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2016年1月末開催の国際会議ISSCCで768Gbitの超大容量フラッシュが登場へ
(2015/11/17 16:29)
最先端半導体チップの研究開発成果が披露される世界最大の国際会議「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」(アイエスエスシーシーと呼称)が来年(2016年)の1月31日~2月4日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。
ISSCCで発表される研究開発成果の講演プログラムがこのほど決定した。この11月16日にISSCCの実行組織である極東地域委員会と国際技術プログラム委員会は東京で記者会見を開催し、2016年に開催されるISSCC(ISSCC 2016)の見どころを説明した。
ISSCCがカバーする範囲は半導体チップのほぼ全分野に渡る。このことは、ISSCCの国際技術プログラム委員会に属する、サブコミッティの名称(カッコ内は略号)からも伺える。すなわち「アナログ(ANA)」、「データコンバータ(DC)」、「RF(RF)」、「ワイヤレス通信(WLS)」、「ワイヤライン通信(WLN)」、「イメージャ/MEMS/医療/ディスプレイ(IMMD)」、「デジタル回路(DCT)」、「デジタルアーキテクチャ(DAS)」、「メモリ(MEM)」、「テクノロジディレクション(TD)」の10個のサブコミッティが、分野別に講演論文を選択し、プログラムを策定する。記者会見では各サブコミッティを代表する委員が、担当分野別に注目すべき講演を解説した。
急速に進む3D NANDフラッシュの大容量化
分野別で今回、最も注目されるのは「メモリ」だろう。3D NANDフラッシュメモリの大容量化が急激に進むからだ。過去のISSCCでは、3D NAND技術でもシリコンダイ当たりの記憶容量は最大で128Gbitにとどまっていた。それが今回は、最大で一気に6倍、すなわち768Gbitに増加する。
768Gbitと超大容量の3D NANDフラッシュメモリ技術を発表するのは、大手ベンダーMicron Technologyの日本法人である(講演番号7.7)。1個のメモリセルに3bitのデータを記憶するTLC技術で記憶容量を稼いだ。メモリセル構造は、浮遊ゲート構造である。Micronは唯一、浮遊ゲート構造で3D NANDを開発してきた。電荷捕獲構造のメモリセルを3D NANDで採用した競合他社からは、高い興味を持たれている要素技術である。試作したシリコンダイの面積は179.2平方mm。メモリセルアレイの制御回路をセルアレイの下層に配置することで、シリコンダイ面積の増大を抑えたとする。
256Gbitの大容量3D NANDフラッシュメモリを発表するのは、韓国Samsung Electronicsである(講演番号7.1)。TLC技術と48層のワード線積層技術によって記憶容量を稼いだ。書き込みスループットは53.2MB/sec、入出力データ転送速度は1Gbit/secに達する。
DRAMの高速化と大容量化
NANDフラッシュメモリ以外でも、メモリは見どころが多い。高速化と大容量化を両立させたDRAM技術を韓国のSamsung Electronicsがいくつか発表する。
まず、8Gbitと大容量でピン当たりの入出力速度が9Gbit/secと高速のGDDR5 DRAMの開発成果がある(講演番号18.1)。20nm技術で製造した。経年劣化要因であるNBTI(Negative Bias Temperature Instability)をモニターする回路を集積しており、NBTIの補正をかけることで動作マージンを確保している。
さらに、307GB/secと高いデータ転送速度を実現したHBM(High Bandwidth Memory) DRAMモジュールを発表する(講演番号18.2)。電源電圧は1.2V、製造技術は20nmである。HBM2規格に準拠したDRAMスタックを最大で8層まで積層可能。シリコンダイ各部の温度センサーによってリフレッシュ動作をメモリセルアレイのサブアレイごとに最適に制御した。
Samsung Electronicsはさらに、128Mbitと大容量のSRAM技術も報告する(講演番号17.1)。10nmときわめて微細なFinFET技術で製造した。メモリセル面積は0.04平方μmと小さい。
