大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

新ブランド投入から1年、マウスコンピューターのMouseProの現在、過去、未来



MouseProを手にする小松社長

 マウスコンピューターが、法人向けPCブランド「MousePro」をスタートさせてから、2012年2月でちょうど1年を経過した。「この1年間の取り組みを自己採点すれば90点。やらなくてはならないことはまだあるが、初年度にやり残したことはほとんどない」とマウスコンピューターの小松永門社長は、この1年の取り組みに自信をみせる。また、MousePro事業を現場で指揮する同社コーポレート営業部・金子覚マネージャーも、「コストパフォーマンスの高さ、性能の高さ、そして国内生産である安心感も、中小企業ユーザーを中心に大きな評価を得ている」と語る。MouseProのこの1年の取り組みを振り返るとともに、2012年の方向性を探ってみた。


●日本品質を打ち出す法人向け専用PC

 MouseProは、マウスコンピューターが、2011年2月に、法人向け専用の新たなPCブランドとして投入したものだ。

 「中小企業ユーザーを中心に、企業内で利用するために必要とされる信頼性を維持しながら、ハイパフォーマンスを実現することで、マウスコンピューターならではの特徴を発揮することを狙った製品。法人需要を満たす新たな製品ラインアップを用意した」と小松社長はその狙いを語る。

 従来の法人向けPCビジネスが特定領域を対象にした一括商談などが中心となっていたのに対して、MouseProでは、中小企業を中心に幅広い業種において、少数単位で導入してもらうことを狙ったPCとなる。

 スリムタワーPCの「MousePro-iS」、コンパクトミニタワーPCの「MousePro-i」、ノートPCの「MousePro-NB」をラインアップ。さらに、デスクトップ製品では、「with GPUシリーズ」として、CAD、CG、映像編集などに最適化した製品も用意した。2012年1月には、新たにサーバー製品の「MousePro-SV」を投入している。

MouseProシリーズ

 「購入者にアンケートをとると、MouseProの購入目的として既存PCの入替案件が多く、また製品の購入理由ではコストパフォーマンスで選択するユーザーが約6割。ハイスペックを評価するユーザーが約3割。国内生産、国内サポートなどによる安心感が約1割といった比率」と語るのは、マウスコンピューター コーポレート営業部の金子覚マネージャー。これを補足するように、小松社長は、「コストパフォーマンスという観点でいえば、ベースモデルでは他のベンダーと比較して、それほど価格差がないが、使える環境にまでBTOをしていくと、MouseProのコストパフォーマンスの高さが際立つことになる」と自信をみせる。同社が生産するiiyamaブランドのディスプレイとのセット販売も、価格優位性を高めることにつながっているという。

 またスペックという観点では、同社ならではの「尖った部分」(金子マネージャー)に対する評価が高い。

金子マネージャー

 「スリムタワーの筐体に、ドライブを2基搭載できるのはMouseProの特徴。2012年1月の結果では、SSD+HDDを選択するユーザーの比率は10%を超える」(小松社長)とするほか、「コンパクトミニタワーでは、80PLUS GOLD対応の700W電源に対応し、高性能ビデオカードの搭載をカバーできるなど、競合他社のミニタワーレベルのスペックを実現している。NVIDIA Quadro搭載製品も高い人気がある」(金子マネージャー)とする。

 そして、MouseProが評価されているもう1つの理由が、国内生産および国内サポートを実現しているという点だ。実際、「他社製品からのリプレースにおいては、国内生産であることを理由に入れ替えていただいた例もある」(小松社長)という。

 MouseProシリーズは、長野県飯山市の同社飯山工場で生産されている。生産ラインはMouseProシリーズ専用に別途設けられ、品質管理に対して最も厳しい生産ラインとなっている。昨年(2011年)、生産ラインを見学したが、検査工程を生産ラインの随所に入れるなど、企業が求める製品品質を維持するための工夫が凝らされているのが特徴だ。実際、MouseProシリーズの着荷不良率や年間不良率は、ほかの製品に比べても低いという。

 また、電話サポートなどのサービスについても、沖縄県沖縄市のコールセンターからサポート。修理や保守については埼玉県春日部市の拠点で対応する体制を確立している。そして、MouseProシリーズを購入後、コールセンターからユーザーに連絡をとり、不具合などが起こっていないかといったことを問い合わせる、いわば日本のメーカーならではの手厚いサポートも特徴だ。ここで得られた情報は、開発、生産、営業へとフィードバックされ、さらなる品質およびサービス向上へと繋げている。

