福田昭のセミコン業界最前線

HDD出荷金額は監視や仮想通貨特需で3年ぶりに拡大も、2.5インチは終息へ

2021年9月8日に開催された講演会「DISKCONJAPAN2021」の講演スケジュール画面。講演会はオンライン会議ツールZoomを使用して実施された

 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、2021年9月にストレージとその応用に関する講演会「国際ディスクフォーラム(DISKCONJAPAN2021)」を開催している。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大により、昨年(2020年)に続いて週1日のオンライン開催となった。今年(2021年)は9月8日、15日、22日、29日の水曜日にそれぞれ2件の講演とフリーディスカッションを予定する。合計では8件の講演となる。開催テーマは「テレワーク拡大によるトラフィックの急増-それを支えるストレージ」である。

 本レポートでは初日である9月8日の講演から、市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(TSR)によるストレージ市場を展望した講演「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook」の概要をご紹介する。講演者はTSRでアナリストをつとめる楠本一博氏である。

 なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて録画や配布などが禁止されている。本レポートに掲載した画像(講演スライド)は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。

2021年のHDD出荷台数は前年比でほぼ横ばいの見込み

楠本氏は講演の始めに、HDD市場(世界市場)の推移を概観した。一昨年(2019年)と昨年(2020年)の実績、それから今年(2021年)の予測である。なお2021年第2四半期までは実績数値なので、2021年は下半期(第3四半期と第4四半期)だけが予測値となっている。数値は出荷数量、出荷金額、平均単価、総出荷記憶容量、ドライブ1台当たりの平均記憶容量である。

一昨年(2019年)と昨年、今年のHDD市場(世界市場)。2019年と2020年は実績、2121年は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ

 2019年のHDD市場は、出荷台数が前年比15.4%減の3億1,766万台、出荷金額が同10.4減の221億4,100万ドル、平均単価が同5.8%増の69.7ドル、総出荷記憶容量が同5.5%増の902.5EB(エクサバイト)、ドライブ1台当たりの平均記憶容量が同24.7%増の2,841.2GBとなった。近年のHDD市場は出荷台数と出荷金額が減少傾向、1台当たりの記憶容量と平均単価は上昇傾向にある。2019年も近年と同様の傾向となった。

2020年のHDD市場は、出荷台数が前年比18.2%減の2億6,000万台、出荷金額が同8.4%減の202億8,300万ドル、平均単価が同11.9%増の78.0ドル、総出荷記憶容量が同12.9%増の1,019.1EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量が同38.0%増の3,919.5GBである。出荷台数は2桁減が続いたものの、ドライブ当たりの記憶容量と平均単価が上昇したことによって出荷金額の縮小ペースが鈍化した。

 2021年のHDD市場は、出荷台数が前年比1.0%減の2億5,737万台、出荷金額が同10.7%増の224億6,100万ドル、平均単価が同11.9%増の87.3ドル、総出荷記憶容量が同28.8%増の1,312.4EB、ドライブ1台当たりの平均記憶容量が同30.1%増の5099.4GBと予測する。

 今年は出荷台数の減少傾向がさらに鈍ってほぼ横ばいになるともに、ドライブの記憶容量と平均単価が上昇した。この結果、出荷金額が2018年以降では初めて上昇に転じた。

HDDの出荷台数と出荷金額、平均単価の推移と予測(1990年~2026年)。2020年までは実績、2021年以降は予測。出荷台数は2020年まで6年連続で減少が続いている。出典:テクノ・システム・リサーチ

2021年前半はニアラインの四半期出荷台数が過去最多を記録

 講演では、2018年~2021年のHDD出荷台数を四半期ごとに示していた。全体としては減少傾向にあるものの、製品分野による違いが生じている。なお製品分野は、「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」、「ニアライン(NL)」、「3.5インチATA」、「2.5インチモバイル」の4品種で構成される。

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染が世界的に拡大した昨年(2020年)の前半は、PC生産工場とストレージ(HDDおよびSSD)工場の稼働率が著しく低下した。このため2020年上半期(第1四半期と第2四半期)は「3.5インチATA」と「2.5インチモバイル」の出荷台数が落ち込んだ。逆に2020年の下半期は工場の稼働率が前年(2019年)並みに回復したことによる反動で、出荷台数は前期比で大きく増加した。例えば「3.5インチATA」の出荷台数は2020年第2四半期に1,776万台で底を打ち、同年第4四半期には2,668万台と回復した。

 今年(2021年)は「エンタープライズ」と「ニアライン」の伸びが目立つ。「エンタープライズ」の出荷台数は、一昨年の第1四半期から昨年の第1四半期までは約400万台~450万台で推移した。それが昨年の第2四半期~第4四半期は、およそ270万台~290万台と低迷した。これが今年の第1四半期と第2四半期は、それぞれ315万台、350万台とゆるやかに回復してきた。

 「ニアライン(NL)」の出荷台数は、一昨年に前期比でゆるやかに増加し、昨年の第1四半期に1,720万台でピークを迎えていた。しかし第2四半期~第4四半期は1,534万台~1,319万台と落ち込んだ。これが今年の第1四半期は1,601万台に回復し、第2四半期はさらに伸びて1,929万台に達した。講演で楠本氏は、第2四半期にニアラインは過去最多の出荷台数を記録したと指摘していた。