最先端PCプロセッサ「Skylake」の回路技術
プロセッサ関連でも、興味深い講演が少なくない。
PC向けのプロセッサでは、最新世代のCPU「Skylake(スカイレイク)」の回路技術をIntelが披露する(講演番号4.1)。14nm FinFETプロセスで製造した。プロセッサの消費電力は既存世代の「Haswell(ハズウェル)」と同じ性能のときに、約半分と低い。
モバイル向けのプロセッサでは、台湾MediaTekが3つのCPUコアクラスタで構成されるアプリケーションプロセッサを発表する(講演番号4.3)。製造技術は20nmである。ARMv8AアーキテクチャのCPUコアを10個内蔵する。3つのクラスタの動作周波数は、クラスタAが2.5GHz、クラスタBが2.0GHz、クラスタCが1.4GHzである。
ビデオ向けのプロセッサでは、ルネサス エレクトロニクスが12チャンネルのフルHDビデオを処理するLSIの開発成果を報告する(講演番号4.4)。車載用娯楽情報端末向け。動作時の消費電力は197mWと低い。H.264のデコード処理と歪み補正処理を実行したときの遅延時間は70msにとどまる。また早稲田大学が、8K Ultra HDに対応した8/10bit H.265/HEVCビデオデコーダLSIを発表する(講演番号14.7)。7,680×4,320ドットの高精細画像を120fpsでデコード処理したときの消費電力は690mW。
4K/8K画像を240フレーム/secで高速撮影
ビデオ向けではイメージセンサーでも進展がある。4K/8K TVフォーマットに準拠した動画撮影を可能とするCMOSイメージセンサーをNHK放送技術研究所とBrookman Tech、TSMC、静岡大学の共同研究グループが発表する(講演番号6.9)。撮影速度は240fpsと高い。センサーの画素数は3,300万画素である。
「なりすまし」を防ぐ超音波指紋センサー
イメージセンサーではこのほか、3次元の超音波測定による指紋センサーが興味深い。米国University of California, BerkeleyとInvenSense、University of California, Davisの共同研究グループが開発した(講演番号11.2)。表皮の指紋パターンだけでなく、真皮の指紋パターンも測定できる。このため生体認証で、表皮の指紋だけを模倣した「なりすまし」を偽物として検出可能になる。センサーは110×56個の圧電素子アレイをCMOSチップに積層したもの。431×582dpiの超音波画像を撮像する。
全ての無線給電規格に対応した充電IC
ワイヤレスで充電が可能になる無線給電技術は、今のところ、3つの規格が併存している。そこで無線給電の3つの規格全てに対応するバッテリ充電ICを韓国のMAPSが発表する(講演番号21.8)。無線給電の標準規格にはQi、PMA、A4WPがある。その全てに対応した受電用ICを開発した。2.5Wの電力を送受信したときの効率は、Qiが63%、PMAが62%、A4WPが54%である。
ハンドヘルド型の小型核磁気共鳴分析器
このほか、ハンドヘルド型の核磁気共鳴分析器を中国のUniversity of Macau、英国のUniversity of Glasgow、イタリアのUniversity of Pavia、ポルトガルのInstituto Superior Tecnicoの共同研究チームが提案する(講演番号28.1)。縦型ホールセンサーと温度制御コイルによって磁気温度安定性を確保した、CMOSプラットフォームである。生体分析や化学分析(食品分析)などへの応用が期待できる。
採択件数は米国が断トツ、日本は2位
ここからは話題をISSCC全体に戻そう。今回のISSCCに対する投稿件数は595件、採択件数は200件である。採択率は33.6%で、前年の33.8%とほぼ変わらない。
国・地域別の採択件数のトップは例年通り米国で、83件。2位は日本で24件、3位は韓国で22件、4位はベルギーで12件、5位は台湾で11件と続く。
企業や大学、研究機関などの組織別でみると、imecの採択件数が最も多く、10件の発表を予定する。以下はSamsungが2位で9件、IntelとUniversity of Michiganがともに3位で8件と続く。日本では東芝の発表件数が最も多く、5件を数える。
なおプログラムは、ISSCCのホームページに11月末までにはアップロードされる予定。さらに詳しい情報を待ちたい。