Ubuntu日和
【第63回】Stellariumできれいな星空をあなたのデスクトップに
2024年11月2日 06:11
2024年の10月は「 紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3) 」が、肉眼でも観測できるほどの大彗星になったことで、多くの人は夜空に目を向けたことだろう。同時に都合が悪かったり、運悪く天候が回復しなかったりして見られなかった人もいるかもしれない。今回はそんな夜空をUbuntu上でもシミュレーションできる「 Stellarium 」を紹介しよう。
Ubuntuでも動く星空シミュレータである「Stellarium」
「Stellarium」はいわゆる「プラネタリウム」をデスクトップ上に実現する星空シミュレータだ。
初期状態で60万以上、最大でも1億7千万以上にも及ぶ膨大な天体カタログと、内部的な軌道を含む各種計算を元に、地球上(やそれ以外)の任意の場所の任意の時刻の星空を再現できる。また、星座絵や星雲などの画像表示に加えて、大気による効果(つまりは青空や夕焼け)の再現、ドームへの投影を想定した描画、操作の自動化、望遠鏡の操作等にも対応している。
もともと2000年代前半にLinux向けのソフトウェアとして作られていたが、その品質や人気の高さから現在ではWindowsやmacOSにも対応し、モバイル版やWebブラウザー版、VR版も登場している。
さて、冒頭でも言及したように、10月に入る少し前から「 紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3) 」の地球への接近がメディアやSNSを湧かせていた。10月前半の明け方は、残念ながら日本では秋雨前線に伴う天気の悪い地域が多く、観測するにはそれなりの移動と運が必要だったが、10月半ばからの日没以降は晴れる場所も多く、彗星自体が十分に明るくなったこともあって、多くの人が夜空を見上げたことだろう。都心でも肉眼で観測できる彗星というのはなかなかない。
そんな彗星の大半は離心率が大きく、一般的な恒星に比べると日によって見える位置が大きく変わる。また、彗星自体は太陽に近づくほどほど明るく見えるし、尾が長くなる。つまり彗星を観測するのに適した時期は限られる。しかもそれは大抵の場合、日没後すぐの西側か、夜明け前の東側の低い空なのだ。さらに高度が低いため観測場所によって見える時間帯と位置も変わってくるため、そちらにも注意が必要になる。
彗星が明るければ肉眼でも見えるため、暗所に目を慣らしておおよそのあたりをつけて星空を眺めれば良い。しかしながら望遠鏡や双眼鏡で探したり、事前に観測計画をたてるならば、時間や観測場所に合わせたもう少し正確な位置が欲しいところ。そんな時に役立つのが、Stellariumのような星空シミュレータになる。
Stellariumを含む星空シミュレータには、軌道要素を入力することで任意の天体を表示する仕組みがある。今回の紫金山・アトラス彗星も同様にStellariumでその位置を表示できる。そこで今回はStellariumを使って星空を眺めたり、見逃した紫金山・アトラス彗星を追いかけるための彗星を登録する方法を紹介しよう。
Stellariumのインストール方法
Stellariumのインストール自体は簡単だ。アプリセンターで「Stellarium」を検索し、インストールするだけで完了になる。ただしStellariumのパッケージは「Snapパッケージ版」と「Debianパッケージ版」との両方が用意されている。
Snapパッケージ版は比較的最新版を利用できるが日本語入力には対応していない。Debianパッケージ版は古いバージョンになりがちだが、日本語入力が可能になる。ただStellariumの場合は、日本語入力は天体の検索時とか場所の登録時に「日本語も使える」程度でしかないし、日本語の表示そのものは問題ないので、好みで使い分ければ良いだろう。ちなみにSnapパッケージ版の日本語フォントは若干微妙だ。
Snapパッケージ版か、Debianパッケージ版かは、アプリセンターで検索する際の「フィルター」を「Snapパッケージ」か「Debianパッケージ」かに切り替えれば良い。
CLIを使うならSnapパッケージ版なら「sudo snap install stellarium-daily」、Debianパッケージなら「sudo apt install stellarium」となる。
起動は「Windowsキー」を押して「stellarium」で検索して、Enterキーを押せば良い。Snapパッケージ版の場合、起動エントリーのタイトルが日本語化されてしまっている都合上「ステラリウム」で検索しないといけない点に注意しよう。
Stellariumの基本的な使い方
Stellariumの初回起動時は、各種天体カタログのダウンロードを行なうため、しばらく時間がかかる。気長に待とう。起動が完了すると、全画面で表示される。
基本的なインターフェースは、画面端にマウスを寄せることで表示されるメニューとキーボードショートカットを使う。
まず画面左下の下辺にマウスカーソルを寄せてみよう。次のようなメニューバーが表示されるはずだ。
個々のメニューはアイコンにカーソルを合わせると簡単なタイトルが表示されるが、それだけで十分だろう。主に各種表示のオン/オフ、時刻を進めたり戻したり、アプリケーションの終了を行なったりする。
適当な位置をクリックしたままマウスを動かすと、視野を移動できる。これは位置を変えないまま上を見たり、横を見たりするのと同じだ。マウススクロールによって拡大/縮小を行なう。たとえばズームアウトすると、星図早見盤のような使い方もできる。
特定の星をクリックすれば、左上に星の詳細が表示される。等級や位置は星を探す時の参考になるだろう。ちなみに場所がわからない場合は「Ctrl-F」で星の名前で検索できる。
画面左下の左辺にカーソルを寄せると、各種ツールが表示される。
ポイントは一番上の「現在位置」だろう。Stellariumは起動時点でGeoIPなどからおおよその位置を推定して表示している。しかしながら正確な星の位置を知るためには、きちんと緯度経度と高度を入力したほうが良い。ある地点の緯度経度および高度を入力するには、「地理院地図」がおすすめだ。
ほかにも細かい挙動をコントロールできるので、設定類についてはいろいろと調べてみると良いだろう。ちなみに「地表」に表示される構造物は、任意の画像に差し替えられる。よく観測する場所のパノラマ画像を使えば、より臨場感は高くなる。
彗星の登録方法
さて、ようやく彗星の登録方法になる。これにはプラグインの「太陽系エディター」を使って、インターネットから該当する軌道要素を取得する形をとる。
IAU符号とは、太陽系天体につけられる符号で、たとえば彗星の場合「C/2023 A3」のように発見された時期合わせて付けられている。名前でも検索できますが英語名称でないといけないのと、同じような名前のものがたくさんあるので、符号が分かるならそちらを入力した方が確実だろう。
このように軌道要素が分かっているものは、簡単に検索/登録可能だ。今後、観測したい彗星/小惑星が出てきたらこの方法が使える。ちなみに太陽系天体の軌道要素は、その観測によって随時更新されることがある。その場合も、上記の方法で新規に登録し直すと良い。
もし新しすぎてオンライン検索では見つからないような天体、任意の軌道要素を持った天体を入力したい場合は、設定ファイルを記述する必要がある。このあたりは、「太陽系エディター」の「設定ファイル」で表示されるファイルパスの中身を参考に、iniファイルを作って取り込むことになるだろう。
このあとの、比較的観測しやすい天文イベントと言えば12月8日に発生する土星食だろうか。日本全域で見られるわけではないが、比較的広い範囲で観測できるし、月の暗い部分に隠れる食の入は肉眼でも見える可能性が高い。
ぜひStellariumで観測計画を立てて、その様子を自分の目で確かめてみてほしい。もちろん見えるかどうかは「 天気次第 」である。