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実用性を追求したインターフェイスで先行他社に挑む。ZOTAC初のポータブルゲーミングPC「ZONE」

 ビデオカードやミニPCを手掛けるZOTACから、ポータブルゲーミングPC「ZONE」が発表された。同日より予約受付を開始しており、発売は11月29日だ。ビデオカードの冷却と、ミニPCの小型化のノウハウを持つ同社から、ポータブルゲーミングPCが出るのは必然と言うべきで、むしろ今までなかったのが不思議なくらいだ。

 CPU内蔵のグラフィックス性能が急激に高まり、ポータブルゲーミングPCへの注目が高まると同時に、製品もかなり増えてきている。その中で後発となる「ZONE」は、やはり面白い機能を載せてきている。仕上がりをじっくりと見ていきたい。ちなみに直販価格は13万5,300円だ。

人気のRyzen 7 8840Uを搭載

 まずは基本的なスペックの確認から。

【表1】スペック
CPURyzen 7 8840U(8コア/16スレッド、最大5.1GHz)
GPUAMD Radeon 780M(CPU内蔵)
メモリ16GB LPDDR5-7500
SSD512GB(M.2 NVMe PCIe 4.0x4)
ディスプレイ7型光沢有機EL(1,920×1,080ドット/120Hz/10点マルチタッチ)
OSWindows 11 Home
汎用ポートUSB4 2基
カードスロットmicroSD
映像出力USB4 2基
無線機能Wi-Fi 6E、Blunetooth 5.2
有線LANなし
電源65W USB PD
バッテリ容量48.5Wh
その他100万画素カメラ、マイク、ヘッドセット端子など
本体サイズ285×115×35mm
重量692g

 CPUはポータブルゲーミングPCでは定番のRyzen 7 8840Uを搭載。Zen4アーキテクチャの高性能CPUに、Radeon 780Mを内蔵したものだ。メインメモリは16GB、SSDは512GBと標準的。

 ディスプレイは7型でフルHDの有機ELパネルを搭載。リフレッシュレートも120Hzに対応する。通信はWi-Fi 6Eに対応。USBは2基のUSB4のみとシンプルで、65WのUSB PD充電器が付属する。

 スペックシートを眺めている限りでは、ポータブルゲーミングPCとしては今時の仕様という感じ。とりあえず基本的なものは入れ込んでいる、ということは分かる。

こだわりが各所に見えるインターフェイス

本機正面。2つのアナログスティックの下にそれぞれ配置されたトラックパッドが特徴的

 ポータブルゲーミングPCとしての差別化ポイントは、インターフェイス周りだ。まず特徴的なのが、左右に配置されたトラックパッド。ノートPCに搭載されるタッチパッドの小型版のようなもので、左はスクロール操作、右はマウスカーソル操作に対応している。

 本機はタッチパネル搭載なのでタッチ操作も可能だが、左右を掴んだ状態で画面のタッチ操作を行なうのは難しい。アナログスティックで操作させるのも1つの手だが、マウスやタッチパッドに比べると直感的でない。本機のトラックパッドなら、左右から手を離すことなく、親指でマウス操作が可能。クリックは右トラックパッドの左端と右端が対応している。

トラックパッドはスライド操作だけでなく、左右クリック操作も可能

 特徴的なものがもう1つ。アナログスティックを囲むように、ラジアルダイヤルが搭載されている。左右にクルクル回せるもので、左はディスプレイの明るさ調整、右は背面のLED装飾の明るさを調整できる。ゲームで暗いシーンになったら、画面の明るさを手元で上げるといった操作も可能だ。

アナログスティックの周囲にある部分がダイヤルになっており、回す操作が可能

 コントローラ部分では、アナログスティックとトリガーにホールエフェクトを採用し、精度と耐久性の高さを売りにしている。操作感はどちらも摩擦がなく滑らかで、高い反発力があって気持ちがいい。

