福田昭のセミコン業界最前線
NANDの高値がブレーキも、SSDの出荷台数は22%成長を達成
~日本HDD協会2018年2月セミナーレポート(SSD/NAND編)
2018年3月13日 13:54
HDD関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は2月28日に「2018年の業界動向、4K/8K放送に向けたストレージの役割は?」と題するセミナーを開催した。同協会は毎年初頭に、ストレージ業界を展望するセミナーを開催してきた。例年は有料のセミナーであったが、今年は同協会設立25周年を記念して無料とし、一方で会員限定のセミナーとなった。
毎年恒例のセミナーで非常に高く評価されているのが、市場調査会社テクノ・システム・リサーチのシニアディレクターを務める馬籠敏夫氏によるストレージ市場分析である。今年は、「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook」と題してHDD市場とSSD(Solid State Drive)市場について講演した。講演ではHDD市場とSSD市場、ストレージの応用市場などを分析した結果をわかりやすく解説していた。
本編では、SSD市場とNANDフラッシュメモリ市場に関する講演内容をご紹介する。HDD市場に関しては、本コラムの記事「2017年のHDD出荷台数は4億台で3年連続のマイナス成長」ですでにご報告した。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
昨年のSSD出荷台数は21.6%成長の1億2,182万台
昨年(2017年)2月に本コラムの記事「SSD世界出荷台数は過去6年で約12倍に急成長」で、昨年の同じセミナーにおける馬籠氏の講演をご紹介した。このとき、「SSDの世界出荷台数は2009年以降、急激に増加してきた」と述べた。「急激に増加」の勢いはまだ続いている。昨年の出荷台数は前年比21.6%増の1億2,182万台である。1昨年(2016年)の同25.3%増に比べると伸び率は低いものの、20%を超える高い成長を維持した。2010年以降、8年連続の2桁成長である。
出荷台数を用途別に見てみよう。「エンタープライズ」、「PC」、「アドオン(増設)」、「産業その他」に分類している。最も多いのは「PC」用で、全体の54%を占める。出荷台数は前年比17.9%増の6,925万台である。次いで「アドオン」用が多く、26%を占める。出荷台数は前年比21.7%増の3,195万台である。そのほかは「エンタープライズ」用が同43.7%増の1,597万台、「産業その他」用が同14.0%増の465万台となっている。
出荷台数のベンダー別シェアは、トップがSamsung Electronicsで38.2%を占める。2位は17.7%のWestern Digitalである。そして3位にIntelが8.7%、4位に東芝が8.0%で続く。5位はMicron Technologyでシェアは6.0%。ここまではすべて、NANDフラッシュメモリのメーカーでもある。6位は5.6%のKingston Technologyで、ここからメモリ応用製品のベンダーが入ってくる。
今年のSSD出荷台数は30%成長の1億5,820万台と予測
今年(2018年)のSSD出荷台数(世界市場)は、前年比29.9%増の1億5,820万台と予測した。昨年の伸び率をさらに上回る、高い成長率を見込んでいる。
出荷台数の予測値を用途別に見ると、「PC」用が前年比38.6%増の9,600万台で、昨年と変わらず、最も多い。しかも、40%近くという、高い成長率を予測する。SSD全体に占める比率は61%となり、昨年に比べて7ポイントも増加する。「アドオン」用は前年比12.7%増の3,600万台と予測する。「エンタープライズ」用は同32.7%増とこれも成長率はかなり高い。出荷台数の予測値は2,120万台である。「産業その他」用は前年比7.5%増の500万台と、SSDの中ではあまり伸びない。
HDDの市場規模に迫るSSDの市場規模
ここからはしばらく、HDD市場とSSD市場の現状を比較しよう。数値はいずれも、昨年のものである。
SSDの出荷台数とHDDの出荷台数の比率(SSD/HDD)は、30%(1億2,182万台/4億308万台✕100)だった。2010年にはわずか1%に過ぎなかったので、7年間で30倍に伸びたことになる。
出荷金額の比率はさらに近い。61%(149億1,100万ドル/245億1,600万ドル✕100)に達した。HDD市場の半分を超えている。台数と金額の違いは、平均単価の違いによる。HDDの平均単価は60.8ドルであるのに対してSSDの平均単価は122.4ドルである。SSDの平均単価はHDDの約2倍と高い。
総出荷記憶容量は、HDDが720.72EB(エクサバイト)であるのに対し、SSDは47.23EBとかなり小さい。比率は6.5%とわずかだ。高度な情報通信社会を支えるストレージの主役は、依然としてHDDが担っている。
エンタープライズ用がSSDの大容量化を牽引
