福田昭のセミコン業界最前線
AMDのZen 5や400層超え3D NANDなどが登場する「ISSCC 2025」
2025年2月13日 11:30
半導体集積回路の最先端技術が披露される国際学会「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」が、今年(2025年)も2月中旬に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。開催形式は2024年と同様に、リアルイベントとバーチャル(リアルイベント閉幕後に講演映像のオンデマンド配信を開始)のハイブリッド形式となる。
ISSCCは、半導体回路技術の研究開発成果に関する世界最大規模かつ世界最高水準の国際学会として、半導体業界では良く知られている。毎年、200件を超える半導体チップの研究開発成果が発表される。発表分野はプロセッサ、メモリ、マシンラーニング、無線通信、有線通信、高周波、イメージセンサー、セキュリティ、アナログなどと幅広い。参加登録者は約3,000名に達すると見込まれる。
リアルイベントの会場は前年と同じ、サンフランシスコ市街中心部のMarriott Marquisホテルである。会期は2025年2月16日~20日(米国時間)を予定する。今回の全体テーマは「The Silicon Engine Driving The AI Revolution(シリコンエンジンがAI革命を牽引する)」である。およそ2日間半かけて246件の研究成果を34の講演セッションで発表していく。
投稿件数は2024年に続いて過去最多を更新、採択率は過去最低水準にとどまる
ここからは、今回のISSCC 2025について開幕前の2月5日時点に公表されている内容を紹介していく。以下の内容は、ISSCCの実行委員会(極東地域)が2024年11月27日に東京で記者説明会を開催しており、同日の説明会で配布されたスライドが主体となっている。
始めはISSCCでの発表を目指して投稿された論文(投稿論文)と発表の機会を得た論文(採択論文)、それから採択率(採択論文数/投稿論文数)を述べる。2023年以前のISSCCは、投稿論文の件数が600件前後、採択件数が200件前後、採択率は33%前後という状態が15年ほど続いていた。
ところが2024年のISSCCから状況が急激に変化する。投稿論文件数(投稿件数)が急増したのだ。2024年の投稿件数は873件と、2023年の629件から一気に39%も増加した。過去最多の投稿件数である。採択件数は234件と前年(2023年)の198件から18%ほど増えたものの、2024年の採択率は26.8%と2023年の31.4%から4.6ポイントも低下した。
重要なのは、投稿件数の急増が一時的な現象なのか、それとも本質的な変化なのかだ。この点で、2025年の投稿件数には注目が集まることとなった。そして本質的な変化が起こりつつあるという見方が強まる。投稿件数は2024年の874件を4.6%上回る、914件に達した。投稿件数の最多記録は2年連続で更新された。2010年代の600件前後から比べると、1.5倍に伸びたことになる。
2024年の反省を踏まえ、実行委員会では講演セッション当たりの発表件数を増やすといった対応が採られていたようだ。2025年の採択論文件数(採択件数)は246件で、2024年に比べると5%増、2023年に比べると24%増と拡大している。しかし採択率は26.9%で前年比0.1ポイント増と、ほとんど変わらない。残念ながら、採択率は2年連続で過去最低水準となってしまった。
地域別の採択件数ではアジアが3分の2を占める
採択論文著者(第1著者)の国・地域は17カ所と多岐にわたる。内訳はアジア(日本を含む)が7カ所、米州が2カ所、欧州が8カ所となっている。
採択論文の件数を地域別(アジア、米州、欧州)に見ていくと、アジアが165件と最も多く、全体の半分を超えた。また前年比では17件増えた。次いで米州が57件、最後に欧州が28件となっている。米州は前年比で7件、欧州は前年比で2件、それぞれ減少した。
地域別の比率では、今回を含めた3回連続でアジアが60%を超えており、今回は66%と約3分の2を占めた。米州は23%、欧州は11%である。
分野別採択件数ではRFが13%でトップ、パワーマネジメントが12%で続く
技術分野(サブコミッティ)別の採択件数比率では、RF(高周波)分野が13%と最も高い。次いでパワーマネジメント分野が12%、Technology Direction(次世代技術)分野が11%、IMMD(Imagers、MEMSs、Medical and Displays)が10%と続く。
