ニュース

「じゃんがら」ラーメンとAIの深~い(?)関係

Q&Aセッションのジェンスン・フアン氏

 NVIDIAは11月12日と13日の2日間、プリンスパークタワー東京においてAI向けのイベント「AI Summit Japan 2024」を開催。2日目のジェンスン・フアン氏による基調講演ならびに孫正義氏との対談の後、報道関係者向けのQ&Aセッションが開かれた。

 今回のQ&AセッションではイベントのテーマとなるAIに関連する話題のみならず、ゲームからジェンスン・フアン氏の行動原理に至るまで幅広い質問が飛び交ったが、フアン氏はいずれも快く回答していたのが印象的だった。

NVIDIAがここまで成長できたのはなぜか?

Q:NVIDIAは今や世界最大のAI関連企業となっているが、その原動力、行動原理はなんですか?

フアン: ラーメンだ。じゃんがらラーメン(笑)。

 今の仕事はライフワークだと思っている。私は夏に家族を連れて世界各国を回っている。台湾が一番多いが、モスクワやヨーロッパ、もちろん日本もある。

 そして約15年前だったと思うが、京都で日本最大級の苔コレクションがある寺を訪ねたことがあった(筆者注:おそらく西芳寺)。そこで庭の手入れをしている方に出会った。庭は広大なのだが、彼は小さな苔をホウキで丁寧に手入れしていた。そこで私は「大変ではないのですか?」と訊ねたのだが、彼は流暢な英語で「時間は十分にある」と答えた。「彼は25年間この仕事を続けている」とも言った。つまりこれは彼のライフワークなんだと思った。

 私も、ライフワークこそが今の私を動かす最大の動機だとは思う。手仕事を完璧なものにする。これが行動原則であり、同じことだ。

 おそらく、じゃんがらラーメンを作っている人もそうじゃないかと思う。だからじゃんがらラーメンだ(笑)。

Q:NVIDIAには社長室がないと聞いたが、なぜ社長室を作らないのか?

フアン: 社長室を作ると、情報をそこに閉じ込めてしまうからだ。だから外に出る必要がある。

 また、私はできるだけ管理層を薄くした。普通の企業では何十もの管理層があると思うが、情報はその層で失われてしまう。だから3~4層ほど減らした。今やNVIDIAの経営陣は60名ほどで、ここ(セミナールーム)を埋め尽くすほどだが、これは層を減らしたためだ。

GeForceの今後やAI PCとの関係

Q:今やNVIDIAはAI企業というイメージがあると思いますが、もともとはゲームからスタートしましたね。今後ゲーム業界でどのようなことを実行していきますか。

フアン: 私が最初に選んだのはゲーム市場への参入だったわけだが、この戦略意思決定は正しかった。企業は起業時した時にまずは大量の製品を売る必要がある。そこから得られた利益で大規模なR&Dを投資してこそ成功する。

 NVIDIAが創業した当初3Dゲーム業界は当時小さく、3Dをやっていたのはセガだけだった。セガAM2研の「バーチャファイター」や「デイトナUSA」などが登場し、アーケードは価格が高かった。しかし、その後3Dゲーム市場が爆発した。GeForceが最大のPCゲームプラットフォームに成長し、Nintendo Switchなどで任天堂とも仕事できるようになったのも、当時のこの意思決定が素晴らしかったためだと思う。

 このGeForceの成功を受けてAIも成長したが、今はゲームの中にAIが入っていこうとしている。たとえば生成AIを使えば素晴らしいグラフィックスを生成できるし、生成AIやAIを使うことで、ゲームの中のキャラクターがプレイヤーを認識し、覚えてくれ、毎回違う会話が楽しめるようになる。ゲームがAIの役に立ったが、今度はAIがゲームの役に立つ番が来るだろう。

Q:MicrosoftがAI PCを掲げていて、これに準拠するNPUを各社も載せてきているが、どう捉えているのか

フアン: GeForceはPC市場の中でもクリエイター、ゲーマーといったコアな市場を形成している。ユーザーは、コンテンツ制作やアイデアの実現、ゲームの制作などにGeForceを活用している。もちろん生成AIによるコンテンツを作ることもできる。

 そして何よりも、AIの作り方も簡単だ。AIの作り方や使い方が分からなければ、AIに尋ねればステップ・バイ・ステップで教えてくれる。

 これはタダのExcelにはできない。しかしMicrosoftはCopilotを統合しようとしている。CopilotであればExcelの使い方をステップ・バイ・ステップで教えてくれる。よってAIそういった側面で、PCの一部として統合されていく。

 ただ、GeForceは今、開発者やゲーマーといったコアユーザーを対象としている。我々が謳っているのはAIで何かを生み出すものだ。

エネルギーとサプライチェーンの問題

Q:AIの利用には大型のコンピュータと大量の電気が必要で、電力不足を解消するためにアメリカでは原子力発電所を再稼働するような動きもある。これについてNVIDIAの回答は?

フアン: 確かにAIをトレーニングするには大型コンピュータと大量の電気が必要だが、AIを活用する、つまり推論をするために必要なエネルギーは少なく効率的だ。たとえば2週間の天気予報の場合、天気のシミュレーションを行なうよりもAIで行なったほうが高速でエネルギー効率も良いこともある。

 また、マテリアルや設計、核融合炉の制御など、人間ではできないこともAIではできる。そうすることによって、今後新たな持続可能なエネルギーを生み出すことができる。また、無駄な電力消費抑えるAIなど、エネルギー節約に使用することもできる。AIの登場によって、パワーグリッドは変化していくと思う。

Q:現在、主な製造委託先はほぼTSMCだけになっているが、今後もこの状態が続きますか。日本のRapidusのような企業が参画するチャンスはありますか?

