福田昭のセミコン業界最前線

3D NANDが128TBの超大容量SSDを実現へ

Flash Memory Summitの会場となったサンタクララコンベンションセンター。8月8日早朝(現地時間)に筆者が撮影

 メモリセルアレイを立体積層化(3次元化)することで記憶密度を高める3D NANDフラッシュ技術が、記憶容量拡大の階段を急激に駆け上りつつある。

 NANDフラッシュメモリとSSD (Solid State Drive)に関する世界最大のイベント(講演会兼展示会)で、2016年8月8日~10日、米国カリフォルニア州サンタクララで開催されている「Flash Memory Summit (FMS)」では、Samsung Electronics、東芝、Western Digital、Micron Techologyの大手ベンダー各社が、キーノート講演で大容量3D NANDフラッシュ技術の最新開発成果をアピールした。

Samsungは第5世代技術「V5」で1Tbitの大容量シリコンを発表

 3D NANDフラッシュメモリのトップベンダーは、Samsung Electronicsである。Samsungは昨年(2016年)のFMSまで最近はほぼ毎年キーノート講演に登壇し、新しい世代の3D NANDフラッシュ技術とその技術による大容量化、さらには新しい世代の3D NANDフラッシュメモリを搭載した超大容量SSDを披露することで、聴衆の喝采を浴びてきた。

 たとえば一昨年(2015年)のFMSでは前年の2倍の記憶容量を実現した第3世代の3D NAND技術「V3」と、256Gbitのシリコンダイ、15.36TBの2.5インチSSDを披露した。そして昨年(2016年)のFMSでは、さらに2倍の記憶容量を実現した第4世代の3D NAND技術「V4」と、512Gbitのシリコンダイと、32TBの2.5インチSSDを発表した。

一昨年(2015年)8月のFMSキーノート講演でSamsung Electronicsが披露した、第3世代の3D NAND技術「V3」による256Gbitの大容量シリコンダイと、15.36TBの大容量2.5インチSSD
昨年(2016年)8月のFMS展示会でSamsung Electronicsが参考出品した、32TBの大容量2.5インチSSD

 ところが今年(2017年)のFMSにおけるキーノート講演は、前年の2倍というハイペースは維持したものの、やや勢いが鈍ったようなプレゼンだった。第5世代の3D NAND技術「V5」を発表したのだが、開発成果物が具体性に欠けていた。

 講演では、前世代の「V4」と比べて記憶容量をさらに2倍に増やした1Tbitのシリコンダイと、記憶容量を4倍に増やした128TBと超々大容量の2.5インチSSDを「V5」技術で実現できるとした。ただし実物の披露(以前にはSSDの実物を講演者がポケットから取り出して見せることがあった)や実物写真の提示などはなく、ややものたりない印象を受けた。

 とはいえ、倍々ゲームのように新しい開発成果が毎年披露されていくというのもかなり異常なことなので、ペースが落ち着いたともいえる。

第5世代の3D NAND技術「V5」による1Tbitのシリコンダイと、2.5インチの128TB SSDのイメージ。SSDでは、32枚のシリコンダイを積層した4TBのパッケージをプリント基板に搭載する。32個のパッケージをプリント基板に実装することで、128TBを実現できるとする ※今年のFMSキーノート講演でSamsung Electronicsが示したスライドから
Samsung Electronicsの3D NAND技術世代。Samsungは自社の3D NAND技術を「V-NAND技術」と呼んでいる ※同社の公表資料を元に筆者がまとめたもの

東芝は6月に96層の超高層技術とQLCによる高密度化技術を公表

 東芝はFMSの展示会を意識し、開催の約1カ月前に重要な2つの開発成果を報道機関向けに公表した。2017年6月28日のことである。

 1つは、ワード線の積層数を96層と超高層化した3D NAND技術で、同社にとっては第4世代(名称は「BiCS4」)に相当する。この「BiCS4」技術によって256Gbitのシリコンダイを試作した。

 256Gbitという記憶容量は、64層の既存技術「BiCS3」で試作した最大容量512Gbitの半分で、かなり小さい。シリコンダイ面積の削減、すなわち製造コストの低減を狙ったものとみられる。

 ただし8月のFMSキーノート講演では、96層での「BiCS4」技術によるシリコンダイの記憶容量を512Gbitと公表していた。

96層と超高層化した3D NAND技術「BiCS4」で512Gbitのシリコンダイを試作 ※今年のFMSキーノート講演で東芝が示したスライドから
東芝-Western Digital連合の3D NAND技術世代。同連合は3D NAND技術を「BiCS(ビックス)」と呼んでいる ※東芝およびWestern Digitalの公表資料を元に筆者がまとめたもの