2021年から2025年で通して言えるのは、特定の分野が突出したり、極端に少なかったりということがなく、おおよそ6%~13%の範囲に分散していることだろう。なお2024年~2025年のセキュリティ分野が極端に少ないのは、2021年~2023年はマシンラーニング分野であり、2024年以降はセキュリティ分野に変更したためとみられる。
日曜にプレイベント、月曜~水曜にメインイベント、木曜にポストイベントを予定
国際学会や展示会などの一般的なスケジュールと同様に、ISSCCも曜日に沿ったスケジュールを組んでいる。メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)は、月曜日から水曜日に開催され、今回は2月17日~19日(月~水)になる。その前後である日曜日にプレイベント、木曜日にポストイベントが組まれ、2025年はプレイベントが2月16日(日)、ポストイベントが2月20日(木)となる。
なおすでに説明したように、テクニカルカンファレンスの参加料金と、プレイベントの参加料金、ポストイベントの参加料金は別々なので留意されたい。
2月16日はチュートリアル(技術講座)とフォーラム(トピックスに関する講演会)を実施する。チュートリアルは午前に6件、午後に4件の講座を予定する。フォーラムは1日を通じて2件のテーマに沿った複数の講演を並列に進める。また2月20日は4件のフォーラムと1件のショートコース(1日を通じた技術講座)を開催する。
プレナリー講演は4件、IntelとSamsungは講演者が交代
ここからは日付順に、月曜日~水曜日のスケジュールを簡単に説明していこう。2月17日(月)は、技術講演会(テクニカルカンファレンス)の初日となる。午前8時30分から始まるチェアパーソンの開会挨拶に続き、プレナリーセッション(全体講演セッション)が用意されている。
4件のプレナリー講演を予定する。いずれも招待講演で、講演者の所属組織は講演順に、Intel、MIT(マサチューセッツ工科大学)、Samsung Electronics(以降はSamsungと表記)、Infineon Technologiesとなっている。
2024年11月27日に開催された記者会見の時点とは、所属組織は変わらないものの、講演者には変更が生じた。2025年2月5日時点では、IntelとSamsungの講演者が異なることが分かっている。
Intelについては当初、CEO(最高経営責任者)のPat Gelsinger氏が講演を予定していた。しかし2014年12月1日付けで同氏はCEOを辞任している。このため、ファウンドリ技術開発担当シニアバイスプレジデントをつとめるNavid Shahriari氏が代役として講演することになったとみられる。
Samsungについては当初、Corporate PresidentのJung-Bae Lee氏が講演を予定していた。しかしLee氏は2020年12月から2024年11月までCorporate Presidentをつとめた後、2024年12月からExecutive Adviserに役職が変わっている(Lee氏のLinkedInページに掲載された職歴による)。そこで代役として、デバイスソリューション部門担当Corporate President兼最高技術責任者(CTO)をつとめるJaihyuk Song氏が講演者になったとみられる。
2月17日午後 : プロセッサやイメージセンサーなどの最新チップ
2月17日(月)の午後1時30分からは、技術講演会(テクニカルカンファレンス)が本格的にスタートする。セッション2~セッション7の採択論文が午後5時30分過ぎまでに披露される。なおセッション3は午後1時30分~午後3時10分まで、セッション4は午後3時35分から午後5時35分までの同じ会場を使ったハーフセッションである。従って5つの講演セッションが同時並列で進行する。講演テーマは以下の通り。
- セッション2「プロセッサ(Processors)」
- セッション3「増幅器とアナログフロントエンド(Amplifiers and Analog Front-Ends)」
- セッション4「アナログ技術(Analog Techniques)」
- セッション5「高性能トランシーバ向けフロントエンド回路(Front-End Circuits for High-Performance Transceivers)」
- セッション6「イメージャとディスプレイ(Imagers and Displays)」
- セッション7「超高速有線(Ultra-High-Speed Wireline)」
2月17日(月)の午後5時から午後7時は、講演内容をテーブルトップの展示でアピールする「デモセッション」が開催される。21件のデモンストレーションを予定する。
2月18日午前 : ユビキタス電源やコンピューティングインメモリなどが登場
