特集

今なおXPのサポートも行なうマウスコールセンター

~この3年半の取り組みと成果を聞く

 2010年11月、当時まだ運営から1年未満だったマウスコンピューターのサポートコールセンターを取材した。その際、マネージャーの佐藤謙氏は、今後の目標として「受電率85%」、「顧客満足度90点」といった指標を掲げていた。

 それから約3年半が経過し、その間には、Windows 8の発売や、Windows XPのサポート終了など、サポートに関連する非常に大きなトピックもあった。3年半前の目標は達成されたのか? また、取り組みや方針になんらかの変更はあったのか? 沖縄にある同センターを再び訪れ、話を伺ってきた。

沖縄県沖縄市にあるマウスコンピューターコールセンター

沖縄の地で24時間365日の運営体制を敷く

 まず、前回の記事でも取り上げているが、沖縄のコールセンターの業務内容などについて改めて紹介しておこう。

 同コールセンターでは、ユーザーからの電話問い合わせ全般に対応している。2010年当初はユーザーサポートのみを行なっていたが、その後現在までに、通販の受注、量販店からの納期などの問い合わせ、注文商品のメールによる問い合わせなどにも業務を拡大。また、iiyamaディスプレイや関連会社であるユニットコムの電話サポートも行なっている。

 沖縄で業務を行なっているのは、2010年1月の自社運営切り替え前までコールセンター業務を委託していたのが沖縄の企業だったからだ。その当時、佐藤氏は、マウスコンピューターでその委託先管理を任されていたが、ユーザーからはコールセンターの対応の姿勢に不満の声が挙がることが少なくなかった。というのも、委託先としては電話を受電する件数が達成目標とされていたため、数だけを追うこととなり、必ずしも応対の品質が満足行くものではなかったからだ。実際2008~2009年頃は、コールセンターの対応が理由で、評価を下げてしまったこともあったようだ。

コールセンターマネージャーの佐藤謙氏

 そこで、コールセンター業務を自社運営しようということになり、佐藤氏は自ら沖縄の地に赴き、その陣頭指揮にあたることを決意した。すでに、現場のスタッフとは過去の面談を通じて見知っており、問題があるのはスタッフの資質ではなく、ポリシーやマニュアル類の整備、そして現場監督者がいないことだと分かっていたため、その体制を改善すれば、事態は解決できるという見込みが佐藤氏にはあったのだ。その成果は、前回の記事にある通り、着実に生まれている。

 マウスコンピューターのコールセンターの特徴は、24時間365日運営している点だ。日中は仕事や学校などで電話できないというユーザーにとって、これは非常にありがたいだろう。また、受電率よりも品質の向上に重きを置くのも他のコールセンターとは違う点だと佐藤氏は話す。

 コールセンターでは、受電率、すなわち電話の繋がりやすさは重要な指標の1つだ。しかし、受電率を上げることは、対応を早く終わらせようとしてしまい、結果としてユーザーが問題を解決できないままに終わり、評判を下げてしまうことに繋がりかねない危険性を孕む。同コールセンターでは、上級スタッフがフロアを回ったり、電話をモニタリングして、雑な対応を行なうスタッフにはアドバイスしていくといったことや、入電してきたユーザーへのアンケート調査により、品質を数値化するとともに、高める努力を行なっている。この「応対品質」は、マウスコンピューター全社が企業目標として掲げる5つの品質の1つでもある。

雇用と業務体制

 前回の取材からの3年半で同センターのサポート対応人員は約25%増えた。研修中のスタッフも含めると約3割の増員であり、センターのフロアも拡張した。その大きな理由の1つが、マウスコンピューターコールセンターのサポートは、有効期限を設けていないところにある。どういうことかというと、PC本体のサポートについては、1年なりの無償保証期間が定まっているが、電話サポートについては、そういった期限がなく、例えばMicrosoftがサポートを終了したWindows XPに関する問い合わせであっても答えているのだ。

 そのため、業務を続ければ続けるほどに、コールセンターで対応する範囲は自ずと広がっていく。売れ行きも伸びているので、なおのことアフターサポートの量は増えていく。その増加量は、スタッフの拡充量を超えているとも言える。特にこの3月~4月は、XPのサポート終了に伴う問い合わせが一気に増加した。そういった状況の中佐藤氏は、人員を2割近く増やし業務量と応答率のバランスを取った。