 もう1つは、1個のメモリセルに4bitのデータを記憶する、「QLC (quadruple level cell)」技術を採用した3D NANDフラッシュメモリである。

 東芝は一昨年(2015年)のFMSキーノート講演で、3D NAND技術ではプレーナ型に比べてメモリセルの蓄積電荷量が大きいので、QLC方式の適用が容易になると指摘していた。従来のプレーナ型(2D) NANDフラッシュ技術では微細化によって蓄積電荷量が少なくなっており、16段階に電荷量を制御するQLC方式の適用は困難だとされていた。

東芝が2015年のFMSキーノート講演で示したスライド。左がプレーナ型(2D)NANDフラッシュメモリセルの電荷量(相対値)。右が3D NANDフラッシュメモリセルの電荷量(相対値)。3D NANDフラッシュはQLCセルでも、プレーナ型MLCセル(15nm技術)の1.5倍の電荷量を蓄積可能だとする

 そして「BiCS3」の64層3D NAND技術とQLCメモリセル技術を組み合わせることで、768Gbitと記憶容量が大きなシリコンダイを試作した。6月上旬から、サンプルをSSDコントローラメーカーやSSDベンダーなどに提供している。

QLC方式のメモリセル技術を導入した3D NAND技術によって、768Gbitのシリコンダイと、16枚のシリコンダイを積層した1.5TBのパッケージ(チップ)を実現 ※今年のFMSキーノート講演で東芝が示したスライドから

Western Digitalも96層の3D NAND技術とQLC方式のダイをFMSで発表

 Western Digitalは東芝と、NANDフラッシュメモリの開発と製造でパートナーシップを結んでいる。またHDDの最大手ベンダーでもある。

 FMSでWestern Digitalは、東芝とはべつにキーノート講演を実施し、NANDフラッシュメモリの開発成果を示していた。といってもその内容は基本的に、東芝と同じである。

 すなわち、96層の高密度3D NANDフラッシュ技術と、1個のメモリセルに4bitのデータを記憶する高密度メモリセル技術(Western Digitalは「X4」と呼称)である。

 96層の高密度3D NANDフラッシュ技術では、512Gbitのシリコンダイを製造したことと、同じ512Gbitの記憶容量で既存世代の64層技術に比べて、96層技術ではシリコンダイ面積を35%ほど削減できたことを述べていた。

3D NANDフラッシュ技術に関する2つの開発成果。96層の「BiCS4」技術と、4bit/セルの「X4」技術である ※2017年FMSキーノート講演でWestern Digitalが示したスライドから
96層の3D NAND技術「BiCS4」。ワード線の積層数を既存世代の3D NAND技術「BiCS3」に比べて1.5倍に増やした。この技術「BiCS4」で、シリコンダイ当たり1Tbitの超大容量を狙えるとする ※2017年FMSキーノート講演でWestern Digitalが示したスライドから
4bit/セルの高密度メモリセル技術「X4」。64層の3D NANDフラッシュに導入することで、768Gbitと巨大な記憶容量を備えるシリコンダイを実現した。左の図はメモリセルアレイの構造図。中央はメモリセルの構造図。右はメモリセルのしきい電圧を16段階に制御した結果 ※2017年FMSキーノート講演でWestern Digitalが示したスライドから

Micronは64層のTLC NANDで高い記憶密度のシリコンをアピール

 Micron Technologyは、IntelとNANDフラッシュメモリの開発と製造でパートナーシップを結んでいる。今回のFMSではMicronだけが、NANDフラッシュメモリの開発状況をキーノート講演で紹介した。

 Intel-Micron連合の3D NANDフラッシュ技術はワード線積層数の違いで、32層の第1世代と64層の第2世代に分かれる。32層の第1世代はすでに製品化が完了しており、256Gbitのシリコンと384Gbitのシリコンが生産されている。

 64層の第2世代は当初、国際学会で768Gbitと大容量のシリコンを試作してみせた。しかしその後は、シリコンダイ面積の小さな512Gbit品や256Gbit品を製品化する方法に動いている。例えば256Gbit品のシリコンダイ面積は59平方mmで、DRAMシリコンダイとほぼ同じくらいの大きさしかない。

 Intel-Micron連合の第2世代3D NANDフラッシュ技術は、記憶密度が約4.3Gbit/平方mmと、64層の3D NANDフラッシュとしては競合他社に比べて高い。

 この大きな理由は、「CMOS Under Array (CUA)」と呼ぶ、CMOS周辺回路をメモリセルアレイの直下に配置するレイアウトを採用したことにある。この技術は第1世代から採用されている。

 現在、Intel-Micron連合は第3世代と呼ぶ3D NANDフラッシュ技術を開発中である。第3世代ではシリコンウエハ当たりに換算した記憶容量が、第2世代の1.4倍以上に増えるとする。詳細についてはまだ公表していない。

Intel-Micron Technology連合の3D NAND技術世代。各社の公表資料を元に筆者がまとめたもの
Micron Technologyにおける3D NANDフラッシュ開発の状況。第2世代の64層品の量産を本格的に開始する。また2017年末までに、第3世代の生産を始めるとする。4bit/セル(QLC)品については、市場の要求に応じて考慮する。同社が2017年2月のアナリスト向け説明会で発表した講演スライドから
第2世代の64層3D NANDフラッシュ技術で製造した256Gbitのシリコンダイと、メモリセルアレイの断面構造観察写真。同社が2017年2月のアナリスト向け説明会で発表した講演スライドから
NANDフラッシュメモリの進化によってHDDを置き換えていくことをMicronは今回のFMSキーノート講演でアピールしていた。プレーナ型NANDフラッシュで15K HDDを生産休止に追い込み、TLCの3D NANDフラッシュで10K HDDを置き換えてきた、と説明。今後は、QLCの3D NANDフラッシュで7.2KのニアラインHDDの置き換えに挑むとする
第2世代の64層3D NANDフラッシュ技術で、512Gbitの高密度なシリコンダイを開発した。今回のFMSキーノート講演でMicronが発表したスライドから

1回のエッチングで垂直な孔を開けられる層数がカギ

 今回のFMSでは、3D NANDフラッシュメモリに関する大きな動きが2つあった。

 1つは、ワード線の積層数がこれまでの64層から、1.5倍の96層に一気に増えたことだ。しかも3D NANDフラッシュメモリ用エッチング装置の最大手であるLam ResearchがFMSの講演で述べた内容を見る限り、96層分のチャンネルホール(孔)をたった1回のエッチングによって形成している。これは凄いことだ。

Lam ResearchがFMSの講演で示したスライド。90層を超えるワード線を積層した多層膜にエッチングで垂直な孔を開けている

 従来、チャンネルホールを形成できる層数には限界があるとされていた。例えば64層が限界だとすると、64層のチャンネルホールを形成したスタックを2つ積むことで、128層のワード線積層を実現することが考えられていた。

 ただし、2つのスタックを積む手法には、位置合わせや下のスタックへの熱的影響など、いくつもの課題がある。したがって可能であれば、1回のエッチングでなるべく多くの層数に垂直な孔を開けたい。1回のエッチングで96層が可能であることが、製造装置メーカーから示された意義は大きい。

QLC方式で多値化技術の極限を目指す

 もう1つの大きな動きは、QLC(4bit/セル)方式の採用である。一昨年(2015年)のFMSで東芝がQLC方式の可能性に言及したときには、追随する動きは見えなかった。

 ところが今年のFMSでは、東芝-Wesntern Digital連合のほかに、Samsung ElectronicsとIntel-Micron連合がそれぞれ、QLC技術の開発に本格的に取り組んでいることが明らかになった。Samsungは1Tbitのシリコンダイ、東芝-Wesntern Digital連合は768GbitのシリコンダイをQLC方式で製造した。

3D NANDフラッシュ大手のQLC技術(FMS2017の開催時点)。各社の公表資料を元に筆者がまとめたもの

 TLC方式では、しきい電圧を8通りに制御していた。これに対し、QLCではしきい電圧を16通りに制御しなければならない。単純計算では、隣接するしきい電圧の間隔は半分に減少する。

 言い換えると、書き込み(プログラム)のしきい電圧をこれまでの2倍の精度(2分の1のばらつき)で制御しなければならない。そして、書き込んだしきい電圧を2倍の精度で維持しなければならない。当然ながら、TLC方式よりも多くの不良ビットが発生することは避けられない。そこで誤り訂正(ECC)技術が一段と重要になってくる。

 QLC方式では、ECCの強化は当然のことであり、書き込み動作と読み出し動作におけるデジタル信号処理技術の強化も必須となる。東芝はFMSキーノート講演で、機械学習(マシンラーニング)を導入したデジタル信号処理技術を、QLC 3D NAND搭載SSDを実現する要素技術の1つに挙げていた。

QLC方式の3D NANDフラッシュを搭載したSSDを実現する要素技術。今回のFMSキーノート講演における東芝のスライドから

 1枚のシリコンダイで1Tbit(1,024Gbit)を超える記憶容量、すなわち128GB超を実現する要素技術は、96層の3D NANDフラッシュとQLC方式の多値化技術を組み合わせることだ。前者は3次元積層の極限、後者は多値化の極限である。難しさも極限だろう。

 しかし実現の可能性はすでに見えている。「ほぼすべてのストレージが3D NANDフラッシュメモリになる」。このような時代が目前に迫りつつあることを、実感した。