Hothotレビュー
「REALFORCE RC1」は高級コンパクトキーボードの新定番になるか?HHKBとも比較してみた
2024年11月20日 06:32
東プレはキーボード製品の新たなラインナップとして、従来より小型の70%キーボード「REALFORCE RC1」を発売した。価格は3万5,860円。
REALFORCEシリーズは、静電容量無接点方式という独自のキースイッチを採用した高級キーボードで、滑らかなタッチと高い耐久性が特徴。筆者も20年以上にわたり計4製品を愛用しているが、未だ1キーの故障もない。
従来はフルサイズキーボードとテンキーレスの2パターンを展開してきた中、より小型なものを投入してきたことで、従来とは違う層からの注目も集めている。特に形が似ている「Happy Hacking Keyboard(HHKB)」を思い出した方は多いようだ。本機について実機で詳しく見つつ、HHKBの2機種とも比較していく。
REALFORCEシリーズの上位機種と同等のスペック
まずは基本的なスペックから確認する。今回主に試用するのは、押下圧が45gで日本語配列の「C1HJ11」。ほかに押下圧が30gと軽量になった「C1HJ13」(こちらも比較用にお借りした)と、英語配列で押下圧45gの「C1HK11」、同30gの「C1HK13」の計4モデルが用意されている。それ以外の仕様は共通だ。
【表】REALFORCE RC1(C1HJ11)の主なスペック | |
---|---|
キースイッチ | 東プレスイッチ(静電容量無接点方式) |
キー数 | 82(日本語配列) |
押下圧 | 45g |
押下耐久性 | 1億回以上 |
キーストローク | 4.0mm |
バックライト | なし |
Nキーロールオーバー | フルNキーロールオーバー(USB接続時) |
本体サイズ | 295×130×39mm |
インターフェイス | USB、Bluetooth 5.0 |
重量 | 0.6kg |
価格 | 3万5,860円 |
キースイッチはREALFORCEの伝統である静電容量無接点方式で、押下耐久性は1億回以上を謳う。キーストロークは4.0mmと標準的で、静音仕様となっている。
本体色はブラックをベースに、キーキャップはダークグレーとライトグレーの2色を使い分けている。キーキャップの素材はPBTで、文字は昇華印刷されている。
接続は1.8mの着脱式USBケーブルと、Bluetooth接続のハイブリッド。USB接続時にはフルNキーロールオーバーで全キー同時押しに対応するほか、ポーリングレートは1,000Hzとなる。
基本仕様は、REALFORCEシリーズのプレミアムモデルとなる「REALFORCE R3」とほぼ同等だ。ちなみに価格もほぼ同等である。ゲーミング向けの製品となる「REALFORCE GX1」を除けば、ほぼ全部入りの豪華仕様となっている。
限界までコンパクトにしつつも選びぬいて残したキー
続いて実機を見ていく。キーボードレイアウトは、フルサイズキーボードからEnterキーより右側をごっそり削り落とした形を基本に、一部アレンジされている。違う部分を見ていこう。
カーソルキーは右下部分に押し込む形で搭載されている。これにより右Shiftの短縮、右Altキーの削除がなされている。
左下部分では、Fnキーが追加。削られたキーやBluetooth絡みの機能を、Fnキーとの同時押しで実現できるようになっている。
そして右上部分はF1~F12キーを少し左寄せしてできた隙間にDelキーを追加。BackSpaceキーと縦に並ぶ形になる。
それ以外の部分は概ねフルサイズキーボードの配置と変わらないが、実用上で気になるのは、左Altキーの位置が変わった上に小さくなったこと。ショートカットを多用する人は気になるかもしれない。
この原稿は本製品を使用して書いているが、普段のタイピングから特に違和感なく使用できている。頻繁に使うDelキーの位置が変わってはいるのだが、省かずに単体キーとして残してくれたのでだけありがたいし、押し間違いする場所でもないので、すぐ慣れて気にならなくなった。
外側は4辺ともスペースが非常に狭く、ほぼ遊びがないレイアウト。キー以外にあるのは通電や無線通信状態を示すLEDだけだ。REALFORCEのロゴは前面左側にそっと添えられている。
コンパクトさを求めつつも、主なキーのサイズは従来製品と変わらない。キーキャップの形状も同じだし、キーの角度や高さが列によって異なるステップスカルプチャ形状も同じだ。筐体の高さは違いがあるかと思ったが、並べてみてもほぼ同じ。ホームポジションに置いた時の手の感覚も同じだ。REALFORCEユーザーには安心感があると言える。
