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Samsungが第3世代のV-NANDチップとして3-bit(TLC)版を発表

製品化を急ピッチで進めるSamsungのV-NAND

 Samsung Semiconductorは、新技術「V-NAND」の第3世代となる製品「3-bit/Cell(TLC) V-NAND」を発表した。同社は、NANDフラッシュメモリの革新的技術として3D NAND技術のV-NANDを大々的に打ち出している。V-NANDの開発と製品化を急ピッチで進めており、先月発売されたSSD「850Pro」シリーズに第2世代のV-NANDを搭載した。そして、現在、米サンタクララで開催されているフラッシュメモリのカンファレンス「Flash Memory Summit 2014」で、第3世代チップを発表した。昨年(2013年)のFlash Memory SummitでV-NANDを発表してからわずか1年で、3世代製品を進化させた。

Samsungは昨年のFlash Memory Summitで世界初の3D NANDを発表した
Samsungが発売した3D NAND版SSD
市場をリードするSamsungのSSD技術

 3D NANDでは、従来は平面に並べていたNANDフラッシュのメモリセルを立体に積層することで、大容量化とパフォーマンスや信頼性の向上を実現する。メモリダイを積層するのではなく、ダイの中でメモリセルを積層する。昨年の第1世代のV-NANDでは、Samsungは2-bit/CellのMLC(Multi-Level Cell)メモリセルを24層に積層した128G-bit(16GB)チップを実現した。そして、先月発売したSSDには、MLCセルを32層に積層してメモリセル密度を高めた第2世代の128G-bitチップを搭載した。1.5倍に積層セル数を増やすことで、メモリセル面積は70%に減ったという。

製品化されたSSDに搭載されたのは32層化された第2世代

メモリセルの3-bit化で大容量化へと加速

 今回のFlash Memory SummitでSamsungが発表したのは、積層レイヤーは32のままだが、1セル当たりのビットを2-bitから3-bitに増やすことで、さらにメモリ密度を高めた第3世代チップだ。「例えると、最初のV-NANDは24階建てのビルで各部屋に2人ずつ人がいる。2つ目のV-NANDは32階建てのビルで各部屋に2人。今回は32階建てで各部屋に3人ずついる。各部屋に2人のビルに換算すると48階建て相当になる」とSamsungのBob Brennan氏(Senior VP, Samsung Semiconductor)は、Flash Memory Summitのキーノートスピーチで説明した。3D NANDでは3-bit(TLC)化しても、2D NANDよりもエラーレートを抑えることができるので、より信頼性の高い3-bit(TLC)製品を作ることができたという。

Bob Brennan氏(Senior VP, Samsung Semiconductor)

 今回の発表で、Samsungは次のNANDフラッシュ容量である256G-bit(32GB)/ダイに足をかけた。現在のNANDは128G-bit/ダイ容量に留まっているが、3-bit(TLC)で256G-bitは視野に入った。また、Samsungが目標とする1T-bit(128GB)/ダイの3~4年内の実現も現実味を帯びてきた。ワンチップで128GBと、SSD並の容量を実現するモンスターチップだ。ただし、1T-bit/ダイを実現するためには、100層程度までNANDセルの積層数を増やさなければならないと見られている。

1T-bitまでを見通すSamsungのNANDロードマップ
Flash Memory Summitの会場となっているSanta Clara Convention Center

いいことずくめの3D NANDの最大の弱点

 NANDフラッシュは、現在、データ書き換え可能回数の低下による信頼性の低下と、容量当たりの価格の低下率の鈍化、大容量化のペースの鈍化の問題に直面している。これらの問題が発生しているのは、NANDの製造プロセス技術が微細化したことで、技術的な壁に直面したためだ。微細化に伴い、メモリセルに蓄えられる電荷が減り、メモリセル間の距離が近接したことで干渉が強くなり、また、微細加工のための露光プロセスのコストが上がる(ダブルパターニングなど)ため、容量当たりのコストは下がりにくくなり、大容量化のペースが落ちている。そのため、NANDフラッシュ業界はこぞって3D NAND技術へと舵を切ろうとしている。

SamsungがISSCC 2014で示したNANDの直面する問題

 V-NANDなど3D NAND技術では、従来のプレーナ2D NANDよりも、ダイ面積当たりのメモリ容量が大きく、書き込みスピードが非常に速く、消費電力が低く、エンデュランス(データ書き換え耐性)が劇的に向上する。実際に、初のV-NAND製品850 Proでは、毎日40GBのデータを書き込んでも10年以上持つため、10年保証を実現した。謳い文句だけを聞くと夢のフラッシュメモリだ。しかし、泣き所もある。それは製造コストだ。

SamsungがFlash Memory Summitで示したV-NANDの利点を示すスライド

 3D NANDは従来の2D NANDと比べて、製造工程の露光工程のコストは下がるが、数十層の立体セルを積層するためにエッチングと成膜の工程のコストが跳ね上がる。特に、初期の段階ではノウハウが蓄積されていないため、コストは高くイールド(歩留まり)は低いだろうと言われている。