翌18日(火)は、午前8時から採択論文の講演セッションが始まる。午前はセッション8~セッション15が実施される。なおセッション10とセッション11は同じ会場を別の時間枠(タイムスロット)で使用する。またセッション12とセッション13も同じ会場であり、前者は前半のタイムスロット、後者は後半のタイムスロットを利用する。従って6つの講演セッションが同時並列で進行する。講演テーマは以下の通り。
- セッション8「システム適応と電力管理、クロッキングに向けたデジタル技術(Digital Techniques for System Adaptation, Power Management and Clocking)」
- セッション9「ユビキタス電源供給(Ubiquitous Power Delivery)」
- セッション10「通信とレーダーに向けたトランシーバチップセット(Transceiver Chipsets for Communications and Radar)」
- セッション11「RFとミリ波の無線受信器(RF and mm-Wave Wireless Receivers」」
- セッション12「ISSCCの領域外におけるイノベーション(Innovations from Outside the (ISSCC’s) Box)」(招待講演)
- セッション13「クールな計算回路(Cool Computation Circuits)」
- セッション14「コンピューティングインメモリ(Compute-In-Memory)」
- セッション15「医療デバイス向けのニューラルインターフェイスとエッジインテリジェンス(Neural Interfaces and Edge Intelligence for Medical Devices)」
2月18日午後 : 産業界の最先端チップを招待講演で魅せる
昼食休憩を挟んで午後1時30分から、18日(火曜)後半の講演セッションが始まる。後半ではセッション16~セッション22が実施される。なおセッション16とセッション22は、同じ会場を別の時間枠(タイムスロット)で使用する。従って6つの講演セッションが同時並列で進行する。講演テーマは以下の通り。
- セッション16「産業界の最先端チップ(Invited Industry)」(招待講演)
- セッション17「ハードウェアセキュリティ(Hardware Security)」
- セッション18「ノイズシェイピングおよびSARをベースとするアナログ・デジタル変換回路(Noise-Shaping and SAR-Based ADCs)」
- セッション19「周波数生成器と直列共振型電圧制御発振器(Frequency Synthesizers and Series-Resonance VCOs)」
- セッション20「ヘルス分野とオートノミー分野に向けたセンサーとアクチュエータ(Sensors and Actuators for Health and Autonomy)」
- セッション21「コンピュータとUSBに向けた電源技術(Compute and USB Power)」
- セッション22「メモリ・インターフェイス(Memory Interface)」
18日(火曜)の午後5時~午後7時には、前日に続いてデモセッションが開催される。25件のデモンストレーション(テーブルトップ展示)を予定する。
2月18日夜 : パネル討論会で量子計算、アナログ設計、人工知能(AI)を議論
18日(火曜)の夜は、午後8時から3つのパネル討論会(「イブニングイベント(EE)」と呼称)が同時に開催される。テーマは「量子コンピューティング」、「アナログ設計の未来」、「人工知能(AI)の次の10年」である。
2月19日午前 : AIアクセラレータと不揮発性メモリ
翌2月19日(水)も、午前8時から前半のセッションが始まる。セッション23~セッション30を予定する。その中でセッション25とセッション26、セッション27とセッション28、セッション29とセッション30は、各ペアが同じ会場を使って時分割で実施する。全体では5つの講演セッションが同時並列に進む。講演テーマは以下の通り。
- セッション23「AIアクセラレータ(AI-Accelerators)」
- セッション24「高周波アナログ・デジタル変換器(High-Frequency ADCs)」
- セッション25「高周波領域における新しいコンセプト(High-Concepts at High Frequencies)」
- セッション26「無線送信器とフロントエンド(Wireless Transmitters and Front-Ends)」
- セッション27「センサインターフェイス(Sensor Interfaces)」
