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Enterの右列キーが消えた「HP Spectre x360 14」はやっぱり打ちやすい! 3:2の画面も含め使い勝手良好な2in1に

日本HP 「Spectre x360 14 14-ea0041TU」

 日本HPは、プレミアムラインのコンバーチブル型2in1「Spectre x360」シリーズの2020年冬モデルを発表した。そのなかで、13.5型ディスプレイを搭載する「Spectre x360 14」は、アスペクト比3:2の13.5型ディスプレイや、新設計の日本語キーボードを採用する点がおおいに注目されている。

 今回は、Spectre x360 14のベーシックプラスモデル「Spectre x360 14 14-ea0041TU」を紹介する。すでに発売中で、税別直販価格は15万4,800円だが、執筆時点ではセールで13万9,800円からとなっている。なお、一番下のベーシックモデルの税別価格は14万9,800円(セール価格13万4,800円)だ。

Spectre x360シリーズのデザインコンセプトを踏襲

 ではまず、「Spectre x360 14 14-ea0041TU」(以下、Spectre x360 14)の外観から見ていこう。

ディスプレイを開いて正面から見た様子
側面は鋭角に切り落とされゴールドに配色されたエメラルドカット仕様。他にはない高級感が感じられる
ヒンジも直線的なデザインで、独特な雰囲気を醸し出している

 Spectre x360シリーズは、2018年モデルより直線を多用したデザインを採用し、プレミアムラインらしい高級感のあふれる外観となっているが、そのデザインコンセプトはSpectre x360 14にもしっかり受け継がれている。

 特徴的なのは、従来モデルでも採用されている、鋭角に切り落とされるとともにゴールドに配色された「エメラルドカット」と呼ばれる側面部分だ。後方の左右角が斜めに切り取られている点も従来同様で、ほかにはない独特な高級感がある。

 天板カラーは今回の試用機のアッシュブラックとポセイドンブルーを用意しているが、いずれもシックな雰囲気で、プレミアムラインに相応しいデザインと感じる。

天板。試用機のカラーはアッシュブラックで、落ち着いた印象。350kgfの天面加圧試験をクリアする堅牢性も兼ね備えている

 筐体素材はアルミニウム合金で、削り出し加工により成形されている点は従来同様。アルマイト加工を施すことでサビや腐食、摩耗への耐性も備わっている。

 合わせて、350kgfの天面加圧試験をクリアする堅牢性も兼ね備えている。実際に筐体やディスプレイ部の剛性はかなり高く、ちょっとひねった程度ではビクともしない印象で、これなら持ち運ぶ場合も安心と言える。

 ただし、重量は約1.36kg、実測で1,358gと、モバイル用途としてはやや重い。13.3型クラスのモバイルノートで1kgを切る軽さの製品が増えていることを考えると、もう少し軽量化してもらいたいと感じる。

 サイズは、298×220×17mm(幅×奥行き×高さ)。13.3型モデルと比べると、幅は9mm狭く、奥行きは25.5mm長くなっているが、これは後ほど紹介するアスペクト比3:2のディスプレイを搭載するからだ。とは言え、2019年モデル同様にディスプレイベゼル幅がかなり狭められているため、フットプリントは十分コンパクトと言っていいだろう。

正面
左側面
背面
右側面
底面。フットプリントは298×220mm(幅×奥行き)と、13.3型モデルに比べると幅が狭く奥行きが長くなっている
重量は実測で1,358gとやや重い印象

アスペクト比3:2の13.5型液晶を搭載

 Spectre x360 14-ea0041TUは、表示解像度が1,920×1,280ドット、アスペクト比3:2の13.5型液晶を採用している。Spectreシリーズでアスペクト比3:2のディスプレイを採用するのは、Spectre x360 14のみとなる。パネルの種類はIPSで、パネル表面は光沢処理となっている。

 コンバーチブル型2in1仕様ということでディスプレイは360度開閉し、クラムシェルスタイル、スタンドスタイル、テントスタイル、タブレットスタイルの4形態で利用できる。

クラムシェルスタイル、スタンドスタイル、テントスタイル、タブレットスタイルの4形状で利用可能

 アスペクト比3:2のディスプレイは、アスペクト比16:9の一般的なワイドディスプレイに比べて縦の情報量が増えるため、さまざまな作業の効率が高まるという利点がある。

 たとえば、デジタルカメラで撮影した写真はアスペクト比が3:2の場合が多く、ディスプレイにフィットするためレタッチ作業も行ないやすくなる。また、ExcelやWordなどのビジネス系アプリやWebブラウザなど、縦スクロールでの利用が多いアプリでも、縦の情報をより多く表示できることで作業効率が高められる。