 「MouseProシリーズに限らず、すべての製品でお客様の声を収集している。スタッフ全員が、お客様のお声に耳を傾けることを重要視しており、『声』の収集件数は前年比で倍増している。また、コールセンターへの対応評価についても社内でスコア化しており、このスコアは上昇している」という。

 小松社長は、「マウスコンピューターと聞いて、外資系のPCメーカーだと勘違いしていたという話もよく聞く。日本で生まれ、日本で生産し、日本でサポートしている、純国産PCメーカーであるということを、もっと知っていただく必要がある。日本ならではの品質を実現することで、安心して使っていただくことができる」と語る。


●積極的な展示会への出展やキャンペーン展開も
小松社長

 MouseProシリーズは同社が投入する従来製品とは異なり、法人ユーザーに限定した販売となっている。

 販売ルートは、同社インターネットサイトを通じた販売のほか、法人直販部門および同社ダイレクトショップでの販売、ディストリビュータを経由したシステムインテグレータなどによる販売。この1年間の出荷構成比は、5:3:2とネット直販が4割以上を占める。だが、最も構成比が低いパートナーを通じた販売も、主要ディストリビュータを通じた販売体制を確立。全国規模での販売網を擁するなど、重要な販売ルートの1つに成長している。

 「法人営業部門では、ディストリビュータや地域のシステムインテグレータと連携した展示会、地元商工会議所が主催するような展示会にも積極的に出展しており、2011年度は約60回の展示会、内覧会に出展した。2012年度については、週1回を超える頻度での出展を目指す」として、パートナーとの協業を強化する姿勢をみせる。

 この1年の間には、パートナーとの協業によって、市役所の入札案件を獲得するといった例も出ている。マウスコンピューターが得意する文教分野やネットカフェ、建築CAD関連などの案件に加えて、パートナーとの連携による幅広い業種への展開が今後、期待できよう。

 MouseProの製品は、現在、東京・秋葉原、大阪・日本橋の同社ダイレクトショップで常時展示されているが、それ以外はこうした展示会を通じて見ることができる。展示会の出展は、MouseProを直接訴求する場としても活用されることになる。

 現在、直販体制では、BTOモデルでも5営業日以内での納品を可能としている。さらに新たな技術が採用されるなど特定スペックのモデルに需要が集中すると判断した場合には、限定数量で即納モデルを用意。これらの情報は、週2回定期的に発行されるメールマガジンやMouseProのツイッターで告知される。

 こうした柔軟性を持った対応を可能としている点も、純国産PCメーカーである強みだといえよう。

 現在、マウスコンピューターでは、Windows XPユーザーやMouseProの国内生産品質を試されたいユーザーを対象にした「30日間返品・返金OKキャンペーン!」を行なっている。

 Windows 7 Professionalを搭載するMousePro全機種において、期間内にWindows 7の動作環境を検証できるというもので、3月20日までの注文分を対象に提供する。

 「Windows XPからWindows 7に乗り換えたいと思っていても、検証ができずに踏み出せないという法人ユーザーは多い。性能向上や効率性向上、セキュリティの強化という点ではWindows 7の方が優れているのは確か。少しでも後押しするキャンペーンになればと考えている」と小松社長は語る。


●法人向けに必要とされる機能を追求

 マウスコンピューターは、MouseProシリーズだけで、すべての法人ユーザーに対して製品を提供するとは考えていない。

 同社が提供するLUV MACHINESシリーズなどの製品も引き続き法人向けに提供するほか、「中には、G-Tuneシリーズをまとめて導入したいという文教市場のユーザーもいる」(金子マネージャー)という。

 小松社長は、「現在、法人向けのPC販売のうち、MouseProの構成比は約3割。これを、5割程度にまで高めたい」とするものの、「MouseProだけに、すべての法人需要を集約する考えはない」と語る。

 「個人向けを中心とする製品においても、法人ユーザーのニーズは当然ある。しかし、法人ユーザーが求める信頼性、安心感を提供することができる製品ラインアップが必要であるとの判断から、MouseProを用意した。5年間保証など法人向け専用PCだからこそ実現できる内容とし、個人向けPCによる法人需要を補完できるる製品と位置づけた」と続ける。

