大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
指名買い増え、売上前年比38%増のMousePro
~2018年の取り組みを金子部長に訊く
2018年3月12日 11:00
マウスコンピューターの法人向けPCブランド「MousePro」シリーズが、2011年2月の発売以来、7年目を迎えた。2017年の同シリーズの出荷台数は、業界平均を大きく上回る前年同期比38%増という高い成長を遂げ、好調な売れ行きをみせる。
「MouseProが持つコストパフォーマンスの高さと信頼性が市場に認知されはじめたこともあり、リピーターが増え、指名購入が増加している」と、マウスコンピューター コーポレート営業部の金子覚部長は、好調の要因を自己分析する。
手のひらサイズのMousePro C100シリーズや、防塵および耐落下衝撃を実現したの2in1タブレットMousePro P116Aなど、ユニークな製品投入も相次ぐ。2018年は、新市場領域への挑戦や、販売パートナー向けプログラムの導入など、新たな施策に積極的に挑戦する姿勢をみせる。
7年目を迎えたMouseProの動きを追った。
大幅な成長を遂げたMouseProブランド
マウスコンピューターのMouseProは、法人向けPCに位置づけられる製品だ。
最新技術をいち早く採用することで差別化を図るマウスコンピューターの製品群のなかで、MouseProは、長期間に渡って同一仕様の製品を調達したいという法人ユーザーを対象に製品化しており、国内生産、国内サポートによる高い品質の実現に加え、ニーズにあわせて細かいカスタマイズができるように設計。ビジネスユースに対応する堅牢性を実現する一方で、一部モバイルノートでは、バッテリ交換を可能にするなどのメンテナンス性の高さも特徴だ。
金子部長は、「MouseProは、2018年1月までの2017年度累計で、前年同期比38%増の出荷台数になっている。MouseProの発売開始から数年間は、認知度も低く、信頼性を感じてもらえるような実績も少なかったが、これまでの7年間の積み重ねによって、MouseProのコストパフォーマンスの高さや、信頼性の高さが認知されるようになってきた。壊れにくい、使いやすい、コストが低いという点で評価されており、その結果、リピーターが増え、指名購入されるケースが増加している。市場での認知の変化が、高い成長率につながっている」と語る。
当初は、試験的な導入に留まっていた企業において、高いコストパフォーマンスと安定した稼働実績を積み重ねることで、追加導入する企業が増加しているほか、300台規模の一括導入を行なう企業も出ている。また、数千台単位での導入を検討する大手企業の案件でも提案を求められる例が出てきたという。MouseProの認知度が着実に高まってきている証といえるだろう。
同社製品ページではいくつかの導入事例も公表している。
那須赤十字病院では、350台以上のMouseProシリーズが稼働。高い品質や日本国内からのサポート体制、柔軟なキッティングを評価して導入したという。
正木設計では、3D CADソフトの利用において、MouseProシリーズを選択。性能やコスト、サポートなどを比較したほか、業務に応じて選択できる機種数が広いことが選定の理由になったという。
3DCGを制作のStudio 51や、デジタルアニメーションの制作を行っているダンデライオンアニメーションスタジオでは、グラフィック性能の高さなどを評価して、MouseProシリーズを導入しているという。
販売パートナー経由での売上が拡大
MouseProの成長において、もう1つ見逃せない要素がある。それは、販路の拡大だ。
もともと、直販のイメージが強いマウスコンピューターだが、MouseProでは、販売パートナーの取り扱いが年を追うごとに増加。当初は約7割が直販であったが、2017年実績では、初めて過半数を販売パートナーによる間接販売が占めたという。
「これまでのMouseProの導入実績は、販売パートナーにも注目されており、長野県飯山市の本社工場を見学する販売パートナーの数は、前年の2倍以上になっている」(金子氏)。
人気女性アイドルグループを起用したテレビCMの効果もあり、ユーザーがマウスコンピューターを指名するといった動きが増え、これも販売パートナーがMouseProを取り扱う例が増える要因の1つになっているという。
「販売パートナーを通じた販売構成比が過半数になったことで、これまで以上に、全国をカバーする面展開ができるようになった」と、金子部長は語る。