 そして、XP関連の問い合わせが減った今、5月~6月の応答率は90%を超え、日中のコアタイムで95%を超えている。着信数は時間帯によって変動が大きいが、少ない時にやや暇が出ることを承知の上で、増えた時に取りこぼしがないようにしている。

コールセンターの様子
この奥の部分は、前回取材時は壁になっていたが、取り払い、机を置き、増員した
スーパーバイザーは、モニターでスタッフの受電の状況をリアルタイムで確認する。通話時間が長くなると、黄色や赤で表示される
主なPCは機材を置いておき、場合によっては実物をチェックしながら応対する

 一方で、研修体制も同時に強化しており、新人に対しては通常2週間~1カ月をかけて、応対やPCの基礎知識を身につけさせている。そして、業務内容を限定し、経験を積みながら、サポートや、量販対応などマルチに対応できる体制も順次構築している。

 また、研修を終え現場に配属されたスタッフに対しては、新たに独自のトラブルシューティングDBシステムを用意した。例えば、「起動しない」という事例でも、その原因の切り分け方法は6~7種類ある。しかし、これをスタッフの頭の中の知識、記憶だけに頼っていると、その全てを案内できない可能性がある。

 そこで、あらゆる事例を網羅したトラブルシューティングDBを2013年2月から構築し、1度の応対で解決、あるいは問題特定まで導けるようにした。ちなみに、このDBでは「起動しない」だけでも原因の切り分けが42種類ある。現在このシステムはコールセンターのスタッフが利用しているが、今年度中にもマウスコンピューターのサイトからもアクセスできるようにし、ユーザーが自身で問題の特定を行ない、電話をかけずとも、症状、原因が判明した状態で修理受け付けできるようにもしていくという。

トラブルシューティングの画面。内容は多岐に渡る

XPサポート終了やWindows 8の影響

 Windows XPサポート終了に伴う影響はどれほどだったのか? 3月~4月の問い合わせの内、実に15%程度がこの関連だった。その内容で多かったのが、やはり、このままXP PCを使い続けられるのかというものだった。

 Windows XPのサポート期限はとうに過ぎているが、マウスコンピューターコールセンターでは、それらに関する問い合わせにも引き続き答える。そして、PCメーカーとしては、セキュリティ的な理由で、買い換えを基本的に提案していたが、さまざまなリスクを説明した上で、ライセンス的には利用継続は可能と答えたのだという。

 ちなみに、2~4月の間で同センターでは全体で人員を約18%増やした。前述の通り、今では全体的な着信数は減ったが、今後の事業拡大も見越し、この人員は現在もそのまま確保している。

 Windows 8では、UIが大きく変わった。これに関しては、シャットダウンの仕方やデバイスマネージャーの起動方法など、非常に基本的な問い合わせが多かった。同社ユーザーは中級層が多いため、これは佐藤氏らにとって意外だったというが、事前に勉強会などを設けていたことで、比較的スムーズに解決できたという。Windows 8が出てからはすでに1年半以上が経過するが、サポート終了のタイミングでXPから8に乗り換えたユーザーも多く、今でもそういった基本的操作の質問は後を絶たないそうだ。

 もう1つ、この3年半で同社製品に起きた変化としては、法人向けの「MousePro」の立ち上げがある。法人顧客が増えたことによって、コールセンターでの対応に特に大きな影響は出たということはないが、当初はトライアルで無償で行なっていたリモート操作による対応が増えた。マシンが止まっては業務に支障が出るため、有償でも対応を希望するユーザーも少なくないという。

直近のベンチマーク結果は

 前回のインタビューの際、佐藤氏は、「受電率85%」そして「顧客満足度90点」を今後の目標にしたいと語っていた。結果として、現時点ではそのいずれも達成できていないことを率直に明かす。

 前述の通り、直近では受電率90%を超える日もあるが、半期ベースという期間で見ると、85%の目標をクリアできたのは、2012年の上期だけだった。これについて佐藤氏は、業務の増加に応じた人員配置をできなかったと、管理上の至らなかった点を内省する。