REALFORCEシリーズの製品の最大の売りである、静電容量無接点方式を採用したキースイッチのタッチも見てみよう。
45gと30gの両製品を並べて叩いてみると、45gは途中まで重く、ある1点を超えるとスッと落ちていく。つまり軽いクリック感がある。30gは押し始めから終わりまで荷重変化は感じられない、いわゆるリニアなタッチだ。ただ重さが違うだけではなく、明確に感触が違うので、実際に触って比較してみて欲しい。
タイピングの時の音は確かに静か。カチャカチャとい高い音は綺麗に消されていて、耳触りにならない低音だけが残っているという印象だ。キーが上下に動く際にこすれる音と感触が少しだけあるのだが、よく叩くキーの音は消えてきているので、使っているうちに消えそうな感じはある。最適なタッチにするにはエイジングが必要、と言えばいいだろうか。
もう1つ注目したいのが、キートップのブレ。ホームポジションに指を置いて、指を小さく左右に動かすと、キーのブレが分かる。本機はこのブレが小さく、ストレートなストローク感がより感じられる。
Bluetooth接続については、Fn+Pキーでペアリングモードに入り、続けてFn+1~4キーでペアリング情報を保存できる。つまり本機は4つのペアリング先を保存できる。持ち運び前提の製品として接続先を切り替えられるのは当然としても、4つも保存できれば十分だし、操作手順も分かりやすい。
アクチュエーションポイントを含めた柔軟な設定変更に対応
ソフトウェア機能も見ていく。本機は設定アプリ「REALFORCE CONNECT」で各種カスタマイズができる。
APC(アクチュエーションポイントチェンジャー)は、アクチュエーションポイントを0.8~3.0mmまで、0.1mm刻みで調整できる機能。キー1つずつの変更も可能だ。設定は4つのパターンを保存できる。
キーマップ入替では、各キーの機能を自由に変更できる。通常キーの割り当て変更だけでなく、Fnキーと併用した時の機能も変更できる。Fnキーとの組み合わせは未設定のキーが多いため、自分の好みに合わせて機能追加が可能だ。
さらに機能キータブにあるShortcut 1~8は、好きなキーを組み合わせたショートカットを登録可能。好きなキーに割り当てられる。このキー設定も4つ保存して切り替えられる。
無線設定では、無操作時間に応じて電源オフ、無線オフの設定が可能。常時オンにする設定もあり、ゲームプレイ時など反応速度を落としたくない時に向いている。この設定も4つ保存して切り替えが可能。
このほか各キーの入力回数を視覚的に表わせるヒートマップ機能も用意されている。
REALFORCEの伝統と性能を守りつつコンパクトにまとめた製品
総合的な評価としては、コンパクトさと使い勝手のギリギリのラインを突いた製品だと感じた。主要なキーの配置やキータッチはフルサイズキーボード相当の形を継承し、F1~F12キーも残しつつ、外枠をギリギリまで削ることでコンパクトさを実現している。
特にいいと思ったのが、F1~F12キーを左寄せしてできたキー1つ分のスペースにDelキーを配置したところ。テキスト入力ではDelキーを削られると困るという方も多いはずだ。そしてそれ以上はサイズを広げなかった割り切り方もいい。持ち運べるキー入力デバイスとしては使いやすいレイアウトだし、キータッチはREALFORCEシリーズの一員として確かなものだ。
筆者は普段、同社のゲーミングキーボード「REALFORCE GX1」を使用している。そのため70%キーボードと聞いた時は「小型ゲーミングキーボードか?」と思ったが、基本的にはそうではないようだ。
ただ、この見方もあながち間違いとは言えない。本機はアクチュエーションポイントを1キーごとに変更できるし、有線接続時にはポーリングレートが1,000Hzとなるので、並のゲーミングキーボードと同等以上の性能は発揮できる。
APC機能まで載るなら、いっそラピッドトリガー(同社の呼び名はDynamic mode)も入れてくれればと思うが、それは「REALFORCE GX1」の小型化をやってくれという話だろう。それでも、テンキーレスよりもコンパクトなREALFORCEシリーズでゲームをやりたいという人に向けて、よい選択肢にはなる。
筆者がREALFORCEシリーズユーザーだから評価が甘いのだと言われるかもしれないが、実際のところ、特に不満を述べたい部分が見当たらない。フルサイズキーボードとの微妙なキー配置の違いは、コンパクトな製品ならある程度は仕方ないし、その違いもかなり小さくなるよう努力しているのが分かる。
