Hothotレビュー
電子ペーパーになったテキスト入力専用端末「キングジム ポメラDM30」を試す
2018年6月9日 12:00
キングジムの「ポメラDM30」は、テキスト入力に特化したキーボード端末「ポメラ」の最新モデルだ。これまで2世代続いたストレートタイプではなく、初代である「DM10」からの流れをくむキーボード折りたたみタイプの新製品で、液晶ではなくE Ink電子ペーパーを搭載しているのが特徴だ。
KindleやKoboなどの電子書籍端末への採用で知られるE Ink電子ペーパーは、省電力かつ目に優しいことが特徴だ。モノクロ表示であることから、テキスト表示に特化したポメラとの相性は良さそうに思えるが、その一方で画面の書き替え時に発生する残像や、液晶に比べて必ずしも高速とは言えないレスポンスなど、E Inkの欠点とされる部分が実用性にどう影響するかは気になるところだ。
今回は、メーカーから借用した評価機を用いて、おもに表示まわりの性能を中心に製品をチェックしていく。
実測504gとかなりのヘビー級
まずは過去の製品とざっとスペックを比較しよう。対象は、折りたたみタイプの1世代前に相当するDM25、および現行のストレートタイプのDM200だ。
型番 | DM30 | DM25 | DM200 |
---|---|---|---|
価格(税別) | 43,000円 | 28,000円 | 49,800円 |
方式 | 折りたたみ | 折りたたみ | ストレート |
キーボード | JIS配列キーボード | JIS配列キーボード | JIS配列キーボード |
キーピッチ | 17mm | 17mm | 17mm |
本体メモリ | 8GB(1ファイルあたり最大全角50,000文字) | 105MB(1ファイルあたり最大約30,000文字/最大1,000 ファイル) | 128MB |
画面 | 6.0型/800×600ドット | 5.0型/640×480ドット | 7.0型/1024×600ドット |
ディスプレイ | E Ink | TFTモノクロLCD | TFT液晶(バックライト搭載) |
サイズ(幅×奥行き×高さ ※収納時) | 156×126×33mm | 145×100×29mm | 263×120×18mm |
重量(電池含まず) | 約450g | 約360g | 約580g |
メモリカード | SDカード | ||
IME | ATOK for pomera | ATOK | ATOK for pomera [Professional] |
電源 | 単3×2 | 単4×2 | リチウムイオンバッテリ |
電池寿命 | 約20時間 | 約20時間(エネループでは約15時間) | 約18時間 |
本体を折りたたんだ状態でのサイズは約156×126×33mm(幅×奥行き×高さ)。同じ折りたたみタイプのDM25(約145×100×29mm)と比べると、幅は11mm、奥行は26mm、厚みは4mm大きくなっている。手に持ったときに顕著に感じるのは厚みで、折りたたみタイプのポメラってこんなに存在感のある筐体だったっけ? と驚くほどだ。
重量は、初代のDM10が340g、折りたたみタイプでもっとも重いDM20でも370gだったのが、本製品は450gと、一気に400gを超えてしまっている。現行のストレートタイプのDM200(580g)と比べると軽量に思えるが、本製品の450gというのは電池抜きの値であり、ここにさらに単3電池×2本分の重量が加わると、約50gプラスになる点には注意が必要だ。実測値では504gと、大台を超えてしまっている。
画面サイズは6型ということで、DM200(7型)よりは小さく、DM25(5型)よりは大きい。解像度はKindleなど電子書籍端末よりも低い800×600ドットだが、過去のポメラと比較するとそう変わらないので、とくに問題にはならないだろう。
またE Inkを採用した電子書籍端末の多くはフロントライトを搭載し、暗い場所でも文字が読み取れるが、本製品にはライトはなく、暗所では利用できない。
大きく変わったのがメモリ容量で、従来は105MBや128MBなどMB単位だったのが、本製品は8GBとGB単位へと飛躍的に増えている。ユーザー使用可能領域も6.5GB程度あるようだ(後述)。また1ファイルあたりの文字数も、最大で全角50,000文字と大きく増えている。
