大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
FCCLが2つの「世界初」PCを発売した狙いはなにか
~齋藤社長に新体制から半年の成果を聞く
2018年11月19日 13:30
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、2つの「世界初」のPCを発売した。
1つは、13.3型ノートPCとしては、世界で初めて700gを切り、世界最軽量となる698gを達成した「LIFEBOOK UH-X/C3」。もう1つは、世界で初めて、BS/CS110度4Kチューナ搭載一体型PC「ESPRIMO FH-X/C3」である。2つの「世界初」は、2018年5月から、レノボグループ傘下で新たなスタートを切ったFCCLが、引き続き挑戦する姿勢を持っていることを世のなかに示す製品になったともいえるだろう。
2つの世界初の製品はなぜ生まれたのか。そして、新生FCCLがスタートして半年を経過したいまはどうなっているのか。FCCLの齋藤邦彰社長(以下、敬称略)に聞いた。
――富士通クライアントコンピューティングは、今年の秋冬モデルで、「世界初」となる2つのPCを投入しました。この2つの「世界初」は、どんなインパクトを市場に与えると考えていますか。
齋藤 富士通はこれまでにも「世界初」あるいは「世界一」というPCを数多く世のなかに投入してきた経緯があります。しかし、それらを振り返ってみると、そのときには話題を集めていたり、新たな方向性を打ち出したりしていても、その後の大きなトレンドになったものが、一体どれぐらいあるのかというと、反省すべき点があります。
本質的なところを捉えると、それが、ユーザーがほしいというものになっていたのだろうかということです。プロダクトアウト型ではなかったのだろうか。「人に寄り添う」PCや、「ヒューマンセントリック」なPCになっていたのだろうか。
今回の新製品は、そうしたコンピューティングが担うべき本質に立ち返って開発した製品です。ですから、これまでの「世界初」とは意味合いが異なります。
13.3型ノートPCとして、世界で初めて700gを切った「LIFEBOOK UH-X/C3」は、働き方改革という流れを捉え、それを実現する上で、しなくちゃいけない、あるいはしたいということに対して、しっかりとした回答を届けることができるモノづくりを目指しました。たとえば、いつでも、どこでも使えるPCを実現するための要素はなにか。その答えの1つが、世界最軽量の698gということになります。
記者会見の場でも、「中身が入っていないぐらい軽い」という声が出ていましたが、このPCを渡されれば、誰もが、これならば外に持って歩けるという気持ちになります。しかも、生体認証などによって、セキュリティも簡単で、それでいてこれまで以上に強化されています。I/Oポートも妥協を許さず、有線LANにも接続でき、USB Type-Cも搭載するなど、必要なものはすべて搭載。堅牢性もさらに強化しています。
しかも、音にもこだわりました。音へのこだわりは不要ではないかという人もいますが、テレワークが増えて、社外から会議するときに必要な音質が求められますし、自由に持ち運べるので、小さな会議室などに持ち込むことが増え、PCからそのまま音を出したいという用途も想定されます。ですから、音にもこだわりました。
こうしたユーザーがやりたいということを支えるPCとしてさらに進化したのが、今回の新製品です。これによって、「世界一」や「世界初」ということに意味が生まれ、継続的な流れを作ることができると考えています。
――その考え方は、世界初で初めて、BS/CS110度4Kチューナ搭載一体型PC「ESPRIMO FH-X/C3」でも同じですか。
齋藤 基本的な考え方は同じです。富士通は、テレパソと言われた時代や、地デジへの転換期にもそれに対応した製品を投入してきました。今回も、2018年12月1日からはじまる「新4K8K衛星放送」にあわせて、BS/CS110度4Kチューナ搭載モデルを、いち早く投入しました。
ただ、これも、世界初というところだけを目指したのではなく、個人の時間を充実したいというニーズが高まるなかで、それを楽しむ空間を、実現するためのPCとはなにか、ユーザーが本当に欲しているものを、満足するレベルで提供するにはどうするか、という考え方が根底にあります。