このレイアウトで初めての製品なのにうまくまとめたな、というのが筆者の感想だ。もっとも東プレはPC向けキーボード以外にもさまざまな場所でキーにまつわる製品を展開しているので、多くのノウハウが詰め込まれた結果の本製品なのだろうと思う。コンパクトで一生もののキーボードが欲しければ、本製品で間違いない。
コンパクトキーボードの定番「HHKB」と比べてみる
ここからは読者の皆様も気になっているであろうHHKBとの比較をしてみたい。用意したのは、「HHKB Professional HYBRID Type-S」と「HHKB Studio」の2機種。どちらも新品ではない点はご了承いただきたい。
まずは3機種の主な仕様を比較する。なお、今回は基本的に日本語配列モデルで比較している。
【表2】3機種の比較 | |||
---|---|---|---|
REALFORCE RC1 | HHKB Professional HYBRID Type-S | HHKB Studio | |
キースイッチ | 静電容量無接点方式 | 静電容量無接点方式 | メカニカル |
押下圧 | 45g/30g | 45g | 45g |
キーストローク | 4mm | 3.8mm | 3.6mm |
キー数 | 82 | 69 | 72 |
インターフェイス | USB/Bluetooth 5.0(4台まで) | USB/Bluetooth 4.2(LE)(4台まで) | USB/Bluetooth 5.0(LE)(4台まで) |
バッテリ | 内蔵式充電池 | 単3形乾電池2本 | 単3形乾電池4本 |
サイズ(mm) | 295×130×39mm | 294×120×40mm | 308×132×41mm |
重量 | 600g | 550g(電池含まず) | 830g(電池含まず) |
本体色 | ブラック | 墨/白/雪 | 墨/雪 |
価格 | 3万5,860円 | 3万6,850円 | 4万4,000円 |
キースイッチ
キースイッチは、HHKB Professional HYBRID Type-Sは押下圧45gの静電容量無接点方式、HHKB Studioは押下圧45gのKailh製リニアタイプメカニカルスイッチとなっている。キータッチに関して、筆者の印象を書いておく。
・REALFORCE RC1(45g) : 途中まで軽いクリック感があり、その後スッと抜けて底打ちする。打鍵音は低めで静か。
・REALFORCE RC1(30g) : 押し始めると底まで軽いままストンと落ちる。打鍵音は強く底打ちしなければ極めて静か。
・HHKB Professional HYBRID Type-S : 途中まで僅かにクリック感があり、滑らかに底打ちする。打鍵音は高めのカチャカチャという音が混じる。
・HHKB Studio : 押し始めから底打ちまでほぼ同じ力でスッと動く。打鍵音は少し高めだが静か。
REALFORCE RC1の45gとHHKB Professional HYBRID Type-Sは、どちらも45gの静電容量無接点方式で、タッチは極めてよく似ている。ただし打鍵音はREALFORCE RC1の方が低めで静か。またキートップのブレもREALFORCE RC1の方が少ない。
HHKB StudioはREALFORCE RC1の30gと同じリニアなタッチ。REALFORCE RC1の方が押下圧と反発力が小さい分、打鍵音は小さい印象だ。
キーストロークにも違いがある。REALFORCE RC1は4mm、HHKB Professional HYBRID Type-Sは3.8mm、HHKB Studioは3.6mmとなっている。REALFORCE RC1と比べると、HHKB Professional HYBRID Type-Sはほぼ違和感がなく、言われてみれば浅いかなと感じる程度。
HHKB Studioは確かに浅さが感じられ、高速なタイピングをしたい人にはこちらの方が気持ちいい。ただ同じリニアタッチのREALFORCE RC1の30gと比べると、ストロークは深くとも軽いキーは打ちやすさがあり、甲乙つけがたい。ここは好みが分かれるところだろう。
キーレイアウト
機能的な違いで最も大きいのは、REALFORCE RC1にはフルキーボードで言う最上段がある点。HHKBではF1~F12キーはFnキーと組み合わせて押す必要があるため、物理キーが配置されたREALFORCE RC1とは明確な違いがある。
