長江氏、後列左から機構設計担当多田氏、ディスプレイ設計担当中川氏、デザイナーの杉山氏

 今回そうした筆者の疑問に答えてくれたのは、ソニーモバイルでXperia Tablet Zの開発を担当した開発チームだ。

 Xperia Tablet Zの基本コンセプトについて、ソニーモバイルで商品企画を担当している田中氏は「ソニーモバイルがソニーエリクソンから100%ソニー子会社へ変わっていく中で、スマートフォンとタブレットそれぞれのビジネスの最大化を目的とし、どちらの商品もソニーモバイルで企画/開発するという流れになった。その中でタブレットもソニーモバイルで開発するなら、スマートフォンとタブレットを同時に使っていただく際のユーザー体験を最大化していくべきだと考えました」と説明する。

 以前の記事でも触れた通り、ソニーモバイルは、2011年12月にソニーとエリクソンが半分ずつ出資する合弁会社からソニーの100%子会社になり、2012年の2月に新生ソニーモバイルとしてスタートしたという経緯がある。そうした中で、グローバル市場で高い評価を受けている「Xperia Z」(NTTドコモからSO-02Eとして発売)の開発が行なわれ、その延長線上にXperia Tablet Zの開発もあったのだ。

 では、前モデルとなるXperia Tablet Sとの関係性はどうなのだろうか。ソニーモバイルの田中氏によれば「Xperia Tablet Sの開発が走っている途中で、ソニーモバイルとして新スタートがあった。そのタイミングで、ソニーとしてスマートフォンとタブレットがどうあるべきかを問い直すことになりました。その成果として出てきたのがXperia Zであり、Xperia Tablet Zというデザインや機能を刷新した製品です」とする。すでに走っていたXperia Tablet Sの開発と平行して、Xperia Tablet Zの開発は行なわれていたのだ。このため、Xperia Tablet Sからあまり時間がかからず、Xperia Tablet Zがリリースされることになった。

 では、ソニー本体のVAIO&Mobile事業部からソニーモバイルへと開発が変わったことで何が変わったのだろうか? ソニーモバイルの田中氏は「今回のXperia Tablet Zの開発は、VAIO&Mobile事業部出身のエンジニアメンバーが異動する形で、ソニーモバイル出身のエンジニアと共同で行なっています。ソニーモバイル出身のエンジニアはスマートフォンの開発で培ってきた小型化や防水、防塵に対するノウハウを持っています。これに対してVAIO&Mobile事業部出身のエンジニアは、PCで一般的に使われてきた大画面、大容量バッテリなどやはり異なるノウハウを持っています。それらを活かして開発できたのが今回のXperia Tablet Zになります」と、VAIO&Mobile事業部とソニーモバイル両方のエンジニアがそれぞれの得意分野を活かし、よりよい製品を作ることができたとしている。

 PC開発のエンジニアは10型以上の大画面液晶を取り扱うことに慣れているし、同じように大容量のバッテリ、電力消費が大きいプロセッサを利用した場合の熱設計などに精通している。タブレットをコンピュートデバイスとして見た場合には、こうしたエンジニアに任せるのがもっともよいと言えるだろう。

 これに対して、スマートフォン開発のエンジニアは、小さなケースの中に、いかに大容量のバッテリや高性能な基板を収納していくか、など小型化に慣れているし、PCにはあまり興味が無いような一般のユーザーに向けた製品を作ることに長けている。そうした両方の良いところをうまくミックスすれば、大画面で高性能なタブレットで、かつ一般のユーザーにもヒットするような製品が可能になり、そうした開発体制を敷いたと考えることができるだろう。

Wi-Fi版にはスタミナモードが搭載されている

 そうしたことを象徴することの1つが、今回のXperia Tablet ZではSoCが、Sony Tablet S/Xperia Tablet Sで採用されてきたNVIDIAの「Tegra 2/3」から、Qualcomm 「Snapdragon S4 Pro」(APQ8064)に変更されたことだ。