 まとめると2021年に製品分野別の出荷台数は、前年比で「ニアライン」が増加、「3.5インチATA」が微増、「エンタープライズ」が微減、「2.5インチモバイル」が減少となる。過去6年では、前年比が増加したのは「ニアライン」だけだった。今年はかなり健闘していると言えよう。

HDDの四半期別出荷台数の推移(2018年第1四半期~2021年第4四半期)。2021年第2四半期までは実績、同年第3四半期と第4四半期は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ

出荷金額の半分強をニアラインが占める

 2021年の製品分野別の予測値をもう少し詳しく説明しよう。「エンタープライズ」HDDの出荷台数は前年比3.1%減の1,250万台となる。出荷金額は同3.3%減の13億8,400万ドルである。平均単価(ASP)はわずかに低下し、同0.19%減の110.72ドルとなる見込みだ。総出荷記憶容量は前年比1.2%増の16.25EBである。ドライブ1台当たりの平均記憶容量は前年比4.3%増の1300GBと推定した。GB当たりのコストは前年と比べて0.004ドル低下し、0.085ドルとなる。

「ニアライン」HDDの出荷台数は前年比19.2%増の7,050万台と予測する。出荷金額は同の128億6,000万ドルである。平均単価は同6.3%増の182.41ドルに上昇する。総出荷記憶容量は前年比44.6%の916.50EBと大きく増加する。ドライブ1台当たりの平均記憶容量は前年比21.3%増の13,000GBである。GB当たりのコストは前年の0.016ドルから、今年は0.014ドルに低下する。

 「3.5インチATA」HDDの出荷台数は前年比0.6%増の8,752万台となる。出荷金額は同2.2%増の46億9,600万ドルである。平均単価(ASP)は前年の52.83ドルから、今年は53.66ドルに上昇する。総出荷記憶容量は前年比8.2%増の245.06EBとなる。ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同7.6%増の2,800GBと予測するGB当たりのコストは前年の0.020ドルから、今年は0.019ドルとわずかに下がる。

 「2.5インチモバイル」HDDの出荷台数は前年比14.0%減の8,685万台と予測する。出荷金額は同14.3%減の35億2,100万ドルである。台数と金額ともに減少傾向が続く。平均単価(ASP)は40.54ドルで、前年の40.69ドルからわずかに下がる。総出荷記憶容量は前年比5.6%減の134.62EBである。ドライブ1台当たりの平均記憶容量は同9.7%増の1,550GBとなる。GB当たりのコストは0.026ドルで、前年の0.029ドルからわずかに低下する。

 PC向けを主体としてきた「3.5インチATA」HDDと「2.5インチモバイル」HDDで傾向が異なるのは、「3.5インチATA」HDDが新しい応用を開拓しつつあるからだ。1つは監視カメラの動画保存、もう1つは暗号通貨「Chia(チア)」のマイニングである。特に暗号通貨Chiaのマイニングは大容量のストレージを必要としており、今後の市場拡大が期待できそうだ。

HDD市場の推移(製品分野別、2015年~2026年)。2020年までは実績、2021年以降は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ

PCの出荷台数は3年連続で成長

 講演では、デスクトップPCとノートPCの出荷台数についても分析していた。昨年のPC出荷台数は全体で2億9,429万台となり、前年に比べて12.5%増えた。内訳はデスクトップPCが前年比11%減の8,649万台、ノートPCが同26%増の2億780万台である。テレワークやオンライン会議、オンライン学習の広がりによってノートPCの出荷が大きく伸びた。

今年のPC出荷台数は前年比16.9%増の3億4,410万台と予測する。内訳はデスクトップPCが同11%減の7,700万台、ノートPCが同29%増の2億6,710万台である。一昨年のPC出荷台数が前年比4.0%増だったので、3年連続で前年を上回ることになる。

PCの四半期別出荷台数の推移(2018年第1四半期~2021年第4四半期)。2021年第2四半期までは実績、同年第3四半期以降は予測。下側の図表は2021年第2四半期のPCベンダー別出荷台数実績。出典:テクノ・システム・リサーチ

HDD市場をPCが牽引した時代の終わり

 PCの出荷台数が3年連続で増加しようという状況で、PC向けHDDの出荷台数はどのように変化しているのだろうか。昨年はデスクトップPC向けHDDの出荷台数が前年比36%減の2,550万台、ノートPC向けHDDの出荷台数が同21%減の3,960万台だった。いずれもPC本体に比べると大幅に少なく、かつ大幅に減少している。不足分はすべてSSDやeMMCなどのフラッシュストレージが埋めた。デスクトップPCのHDD搭載率は32.7%、ノートPCのHDD搭載率は19.0%に過ぎない。

 今年はさらに酷い。デスクトップPC向けHDDの出荷台数は前年比33%減の1,720万台、ノートPC向けHDDの出荷台数は同12%減の3,500万台と予測する。デスクトップPCのHDD搭載率は24.7%、ノートPCのHDD搭載率は13.1%に減少する見込みだ。フラッシュストレージによる置き換えがさらに進む。

 PCがHDD市場を牽引した時代は、ほぼ終わりつつある。大手HDDメーカーはすでに、「2.5インチモバイル」HDDの新製品開発からは撤退したようだ。「3.5インチATA」HDDはPC以外の用途を模索する。HDD開発の主力は「ニアライン」に移行した。出荷台数の主力もニアラインHDDになる近未来が見えている。