DM200で用意されていた、iPhoneのメモアプリと同期できるポメラSyncや、Wi-Fiでアップロードできる機能はなく、PCへの転送方法はケーブルで直接接続するPCリンクと、SDカードを介したやりとり、そしてFlashAirを組み合わせての転送のみをサポートする。このほかQRコードに変換して専用アプリで読み取る方法も利用できる。
電池寿命は20時間と従来と同等だが、電池はDM25における単4×2から単3×2に変更になっている。つまり電池の容量が増えているにもかかわらず駆動時間は増えていないということだ。消費電力の少なさが特徴のE Inkを採用していることがあまり反映されていないのは、不思議と言えば不思議だ。
キーボードは三つ折りで安定性が向上。キー配置も改善
では実際に使ってみよう。
本体の展開方法は、まず画面を開き、続いて三つ折りになっているキーボードを左右に広げるという順番で行なう。キーボードの裏面には折りたたみ式の脚がついており、キーボードを開くと自動的にせり出す仕組みになっている。
かつての二つ折りキーボードに比べると安定感が増しており、設計も合理的だが、その構造上、膝の上などに置いて打鍵することはできない。基本的にデスクなどの上に置いて使うものだと考えたほうがよいだろう。
キーボードは日本語キー配列で、従来と同じ6列。ただしキー配置は若干変化しており、DM200では左上のEscキーの右側に半角/全角 漢字キーが並ぶ特殊な配置だったのが、本製品ではEscキーの直下に半角/全角 漢字キーがあるという、Windowsのキーボードと同じ並びになっている。個人的にはプラス要因だ。
このほか、DM200では上部に独立していた電源キーは、かつての折りたたみモデルと同じく右上、Deleteキーの右側に移動している。キー周囲にガードがあるので誤って押してしまうことはないが、配置としてはDM200のほうが正しいだろう。とはいえこれはレイアウトの制約上、致し方ない部分だ。
キーストロークはやや硬めで、(比較するのはやや酷だが)ストレートタイプのDM200には到底およばない。ただしキーピッチが17mmあるのと、安定性が高いことから、慣れればストレスなく使えるレベルだ。
なお、前述のように半角/全角 漢字キーの位置が一段下になり、横に並ぶキーの数が1つ増えたせいか、右端にあるBackSpaceキーの幅がわずかに短くなっており、そのせいかやや押しにくい。キーそのものの位置が遠くなった感覚だ。DM25とはほぼ同じなのだが、最初のうちは意識しないとタイプミスがやや多くなる。
コントラストが高く見やすい画面。残像は手動でのリフレッシュが可能
続いて本製品の最大のポイントである、画面周りについて見ていこう。E Ink電子ペーパーは反射型であることから外光だけで十分に見やすく、屋外での視認性も非常に高い。コントラストが高いことに加え、視野角の広さも抜群で、まさに紙の性質に近い。
その一方で、KindleやKoboに見られるフロントライトを搭載しているわけではないので、薄暗い部屋などでは利用できない。バックライトを備えた従来のDM200ならば、プロジェクタ利用などで照明を暗くした会議室でも利用できたが、本製品はそうした用途には使いにくい。これまで使えていたシーンで使えなくなる可能性があることは、買い替えにあたっては注意したほうがよいだろう。
解像度は従来モデルよりも向上しており、文字自体は十分な品質で表示できるのだが、ここでネックになるのが、E Ink特有の残像だ。具体的には、スクロールなどで行が移動すると、直前まで表示されていた文字が薄く残る状態になる。そのような性質だと理解していればそう気にはならないが、 これまでE Inkの利用経験がない人は、かなり抵抗があるだろう。
これらの残像は、無地の画面が上書きされるなどして消去されないかぎり、延々と残り続けるので、その対策として画面を手動でリフレッシュする機能が用意されている。具体的には、F12キーを押すことによって画面がいったん点滅したような状態になり、残像が消える。作業中にこれをちょくちょく押すことで、つねに残像のない画面で使い続けられるというわけだ。
打鍵が速いと画面への反映がワンテンポ遅れる問題
しかし筆者に言わせると、この残像については、本製品の使い勝手に与える影響はさほど大きくはない。むしろ問題となるのは、E Inkならではの書き替えの遅さによる表示の遅延だ。