 フルHD動画など、アスペクト比16:9のコンテンツを利用する場合などは、画面上下に余白ができるという欠点もあるが、Spectre x360 14はどちらかというとビジネスやクリエイティブ用途をターゲットとしていることを考えると、アスペクト比3:2ディスプレイの採用はかなり大きな魅力になると感じる。

 発色性能については非公開ながら、Delta Eが2未満と色差が低く抑えられているため、表示したい色も正確に表示可能となっている。

縦の情報量が増えるため、さまざまな作業を快適にこなせる
発色性能は公開されていないが、発色は十分に鮮やかだ。Delta Eは2未満で、正確な発色が可能となっている

 このほか、視野角を動的に変化させることで横からののぞき見を防止するプライバシースクリーン機能「HP Sure View」を搭載している。キーボードの「F1」キーを押すことでHP Sure Viewをオン/オフでき、オンにすると視野角を大幅に狭めることが可能だ。

 ただ、HP Sure Viewによるものと思われるが、通常時の視野角も一般的なIPSパネルに比べてやや狭く感じる。合わせて、ディスプレイ表面の反射もややきつい印象で、この点はやや残念に感じる。

プライバシースクリーン機能「HP Sure View」をオンにすると、ディスプレイの視野角を大幅に狭めることが可能だ
HP Sure Viewは、キーボードのEsc右のキー(F1キー)でオン/オフ制御が可能
ディスプレイ表面は光沢処理で、外光の映り込みはやや激しい印象。また視野角もIPSパネルとしてはやや狭く感じる

 なお、試用機のSpectre x360 14-ea0041TUは液晶パネル搭載だが、上位モデルでは3,000×2,000ドット表示、DCI-P3カバー率100%の広色域表示に対応する有機ELパネルを搭載する。より高品質な表示を求めるなら、有機ELパネル搭載の上位モデルがおすすめとなる。

1,920×1,280ドット表示対応の13.5型IPS液晶を採用。3,000×2,000ドット表示対応の有機ELパネル搭載の上位モデルも用意されている

 タッチ操作は10点マルチタッチに対応し、付属のスタイラスペンを利用したペン入力もサポートする。ペンはMicrosoft Penプロトコル 2.0準拠で、4,096段階の筆圧検知および傾き検知に対応。実際の描き味は非常に滑らかで、軽快なペン入力が行なえる。ペンは本体左側面にマグネットで装着して収納可能となっている。

付属のスタイラスペンはMicrosoft Penプロトコル 2.0準拠で、4,096段階の筆圧検知および傾き検知に対応
ペン後方を引き出すと充電用USB Type-Cポートが現れる
ペンの描き味は滑らかで、クリエイティブ用途にも十分対応できそうだ
ペンは左側面にマグネットで装着できる

Enterキー右のキーを省いた新設計の日本語キーボードを採用

 Spectre x360 14の大きな特徴がキーボードだ。従来までのSpectreシリーズに搭載されていた日本語キーボードは、配列や主要キーのキーピッチなどについては大きな不満はなかったものの、Enterキーの右側に一部キーが配置されていることが大きな不満点として指摘されていた。

 慣れれば問題ないという人もいたが、実際にはEnterキーの右側にキーを配置することでEnterキーや右Shiftキーの幅がやや狭くなっており、たとえばEnterを叩いたつもりがその横のキーに触れて誤操作につながるという場面も多かった。

 しかし新Spectre x360 14では、その不満点を改善した新設計の日本語キーボードが搭載されている。

新設計の日本語キーボードを採用
こちらはSpectre x360 13 2019年モデルのキーボード。Enterキーの右側にキーが配置されていることがわかる

 配列を見ると一目瞭然だが、従来までEnterキーの右側に配置されていたキーが完全に省かれていることがわかる。合わせて、EnterキーやBack spaceキー、左右Shiftキー、半角/全角キー、Tabキー、Caps Lockキーの幅が拡がっている。これによって、以前のような誤操作は完全に解消されている。

Spectre x360 14のキーボードではEnterキーの右側のキーがなくなり、EnterキーやBack spaceキーの幅も広がっている

 このほか、カーソルキーの↑の左右に新たにキーが置かれ、それぞれPg UpとPg Dnに割り当てられるとともに、Deleteキーの左に電源ボタンとWebカメラのオン/オフボタンが、カーソルキーの左に指紋認証センサーが置かれるようになった。

Deleteキーの左に電源ボタン、その左にはWebカメラのオン/オフボタンを配置
カーソルキーの↑キー左右にPg UpとPg Dnを新たに配置。またPrint ScやHome、EndがFnキー併用となっている

 逆に、Insertキーが省かれるとともに、Print ScreenとHome、EndキーがFnキーとの併用となっている。Fn併用キーの利用が増えたことで一部操作性が犠牲になる場面もあるかもしれないが、それらキーは利用率がそれほど高くなく、Enterキーの右側からキーがなくなったことによる利点のほうが圧倒的に大きいと言える。