人生100年時代を迎え、オフワークの時間が増えると、当然、個人の時間が増え、その時間を充実させたいというニーズが出てきます。また、若い人たちも、自分の時間を大切にしたいという流れが顕著にみられています。そうした潮流を捉えたモノづくりを進めた製品です。時間を充実するための固定した場所を作ることを目指したのが、ESPRIMO FH-X/C3であり、それとは対照的に、いつでも、どこでも、やりたいことを実現するための空間を提供するのが、「LIFEBOOK UH-X/C3」ということになります。
今回の2つの「世界初」のPCを通じて、使う人が満足を得るためのPCを作っていくという姿勢を、より明確に打ち出しました。これまでのPCは、「なんでもできるので、あとは自由に使ってください」ということが多かったといえます。この2つの新製品は、その姿勢のままでいいのか、という問いかけを業界内に対して行なっていきたいとも考えています。
もともとPCの機能をもとに派生した製品は数多くあります。それはこれからも変わらないと思います。しかし、そうした流れを継続するためにも、単にPCを安く提供するだけではなく、価値はどこにあるのか、本質はどこにあるのかを捉えた製品を出し続けることが大切です。
マーケティングチームには、ユーザーが本当にほしいものはなにか、それに沿った製品になっているのか、それであれば、そのポイントをもっと語れということを何度も徹底しましたし、開発チームに対しては、世界初や世界一を目指すのであれば、絶対に不具合を出さないことに加えて、そこにストーリーがあることが大切だということを徹底しました。
世界一を目指すというのは、私自身が開発を担当していた2000年初頭からつねに目指してきた流れですが、そこにストーリーがないからサスティナブルにならなかったという私自身の反省でもあります(笑)。
――今回の2つの「世界初」のPCには、共通して「X(テン)」という冠を付けました。この狙いはなんでしょうか。
齋藤 最高のものであるということを意味しました。これまでの最上位は9でしたから、それを上回るものであるという意味も込めています。ただ、それは「世界一」や「世界初」という、独りよがりな部分での最高のものという意味ではなく、満足を提供するという点での最高という意味です。「自分の時間を、最高に高めるパソコン」が、「X」が担う領域です。ユーザーの満足を得られなくては、「X」という冠をつけた意味がないと考えています。
――2018年5月にレノボグループの傘下で、FCCLがスタートして、ちょうど半年を経過した時点で、2つの「世界初」のPCを投入したことにも大きな意味があると感じます。
齋藤 FCCLが新たなスタートを切った時点で、我々の強みは、自ら開発、製造、販売、サポートの体制を持ち、それを日本国内で展開している点にあると宣言してきたわけですが、それを具体的な製品として示すことができたといえます。
698gのノートPCや、4Kチューナ搭載PCは、日本に開発、製造拠点がなければできなかった製品です。国内で一貫した体制を持っているPCメーカーは稀な存在になりつつあります。この体制があるからこそ、ユーザーが望むものに近づくことができます。FCCLだからこそできた製品であると、自信をもって言い切ることができます。
――ちなみに、2017年7月に、齋藤社長にインタビューしたさいに、「これからも、軽量ノートPC世界一の座は譲らない」と宣言していました。それはこれからも変わりませんか。
齋藤 はい、それは変わりません。世界最軽量は、FCCLの代名詞にしたいですね。748gの「LIFEBOOK UH75/B3」も、最初はすごい軽いと思いましたが、今回の698gの「LIFEBOOK UH-X/C3」を持つと、それが重く感じてしまうんですよね(笑)。50gの差はすごいなぁと。このように、人が求めるものは進化していきますから、私たちも世界最軽量の維持に向けて、あくなき追求を続けていく必要があります。
さらなる軽量化に向けては、我々の努力もありますが、新たな技術や素材の登場といったことも後押ししてくれるでしょう。軽量化への挑戦はまだまだ続けていきます。そして、世界最軽量の座は譲りません。
――新生FCCLが、2018年5月にスタートしてから半年を経過しました。どんな半年間でしたか。
齋藤 今回の新製品を見ていただいてもわかるように、これまでどおり、日本で開発、生産、販売、サポートの一貫体制を持つFCCLだからこそ投入できるPCを、継続的に作り続けることには変わりがありません。それを証明できた半年間だったといえます。
ただ、ワールドワイドの視点を持つことや、実行するスピード感といったものは、変えていく必要を感じています。優れたハードウェア技術やソフトウェア技術を持つ世界中のパートナーと一緒にやるという視点をもっと持たないといけません。