本製品はキーを押してから画面に反映されるまでにわずかなブランクがあり、たとえば「た」と入力するために「T」、「A」を連続して打つと、Tの文字が一瞬とはいえはっきりと視認できてしまう。本製品を使ってテキスト入力を行なうユーザーは、入力や変換にかなりのこだわりがあり、打鍵速度もそれなりに高速なはずで、この遅さは相当なストレスになるだろう。
また文字入力以上に困りものなのが、同じキーを連続して打鍵したときの挙動だ。たとえば範囲選択しようとShiftキーを押しながら矢印キーを連打した場合、画面への反映がキー操作よりもワンテンポ遅れるため、ついつい余計に矢印キーを押しすぎて何文字か戻したり、追加したりといった操作が発生する。
同様にBackSpaceキーやDelキーによる文字削除など、同じキーを連打する操作では、画面への反映が遅れることから文字を消しすぎたり、あるいは消したつもりが何文字か残るといったミスがよく起こる。
これらの症状は、Windows PCでのテキスト入力中にバックグラウンドでなんらかのタスクが走っていて操作がおぼつかなくなるケースとよく似ている。原因がE Inkだけなのか、それともCPUやメモリにも関係しているのかは不明だが、従来のポメラにはなかったストレスだ。筆者はこれらの症状については、1週間あまりの試用期間では、最後まで違和感を払拭することはできなかった。
もう1つ、本製品のIMEはDM200に採用されていた「ATOK for pomera [Professional]」ではなく、「ATOK for pomera」が採用されているのも気になるところ。最初はとくに違いを意識しなかったのだが、使っているとふとした部分で「えっ、こんな一般的な語句が変換できないの」という現象に遭遇する。
たとえばこの原稿中にも何度か出てくる「打鍵」というワードは、DM200では一発変換できるのだが、本製品では一発で変換できなかった。もちろん一度変換すると学習されるほか、自分がよく使う単語ならば辞書登録すればよいのだが、まだ使い込んでいないうちは、意外なところで驚かされるケースは多そうだ。
E Inkであるメリットとは
ポメラが初登場したのは2008年で、まだiPadも登場していなかった時期だ。それに比べると現在はスマートフォンやタブレットにBluetoothキーボードを組み合わせてテキスト入力環境を整えられるほか、音声入力などといった別の選択肢もある。
こうしたなかで、本製品のメリットは、やはりフルキーボードによる快適な入力にこそあると筆者は思うのだが、今回のモデルはその基本性能の部分で、従来モデルと比較しての優位性があまり感じられない。キーボードの安定性やキー配置は、従来の折りたたみモデルから改善されているにもかかわらず、だ。
E Inkを採用したメリットが、実際に使っていて感じにくいのも気になるところだ。確かに従来に比べて目に優しいのはE Inkによるところが大きいが、たとえば従来モデルに比べて電池の持ちが圧倒的によくなったとか、本体が劇的に軽くなったとか、E Inkデバイスならではというプラス部分がない。
むしろそれよりも、タイプした内容が画面に反映されるまでに遅延がある、残像が表示される、ライトがないなどマイナス面が目立っており、従来モデルから買い替える意義を感じにくい。メモリ容量など細かい進化は見られるのだが、その多くはテキスト入力という“幹”の部分ではなく、“枝葉”にまつわる部分で、ふだん実感する機会があまりないのが残念だ。
ともあれE Ink電子ペーパーは、ユーザーが実際にふれて試せるのはKindleなどの電子書籍端末くらいしかなく、しかも文字単位や行単位で書き替えが発生する本製品とは用途がまったく異なるため、いざ挙動を比較しても参考になりにくい。
それゆえ本製品の購入にあたっては、本製品の実機を店頭でさわって(テキストの入力、削除、スクロールなどひととおりの操作を行なって)判断することを、個人的には強くおすすめしたい。
なお価格は約43,000円(税別)、実売価格は3万円台後半からといったところだが、発売直後に4万円台だったストレートタイプのDM200は本稿執筆時点でショップによっては3万円台半ばと、本製品とほぼ同じかやや安価なところまで下がっている。必ずしも本製品にこだわらず、ポメラというシリーズのなかで製品を選ぶのならば、こちらも合わせてチェックしておいたほうがよいだろう。