 今回の日本語キーボードの改善は、多くのユーザーの声をもとに実現したとのこと。海外メーカー製パソコンでは、英語配列のキーボードを無理やり日本語化するなど、かなり残念なキーボードを搭載する製品も少なくない。そういったなか、やや時間はかかったものの、ユーザーの声を聞いて仕様を改善する姿勢はおおいに歓迎したい。

 この新設計の日本語キーボードは、まずはSpectre x360 14に搭載し、今後はほかの機種にも搭載したいとのことなので、早急に搭載製品を広げていってもらいたい。

 そのほかの仕様だが、主要キーのキーピッチは約19mmフルピッチを確保。ストロークは約1.3mmと従来同様で、キータッチやクリック感はやや硬め。打鍵音はかなり静かなため、静かな場所でも周囲を気にせずタイピングが可能だ。また、キーボードバックライトも内蔵している。

主要キーのキーピッチは19mmフルピッチを確保
ストロークは約1.3mmで、タッチはやや硬めの印象だが、打鍵音は非常に静かだ
キーボードバックライトも搭載するため、暗い場所でのタイピングも快適だ

 ポインティングデバイスは、クリックボタン一体型のタッチパッドを搭載。面積は十分に広く、ジェスチャー操作にも対応しているため、快適な操作が可能。ただし、搭載位置が本体中心となっていることで、ホームポジションからやや右に寄っている点はやや気になる。できればホームポジションを中心として搭載してもらいたいと思う。

クリックボタン一体型のタッチパッドは面積が広く、快適な利用が可能

Webカメラには物理シャッターを搭載

 では、Spectre x360 14-ea0041TUのスペックを確認していこう。

 CPUはCore i5-1135G7を採用しており、メモリは標準でLPDDR4x-3733を8GB搭載する。メモリが標準で16GBでない点は少々残念だが、コスト重視のベーシックプラスモデルということで、ここは仕方がない部分もあるだろう。内蔵ストレージは512GBのIntel Optane Memory H10を採用している。

 通信機能は、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)準拠無線LANとBluetooth 5.0を標準搭載。ワイヤレスWANは非対応だ。

 外部ポートは、左側面にUSB 3.1 Type-A、右側面にmicroSDカードスロット、Thunderbolt 4×2(うち1つは右奥角)、オーディオジャックを用意。Thunderbolt 4はいずれもUSB PD対応で、付属ACアダプタや汎用USB PD準拠ACアダプタなどを接続して給電および内蔵バッテリの充電が可能。

左側面にはUSB 3.1準拠USB Type-Aを用意
右側面には、microSDカードスロット、Thunderbolt 4×2、オーディオジャックを用意する

 生体認証機能は、カーソルキー左に配置されている指紋認証センサーと、ディスプレイ上部のIRカメラによる顔認証に対応。Webカメラは約92万画素。従来のSpectre x360シリーズでは、本体側面のスイッチでWebカメラをオフにできるようになっていたが、Spectre x360 14ではキーボードに用意されている専用ボタンによってオン/オフの制御が行なえるようになった。加えて、オフにするとカメラ前に物理シャッターが現れるようになっており、簡単にプライバシーが保てるよう配慮されている。

キーボードのカーソルキー左に指紋認証センサーを配置
ディスプレイ上部には約92万画素のWebカメラと顔認証用IRカメラを搭載
Webカメラは、キーボードに用意されているスイッチで動作をオフにするとシャッターで覆われる

 スピーカーはBang & Olufsen監修の4スピーカーシステムを採用し、ノートパソコンとしてはかなり高音質なサウンド再生が可能だ。

 付属ACアダプタは従来のSpectre x360シリーズと同じUSB Type-C接続のものとなる。出力は65Wで、サイズはまずまずコンパクトだが、付属電源ケーブルが相変わらず太く重いため、トータルでの重量は実測で307gに達する。

 別途付属するウォールマウントコネクタを利用すれば重量は243.5gまで軽くできるが、より機動性を求めるなら汎用のUSB PD準拠ACアダプタを利用したほうがいいだろう。このほか、専用スリーブケースが製品に付属する。

付属ACアダプタはUSB Type-C接続で出力は65W
付属電源ケーブル込みの重量は実測で307gとやや重い
ウォールマウントコネクタを利用すれば重量は243.5gとやや軽くなる
専用スリーブケースも製品に付属する

Core i7-1165G7搭載機を上回るスコアを記録

 では、簡単にベンチマークテストの結果を紹介しよう。

 利用したベンチマークソフトは、UL Benchmarksの「PCMark 10 v2.1.2506」、「3DMark Professional Edition v2.15.7113」、Maxonの「Cinebench R20.060」と「Cinebench R23.200」の4種類だ。