 SoCにQualcomm製を採用したことについてソニーモバイルの田中氏は「今回の製品では薄さ、軽さの2点に際立った製品を作ろうというコンセプトがあり、薄さを実現するのに最適だったのがQualcommのSoCでした。また、今回のXperia Tablet Zではスマートフォンと共同開発ということを強く意識した製品になっていて、スマートフォンと同じプラットフォームを利用することにより開発期間の短縮も実現できました」と2つの理由を説明する。

 PC業界に近い関係者は、タブレットのSoCの選択時にも強力なアプリケーションプロセッサが選択されると考えがちだ。つまり、ベンチマーク性能が高いモノこそ、良いプロセッサという考え方をしてしまう。そういう観点で見ていくと、NVIDIAやIntelのような、強力なアプリケーションプロセッサやGPUを持つベンダーのSoCを選べばいいではないかという発想になる。

 しかし、以前の記事でも述べた通り、通信会社にモバイル機器を納める立場の機器ベンダーにとってはそうではない。モデムの接続保障(キャリア認証)は何よりも重要だし、近年では性能よりも他社とは異なる優れたユーザー体験を提案できるかが重要視されつつある。そうした観点から選べば、より薄くできる(つまり消費電力が低い)QualcommのSnapdragon S4 Proを、ソニーモバイルが選んだというのも頷ける話だろう。

 また、近年のスマートフォンやタブレットの開発では、ソフトウェア開発が占める比重は非常に高い。しかし、今回のXperia Tablet ZとXperia Zのように同じSoCを採用しておけば、同じソフトウェアや同じファームウェアが共通して利用できる。あとは微調整程度で対応できるので、それぞれ別々に開発するよりも開発期間を短縮できる。これもある意味で、Xperia Tablet Zが、Xperia Tablet Sの発表から短い期間でリリースすることができた理由の1つと言えるだろう。

 従来のXperia Tablet Sが、日本国内ではソニーブランドでNTTドコモからの販売されるという形になっていたのに対して、今回のXperia Tablet ZではSO-03EとしてNTTドコモブランドでワイヤレスWAN(LTE)内蔵版が発売される。このドコモ版となるSO-03Eと、ソニーマーケティングから販売されるSGP312JPの違いは何だろうか。田中氏によれば「最大の違いはLTEモデムの有無です。ドコモ版にはLTEモデムが内蔵されていますが、SGP312JPはWi-Fiのみとなります。また、Wi-Fi版のSGP312JPには、スタミナモードとよばれるソニー独自の省電力機能が実装されております」と説明した。

 スタミナモードとは、Xperia Zのグローバル版にも搭載されている機能で、一言で言うなら、Android OSがスタンバイモード時にアプリケーションの動作を抑制し、消費電力を抑え待機時間を増やすという機能になる。Android OSでは、待機時やアプリケーションがバックグランドにある時でも、アプリケーションが動作し続けることが可能になっている。これは、ユーザーの使い勝手が向上するというメリットがあるのだが、一方で消費電力への影響は小さくない。特に、ディスプレイが切れていても動作し続けるようなアプリケーションは、ユーザーが望まない形でバッテリを消費してしまう。

 そこで、ソニーのスタミナモードでは、スタンバイ時などにアプリケーションの動作を抑制するようになっている。一方、アプリケーションの動作は止まってしまうので、例えば裏で作業し続けて欲しいと思っているユーザーは、スタミナモードをオフにして利用すればよい。このあたりは利便性とバッテリ駆動時間のトレードオフになるので、ユーザーが自分の優先することは何か(バッテリ駆動時間か利便性か)を判断して決定すればよい。なお、スタミナモードで伸びるバッテリ駆動時間はあくまでスタンバイ時の待機時間のみとなる。

 SO-03Eには、このスタミナモード自体が用意されていない。実はこのことは、Xperia ZのNTTドコモ版である「SO-02E」でも同様で、グローバル版Xperia Zにはあるが(地域によっては非搭載)、SO-02Eには用意されない。その理由についてソニーモバイルの田中氏は「日本は世界に先駆けて発売されたため、開発スケジュールの関係もありました。また、スタミナモードが現在できることと、お客様の利便性について議論した結果、SO-02Eにせよ、SO-03Eにせよ、ご提供には至っておりません」と説明する。