技術的にはSSDの記憶容量はHDDに負けないのだが、大容量のSSDは経済的に見合わない。記憶容量当たりの単価(ギガバイト単価)はHDDが0.034ドルと低く、SSDが0.316ドルと高い。9.3倍の開きがある。このため、ドライブ当たりの平均記憶容量はHDDが1,788GBであるのに対し、SSDは388GBにとどまっている。両者には4.6倍の差がある。
記憶容量当たりの単価の高さは、用途によってSSDの記憶容量が大きく異なるという現実をもたらした。先ほど説明した「エンタープライズ」、「PC」、「アドオン(増設)」、「産業その他」の分類でボリュームゾーンの記憶容量(ドライブ当たり)を見ていこう。
「エンタープライズ」用では馬籠氏の発表はさらに細かく、インタフェースの違いにまで踏み込んでいた。SASインタフェース品のボリュームゾーンは最大が3.2TB、最小が200GBである。そして400GB品と800GB品が主力となっている。SATAインタフェース品のボリュームゾーンは最大が4TB、最小が400GBである。そして400GB品と800GB品、それから1.6TB品が中心となっている。PCIe/NVMeインタフェース品のボリュームゾーンは最大が3.2TB、最小が800GBである。主力となっている製品は800GB品、1.2TB品、1.6TB品、3.2TB品で、SASおよびSATAに比べると大容量側にシフトしている。
「PC」用のボリュームゾーンと主力品種はいずれも256GB品である。「アドオン」用のボリュームゾーンは最大が512GB、最小が250GBであり、主力品種は250GB/256GB品と500GB/512GB品となっている。PCに初めから内蔵しているドライブよりも、増設用ドライブの記憶容量が大きい。
「産業その他」用のボリュームゾーンは32GB~64GB、主力品種は32GB品となっており、他の用途に比べると、記憶容量がかなり小さい。
上記のような違いがあるため、総出荷記憶容量で見ると、出荷台数とはいささか違った様相となる。昨年(2017年)の実績で比較すると、出荷台数はPC用が6,925万台、エンタープライズ用が1,597万台で、両者の間には4.3倍の開きがある。ところが総出荷記憶容量だと、PC用が17.48EB、エンタープライズ用が17.28EBとなり、あまり変わらない。
もう少し細かく述べると、出荷台数ではSAS品が153万6,000台、SATA品が1,312万8,000台、PCIe/NVMe品が130万6,000台である。これに対して総出荷記憶容量ではSAS品が1.45EB、SATA品が12.50EB、PCIe/NVMe品が3.33EBとなっている。
そしてドライブ当たりの記憶容量ではSAS品が944GB、SATA品が952GB、PCIe/NVMe品が2,550GBである。PC用SSDのドライブ当たりの記憶容量が252GBなので、エンタープライズ用SSDの記憶容量がいかに大きいかが良く分かる。
揺れ動くNANDフラッシュの需給バランス
SSDの記憶素子であるNANDフラッシュメモリの出荷動向にも、講演ではふれていた。本コラムの昨年(2017年)9月19日付け記事「予想を遙かに超え、未曾有の成長率を記録する2017年の半導体市場」で指摘したように、NANDフラッシュメモリの需給バランスは2016年前半の供給過剰から、2016年後半の供給不足へと大きく変化した。その結果、2017年にはNANDフラッシュメモリの平均価格が史上初めて上昇するという異常事態に陥った。
馬籠氏が発表した資料によると、NANDフラッシュメモリの需給バランス(四半期ごと、数量ベース)は2016年第2四半期は供給が需要を7.0%ほど上回っていたのに対し、同年第3四半期には一転して供給が8.3%不足する。同年第4四半期には需給バランスはユーザーにとって最悪となり、17.8%もの供給不足となった。供給不足は2017年いっぱい続いた。
ユーザーにとって幸いなことに、2018年第1四半期には需給は緩和する。3.5%とわずかながら、供給が需要を上回る。3D NANDフラッシュメモリの生産歩留まりが向上したことによる、供給数量の増加が寄与する。しかし2018年第3四半期には再び、供給不足になると予測する。スマートフォンの最新機種が内蔵ストレージの容量を拡大したことが、NANDフラッシュメモリの需要を押し上げる。ただし2018年第3四半期の供給不足は、2016年後半~2017年ほど強くはない。同四半期で7.4%の不足、続く第4四半期で5.4%の不足と予測する。
なお昨年(2017年)はNANDフラッシュメモリの新世代技術である3D NANDフラッシュの量産が本格的に立ち上がった年だった。四半期ごとの出荷記憶容量でプレーナNANDフラッシュと3D NANDフラッシュを比較すると、2016年まではプレーナNANDが圧倒的に多かった。しかし2017年に入るとプレーナNANDの出荷記憶容量が減り始める。一方で3D NANDの出荷記憶容量は順調に増え続け、同年第3四半期にはプレーナNANDを逆転する。2018年には、3D NANDフラッシュが主役となる。