 テストは、CPUクーラーの動作モードを「パフォーマンスモード」に設定して実行している。また、比較としてCore i7-1165G7を搭載するASUSの「ZenBook Flip S UX371EA」の結果も加えてある。

テストは、CPUクーラーの動作モードを「パフォーマンスモード」に設定して行なった
【表1】検証環境
Spectre x360 14
(型番 : 14-ea0041TU)
ZenBook Flip S UX371EA
(型番 : UX371EA-HL003TS)
CPUCore i5-1135G7(ターボブースト時最大4.2GHz)Core i7-1165G7(ターボブースト時最大4.7GHz)
ビデオチップIntel Iris Xe GraphicsIntel Iris Xe Graphics
メモリLPDDR4X-3733 SDRAM 8GBLPDDR4X-4266 SDRAM 16GB
ストレージ512GB SSD
(NVMe/PCIe、Intel Optane Memory H10)
1TB SSD(NVMe/PCIe)
OSWindows 10 Home 64bitWindows 10 Home 64bit
【表2】ベンチマーク結果
Spectre x360 14
(型番 : 14-ea0041TU)
ZenBook Flip S UX371EA
(型番 : UX371EA-HL003TS)
PCMark 10 v2.1.2506
PCMark 10 Score4,6164,788
Essentials9,6589,888
App Start-up Score12,95613,073
Video Conferencing Score7,8478,304
Web Browsing Score8,8638,906
Productivity6,3186,618
Spreadsheets Score5,4946,054
Writing Score7,2667,235
Digital Content Creation4,3744,553
Photo Editing Score6,9147,491
Rendering and Visualization Score2,6132,547
Video Editting Score4,6334,948
Cinebench R20.060
CPU1,8261,763
CPU (Single Core)518496
Cinebench R23.200
CPU4,8673,576
CPU (Single Core)1,3271,058
3DMark Professional Editionv2.15.7113v2.15.7088
Night Raid14,70013,961
Graphics Score17,61518,083
CPU Score7,5876,092
Sky Diver12,89411,927
Graphics Score13,13413,051
Physics Score11,0708,464
Combined score14,49711,558
Time Spy1,4691,542
Graphics Score1,3131,404
CPU Score4,5303,483

 結果を見ると、PCMark 10の結果はZenBook Flip Sに届いていない項目が多いものの、Cinebenchや3DMarkではZenBook Flip Sを上回る項目が多く見られる。搭載CPUがCore i5-1135G7と、ZenBook Flip SのCore i7-1165G7よりも下位ということを考えると、この結果はかなり優れると言っていいだろう。

 これは、ZenBook Flip Sに比べてCPUクーラーの冷却能力が優れるからと考えられる。高負荷時にはCPUクーラーのファンが勢いよく回り、排気口からの風切り音がやや大きく耳に届くものの、それによってCPUの熱がしっかり排出され、CPUの性能が高いレベルで引き出せているのだろう。

 ただ、通常はCPUクーラーの動作音もほぼ耳に届かない程度と十分に静かなので、高負荷の作業を長時間続けないかぎりは静かな場所での利用をためらう必要はなさそうだ。

 続いてバッテリ駆動時間だ。Spectre x360 14の公称の駆動時間は最大15時間(MobileMark 2018の数値)とされている。それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、電源モードを「より良いバッテリー」、バックライト輝度を50%に設定し、キーボードバックライトをオフ、無線LANを有効にした状態で、PCMark 10のBatteryテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用して計測したところ、約12時間49分を記録した。

 公称よりわずかに短いものの、ディスプレイの輝度が50%とやや過酷な条件となっていることを考えると十分に納得できる。これなら1日の外出時でもバッテリ残量を気にせず利用可能だろう。

快適な作業環境を求める人におすすめ

 ここまで見てきたようにSpectre x360 14は、シリーズ唯一のアスペクト比3:2のディスプレイを搭載するとともに、新設計の日本語キーボードを搭載するなど、ほかのSpectre x360シリーズにはない多くの特徴を備える製品に仕上がっている。

 ディスプレイは縦の解像度が広く多くの情報を一度に表示できるのに加えて、誤操作から開放された新設計の日本語キーボードでタイピングも快適だ。もちろん第11世代Coreプロセッサ搭載で性能面は申し分なく、さまざまな作業を快適にこなせると言っていいだろう。

 モバイルパソコンとして考えると重量はやや重いものの、デスクでの作業が中心で持ち出すことはそれほど多くないというのであれば、重量もあまり気にならないはず。価格も比較的安価なため、コストパフォーマンスを追求するとともに、快適な作業が行なえる2in1を探している人におすすめしたい。