一方で、FCCLのポジションはどうあるべきか、ということも認識できた半年間だったともいえます。言い方を変えると、世界一の規模を持つPCメーカーと一緒になったことで、改めて、FCCLの良さや強みを認識ができたともいえます。
たとえば、エンジニアがお客様のもとに出向いて、要望を聞いて製品化するという手法は、あまり多くないやり方だということが改めて理解できました。FCCLは、生保向けや教育分野向けのPCやタブレットを製品化していますが、これはそれぞれの業界のお客様の声を聞いて作り上げたものです。その結果、それぞれの分野で圧倒的なシェアを持っています。また、日本のエンジニアならではのこだわりが強いモノづくりが強みであることも再認識しました。今回の最軽量への取り組みも、最後まであきらめずに実現したものです。
じつは、発表1カ月前の10月上旬の時点の社内会議で、698gの数字をカタログに載せられるかどうかについて、揉めに揉めました。しかし、エンジニアはやると決めて、698gを達成してみせた。こうした強いこだわりを持った開発体制はFCCLの強みです。
――今回の2つの新製品には、レノボグループ傘下になったことでの成果は反映されていますか。
齋藤 最初のメリットは調達面での効果ですが、今回の新製品では、そのメリットはまだありません。設計、開発も現時点では、レノボグループとは、まったく別の体制として動いています。
――顧客の要望を聞いて製品化する手法を用いるFCCLと、大量生産で安いものを提供するレノボの手法にはかなり違いを感じますが、モノづくりの融合や、文化の融合は図れるのでしょうか。
齋藤 現時点で、どちらかのやり方にあわせる必要はないと考えています。FCCLのお客様とのつながり方は、長年をかけて構築したものであり、1年や2年で成果をあげなくてはならないビジネスのやり方とは異なります。
マラソンと400m走との比較にたとえられるかもしれませんが、FCCLと日本のお客様との関係は、マラソンと同じです。ただ、マラソンを走りながら、ときには400m走を走れる体制が作れれば、それはすばらしいと思います。400mを走って、怪我をしたら意味がありませんが(笑)、400m走のいいところを取り入れることができれば、FCCLはもっと強くなるでしょうね。そこに、進化の余地があるということも、この半年でわかりましたね。
富士通ブランドのPCという観点でみると、この半年間は、PCビジネスを強化するのか、それともPCビジネスを諦めたのか、という対極の見方がありました。私たちは、これまで積み上げてきたものには自信があります。それをベースにして、お客様に受け入れられるものを出していくことに変わりはありません。むしろ強化していく姿勢を見せたいと考えています。それが、今回の新製品の投入にもつながっています。
――FCCLでは、「Computing for Tomorrow」と呼ぶ新規事業創出プロジェクトを行なっていますが、この進捗はどうですか。
齋藤 ここは400m走のスピードで走りたい領域ですね(笑)。ただ、どうしてもある程度完成してから出したいというやり方が定着していますから、なかなかスピード感を持って市場に出すことができないという反省があります。2018年度中には、文教分野向けエッジコンピュータの「MIB(Men in Box)」と、新たな電子ペーパーの2つの製品を、Computing for Tomorrowの成果の第1弾として投入することができます。これも、エッジコンピュータだからすごいというのではなく、何ができるのかというところを重視したものになります。ぜひ、期待をしていてください。
――2019年以降に向けてはどんなことを目指しますか。
齋藤 これまでと基本姿勢は変わりません。この半年間を振り返ると、次のステップに向けた土台をつくり、出発に向けた安全点検ができ、いよいよ走りはじめる準備が整ったといえます。レノボグループという武器を生かすこともこれから大切になってくるでしょう。また、「人に寄り添う」コンピューティングや、「ヒューマンセントリック」なコンピューティングの開発に、使命感を持って取り組んでいきます。これをやるのは我々が最後の砦であるというぐらいの意識で取り組みます。
これからも、「世界初」や「世界一」という製品は作り続けますが、そこで感じてもらえる「Wow!」という驚きは、実用面における驚きでなくてはいけません。そうしたFCCLのモノづくりに注目してほしいですね。