山田祥平のRe:config.sys

モバイラーの荷物はなぜこれほど多いのか

 デジタルを支えるフィジカルの重さは決して無視できるものではない。スマートフォンの重さ200g弱は、さまざまなものを犠牲にしてあらゆるデジタルを凝縮したものといえる。まさに究極の引き算がもたらした凝縮の美だ。そして、そこに200gのインパクトを許容するごとに、さまざまな付加価値がもたらされる。その200gをいくつ許容できるか。そこに魅せられた人類がモバイラーだ。

文字入力専用機としてのポメラのモビリティ

 先日、キングジムが発表した新型ポメラDM30は、スマートフォンとは真反対の引き算で仕上げた凝縮デバイスだ。乾電池込みで500g程度というのは8型画面のタブレットとBluetoothキーボードを合わせたよりも100gほど重いくらいだろうか。快適に文字入力ができる反面、それ以外の用途にはまるで使えないほど思い切って機能を切り捨てて完結させた文字入力専用デバイスだ。

 しばらくDM30を使ってみて、個人的には折りたたみのキーボードは、机のない会見や電車の中で膝の上で使うさいの、ちょっと不安定な感じが足を引っ張っていると感じた。でも、テーブルさえあれば申し分のない安定度だ。

 だったらと思って2年前に発売されたポメラDM200を試させてもらった。やっぱりストレートキーボードに薄型筐体は今でも十分に使いやすい。Wi-Fiに対応してテキストをメール送信できたり、Bluetoothキーボードとしても使えるなど機能としても充実している。ただし各種の接続がいちいち遅くストレスを感じる。画面サイズは7型TFT液晶で十分に明るく視認性は高い。だがDM30より80g分重いのだ。ここが微妙だ。

 本誌でも活躍されているフリーランスライターの大河原克行氏は、ポメラを極度に愛用していることで業界内でも有名だ。記者会見会場はもちろん、出張先、移動中の電車や飛行機の中、いたるところで原稿を書き続けている大河原氏の姿を見つけることができる。あの長い原稿を記者会見やインタビューが終わったあと短時間で素早く仕上げる秘密は、ポメラに強く依存していそうだ。

 聞くと、自宅やオフィスにおいても、ポメラで原稿を書いているという。同氏の愛用ポメラはすでに生産を終了したDM100だ。乾電池駆動でその総重量は430g程度というのはDM30より軽い。しかもストレートキーボードで使用中の安定感も申し分ない。

 ちなみにPCへの転送は意外にもSDカードを使っているそうだ。電車の中やベンチでデータを移行することが多く、接続の手間を考えずにPCを開いてカードを突っ込むだけで短時間でデータを移動できることが重要なのだという。現時点では後継機に移行する予定はなく、現行機が壊れても、未使用のポメラDM100がもう1台控えているという。

 最新のDM30についてはキーボードが意外にしっかりしているものの、電子ペーパーの反応が遅く、誤入力の訂正に表示が追いつかないのに不満を感じ、1分30秒使ってダメだと思ったとのこと。人それぞれこだわりがあるが、ヘビーユーザーである同氏のポメラ評価はことごとく説得力がある。

汎用機としてのスマートフォンとモバイルPC

 新旧のポメラは専用機として究極のデバイスだが、スマートフォンは汎用機だ。汎用機だからこそ、同じ汎用機としてのPCと比べたくなるし、あと200g足せばフルにWindowsが動くPCが、もう200g足せば画面がもっと大きくなる、さらに200g足せばもっとバッテリ駆動時間が長くなる……と、欲張ればキリがない。

 結局のところ、大河原氏のようにすべての環境において手足のように使えるデバイスとして、自分が求める要件を満たす最小限の機能を持ったものを選ぶか、大は小を兼ねる的に持ち歩ける限界のサイズ感でデバイスを選ぶか、あるいは、1つのデバイスに絞り込むのはあきらめて出かける用事に応じた複数のデバイスを揃えておくかだ。