このため一部のキー配置も異なる。REALFORCE RC1はフルキーボードと同じキー配置を極力維持しようと考えられている。対して最上段を削っているHHKBは、独自配置を取る部分がどうしても多くなる。特に左右の端の方にあるキーには違いが多いので、写真で比較してみよう。
まずは左端。HHKBは特殊ロゴが刻印されたキーの理解が必要だ。
続いて右端。REALFORCE RC1は右上にDelキーがあるのが大きな差と言える。
HHKBは、本体裏のDIPスイッチで一部キーの機能や設定変更ができるようになっている。別途ソフトウェアは用意されているが、それを使わずとも本体側で設定変更ができるのが強みだ。対するREALFORCE RC1は、上述の通り専用ソフトウェアですべてのキーを自由にカスタマイズできる。
接続方法や駆動方式
接続方法は、3機種ともUSBによる有線接続と、最大4台までペアリングが可能なBluetooth接続となっている。ここは後発のREALFORCE RC1が意識して合わせてきたのではないかと感じるが、ともかく接続台数の差はない。
細かい点だが有線については、USBケーブルの接続点がREALFORCE RC1は筐体中央奥にあるのに対し、HHKBは筐体左奥にある。ゲーミングキーボードとして使う際には、左奥にあった方が邪魔にならないという話もあるが、どちらもBluetooth接続が可能なことを含め、一般用途では大きな問題ではないだろう。
バッテリはREALFORCE RC1が内蔵式充電池を採用するのに対して、HHKBの2機種は単3形乾電池を使用する。REALFORCE RC1のバッテリ持続時間は約1カ月としており、よほど充電を忘れない限りは出先で電池切れということはないだろう。一方HHKBは長期的なバッテリ劣化の心配がない。本体を充電するのと、乾電池を交換するのとで、好みで選んでもいいだろう。
サイズ感や価格など
本体サイズは、REALFORCE RC1は最上段キーがある分だけ奥行きが長くなりそうだが、実際は外枠を非常に薄くしたことでコンパクトに収まっている。スペックを比較してみると、どれもかなり近いサイズになっているのが分かる。
HHKB Professional HYBRID Type-Sは電池を内蔵する部分が奥に飛び出す形になっており、HHKB Studioはマウスボタンや外周のジェスチャーパッドを搭載したことで、キーレイアウトの割に奥行きが長くなっている。「コンパクトサイズのキーボードが欲しい」という理由であれば、REALFORCE RC1が不利なことはない。僅差ではあるが、最も大きいのはHHKB Studioだ。
本体色については、REALFORCE RC1はブラックのみだが、HHKB Professional HYBRID Type-Sは墨/白/雪の3色、HHKB Studioは墨/雪の2色からそれぞれ選べるのもポイントになりそうだ。
価格は3製品の中ではREALFORCE RC1が3万5,860円で最も安い。HHKB Professional HYBRID Type-Sとの差は約1,000円で、どちらもかなり高価な製品ではあるが、価格競争力でも負けていないとは言える。HHKB Studioとは約8,000円の価格差がある。
比較した上でREALFORCE RC1のメリットを考えると、機能的にはF1~F12キーとDelキーが使えること。そして押下圧30gを選べる点だろう。45gが好みならHHKBの2製品とタッチやストロークの好みで選びたいが、30gの軽荷重だけは唯一の選択肢だ。
HHKBと比較してどちらが勝った負けたという製品ではない。コンパクト高級キーボードの最高峰はHHKB一択であったところに、REALFORCE RC1という新たな選択肢ができた、と言うのが正しいし、そう言えるだけのクオリティを持った製品であると言える。
最後に、REALFORCEシリーズの30gをずっと使い続けてきた筆者の好みだけで言うなら、もちろんREALFORCE RC1の30gが最高ではある。しかしHHKB Studioの素直なストロークと、しっかりした反発力もとても好ましいと感じる。
「静電容量無接点方式しか許さん!」という方もいらっしゃるかもしれないが、ぜひHHKBを含む他社の製品にも触れてみて、キーボード選びの楽しさを知っていただきたい。高性能なキースイッチが増え、各社が高性能な製品を展開し、さらには自作キーボードも広まってきた。「キーボード沼」という言葉も耳にするこの時代を、一緒に楽しんでいただければ幸いだ。