フアン: TSMCはワールドクラスの企業で、彼らの技術、速度、サービスのいずれを取っても素晴らしく、ベストな選択肢だと思っている。彼らとのパートナーシップを通じて、お互いの力を発揮できる。そのため特別な企業だと思っている。たとえば最新のBlackwellは超巨大なチップであり、開発や製造にコストがかかる。

 一方でNVIDIAとしては、無駄を省きながら、多角化と冗長性を持つ必要がある。ここに日本が参画しない手はないと思う。日本には高い品質基準や高い科学力、労働倫理など、優れた半導体を製造できる要素が揃っていると思う。

Q:NVIDIAのGPUは高く、かつ独占的な地位があるという印象があると思うが、これについてはどう考えているのか。

フアン: NVIDIAのGPUが高いのは、それだけ需要があって、価値が高いからだと考えている。例としてAIファクトリーを挙げてみよう。10億ドル相当の投資をNVIDIA GPUに費やして建設し、あるトレーニングタスクを1週間で終わらせられるようにした。他社のGPUでは5億ドルで済むかもしれないが、同様のタスクの実行に8週間かかる。だったら10億ドルの方が投資価値があるのではないか。

 推論も同様で、10億ドルのAIファクトリーで創出できる価値が50億ドルで、5億ドルのAIファクトリーで創出できる価値が7億5,000万ドルだったら?ということだ。我々のGPUは信頼性も可用性も高い。一番安いチップではなく、ベストなチップに投出するのが投資家の考えだろう。我々のGPUの収益創出能力に匹敵するものはないと考えている。

日本とAIの関係

Q:ヒューマノイドロボットの可能性について、もう少し詳細をお聞かせください。

フアン: 今の形のロボットでは、(特定のもの以外の)キッチンで調理をしたりトイレ掃除をしたりするのは難しいだろう。車の工場はロボットの使用を前提としているが、一般的な数百万単位の工場、倉庫などは、人間が使うことを想定していて、ロボットの使用は想定していない。こうした工場や倉庫ではロボットの市場が広がらない。ロボットの市場を広げるにはヒューマノイド型が必要だ。

 そういうロボットの基礎となるメカトロニクス分野において、日本はもっとも主導的な国であると考えている。この状況でロボットにAIを取り入れるのはなんら難しいことではなく、むしろ必然的な流れになるだろう。GTCでは毎回OmniverseやAGXなどロボット向けのソリューションを紹介しているが、これらを介してまずは誰もがロボット技術を使える状況を構築することが先決だと思っている。

Q:日本でR&Dセンターを開くという話もあったのだが、それはなぜか。

フアン: 世界中のAI企業と連携できる企業はNVIDIAしかないのではないかと思っている。そして日本にAIをもたらし、AIによる産業革命を先行させアドバンテージを取ってもらいたいと思っている。

 今は日本にとって重要な時期だ。日本は過去にソフトウェアを過小評価しすぎており、ソフトウェアエンジニアが不十分という状態に陥った。そのため巨大なソフトウェア業界を産み出そうと思ってももう遅い。しかし今はリセットの時代。AIはDay0なのだ。AIは既存の製造業の中では作れない。AIによって新しい産業革命を引き起こす時代なのだ。

 その時代において、日本を巨大な産業の国、AIの国、ロボティクスの国にしたいと思っている。これが日本の未来の姿であるべきだ。孫氏も同様の考えだ。日本でR&Dセンターを開設できれば、日本にそうした産業革命をもたらすことができると考えている。

Q:孫氏は「ASI」、つまり人間の1万倍は賢いAIが生まれることを掲げているのだが、AI全般の進化についてどうお考えなのか

フアン: 近い将来、まずは車がパーソナルなAIになるとは考えている。さまざまなことを知っていて、自分の身を守ってくれる。運転する時はアシストし、しない時は運転代行をする。車と雑談することもできる。そこにはメーカー独自の個性を持ったAIが入っていくかもしれない。

 また、従業員不足の問題を解消するため、デジタルAI従業員や、ロボティクス技術を駆使し、その問題を補う動きもあるだろう。

 一方で孫さんのビジョンだが、彼は楽観主義者だと感じている。彼はあらゆる世代のテクノロジーにおいて投資をしてきた。AlibabaやAppleとの提携なども、彼の素晴らしい意思決定を裏付けるもので、彼ほど成功した者はいないと思う。彼が掲げる、100%の仕事をこなすASIは近い将来登場するとは思えないが、人間より1,000倍いい判断をし、80%の仕事を肩代わりするようなAIは登場するとは思う。それであれば理にはかなっていると思う。

AI革命の始まり

 フアン氏はQ&Aセッションの最後で、「日本においてAIロボティクスの革命、AI産業革命を実現していこう」と掲げて締めた。

 基調講演や孫氏との対談は既にレポートしている通りだが、日本は現在、政府のAIに対する規制が他国と比較して緩く、AIイノベーションがいつでも引き起こせる、比較的恵まれた環境にあるといえる。また、ソフトバンクがBlackwellベースのスパコンを世界に先駆けて納入し、サービスとして使えるようになれば、今後はAI関連の起業が増えそうだ。

 そういう意味では、フアン氏や孫氏が掲げる「AI産業革命を日本から始める」というのは、かなり現実的なプランだと言えそうだ。