製造装置ベンダのApplied MaterialsがFlash Memory Summitで示した3D NANDの製造上のチャレンジ

 そのため、SamsungがV-NANDベースの製品を発売しても、マスに浸透させるまでには時間がかかるだろうと見られている。もちろんSamsungは戦略的な価格設定をできるし、実際にそうしている。しかし、製造コスト面から見ればV-NANDは最初は苦しいはずで、本格的に3D NANDが広いアプリケーションに浸透するのは、まだしばらく先になると言われている。

 業界全体から見ると、現在の3D NAND技術はまだ製造コスト面から見ればプレミア品で、従来の2DプレーナNANDをフルに置き換えるだけのコスト競争力はないと思われている。しかし、中期的に見れば、ビットコストで3D NANDが有利になり、行き詰まった2D NANDを置き換えて行くことは確実と見られている。そこで、Samsungはコストプレミアがあっても先に量産して市場に出し、成熟させて、早く2D NANDに対してコスト競争力を持てるところまで持って行こうとしている。

 そのため、今回の3-bit(TLC) V-NANDの発表は、SamsungのV-NAND戦略にとって大きな意味を持つ。面積当たりの容量を増大させることで、製造コストがまだ高い3D NANDの低コスト化に一定のメドをつけたからだ。Samsungは、3-bit(TLC) V-NANDによって、ついに製造コスト的にV-NANDが、従来のプレーナ2D NANDを下回ると説明する。ただし、15nmプロセス以下の2D NANDと比較した場合だが。だが、256G-bit世代になると、2D NANDに対して3D NANDがコスト的に匹敵する可能性が出てきた。

ISSCC 2014で示された2D NANDとV-NANDの比較

1年で3-bit(TLC)化を実現

 昨年のFlash Memory Summitで、SamsungのES Jung氏(Ph.D EVP & GM, Semiconductor R&D Center, Samsung Electronics)は、V-NANDのTLC(Triple-Level Cell)版については「まだ、私自身が自分の上司に(可能かどうか)答えることができていない段階」と語っていた。しかし、それから1年で、Samsungは3-bit(TLC)のV-NANDを量産直前の段階として発表した。3-bit(TLC)が難しいのは、電荷のばらつきによるエラーが高まるからだ。しかし、原理的には3D NANDは2D NANDよりも3-bit(TLC)化はしやすい。電荷が増えることで、各ビット間のばらつきのオーバーラップが減り、エラーが減少するからだ。

SLCとMLCの比較
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2D NANDより3D NANDの方がエラーレートが1/10へと減少するとSamsungのBrennan氏は説明した

 同じセルでこれまで2-bitを表していたのを3-bitに増やせば、メモリ容量は増大する。3-bit(TLC)化で若干制御部分のダイオーバーヘッドが増えるが、容量では確実に有利となる。Samsungの3-bit(TLC) V-NANDは、32セルの積層で、同じ3-bit(TLC)で従来の2D NANDの1x nm版に対して約2倍のセル密度になるという。そのため、製造コスト的には、15nm以下の2D NANDに対して競争力を持つものになるという。

 ちなみに、1x nmはメモリ業界用語で、19~18nm程度のプロセスノードのことを示す。1y nmがその下の17nm程度、1z nmが16~15nm程度のはずだったが、現在の2D NANDではこの定義が曖昧になっている。例えば、メモリセルのうちx辺を縮小しながら、y辺のサイズはそのままに保つといった、中途半端なシュリンクを行ったりしているからだ。いずれにせよ、2D NANDは15nm前後のゴールに向けて進んでおり、3D NANDはそれに対してコスト競争力を持とうとしている。

微細化によって容量を増やす2D NANDと、積層によって容量を増やす3D NAND
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SanDiskのInvestor Day 2014で示された同社の2D NANDのシュリンク

 コストはともかく、V-NANDの性能と電力の面での優位は明確だ。同じ3-bit(TLC)で比較すると、1x nmの2D NANDに対して、V-NANDはtPROG(プログラム時間=書き込み時間)は50%少なくなる。つまり、書き込みが劇的に速くなる。また、動作時の電力は40%ほど減る。これは、セル間の干渉を減らすためにプログラムを2回に分けて行なうといったムダがなくなるためだ。

 Samsungでは、この3-bit(TLC)版V-NANDの量産を急いでおり、近いうちに同チップをベースにしたSSDが登場すると予告する。こちらが普及版のV-NANDの本命となりそうだ。

増大するNANDフラッシュの需要

 Flash Memory Summitのキーノートスピーチでは、SamsungのJim Elliott氏(Corporate VP - Marketing, Samsung Semiconductor)も登場。V-NANDを軸としたSamsungのSSD事業とNANDフラッシュの動向を説明した。Elliott氏は、NANDの需要の拡大は今後も急ピッチに進むと見ており、Samsungは特にSSDの市場が拡大すると予想していることを明らかにした。伸びが著しいと予測されるのは、コンシューマよりもデータセンタ/エンタープライズ側で、2018年には今年(2014年)の8.4倍に市場が膨れ上がると見ている。

Jim Elliott氏(Corporate VP - Marketing, Samsung Semiconductor)

 Samsungは、NANDの3D化によって、再び容量拡大のペースを急ピッチにすることで、今後増大して行くNANDのニーズに応えようとしている。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail