笠原一輝のユビキタス情報局

AMD GPU内蔵Intel CPU搭載だけではなかったDell XPS 15 2-in-1の見所

~キーストロークの短さを補完する磁気浮上技術や、業界最強のペン技術

Dellコンシューマデザイン担当副社長のジャスティン・ライルス氏

 1月9日~1月12日(現地時間)にわたってアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガスで開催されたCESでは、PCメーカー各社の2018年モデルが多数発表された。なかでも大きな注目を集めていた製品が、Dellの新XPS 13とXPS 15 2-in-1の2製品だった。実際、両製品とも欧米メディアのCESでの魅力的な製品に送るアワード(賞)を受賞している。

 1月9日に発表(Dell、AMD GPU内蔵Coreプロセッサ+Adobe RGB 100% 4K液晶搭載ノート「XPS 15 2-in-1」参照)された「XPS 15 2-in-1」は15.6型狭額縁ディスプレイを搭載し、360度回転型のヒンジを採用することでタブレットなどに変形して利用することができる2-in-1デバイス。CPUに1月7日(現地時間)にIntelから発表されたKBL-Gこと「8th Gen Core Processors with RADEON RX Vega M Graphics」をいち早く採用した。

 また、CESに先立って発表(Dell、さらに小さく薄くなった世界最小13型4K液晶搭載ノート「XPS 13」参照)された「XPS 13(9370)」は、従来同様に狭額縁の液晶ディスプレイを採用しながら、上位モデルの解像度を4K UHD(3,840x2,160ドット)に強化し、新色としてローズゴールド/アルパインホワイトを追加した。

 そうしたDellのXPS製品ラインのデザインをリードするDellコンシューマデザイン担当副社長のジャスティン・ライルス氏にXPS 13、XPS 15 2-in-1を開発するにあたっての課題や、それをどのように解決したのかを伺ってきた。

2015年に発売した最初の狭額縁ディスプレイ採用XPS 13(9343)が作ったトレンド

 数年前まで、DellのPCと言えば、良くも悪くもビジネス向け、エンタープライズ向けというイメージがとても強いPCメーカーだった。コンシューマ向けとしては、お世辞にも「良好なデザイン」と呼べる製品ではなかった。

 だが、近年そうした状況は変わった。その幕開けとなったのは、Dellが2015年に発表したXPS 13(9343)だ。XPS 13(9343)は同社が「InfinityEdge」と呼んでいる狭額縁の液晶ディスプレイを採用。狭額縁を採用したことで、11型のMacBook Airと同じ底面積で13.3型のノートPCを実現した。

 その後、この狭額縁のトレンドは他社のノートPC、そしてスマートフォンなどにも広がっていった。

 Dellのデザインセンターは、Dell本社があるテキサス州オースティンと台湾の台北にあり、2つのチームが協力してデザインを行なっている。ライルス氏はDellのコンシューマ製品のデザイン責任者を務めており、XPS 13やXPS 15といった近年のDellのプレミアム向けPCを主導してきた。

0.7mmのキーストロークなのに驚きのキータッチを実現する磁気浮上技術

XPS 15 2-in-1

 今回のCESで完全に新しい製品として投入されたのが、XPS 15 2-in-1だ。

 CPUには先日Intelから発表(Intel、AMD GPUを1パッケージに統合した新CPUを正式発表参照)されたAMDのdGPUをパッケージ上で統合しているKBL-Gこと「8th Gen Core Processors with RADEON RX Vega M Graphics」を搭載しており、電力あたりの性能が高いのが特徴の1つとなっている。サイズは354×235×9~16mm、重量は1.96kg~となっている。

CPUとdGPUとしてKBL-Gこと「8th Gen Core Processors with RADEON RX Vega M Graphics」を搭載

 15型級の2-in-1デバイスは、米国では急速にトレンドになっており、MicrosoftもSurface Book 2で、従来の13.5型に加えて、15型の製品を投入しているのはその最たる例と言える(Microsoft、Surface Book 2の13.5型/15型をAdobe MAX 2017で展示参照)。CESでは、HPも同じく15.5型ディスプレイとKBL-Gを搭載した2-in-1デバイスを発表(HPからもAMD GPU内蔵Intel CPU搭載の15型2in1「HP Spectre x360 15」参照)しており、選択肢が増えつつある状況だ。

 XPS 15 2-in-1をデザイン、設計する上で課題は4つあったとライルス氏は説明する。それは、キーボード、熱設計、ディスプレイそしてペンだ。

XPS 15 2-in-1のキーボード、15型ながらテンキーなしでディスプレイのセンターにキーボードのセンターがきている。オプションのペンはマグネットで左側面に装着可能

 「ユーザーが使いやすいと感じる伝統的キーボードが必要だが、しかし本体は薄く軽くしなければならない。そうした相反する命題を実現するためのデザインを行なっている」とライルス氏。

 XPS 15 2-in-1のキーボードのキーストロークは0.7mmしかない。現在のアイソレーションで薄型のキーボードはおおむね1.5mm~2mm程度のストロークとなっているのに比べると、半分となる。ところが、実際に押して見るとわかるのだが、XPS 15 2-in-1のキーボードは、キーストロークが1.5~2mm程度の製品と遜色ないキータッチとなっている。

キーボードのストロークは0.7mmと少ないが、磁気浮上を利用することで、タッチフィールは従来の1.5~2mm程度のキースクロールのキーボードと遜色ない

 これは、キーストロークは0.7mmだが、従来と同じようにパンタグラフ構造は維持しており、すべてのキーが磁気浮上を活用してユーザーに押したということを感じさせる仕組みになっているからだ。磁気浮上とは、リニアモーターカーが浮上して走っているように、キートップが磁気により上方向に斥力がかかっている状態になっている。それにより、0.7mmのキーストロークでも、確実に押したという感覚が伝わる仕組みを実現した。

 熱設計に関しては、従来のCPUとdGPUがべつべつに搭載されている場合2つだったホットスポットが、KBL-Gでは1つになる。それをどのように効率良く処理するかがポイントだった。そこで同社は、新しい素材と、2つのファンを利用することで対処した。XPS 13とXPS 15 2-in-1では、火星探索機にも利用されている新しい断熱材となる「GORE Thermal Insulation」を導入。低密度固体となる「シリカエアロゲル」を利用して、パームレストなどへの熱の拡散を防ぎつつ、XPS 15 2-in-1の場合には2つのファンを利用して効率良く放熱している。

 ディスプレイに関しては、とくに上位モデルとなる4K UHDに関してこだわったという。XPS 15 2-in-1の4Kパネルは、Adobe RGB 100%をサポートし、輝度は400cd/平方m、コントラスト比が1,500:1と、高色域、高輝度、高コントラストのものを採用した。

XPS 15 2-in-1の液晶
400cd/平方mで、コントラスト比1,500:1。暗い展示会場で見ると、かなり明るく、高精細

 そして、もう1つの特徴は、XPS 15 2-in-1で採用された新しいペン「Dell Premium Active Pen」だ。Dell Premium Active PenはMPP、AES 1.0、AES 2.0と複数のプロトコルに対応し、4,096段階の筆圧検知、傾き検知に対応し、現時点で業界で最強のペンだと言える。

Dell Premium Active Pen

 ペンのプロトコルというのは、ペンとタッチスクリーンに内蔵されているペンの動きを検知するICとがやりとりする手順のこと。現在PCで一般的に利用されているのはMPP(Microsoft Pen Protocol、かつてのN-trig)、AES(Active ES、ワコムの技術)の2つで、いずれもタッチパネルのICコントローラのなかにペン検出機能が統合されているので、パネルとペン位置の視差が少ない。

 XPS 15 2-in-1にはAES 2.0ペンプロトコルをサポートしたタッチICが内蔵されている。AES 2.0では、4,096段階の筆圧検知と傾き検知の機能が追加された。

 AES 2.0はAES 1.0の上位互換なので、AES 1.0のペンも利用できる。ただし、XPS 15 2-in-1とAES 1.0ペンの組み合わせでは、4,096段階の筆圧検知や傾き検知などは利用できない。

 一方、MPPは、Microsoftが買収したイスラエルN-Trigの技術が元になっているペンプロトコルで、MicrosoftのSurfaceシリーズや、Dellの一部製品でも採用されている。Dell Premium Active PenはMPPとAESを切り換えをサポートしており、Surface ProやSurface Book 2などMPPペンプロトコルに対応した製品でも利用することができる。

 なお、AESとMPPに対応したペンとしては、ワコムから「Bamboo Ink」が販売されいるが、AES 2.0でサポートされた傾き検知には対応していない。

剥げないホワイトを実現するウォーブングラスファイバーを採用したXPS 13

 最近のPCメーカーでは、新製品になっても製品名を変えないというのがトレンドになっている。Appleが「MacBook」や「MacBook Pro」ではじめたブランドスキームで、いまではLenovo、HP、Dellなども、完全に新しいデザインになっても同じブランド名を採用し続けることで、ブランドの定着を狙っている。

 XPS 13(9370)も製品ブランドは変わっていないが、2016年秋に投入されたXPS 13(9365)から、内部構造も外装も完全に作り直されている新設計となっている。

左がシルバー(外装)/ブラック(内装)で、右がゴールド(外装)/ホワイト(内装)という2つのXPS 13。同じXPS 13だがまったく印象が違う
天板、左がゴールドで、右がシルバー
ゴールドの底面

 XPS 13(9370)を設計する上でライルス氏が意識したのはXPS 13のユーザー層を広げ、とくに女性ユーザーのニーズにマッチさせたい点だったという。

 「XPSブランドをもっと広げていきたい、それがスタート地点だった。これまで取り込めていなかった女性ユーザーのニーズとはなにかということを考えて、最近のモデルではローズゴールドを追加していたが、新XPS 13を設計するにあたっては、さらに女性のニーズにマッチするデザインが必要ではないかという議論になった」(ライルス氏)。

 そこで、従来製品のローズゴールドはA面とD面はローズゴールドだったが、B面とC面はシルバーと同じブラックのままだったものが、XPS13(9370)では、A面(天板)とD面(底面)がローズゴールドで、B面(ディスプレイ面)とC面(キーボード面)がホワイトとなった。

新XPS 13のC面カバー
C面カバーに採用されているウォーブングラスファイバー(ガラス繊維織物)、手触りが繊維のようなやわらかい感じ
C面のフレーム(強化プラスチック)とウォーブングラスファイバーの組み合わせで強度をだしている

 ホワイトは単に塗っただけ。C面に塗装を施すと、ユーザーが使っているうちに色が剥げてしまう。そこで、C面の素材としてウォーブングラスファイバー(ガラス繊維織物)を利用した。布のような手触りを実現しながら強度を確保することができ、かつ繊維の段階で着色できるので、色が剥げたりというトラブルもない。

 確かにさわって見ると、カーボンのようにゴツゴツした感じでもなく、アルミのように冷たい感じでもない繊維らしいやわらかいさわり心地だ。

ACアダプタもホワイトに。キーボードの右側の丸ボタンは電源スイッチで、指紋認証センサーを兼ねている

 色のこだわりはB面、C面だけではない。新製品では、ACアダプタ、電源コード、そして標準添付されているUSB Type-CをA端子に変換するドングルもホワイトにしている。トータル体験を重視したからだ。

 それでも、ライルス氏としては、A面とD面がシルバーとゴールドしかないのは個人的に不満らしく、将来的にはもっと色を増やしていきたいという意向だという。

カメラの位置か、より小さな底面積か

 XPS 13、XPS 15 2-in-1をデザインする上で、ライルス氏がもっとも頭を悩ませたのはWebカメラの位置だったという。というのも、XPS 13とXPS 15 2-in-1では、IRカメラ機能付きWebカメラが液晶の下部に入っている。Windows Helloの顔認識に使う分にはここで問題ないのだが、SkypeやビデオカンファレンスなどでWebカムを使う場合には、どうしても下から見上げるような映像になってしまう。

 同じ狭額縁の製品でも、Lenovoの「ThinkPad X1 Carbon 5th Gen」(2017年モデル)/「同6th Gen」(2018年モデル)などでは上側に入っている。

新XPS 13のカメラ部分、ディスプレイ下部に来ている
LenovoのThinkPad X1 Carbon 6th Gen(2018年モデル)。よく見ると、狭額縁のサイズが横と上部では異なっている。カメラを入れた結果だと思われる

 「ユーザーに不満があることは理解している。しかし、結局の所これはトレードオフの問題だ。この製品をデザインするとき、XPS 13の強みはなにかということをデザインチームで議論した。それは狭額縁を採用することで、少ない底面積のPCを仕上げことだ。いまのXPS 13がユーザーに受け入れられている最大の理由は少ない底面積であり、それを進化させることこそユーザーのためだと考えた。

 そして、ベゼルは従来モデルの5.2mmから4mmへ縮小し、その結果として底面積も小さくできた。高さも30%削減することができた。これこそが最優先であり、カメラは4番目か、5番目だろうと判断した」(ライルス氏)。

 ThinkPad X1 Carbon 5th Gen(2017年モデル)/6th Gen(2018年モデル)の場合、カメラの分だけ上側のベゼルは大きくなってしまっている。カメラが下側にあれば、より底面積を小さくすることができただろう。

 このあたりは各メーカーの「哲学」が出ている部分であり、興味深い。Dellのアプローチも、Lenovoもアプローチもどちらも正解であり、ユーザーは自分にとってなにが大事かで決めればいい。

 ライルス氏はディスプレイの中央を指さし、「将来はここにWebカムが入ればいいと思っている。ベストポジションはここだ。いまの技術ではまだ難しいが、つねにそうしたことができないかを研究している」と将来のノートPCの構想を語ってくれた。

 実際、iPhone Xの狭額縁液晶が、カメラやセンサーの部分だけえぐれていること、下位モデルには入っている指紋センサーが搭載されていないといったように、前面カメラ、そしてスマートフォンではそれに加えて指紋センサーの位置がディスプレイの形状を決めてしまっている部分もある。今後そのあたりの技術革新が、PCやスマートフォンに新しいユーザー体験をもたらすことになりそうだ。