 2011年秋に投入したノートPCのMousePro-NBでは、初めて「MousePro」のロゴを本体に表示した。MouseProが、既存の製品ラインアップとは異なる法人向け専用PCであることを明確な形で示した格好だ。

 「個人ユーザーへの販売は今後も行なわない。個人ユーザーには、同様のスペック、価格でご購入いただける製品を別途用意している。法人向けに必要とされる機能、サポートを提供する製品として、MouseProは進化させたい」という。


●自己採点は「100点満点中90点」
MouseProのロゴ

 小松社長は、この1年間のMouseProへの取り組みを振り返り、「100点満点中90点」と自己評価する。

 「MouseProの品質に対する評価が高まっていること、主要ターゲットとした中小企業ユーザーから高い評価を得ていることに手応えを感じている」というのが90点の理由だ。

 「最初は1台だけ導入し、その後、5台以上まとめて導入するというケースが目立つ。法人からMouseProは安心して使えるPCだという評価をいただいている証」と、金子マネージャーは胸を張る。

 従来の製品では、50台以上の大口案件などが目立っていたが、MouseProでは中小企業ユーザーの導入が中心であり、結果として同社製品の導入ユーザー数の広がりにつながっているという効果も出ている。

 さらに、法人向け専用PCを投入したことで、「法人向けPCにはどんなことが求められているのか、それに対してどんなモノづくりをすればいいのかというノウハウも蓄積できた。これも初年度における大きなメリット」(小松社長)とする。

 一方で、マイナスとなった10点については、「法人向けビジネスにおけるMouseProの構成比を、もう少し高めたかった点」とする。

 それでも、当初計画通りの進捗をみせており、2014年度までに法人向けPCビジネスを倍増させるという計画に対しては「オンプランで推移している」(小松社長)という。今後も年率30%以上での成長を見込むことになる。


●2012年はMouseProの飛躍の年に

 では、2012年のMouseProのビジネスはどうなるのだろうか。

 小松社長は、「これまでの1年間が土台づくりの1年だとすれば、2年目は飛躍の年。これまでの取り組みを踏襲しながら、ビジネスをさらに拡大したい」とする。

 だが、「飛躍の年」と位置づけるものの、むやみにラインアップを拡大したり、販売網を急拡大するという考えはないようだ。

 「信頼性が高い製品を安定的に供給することが重要。事業を急拡大することで、製品品質を落としたり、サポート品質を落とすことは、逆にご迷惑をおかけすることになる」(小松社長)からだ。

 実際、新たに投入したサーバー製品も、もう少し早いタイミングでの市場投入を予定していたが、「サーバー製品として求められる信頼性、品質、サポート体制が完全に提供できるまで、リリースを遅らせた。妥協した製品は出したくない」という小松社長の強い意向を反映したものだ。

 そのサーバー製品は、現時点ではニュースリリースを出しただけで、広告宣伝などは行なっていないが、それでも初日から多くの問い合わせがあったという。この1年間のMouseProに対する評価がそのまま反映されたものだといってもいいだろう。

 一方で、NVIDIA Quadro搭載のモバイルノートや、タブレット端末の投入といったマウスコンピューターの独自性が発揮できる領域での製品投入も検討しているようだが、具体的な製品投入については現時点では未定だ。

 「MouseProについては、ハイスペックであることや拡張性に優れているという点にはこだわり続けてきた。これはMouseProの根幹でもある。この姿勢はこれからも維持していきたい」と小松社長は断言する。

 さらに、サービス面での強化をさらに図り、これを競合他社製品との差別化につなげていきたいと語る。

 「サービスメニューは一通り揃っていると考えているが、その内容をさらに強化していきたい。例えば、実修理時間を24時間以内に短縮するというのも、2012年の大きなテーマだといえる」という。

 MouseProにとって「飛躍の年」となる2012年の具体的目標を、「中小企業がPCを選択する際には、MouseProが検討対象機種の1つに選定されるような土壌を作りたい」と小松社長が語れば、金子マネージャーは、「企業向けPCのランキングに入る実績を獲得したい」と意欲をみせる。

 2年目に入ったMouseProがどんな「飛躍」をみせるのかが楽しみだ。