 トリガーには押し込み距離を短くできるスイッチも用意。動かしてみると、マウスのクリックのようにほぼストロークがなく、デジタルスイッチのようなカチカチというクリック感があるボタンになる。感度も良好で、切り替えが極めてうまく機能している。

本体背面。LED装飾がある
トリガーを普通に引いたところ。かなり深く引ける
スイッチを入れた状態でトリガーを引いたところ。ほとんどストロークがない状態

 背面には左右に1つずつボタンが追加されている。背面ボタンは最近のゲームパッドの流行の1つで、複数ボタンの同時押しなどを設定して操作の幅を広げられる。

 アナログスティックの配置は左右対称。これは個人の好みや遊ぶタイトルによって評価が分かれると思うが、一般的には左アナログスティックと右ボタンの操作が多いなら、左スティックは上部の方が扱いやすい。筆者の使用感では、左手で本体を持つ場所を少し下げればアナログスティックがいい位置に来るので、特に配置が気になることはない。

 ちょっと面白いのが方向ボタン。マウスのクリックボタンのようにストロークが極めて浅く、カチカチという手ごたえがある。あまり経験のない感触で最初は違和感があるが、入力速度の面では良さそうで、個人的な印象はかなりいい。格闘ゲームやシューティングゲームなど、方向ボタンを使ったゲームをプレイしたい方は、一度触ってみることをおすすめする。

見た目は普通の方向ボタンだが、マウスのスイッチに似たクリック感がある

 操作部以外では、背面にキックスタンドを内蔵しており、テーブルなどに単体で斜め置きが可能。スタンドを全開にすると、60度くらいの角度で置いておける。なおスタンドを中途半端に開いて使おうとすると、角度が足りずに後ろに倒れてしまうこともある。安定させるためにスタンドは全開にし、角度調整はできないと思った方がいい。

キックスタンドが搭載されており、斜めに置ける

 充電器は65W出力のUSB PDで、USB4端子のいずれかに挿入する。充電器はコンパクトで取り回しがよく、USB PDなので他の機器や充電器との相互利用も可能だ。

充電器はコンパクトな65W出力

 その他のハードウェア部分も見ていく。電源ボタンは上部の左側にある。かなり小さいボタンだが、指紋センサーを内蔵しており、Windowsのサインインにも使える。その横には3つの小さなLEDが並んでおり、充電が進むごとにLEDの点灯数が増える。充電中は3つのうち1つが点滅し、充電が完了すると3つとも点灯する。

上部の電源ボタンは指紋センサー内蔵

 ディスプレイは7型の有機EL。額縁部分が左右1cmほどあり、上下は筐体の枠もあってさらに広い。画面サイズの割に筐体が大きく感じられるのは、色味とトラックパッドのせいだろうか。

 色味はメリハリがあり美しい。輝度は800cd/平方mと高く、実際に使ってもかなり明るい。筆者はノートPCを使う際にはWindowsの明るさ設定を40前後にするのだが、本機だと10くらいで十分明るく、試しに100にするとまぶしすぎるくらいだ。視野角も上下左右各178度としており、どの角度から見てもとても自然に見える。有機ELなので残像感もほぼない。

有機ELでとても明るいディスプレイ
斜めから見てもとても美しい

 スピーカーは本体下部の左右に内蔵されている。音質は低音はほぼ出ておらず、クリアな高音も出ない、小型スピーカーにありがちな音だ。ただ高音が尖った感じもなく、聞き疲れはしない。ステレオ感や音の広がりはしっかり感じられるので、ゲームの情報源としては不快感なく機能する。音量もかなり大きい。

スピーカーは側面下部にある

 エアフローは背面吸気、上面排気。排気口は小さくまとまっており、上部に排気するため、操作中に排気が気になることはない。ファンは最大4,000rpmで、アイドル時はファンが停止。ゲームなどで高負荷をかけるとファンが回転するが、ホワイトノイズのような耳触りのない音で、ゲームの音が出てしまえば全く気にならない。