 では、将来にわたってもNTTドコモ版でスタミナモードは提供されないのだろうか? 田中氏は「スタミナモード自体の提供の予定があるかに関しては申し上げられませんが、省電力という方向性は全世界のキャリアの方が検討している方向性で、NTTドコモ様を含むキャリアの方々と実現に向けて一緒に取り組んでいきたい」と、努力を続けていくとした。

 このことは言ってみれば、ユーザーからキャリアに対してもっとバッテリが持つようにして欲しいという声が高まれば高まるほど、キャリアの側も導入に対する機運が盛り上がるということになるのではないだろうか。

シンプルなデザインを実現する機構設計の秘密は、フレームの無い箱設計

 今回のXperia Tablet Zを見たときの印象は、やはり薄いなというのが多くのユーザーに共通しているのではないだろうか。Xperia Tablet Zの薄さは6.9mmとこれまでの9~10mm程度が一般的だったタブレットに比べてさらに薄くなっている。

 そうしたXperia Tablet Zのデザインの特徴は、スマートフォンのXperia Zと共通のスクエアで薄いというデザインを採用していることだ。ソニーモバイルのデザイナー杉山氏は「同時期にXperia Zを発売することを計画していたため、お客様へのメッセージとしてデザインのIDを合わせています」とする。杉山氏は「スマートフォンやタブレットが今後どうなっているかを考えると、究極的にはディスプレイだけが残って、それ以外のハードウェアは存在感を消していく方向だと考えています。そうすると、これまでよりもお客様がコンテンツを楽しみやすくなります。ただ、そうした薄い板という方向性は無個性になりがちですので、そのバランスをとっていく必要があります。今回のXperia Tablet Zで採用したOmniBalance design(オムニバランスデザイン)は、どの角度から見ても同じように見えるというシンメトリックなデザインを採用することで、いわゆるガジェットっぽい感じから逸脱してよりシンプルなデザインになり、お客様がコンテンツに没頭して楽しめるように配慮しました」とする。どうしても金太郎飴的なデザインになり、他社との差別化が難しいタブレットの中でも、シンプルであってもそれなりの個性を持つデザインを目指したとした。なお、オムニというのはラテン語で、全方位という意味合いがあり、オムニバランスデザインという言葉には、どの方向から見てもシンプルな板に見えるということを目指したデザイナーの想いが込められている。

 とはいえ、そうしたシンプルなデザインを実現するには、杉山氏の言うような“ハードウェアが存在感を消す”設計が必要になる。実際、今回のXperia Tablet Zを見ていて率直に驚くのは、基板やバッテリがどこに入っているのだろう、というぐらいの薄さを実現していることだ。普通のノートPCの液晶部分の厚さと変わらず、そこには液晶パネルしか入っていないと言われても信じてしまうぐらいの薄さだ。

 ソニーモバイルで機構設計を担当している多田氏によれば「一般的に厚さは液晶+バッテリ+ボディ外装で決まってきます。今回は、すべてのコンポーネントを薄くしています」とのことで、液晶パネル、バッテリ、ボディの外装で薄型パーツを採用し、6.9mmという薄さを実現したという。多田氏によれば「液晶パネルのモジュールはXperia Tablet S比で2割薄くなり、さらにバッテリも具体的な数値は公開できませんが薄くできています」とする。実際、Xperia Tablet Sの内部構造と比較してみるとよくわかるのだが、同じ6,000mAhの容量のバッテリだが、Xperia Tablet Zのバッテリは底面積が広くなっている。一般的にバッテリの容量と容積はほぼイコールなので、Xperia Tablet Zに採用されているバッテリは底面積を広くすることで、高さ方向を削減した薄型バッテリになっているということがわかるだろう。

 さらに、Xperia Tablet Zには本体のシャーシと呼ぶべきモノが存在していない。写真で見ると分かるが、Xperia Tablet Sでは内部に骨格と言うべきシャーシがあり、そこに液晶パネル、マザーボード、外装パネルなどが取り付けられる形で強度が実現できている。これに対して、Xperia Tablet Zではそうしたシャーシ構造がなく、外側のフレームがその役割を果たしている。そのフレームにバッテリ、基板が直接取り付けられていて、上から液晶パネル、下からガラスのグラスファイバーパネルにより蓋をするという“箱構造”で強度が確保されている。こうした設計にすると、シャーシがない分もさらに薄型化、軽量化を実現できる。このあたりに厚さ6.9mm、重さ495gの秘密が隠されていると考えられるだろう。では強度は問題ないのかと不安になるユーザーもいるだろうが、その心配は無い。というのも、フレームと液晶、下部パネルがきっちりと接合されているので強度がでるからだ。

 なお、今回の製品での防水、防塵に関しても、この箱構造が活用されている。通常の防水、防塵の場合はフレームがあり、そこに外装パネルで両面から蓋をする形になっているため、外装から内部機構に水が入ってこないようにシール剤を注入する必要がある。しかし、この箱構造の場合には、フレームとなるサイドパネルに開いている穴(USB端子やスイッチなど)にだけシール剤を施すだけで防水、防塵を実現できるのだ。また、シール剤自体を減らすことは、軽量化という意味で効果があるのは言うまでもないだろう。

 これらを組み合わせることで、厚さ6.9mm、重量495gという10.1型液晶搭載タブレットとしては驚異的な薄さや軽量さを実現しているのだ。

Xperia Tablet Zの内部構造
左がXperia Tablet Z、右側がXperia Tablet S。バッテリの底面積はXperia Tablet Zの方が大きいことがわかる

液晶ベンダーと協力してWUXGAのパネルをフルスクラッチで開発

 すでに述べた通り、Xperia Tablet Zが厚さ6.9mmという薄さを実現できた理由の1つは、液晶パネルの厚さが2割削減できていることにある。一言で2割削減したと言えばそれで終わりだが、現実問題としてはさほど簡単なことではない。具体的にはどのように実現したのだろうか?

 ソニーモバイル ディスプレイ設計担当の中川氏は「Xperia Tablet Zで液晶の厚さを2割削減できた理由は2つあります。1つは一般的なタブレット設計ではタブレット用の汎用品として開発されたパネルを流用しますが、液晶ベンダーと協力してフルスクラッチで新規設計したことです。もう1つはスマートフォンで培ってきた薄型化のノウハウを、タブレットの設計にも活用したことになります」と述べた。

 特に、10.1型液晶を搭載したタブレットの場合、汎用品を使ったり、若干の編集設計で活用すれば、液晶ベンダーにとっても開発コストを軽減できる。

 中川氏によれば「確かに液晶パネルとしてのコストは既存のモノを使う場合に比べて安くないのは事実です。しかし、今回の製品では色の再現性を従来機種比で約2倍に大きく向上させるなど、クオリティにこだわった製品にしたいということもあり、トータルで考えればメリットがあると考えスクラッチから開発することにしました」と、色再現性などをソニーモバイルが求めるレベルにするには既存品でも大きなカスタマイズを入れる必要があり、結局のところゼロから作った方が早いという判断もあったようだ。なお、こうした新規に液晶パネルを起こした場合には、調達先がその液晶ベンダーのみになってしまい、供給面などでの不安などが残る場合があるが、今回は調達先がワンソース(調達先が1つだけであること)かどうかなども含めて非公開とのことだった。

 ただ、一口にフルスクラッチで作ってもらうといっても、液晶ベンダーが協力してくれなければ、一朝一夕にできることではない。中川氏は「今回はリアリティディスプレイ(筆者注:高輝度、高解像度の液晶パネルを意味するソニーモバイルのブランド)、オプティコントラストパネル(筆者注:高コントラストで色再現性が広いパネルを意味するソニーモバイルのブランド)といったある程度スペックで落とし込めるリクエストを出しながら作っていってもらいました。当初液晶ベンダーに難色を示されたこともありましたが、我々ソニーモバイルのメンバーと一緒にやっているうちに、やればできるということがわかってきて共同開発が進んでいきました」と、ソニーモバイル側からかなり細かな指示を出し、液晶ベンダーと一緒に開発を続けていったのだという。

 実際、今回の製品ではWUXGA(1,920×1,200ドット)の解像度に対応しており、Androidの10型級のタブレットとしてはかなり高解像度なディスプレイに仕上がっている。AppleがRetina(レティーナ)のマーケティングキャンペーンに成功して、今や高解像度の代名詞としてRetinaが使われる勢いということもあり、今後もHDを超える高解像度は10型級でもトレンドになっていくことが予想されているので、10.1型で高解像度の液晶を開発することは液晶メーカーとしてメリットがあると考えたのだろう。

 なお、ユーザーとして気になるのは、高解像度にするのはいいが、消費電力は大丈夫なのかという問題だ。よく知られている通り、Appleの第3世代、第4世代iPad(以下iPad 3/4)は2,048×1,536ドットの液晶パネルを採用しているが、その分液晶が消費している電力が増えており、バッテリの容量がiPad 2までの25Whから42.5Whへと1.7倍に増えていて、それでようやく同じバッテリ駆動時間を実現している。つまりシステム全体の平均消費電力が1.7倍になっているということだ。バッテリの容量が増えることは重量増加と同義で、実際iPad 3/4はiPad 2に比べて重量が約50g増えている。高解像度の液晶パネルを搭載することは、消費電力が増加し、同等のバッテリ駆動時間を実現するためにはより大容量のバッテリを搭載して重量増になるということだ。

 これに対してXperia Tablet ZではXperia Tablet Sに比較してバッテリ容量は同じだが、Webブラウザの閲覧では10時間から8時間に減っている。このことはシステムの平均消費電力が1.25倍になっていることを意味しており、おそらくその多くは液晶パネルの解像度が向上したことに原因があると考えられるだろう(厳密に言えばSoCが変わっているのでその分の寄与度もあるが、液晶に比べると小さい)。だが、iPadほど高解像度ではないとはいえ、消費電力の上昇を比較的抑えられているのは事実で、ここに液晶ベンダーと一緒に開発したソニーモバイルの努力の跡が見て取れる。もちろん、バッテリ容量を増やせば、Xperia Tablet Sと同じ程度の重量で10時間駆動を実現することは可能だったと思うが、より軽量な方がいいと判断したと言うことだろう。

 中川氏は「今回は光学設計から含めてフルスクラッチで設計しており、バックライトも効率がよいデバイスを利用して、鮮やかな色と省電力という相反する2つのバランスをとっています。そこに、ソニーモバイルがソニーのTV部門の協力を得て開発したモバイルブラビアエンジン2のソフトウェア技術を利用することで、人の記憶に残るような記憶色などをより鮮やかにするなどの工夫を加えています」とする。TV部門の技術が惜しみなく利用されているモバイルブラビアエンジン2で、動画や静止画などを再生する場合にコントラスト調整などを動的に行ない、例えば人肌のような自然に見せるべき色にはあまり手を加えないで、赤い花のように鮮やかに見せた方がいい色は鮮やかに見せるなどの調整を加え、人間の目には色鮮やかに見えるように工夫しているのだ。

 これらにより、液晶の解像度を上げ、表示品質を向上しているのに、バッテリの容量増をしなくても必要最低限のバッテリ駆動時間を確保しつつ、495gと軽量さを実現しているのだ。この点は十分賞賛されてしかるべきだろう。

サイバーショットのノイズリダクションを活用して高画質を実現

 一般的にタブレットのカメラと言えば、ユーザーの扱いは“オマケ”という認識ではないだろうか。特に日本では3G/4Gモデム内蔵版よりも、Wi-Fi版の方が売れていることからも分かるように、タブレットの使われ方も家庭でということが多く、外で使うユーザーはあまり多くないという現実がある。

 ただ、今後はこうした状況も変わっていく可能性もある。というのも、日本よりもタブレット先進国である欧米では、すでにタブレットを持ち歩くという文化が根付きつつあり、最近では欧米の観光地などでもスマートフォンで撮影するのと同じように、タブレットで撮影するというユーザーが増えつつある。今後、日本でも欧米とおなじようにタブレットが普及していくと予想されているので、同じようにタブレットで写真を撮るユーザーが増えていくだろう。