- セッション28「容量型センサーの読み出し(Capacitive Sensor Readout)」
- セッション29「スタティックRAM(SRAM)」
- セッション30「不揮発性メモリとDRAM(Nonvolatile Memory and DRAM)」
2月19日午後 : 生体埋め込みデバイスと超高密度ダイ間接続
昼食休憩を挟んで19日(水)の後半セッションは、午後1時30分から始まる。セッション31~セッション37を実施する。その中でセッション31と同32、セッション33と同34は各ペアが同じ会場を使って時分割で実施する。全体では5つの講演セッションが同時並列に進む。講演テーマは以下の通り。
- セッション31「エネルギー収穫とIoT電力(Energy Harvesting and IoT Power)」
- セッション32「絶縁型コンバータとゲートドライバ(Isolated Power and Gate Drivers)」
- セッション33「100GHzを超える電子デバイス(Components for Beyond 100GHz)」
- セッション34「デジタルPLLと波形整形電圧制御発振器(Digital PLLs and Waveform-Shaping VCOs)」
- セッション35「埋め込みまたは装着可能なバイオ医療デバイス(Implantable and Wearable Biomedical Devices)」
- セッション36「超高密度ダイ間接続と高性能光トランシーバ(Ultra-High-Density D2D and High-Performance Optical Transceivers)」
- セッション37「設計製造最適化とデジタルアクセラレータ(Design-Technology Optimization and Digital Accelerators)」
プロセッサでは「Zen 5」、「Telum II」、「Granite Rapids-D」の回路技術を報告
ここからは、技術講演会(テクニカルカンファレンス)のハイライト(注目講演)を一部、紹介していこう。始めは「プロセッサ」、次に「不揮発性メモリ」の注目講演を述べていく。
プロセッサでは、AMDが最新世代のx86-64 CPUコア「Zen 5」の技術概要を発表する(講演番号2.1)。TSMCの4nm FinFETプロセスで製造しており、8コアを搭載したコンピュートミニダイ(CCX)のシリコン面積は55平方mmとかなり小さい。最大動作周波数は5.7GHzとかなり高い。
IBMは、次期メインフレーム「z17」に向けた次世代マイクロプロセッサ「Telum II」の概要を報告する(講演番号2.2)。最大動作周波数は5.5GHzとこれもかなり高い。AIアクセラレータとDPUを内蔵する。5nmプロセスで製造したシリコンの面積は600平方mmと大きい。トランジスタ数は430億個に達する。
Intelは、仮想無線エリアネットワーク(vRAN)/エッジ/ネットワーク/ストレージ向け次世代マイクロプロセッサ「Granite Rapids-D」を開発した(講演番号2.3)。サーバー向けプロセッサアーキテクチャ「Xeon」の第6世代品である。製造技術は「Intel 4」。200Gbpsのエンタープライズ向けイーサネット、32レーンのPCIe Gen 5インターフェイス、16レーンのPCIe Gen 4インターフェイスなどを内蔵する。
ついに400層を超えた3D NANDフラッシュメモリのセル積層数
不揮発性メモリでは、3D NANDフラッシュメモリの高層化が著しい。Samsung Electronicsは、ワード線(メモリセル)の積層数を400層以上(4XX層)に高めた1Tbitの3D NANDフラッシュメモリを発表する(講演番号30.1)。記憶密度は28.2Gbit/平方mmとかなり高い。多値記憶はTLC方式。メモリセルアレイと周辺回路を別のウェハに作り込んでから貼り合わせるプロセスを新たに採用した。入出力インターフェイスの最大転送速度は5.6Gbpsと高い。
キオクシアとWestern Digitalの共同開発チームは、ワード線の積層数を332層に増やした1Tbitの3D NANDフラッシュメモリを報告する(講演番号30.2)。記憶密度は29Gbit/平方mmと高い。多値記憶はTLC方式。入出力インターフェイスの最大転送速度は4.8Gbpsである。
SK hynixは、ワード線の積層数を321層に高めながら、多値記憶にQLC方式を採用した2Tbitの3D NANDフラッシュメモリを開発した(講演番号30.5)。プログラム速度は75MB/sとQLC方式としては高い。入出力インターフェイスの最大転送速度は3.2Gbpsである。
このほかにも興味深い研究開発成果が少なくない。詳しくは現地レポートで紹介するので、期待されたい。