山田祥平のRe:config.sys

パソコン画面縦横比事変

 4:3の縦横比が当たり前だったTVと同様、パソコンもかつては4:3のブラウン管ディスプレイで使うのが当たり前だった。そのうちTVは16:9にワイド化され、パソコンもまた、それを追った。そして今、新しい流れが起ころうとしている。

16:9の次にくるもの

 ノートパソコンの多くはその画面の縦横比が16:9だ。アスペクト比とも言う。つまり一般的なTVと同じ縦横比だ。Windowsも、ずっと16:9を推奨してきた経緯があるが、Microsoftは、同社ブランドのパソコンであるSurfaceを2013年にリリースするにあたり、その画面を3:2にした。

 その一方で、パソコン各社は16:9を維持するベンダーと、16:10を提案するベンダー、またSurfaceに倣い3:2を採用するベンダーに分化していった。ただ、HPやデル、レノボといった世界的な大手ベンダーは、パネルの調達コストなどの事情もあったのだろう、ずっと16:9を維持してきた。

 ところが2020年の初頭からこの状況にちょっとした変化が起こりつつある。

 まず、デルが個人向けのモバイルノートパソコン「XPS 13」において、その画面を16:10にした。また、レノボはThinkPad X1 Nanoで同様に16:10を、HPはSpectre x360 14のニューモデルで3:2を採用したのだ。

 ついに巨人が動き出した感がある。もちろん3:2や16:10の縦横比がとつぜん出現したわけではない。

 国内メーカーであれば、パナソニックのレッツノートは一部の機種をのぞいてずっと16:10を使ってきたし、また、ファーウェイもMateBookで3:2にこだわっている。AppleのMacBookもずっと16:10だ。そして、先日はLGも軽量ノートパソコンの「gram」シリーズを刷新、すべての製品で16:10の画面を採用することを発表した。

【お詫びと訂正】初出時に、MacBookが16:9としておりましたが、16:10の誤りです。お詫びして訂正させていただきます。

 16:9はいわゆるフルHDという規格の1,920×1,080や無印HDの1,280×720という解像度がもとになっている。早い話がTV用パネルを流用するのが手っ取り早かったということだ。地デジの解像度は1,440×1,080だが、これを横方向に伸張して1,920×1,080として表示している。だから地デジはフルHD相当と考えていい。

 16:10はともかく、3:2の縦横比は16:10.66なので、16:9 → 16:10 → 3:2(16:10.66)の順に縦長になっていく。

 各社ともに画面の縦方向を少しでも長くすることで得られる作業環境を、縦スクロールの多いWeb等の情報取得に便利だとアピールする。また2in1パソコンで縦方向で使う場合には横幅が広くなって便利だという。

 ちなみに黄金比とされるのは1:(1+√5)/2だそうだ。安定した美しさを与えるという説がある縦横比だが、これを換算すると16:9.88となる。つまり16:10がもっとも黄金比に近いことになるが黄金比そのものが眉唾という説もあるからややこしい。

 もっとも、ノートパソコンの縦横比はちょっとした事変が起こりつつあるが、据置で使われるディスプレイはまだまだ16:9が主流だ。LGやデル、HPといったベンダーも、そのほとんどの製品が16:9で、16:10は一部の製品にとどまる。3:2の据置ディスプレイは見当たらない。最近では32:9の超ワイド画面も人気のようだが、これは16:9の2つの画面を横に並べたものにすぎない。

 据置型のディスプレイは次第に4K解像度に移行しつつあるが、調達コストの点ではTVのパネル需要を無視するわけにはいかない。こうした事情を考慮すると、当面は、据置では16:9が主流のままで推移することになるかもしれない。

Windowsは複数のウィンドウを並べてこその複数形

 16:9が横に長すぎるという評価はいったいどこから出てきたのだろうか。以前は、16:9のコンテンツを見るときに、上下に黒い帯が出るのを嫌い、16:10より高い没入感が得られる16:9が好まれた傾向もあったが、横に長い画面はWindowsでの実務に向いていないとされ、なぜこんなことになったのかと嘆く声もそれなりに聞こえてきた。

 16:9が横長に感じるのは多くのユーザーが作業に際してウィンドウをフルスクリーンで表示するからではないだろうか。そしてそこで作業されるのはA4縦のレイアウトを前提にしたWordでの文書作成や、PDFの閲覧だ。また、多くのWebサイトもフルスクリーン表示では左右のスペースが無駄に感じることが多い。

 Windowsには、スナップ機能と呼ばれるウィンドウサイズと位置のコントロールの機能がある。Windowsキーを押しながら上下左右の方向キーを押すことで、アクティブなウィンドウを画面上の上下左右位置にスナップできるというものだ。