 個人的にはマルチデバイス派だが、遅い遅いと多少の不満を抱きながらも、最も持ち出す回数が多いのはレッツノートRZ5だ。電車の中でも、記者会見、発表会会場でも、机の上でも膝の上でも使いやすく、800gに満たない通信機能つきのデバイスとして、大河原氏のポメラに対する思いと、きっと同じくらいの思いで使っている。あったらいいなと思うのはPD充電機能くらいだ。

 そして、RZ5では力不足に感じるときだけほかのPCを持ち出すことになる。場合によっては2台、3台のPC、外付けキーボード、さらには24型のディスプレイなどなど……。自宅や外出先のホテルでRZ5を使いたいとはまったく思わない。そこが大河原氏とは違う。

 今週末からの台北出張に備えて荷造りを始めているところだが、スーツケースにもろもろの荷物をパッキングしながら思うのは、マルチデバイス派はどうしても荷物が多くなるという点だ。1週間近い出張では期間内に異なるシチュエーションが混在し、適材適所でデバイスを使い分けるには機材を複数持ち出す必要がある。出張先のホテルでもまるで東京の自室でのように快適に仕事がしたいと思うと、どうしても荷物は増えていくことになる。

 ただ、逆に小物は減ったようにも感じている。以前は専用の小型ホテルルーターを持ち出したりしていたが、最近は、スマートフォンがWi-Fiをブリッジしてくれるのでその必要がなくなった。昔はプリンタまで出張に持ち出していたのだ。ポータブルのScanSnapを持ち出していた時期もあった。

 多くのデバイスがUSB充電に対応したために、個々の電源アダプタの持ち出しもいらない。複数個のポートを持つ充電器1つに数本のケーブルでことが足りる。この先、PD充電が当たり前になっていくだろうが、数十WのPDポートを複数個持つような充電器はどうしてもサイズ的に大きくなることは想像に難くなく、1ポートのPD充電器を複数個持ち出すくらいなら普通の電源アダプタでもいいかなと思ったりもする。スマートフォン数台ならともかく、PCまでまかなうとなると容量の確保はたいへんだ。とりあえず、今の課題はMicro USB機器をいかにうまく収束させていくかだが、もうしばらくは時間がかかりそうだ。

明日の手書きを夢みて

 デジタルトランスフォーメーションの時代だそうだが、トランスフォーメーションも何も、個人的には数十年前に紙のノートと縁を切った。発表会などでもらった資料もWebにあるとわかっているものはすぐに処分する。誤解を怖れずにいえば、せっかく紙とペンでの手書きを捨てたのに、なぜ、タブレットにペンで手書きすることに回帰するのかとも思う。

 ペンを愛用するユーザーは、手書きの効能をいろいろと話してくれるのだが、手書きメモのインクデータを文字データに変換しておくことはまずないと聞く。検索できないデータに意味があるのかとも思ったりする。検索できないデータはないのと同じだ。ただ、そのあたりは、時間とともに、解決されていくことになるだろう。そうなったときに考えればよいのだから、今のうちは深く考えずに、とにかく手書きでもデジタルデータにしておくというのがいいのかもしれない。

 まあ、そのうちScanSnapがデフォルトで手書き文字認識をしてくれるようになるのだろう。今、EvernoteとScanSnapの組み合わせでできているようなことがもっと自然で当たり前になる日はそんなに遠くないはずだ。そんな日がくれば、紙への手書きに戻るかというとそうでもない。キーボードを使った方が素早く大量の文字が書ける以上、モバイルデバイスは必須だ。メモ帳に手書きで140文字を書いて、それをスマートフォンのカメラで撮影して文字認識させてツイートするなんてことはやってられない。

 昔に比べれば荷物は減ったし、軽くもなった。かと思えば、スマートフォンを数台持ち歩いたりもするのだから自分でやっていてなんだかなとも思う。それが性なのだろう……。