 顧客満足度については、同センターでは、実際に対応した顧客にアンケート調査を行ない、品質を数値化している。90点の目標に対し、2013年の下期の実績は84.8点だった。2014年上期については、もう少し下がるかもしれないと見ている。

 これについてはいくつかの理由があるが、一言で言うと、評価方法を自らより厳しくしたためだ。2010年10月のアンケート調査開始当初は、アンケート送付の実施を応対担当者の判断に任せていた。そのため、対応がある程度うまくいった時だけアンケートを送ることが増え、結果として高ぶれしていたのだ。これを、2013年からは、対応がうまく行ったかどうかに関係なくまんべんなく送るようにし、結果、必然的に以前よりもスコアが下がることになった。品質を高めるため、顧客からの厳しい声にも目を背けることなく、今後に活かしていこうという方針ゆえのスコア悪化なのである。

 もちろん、佐藤氏は厳しくしたから下がっても良いとは考えていない。受電率85%と顧客満足度90点は、引き続き目標として達成を狙っていく。

 例えば、後者については現在、「一次解決」を原則としているが、新人に対してはバックアップ体制を整え、オペレーター対応を常にモニタリングしている。その場での解決が困難な案件があれば、すぐに上位者に対応を引き継ぐ体制を構築した。

 アンケートの結果については、主なものを月次で取りまとめており、センター内で共有している。今回それを特別に見せて頂いた。例えスムーズに対応が行ってなかった場合でも、対応者が親身になって応対した結果、満足してもらえたという内容が少なくない。受電率だけではなく、品質向上にも注力していていったことが実を結んでいることが垣間見える。

 コールセンターというのは、唯一ユーザーとのやりとりが行なわれる部門である。ここがユーザーの受け皿となって、問題点を見いだし、解決に導き、それを関係各所にフィードバックしていくことで、会社全体の評価が向上していく。言わば、品質改善の司令塔的な役割を果たすのが、コールセンターの使命だと佐藤氏は考える。

 実際、コールセンターからの積極的なフィードバックにより、2013年は80件以上のフィードバックが開発現場へ吸い上げられた。2014年現在は既に90件以上のフィードバックが反映されており、製品品質の向上に寄与している。

 そのほか、今後のさらなる品質向上に向け、コールセンターに限らずマウスコンピューター全体での取り組みとして、現在約300名いるアルバイトスタッフを社員に登用する制度を7月1日から導入している。雇用制度、労働環境の面からも、スタッフの士気を向上させ、品質向上にも繋げる狙いだ。

 この3年半では、数値目標は未達に終わった。しかし、顧客満足度90点については、この下半期にも達成したいと、佐藤氏は今回は時期の目標も示してくれた。つまり、実現の目処は立っているということであり、これまでの取り組みに対する成果の現われと言っていいだろう。日本メーカーならではの、品質へのこだわりに今後も注目したい。

余談

 ちなみにこのインタビューは7月7日に行なわれた。その翌日はかの大型の台風8号が沖縄に最接近した日だ。筆者は8日に東京に戻る予定だったが、7日の午後には、那覇空港全体が翌日閉鎖となることが決定しており、1日ホテルに篭もって帰京を1日ずらすことを余儀なくされた。

 マウスコンピューターコールセンターでは、台風都市ということもあり、そこそこの量の非常食や防災品を常備するなどし、災害に対して備えている。

コールセンターに常備されている防災品や非常食

 しかしながら、数十年に1度と言われる規模の台風8号の影響は想像を超えていた。24時間365日を標榜しながら、運営を一時休止することは心苦しかったが、公共交通は完全に麻痺、そして車通勤スタッフが9割という中、運転できる状況では無かったため、佐藤氏は8日12時から9日9時までセンターを休止することをやむなく決断した。

 翌9日も、道路冠水による渋滞の影響等により、通常20分の道のりに2時間かかるなどの状況が発生していたが、スタッフはほぼ時間通りに全員出勤し、9時に営業を再開した。9日の営業は前日休業の影響を受けながらも、応答率90%で安定していたという。

 もちろんこの台風の影響を受けたのは同センターに限ったことでは無いが、この台風は筆者も個人的に体験していただけに、佐藤氏以下スタッフ達にエールを送りたい。

(若杉 紀彦)