2017年夏から、販売パートナープログラムの試行を開始しており、現在、十数社がこれに参加しているという。2018年度には、販売パートナーとの協業がさらに強化されることになりそうだ。
ラインナップ拡大や独自のBIOS拡張
製品ラインナップの拡張にも余念がない。
なかでも注目されるのが、手のひらサイズのMousePro C100シリーズだ。オフィスでの利用のほか、デジタルサイネージや受付端末などの用途を想定した製品として投入したが、発売後は、製造現場での作業マニュアルの表示用途やシンクライアント用、あるいはロボット制御用などの商談が始まっているという。「まだ評価段階での導入が多いが、その広がりが大きく、出荷台数は予想以上になっている」とする。
液晶ディスプレイのVESAマウントに対応し、HDMIポート接続による4K動画サポートやHDMI接続した端末との電源連携のほか、Gigabit Ethernet搭載により、有線接続をしたいといったニーズにも適している。
さらに、「Wake on LANによるネットワーク経由での電源起動のほか、BIOSレベルでのさまざまな機能を追加しているのが特徴であり、指定した時間での電源起動や、USB接続したキーボードやマウス操作によって起動できる機能を用意。サイネージ利用の際にも、手軽に起動させることができる」とする。このように、具体的な利用シーンを想定した機能の搭載にもこだわっている。
モバイルワークステーションのMousePro NB9も注目を集める製品の1つだ。同製品は、Quadro P3000を搭載した15.6型ディスプレイ搭載モデルであり、発売以来、従来モデルに比べて、1.5倍以上の販売実績を達成しているという。
「3D CADや3D CGを、客先に持ち込んでプレゼンしたいというユーザーからの評価が高い。GPUによるグラフィック性能の高さや、バッテリ駆動時間を大幅に伸ばしたことが評価されている」とする。
サーバー製品のMousePro SVシリーズでは、ユーザーの要求仕様にあわせたカスタマイズ対応の広さとともに、Windows Server 2016と、最新Xeonプロセッサを搭載することで、大幅な進化を遂げた。
一方で、製品化の遅れに反省
このように製品ラインナップを強化してきたマウスコンピューターだが、金子部長は、「2017年の製品ラインナップに関していえば、自己採点は30~40点のレベルに留まる」と手厳しい。
その理由は、なにか。
金子部長は、当初計画に比べて、2つのタブレットPCの投入が遅れたことをあげる。
その1つが、先頃発表した2in1タブレット「MousePro P116A」である。11.6型の液晶ディスプレイを搭載し、360度の液晶開閉を実現。IPX5準拠の防塵と、高さ75cmからの落下にも耐えられる耐衝撃設計を施し、10時間のバッテリ駆動時間を実現したモデルだ。
「耐久性を重視した結果、当初予想よりも時間がかかってしまった。できれば、2017年中に発売したかった」と振り返る。だが、教育分野を中心に、大型商談も始まっており、出足は好調だという。
もう1つは、LTEモデルの投入だ。これは、MouseProでは現時点では製品化されていないが、すでに、コンシューマ向け製品でLTE対応モデルが出荷開始になっていることを考えると、MouseProシリーズでも、2018年度上期には発売される公算が高いといえるだろう。
「働き方改革の動きのなかで、LTEモデルに対する関心が高まっている。現在、他社の製品ラインナップを見ても、LTEモデルが減っており、法人向けのMouseProシリーズにLTEモデルを用意することで、こうしたニーズを取り込みたい」とする。
このように、マウスコンピューターでは、MouseProのラインナップ強化によって、幅広い法人ニーズに対応していく姿勢をみせる。
DAIV、G-Tuneも法人向けに積極訴求
MouseProシリーズは、マウスコンピューターの法人向けPCブランドであるが、同社の法人ビジネスを捉えた場合、MouseProだけで捉えるのは適切ではない。
たとえば、2016年2月からスタートしたクリエイター向けPCブランドの「DAIV(ダイブ)」、ゲーミングPCブランドの「G-Tune」も法人向けビジネスの重要な製品群だからだ。
「クリエイター向けといった場合にも、MouseProとDAIV、G-Tuneの3つの選択肢がある。プロダクトライフを長めに設定したいという場合には、MouseProが適しており、拡張性や柔軟性を重視するのであれば、ATX規格のケースを採用し、ストレージの増設などが行ないやすいDAIVが適している。また、イベント会場やネットカフェへの導入、VR用途などに利用する際には、G-Tuneが最適な提案になるケースが多い。