 試しに設定でファンの回転数を最大にしてみると、さすがに高めの風切り音が僅かに出てくるが、それでもゲームの音を邪魔するほどではない。小型ながらかなり優秀なファンを搭載している。背面の中央付近を触ると熱を感じるが、左右の持ち手部分やボタン部分には感じない。排熱処理の面でもうまくできている。

右上部分に排気口がある。のぞき込んだりしない限り、排気は気にならない

専用ソフトウェアでカスタマイズ

 本機には専用アプリ「ZOTAC GAMING ONE Launcher」がプリインストールされている。名前からするとゲームを起動するためのアプリかと思ってしまうが、本機の設定も含めた集中管理アプリとなっている。本機を起動すると、このアプリがいきなりフルスクリーンで立ち上がるので驚くかもしれない。ウインドウの右上をクリックすると閉じられる。

「ZOTAC GAMING ONE Launcher」

 主な機能としては、「パフォーマンス」で性能調整が可能。CPUの消費電力を制限してバッテリ消費を減らせるほか、CPUとGPUの電力配分を調整してパフォーマンスの優先度を付けるという面白い機能もある。

 またCPUの性能を調整する「CPUブーストモード」、パフォーマンスを調整する「パワーモード」、VRAM容量を指定できる「VRAM容量の設定」の項目もある。VRAMは標準で4GB割り当てられているが、最大で8GBまで割り当てられる。16GBのメインメモリを削る形になるので、4GBが理想的な値とは思うが。

パフォーマンス設定。CPUとGPUの電力配分ポリシーなど見慣れない機能もある

 ゲームパッドの設定では、各ボタンにキーボードや別のボタンの機能を割り当てが可能。ただし複数キー/ボタンの同時押しの割り当てはできないようだった。ほかにジョイスティックとトリガーの遊びの範囲や、左右に内蔵されたバイブレーションの強さも調整できる。

ゲームパッドの設定。各ボタンの機能を変更できる
ジョイスティックの遊びを調整
トリガーの感度調整
バイブレーションの強さの調整

 あとは本体背面にあるLED装飾を「SPECTRA」の項目で設定できる。明るさだけなら右のラジアルダイヤルで調整できるが、ここでは光り方のパターンやスピードも変更できる。

LED装飾を調整できる

小型ながら高い冷却力が光る

 ベンチマークテストで性能もチェックする。利用したのは、「PCMark 10 v2.2.2704」、「3DMark v2.29.8294」、「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」、「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」、「Cinebench 2024」、「CrystalDiskMark 8.0.5」。

 テストは「ZOTAC GAMING ONE Launcher」のデフォルト設定を使用した。パフォーマンスを上げる設定もあるのだが、発売前の製品ということもあって、想定した挙動にならない部分があったため、今回はデフォルト設定のみとする。製品版ではより高いパフォーマンスを出せる設定の余地があるはずだ。

 「Cinebench 2024」に関しては、実行時にGPUのエラーが頻発し、正確に測定できていない可能性があるため、参考値として見ていただきたい。

 比較対象として、本機と同じCPUを搭載した14型ノートPC「Inspiron 14」のデータを併記する。

PCMark 10 v2.2.2704
3DMark v2.29.8294(DX12)
3DMark v2.29.8294(DX11)
3DMark v2.29.8294 CPU Profile
STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール
PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク
Cinebench 2024
デフォルト設定時のバッテリ駆動時間(分)

 CPUについて「3DMark」のデータを見ると、CPU温度が約60度に下がるまで動作クロックを落とす挙動が見える。マルチスレッドでは動作クロックが落ちやすいが、冷却重視の挙動と考えればパフォーマンスとのバランスは悪くない。「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」はLOWの設定で満点評価を得ているなど、ポータブル機としては十分な結果が出ている。