 上下の方向キーについてはウィンドウの最小化、最大化も遷移に含まれるのでちょっとややこしいが、Windowsキーを押しながら上下左右の方向キーを押し比べてみれば挙動を把握できるはずだ。

 また、一部のスナップはマウス操作でもできる。タイトルバーをつかんで画面の右側に突き当てれば右半分にスナップ、左側に突き当てれれば左半分にスナップされる。

 スナップはデスクトップを4分割、あるいは2分割してウィンドウを整列させたいときに便利だ。スキマなくウィンドウを並べることができるので無駄もない。

 だが、編集/参照中のコンテンツによっては4分の1、2分の1のスペースでは狭すぎて実用にならないと感じるかもしれない。どうしてそんな印象を受けるのかというと、多くのコンテンツがA4縦の文書を前提に作られているからであり、自分自身でも作ろうとしているからだ。それを横長のウィンドウで作業すること自体に本当は無理がある。

 A4縦文書の呪縛から解放されているはずのWebにしても、そのページの横幅を規定し、ある程度の幅が確保できない場合は横スクロールバーが表示され、表示されている本文を読むのにスクロールが求められることは少なくない。

 一部の意識の高いWebページはレスポンシブWebデザインで構成されていて、表示中のウィンドウのサイズに応じてフレシキブルにコンテンツの表示を変化させる。全部のサイトがそうなってほしいところだが、広告レイアウトなど大人の事情でなかなかそうはいかないようだ。

 スマートフォンで読むときには、ほぼ例外なく端末画面サイズに合わせて表示されるのだから、ここは1つパソコンからのアクセスでも対応してほしいものだ。

印刷されないのに印刷を前提に文書を作るな

 A4縦の用紙に印刷されることを前提に作られる文書の多くは、メールに添付されてやりとりされたり、Webで配布されたりしているのだが、その多くは一度も印刷されることなく、パソコンの画面で表示されるだけでその役割を終える。

 だったら最初から印刷ではなく表示を前提に作るべきではないか。たとえばWordで文書を作る場合も、Webレイアウト表示の機能を使えば、ウィンドウの横幅に応じてテキストはリフローされるので、サイズに依存しないウィンドウで文書を作ることができる。

 そのことで画面を左右に2分割して2つのウィンドウを表示しても支障のない環境が手に入る。フォントだってほんとは画面で読みやすいものを選びたい。印刷で読みやすいフォントと画面で読みやすい文字は違う。

 その上で、やはり縦方向が足りないと感じるなら16:10や3:2の縦横比を検討しよう。ただ、コンテンツ次第で16:9も捨てたものではないということを実感できると思う。

 いずれにしても2020年にはじまった16:9縦横比からの脱皮事変は、引き続きトレンドとなって各社の製品ラインナップが拡充されていくだろう。場合によっては3:2か16:10のどちらかに収束していく可能性もある。

 画面サイズの縦横比も重要だが、パソコンそのものフットプリントの縦横比も使い勝手に大きな影響を与える。たとえば14型の画面を持つパソコンで16:9と16:10と3:2を比べてみると、物理的な横幅はその順に狭くなる。つまり3:2がもっとも狭い。その分、パソコンそのものの横幅も狭くできる代わりに奥行きは長くなる。そのことで筐体のフットプリントの縦横比は変わる。どれがいいのかを判断するのは難しいところだ。

 まずは印刷を前提とせず、そしてページの呪縛から逃れてのコンテンツを新しい当たり前として受け入れ、チャレンジしてみることが必要だ。それは作る側も読む側にも求められるニューノーマルでもある。

 2021年も明けて間もないが、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の1都3県に緊急事態宣言も発出されて、これからのことを考えるのが憂鬱になる。その一環としてテレワークにも言及され

  • 職場への出勤自体は、自粛要請の対象ではありませんが、対策の実効性を高めるための環境づくりとして、人と人の接触機会を減らすことは大変重要です。
  • そのため、「出勤者数の7割削減」を目指し、テレワークやローテーション勤務、時差通勤などを、政府や1都3県として、事業者の皆さんにお願いします。

といった文言が記載されている。「出勤者数の7割削減」のためにはテレワーク、在宅勤務などを駆使する必要がある。ますます印刷されない文書が増えるはずだ。

 ちなみにこのページは内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室によるものだが、ちゃんとレスポンシブデザインで構成されている。パソコンで開いてブラウザのウィンドウ幅を変更し、それに追随してコンテンツの表示が変わるのを確認してほしい。

 またズームでの文字サイズ拡大にも追随し、ちゃんとリフローされて表示される。これなら16:9を横2分割でも複数のウィンドウを開いて効率的に作業ができると実感できるはずだ。内閣官房のサイトがこうしたデザインでWebに取り組んでいるのはちょっと頼もしく感じる。もっとも配布されている文書は普通のPDFでA4縦。ここもちゃんとWebで読ませてほしいものだ。