これらの3つの製品は、部品は共通のものを利用していても、違う顔で、違う価値を提供できる。これによって、マウスコンピューターの法人向けビジネスを構成している。もちろん、一部領域でターゲットが重なる部分もあるが、むしろ複数のブランドを持つことで、クリエイターに対して、多くの選択肢を提供できる」とする。
DAIVも、MousePro同様に、法人向けビジネスでは、前年同期比約7割増という成長を遂げており、同社の法人向けビジネスをドライブしている重要な製品だ。
2018年の取り組み
では、7年目を迎えた2018年のMouseProは、どんな取り組みを行なうのか。
金子氏は、「2018年は、MouseProにとって、さまざまなことに挑戦する1年になる」と宣言する。
1つは新たな市場への挑戦だ。
具体的には、2in1タブレット「MousePro P116A」を軸にした教育分野への取り組みとなる。
これまでにも、ゲームやCGなどのクリエイター系の学校への導入実績あるが、小学校や中学校への導入実績は少ない。
「まずは、教育関連イベントへの出展を通じて、教育分野のエンドユーザーに直接アプローチしたり、教育分野に強い販売パートナーとの連携を図りたい。私立の小学校、中学校を対象にした活動も行ないたい」とする。
MousePro P116Aでは、すでに、教育分野から、数百台単位での商談が複数出ているという。「2018年中には、いくつかの導入実績を公開できるところにまで持っていきたい」と意気込む。
2つめは、販売パートナーとの協業による面展開の強化だ。
先に触れたように、すでにパートナープログラムの試行を開始しており、この実績をもとに、2018年以降、本格的なパートナープログラム導入につなげることになりそうだ。
そして3つめはサービス体制の強化である。現在、MouseProの場合は、翌営業日のオンサイトサポート体制としているが、これを、2018年中には、当日対応のオンサイトサポート体制確立に向けた足がかりを作る考えだ。
「特定のユーザーに限定したかたちになるのか、特定エリアに限定したかたちになるのかは未定だが、なにかしらのかたちで当日オンサイトサポートが実施できる方向で検討をしている。これも新たな挑戦の1つになる」とする。
4つめには、さらなるラインナップの強化だ。とくに、働き方改革の進展とともに、薄型、軽量ながらも、高性能を実現したノートPCに対するニーズが高まるなかで、MouseProならではの特徴を生かした製品づくりにも挑戦したいという。
また、クラウドの浸透とともに、「所有」から「利用」への流れが加速するなかで、MouseProシリーズをサブスクリプションモデルとして提供したり、動産保険と連動させたサービスの提案など、新たな仕組みづくりを検討する姿勢もみせる。
さらに、2020年1月のWindows 7の延長サポート終了まで、2年を切ったことから、それに向けたWindows 10への移行支援も、2018年から本格化させる考えだ。
「MouseProユーザーの多くが依然としてWindows 7を利用している。それらのユーザーに聞くと、Windows 10の頻繁なアップデートに対する懸念の声があがっている。だが、最新のOSに移行することが、生産性を高め、セキュアな環境の実現に直結することを積極的に訴求し、Windows 10への移行提案を行なっていきたい」とする。
MouseProでは、2017年9月に、Windows 7へのダウングレードサービスを終了させ、Windows 10への移行を促進する姿勢を明確にした。さらに、期間限定で、新品購入時の古いPCの下取り価格を通常の1,000円を、2,000円に引き上げ、新たな環境への移行を促している。また、今後は、データ移行ツールを開発するメーカーとの協業によって、Windows 10へと移行しやすい環境を提案することも考えていくという。
法人ユーザーにとって、今後2年間は、Windows 7からの移行が重要なテーマになる。マウスコンピューターでも、移行支援については前向きに取り組んでいくことになる。
このように、2018年のMouseProは、これまでにないさまざまな取り組みを開始することになる。2016年から開始した著名人を起用したテレビCMによって、マウスコンピューターの認知度は一気に上昇。これが法人向けビジネスにもプラスになっている。そうしたなかで、次の一手に果敢に挑戦し、新たな成長を目指すのが、2018年のMouseProの戦略となりそうだ。