 そうした状況にある日本市場に、そしてすでにタブレットが普及しているグローバル市場に販売していくタブレットとして、Xperia Tablet Zはカメラにもこだわった製品になっていると、ソニーモバイル カメラ設計担当 長江氏は説明する。「これまでタブレットではあまりカメラは重要視されてきませんでした。しかし、タブレットは画面が大きく、撮影した画像をすぐに確認できるメリットがあり、今後は画質にこだわるユーザーが多くなると考えています。そこで、Exmor R for MobileのCMOSイメージセンサーを採用し、さらに弊社のコンデジであるサイバーショットシリーズの技術を活用してお客様に満足頂けるカメラになっていると自負しています」(長江氏)とした。

Xperia Tablet Zに利用されているカメラ。CMOSイメージセンサーにはExmor R for Mobileを利用しており、レンズなどを含めてモジュールは新規開発している

 その自信の裏付けとしては、もちろんソニーが自社で製造しているCMOSイメージセンサーExmor R for Mobileを採用していることと(ちなみに、スマートフォンのXperia Zにはさらに新しいExmor RS for Mobileが採用されている)、カメラ自体の構造設計とソフトウェアだという。

 長江氏は「カメラの画質には、レンズの性能を確保するためのモジュールとしての高さ(厚さ)が効いてきます。しかし、本製品では薄さを実現するためにそれが活用できませんでした。そこで、今回はカメラモジュール自体の開発をスクラッチで行なって、レンズ設計を最適化することで、高画質化を実現しています」と、センサーこそ違いはないものの、デジタルカメラのそれ以外の要素、レンズやモジュール自体を完全に見直すことで、高画質化を実現しているとした。

 さらに、サイバーショットの技術で、明るい画像を実現するため、サイバーショットのノイズリダクション技術を活用しているという。「暗い場所の撮影では、明るい絵を撮影するためにはカメラのゲインをあげていく必要があります。しかし、ゲインをあげると、今度はノイズが発生しています。そこで、サイバーショットで利用されているノイズリダクションの手法を活用して、ノイズの発生を抑える手法をとっています」とし、サイバーショットのノウハウをそのまま活用し、高画質な映像や画像を撮影できるようにしているのだという。

 なお、カメラのUIに関してもかなりサイバーショットに近いUIになっており、サイバーショットをすでに使っているユーザーであれば違和感無く利用できるだろう。

やや高めな価格設定だが、それだけの価値はある

 Xperia Tablet Zは、バッテリ容量を増やさずにWUXGAの高解像度液晶パネルを採用するなど前モデルのXperia Tablet Sに比べてスペック面で大きく向上しているのはもちろんこと、細部にこだわった設計を施しており、ディスプレイの画質、カメラの画質といったスペックには現れない部分にも配慮されて設計されていることが分かっていただけただろう。

 冒頭でも述べたように、Xperia Tablet ZはLTEモデム内蔵のNTTドコモ版(SO-03E)が3月22日に、Wi-Fi版のSGP312JPがソニーマーケティングより4月13日に販売される予定だ。価格に関してはどちらもオープンプライスだが、後者に関しては6万円前後という市場想定価格が公開されている。32GBの内部ストレージを搭載したタブレットとしては、率直に言って安い価格ではないと思う(ちなみに同じ32GB/Wi-Fi第4世代iPadはアップルストア価格で50,800円)。今回は、より高級路線を狙っていきたいと考えてこうした価格設定になっているのだろう。

 ただ、確かに詳細にスペックを見ていっても、そしてスペックでは現れない部分を見ていっても、率直にいって「お金がかかってるな」と思わされる部分が多いのは事実だ。つまり内容を詳細に見ていけば、十分価格に見合っただけのモノはあるとは言えるだろう。ただ、価格というのはユーザーが購入を決定する時の重要な要素であるのは事実なので、他の製品とは違うんだということをソニーモバイルがどれだけアピールしていくことができるかが、本製品の成功を左右するのではないだろうか。

(笠原 一輝)