 「Inspiron 14」との比較では、本機の方がグラフィックス系で高いスコアを出しているのが見える。ゲームの処理ならCPUよりGPUを優先した方がよいというチューニングだろう。筐体サイズがより大きなノートPCに、冷却に余裕を持った状態で勝るのは、本機の冷却性能が優れている証拠だ。

 バッテリ持続時間は、ディスプレイの明るさ50%の設定で、「PCMark 10」でのIdle Battery Lifeが8時間37分、Gaming Battery Lifeが1時間43分。高負荷のゲームならバッテリ持続時間は2時間弱と思っておくといいだろう。

 ストレージはキオクシア製「EG6」の1,024GB。シーケンシャルリードは5GB/s超と十分な性能で、ゲーム用のストレージとしても満足できる。

「CrystalDiskMark 8.0.5」

 また実際のゲームプレイのテストとして、「Fortnite」のバトルロイヤル1戦と、「Apex Legends」のチュートリアル1周のフレームレートを、NVIDIA FrameViewで計測した。解像度は上画面と同じフルHD(1,920×1,080ドット)で実施。

Fortniteフレームレート
Apex Legendsフレームレート

 「Fortnite」では、DirectX 12でクオリティプリセットを中とした。フレームレートは平均60fpsを超えており、下位1%でも約44fpsで、違和感なくプレイできた。

 「Apex Legends」では、4GBのVRAMで警告が出るテクスチャストリーミング割り当てとスポットシャドウディテールは2段階落としつつ、そのほかの画質設定をすべて最高に設定。フレームレートは平均約47fps、下位1%で約32fpsで、とりあえずプレイはできる状態。画質はまだまだ下げられるので、見た目とフレームレートの妥協点を探るといい。

派手さよりも実用性を追求した製品

 最後に使用感についてお伝えする。手に持った時の感触としては、700g弱というのはややずっしりとした重さを感じる。しかし両手で本機の左右を掴むと、側面のカーブが手のひらに、背面のグリップ部が指に沿う。正しい持ち方をしないと途端にアンバランスになるが、両手でしっかり掴むとホールド感はかなり高い。

 この状態でゲームプレイを試すべく、ゲームパッドを多用するゲームとして「モンスターハンターライズ」をプレイしてみた。2本のアナログスティックや方向ボタンも使う忙しい内容だが、プレイ中は安定してホールドしつつ、操作も違和感はなかった。画面も有機ELで残像感がなく、プレイ環境としてかなり良質だ。

「モンスターハンターライズ」は、コントローラ、描画負荷とも問題なくプレイできる

 ポータブルゲーミングPCへの参入が後発ということもあってか、ハード・ソフトともに面白い機能を追加してきているのが目に付く。そこが訴求ポイントであるのは確かながら、実際の使用感も決して妥協はない。ボディの形状やサラサラとした触り心地など、使用感を追求したデザインであることはしっかり感じられる。

 ほかの製品と比較検討する際の材料としては、ホールエフェクト採用のアナログスティックとトリガーは差別化のポイントになるだろう。十字ボタンの特殊なクリック感もユニークだし、2本のアナログスティックが並行位置にあるのも特徴と言える。操作系周りは触り心地を含めて独自性が強いので、機会があれば触って確かめてみて欲しい。

 それ以外の部分も、これと言って不満を覚える部分はない。ポータブルゲーミングPCとしてよくできていて、先行各社の製品に見劣りはしない。強いて言えば、前からの見た目がほぼ単色でちょっと地味かなと思うが、それも長所と感じる人もいるだろう。

 あとは自立するスタンドが地味に便利。ちょっとした動画視聴や情報検索用のサブPCとしても活用できるし、キーボードとマウスをつなげば小さい画面ながらも普通のPCゲームスタイルで遊べる。

 目を引き所有欲を満たすデザインよりも、とにかく実用性に焦点を当てている製品という印象だ。同社初のポータブルゲーミングPCでありながら、よく研究されていると思う。コントローラ周りで他社製品とは違う部分が気に入ったなら、買って満足できる製品であろう。