大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通は世界最軽量の座は絶対に譲らない

~FCCL・齋藤社長に2017年度のPC事業方針を聞く

13.3型ノートPCとしては世界最軽量の761gを実現しLIFEBOOK UH75B1

 富士通のPC事業が、富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)として、2016年2月に、分社化してから約1半年を経過した。「尖った商品が登場し、富士通のPC事業が元気になってきたという声を聞くようになった。そして、社員の自主性や積極性も出てきた」と、同社の齋藤邦彰社長は、分社化以降の変化に手応えを示す。

 尖った商品の代表が、2017年2月発売した「LIFEBOOK UH75/B1」。13.3型ノートPCとしては世界最軽量の761gを実現。「これからも、軽量ノートPC世界一の座は譲らない」と齋藤社長は意気込む。統合を前提としたレノボとの事業提携の話が進むなかでも、富士通のPC事業は、独自の強みを発揮しながら、事業を成長させている。これまでの1年半における取り組みと、2017年度の富士通のPC事業の方針について聞いた。

分社化後、社員に積極性が生まれる

齋藤邦彰社長

--2016年2月に、富士通のPC事業が分社化し、富士通クライアントコンピューティングがスタートしてから、約1年半を経過しました。この間、なにが変わりましたか。

齋藤 富士通クライアントコンピューティングへのPC事業の分社化は、富士通のPC事業にとって、いい刺激になったと考えています。社員には、自主性や積極性が、これまで以上に見られるようになっています。手前味噌な言い方ですが、富士通の社員は本当に優秀だということを改めて感じていますよ(笑)。

 もちろん、法人向けPC需要を中心に、PC市場が堅調だということもありますが、それを差し引いても、事業成長の手応えを感じています。現場でも顧客の声をしっかりと拾い、商品企画に反映させ、それをきっちりと作り上げ、市場に投入することができています。しかも、それが従来の延長線上の商品ではないこと、顧客の要望を反映した特定の使い方に特化した商品であることが特筆できます。

--具体的にはどんな商品が挙げられますか。

齋藤 法人向けでは、文教分野や保険分野向けのノートPCやタブレットが挙げられますし、コンシューマ向けでは、世界最軽量を実現したLIFEBOOK UH75/B1や、狭額縁を実現した一体型PCの「ESPRIMO FH」シリーズなどが挙げられます。これは開発、設計、製造を自分たちですべてできるという体制を持っている富士通だからこそ、実現できるものだと言えます。

 しかも、大きく変化したのは、これらの商品が、単にスペック優先で作られたものではなく、実際に利用する現場のことを考えて作られている点です。ノートPCは、軽いということだけを追求するのではなく、軽いものを持ち歩いたさいに、セキュリティをどう確保するかということにもこだわり抜いています。CLEARSUREを搭載し、万が一紛失した場合にも、リモートでデータが消去できるようにしている点も、モバイル環境で使う身になって商品企画を行なった成果だと言えます。

CLEARSURE

 また、文教分野向けのタブレットも、実際に教育現場に出向いて、そこからのフィードバックを得て、商品化に繋げており、まさに現場で使う人たちのために商品づくりを行なった結果、生まれたものです。滑りにくいSchool Gripや、落下時などに衝撃を吸収するSchool Faceなどを採用しているほか、重心を本体手前側に置くことで、机からはみだした形でタブレットを置いても、机から落ちにくい設計にしています。

 日本の教室の机は、教科書やノートとともにタブレットを置くと、それだけで一杯になってしまい、タブレットを落としてしまう児童や生徒も少なくありません。こうした教育現場の実態を見ながら、商品企画を行なっています。

--分社化してから、自主性や積極性が強くなった要因はなんですか。

齋藤 自分たちでやろうという意識、あるいは自分たちならばできるという意識が強くなったことだと言えます。分社化したことで意思決定のスピードが速まっていますし、それによって現場もすぐに動き出すことができます。仕組みが変わったことで、社員の意識や姿勢にも変化が出てきています。

社員に言い続けた2つのこと

--この1年半に渡って、齋藤社長は、社員に対してどんなことを言ってきましたか。

齋藤 1つは、とにかくカスタマフォーカスに徹するという点です。顧客の声を直接聞いて、それをいち早く、どれだけ多くの商品に反映させられるかといったことにこだわっています。

 じつは、2017年6月1日付けで、富士通の販売子会社である富士通パーソナルズにあった量販店およびWebを担当する営業組織や、コールセンターを担当する合計約180人を、富士通クライアントコンピューティングに異動しました。これも量販店などの声を吸い上げて、商品企画にダイレクトに反映させるという取り組みの1つです。

 コンシューマ向けPC市場は低迷していますが、コンシューマ向けPC事業をやっているというのは、むしろ、我々の強みになると考えています。コンシューマ市場には、さまざまなユーザーがおり、イノベーションが起きやすい環境にあります。このイノベーションが将来の法人向けPCの標準的機能になるということは、何度も繰り返されてきた歴史です。また、新たなものに挑んでいくという点では、コンシューマPCは重要でありますし、それらのトレンドや機能を、いち早く取り込んでいくためにも、量販店からの声を直接吸い上げる体制は不可欠です。

 今、コンシューマPC市場で感じているのは、買い換えサイクルが長期化し、需要も落ちているが、しっかりしたものを購入したい、使いやすいものを購入したい、あるいは心地いいものを使いたいというユーザーが増加しているという点です。15万円以上の価格帯の商品は、前年実績を上回っているというデータもあります。実際、当社のデスクトップPCも、もっとも高価格帯の商品が一番の売れ筋になっています。白物家電もそうですが、付加価値の高い、高価格帯の商品に人気が集まっています。こうしたユーザーニーズの変化は、富士通が強みを発揮できる、いわば得意領域の世界に入ってきたとも言えます。その流れをしっかりと捉えたモノづくりをしていきたいと考えています。

 そして、2つ目は、既存ビジネスは重要ではあるが、それとともに次の「種」を見つけることにも力を注いでほしいといっています。社内では、新規事業創出プロジェクト「Computing for Tomorrow」をスタートさせており、ここでは、PCやタブレットといったこれまでの延長線上とは違う商品の創出に挑んでいます。なかでも、文教分野向けエッジコンピュータの「MIB(Men in Box)」では、すでに発売している教育向けタブレットと組み合わせて、「Smart Room Solution」としての提案を進めていく考えです。教育現場での課題解決のために、これまでの文教分野向けコンピュータとは異なる提案を行なっていきます。

エッジコンピュータの「MIB(Men in Box)」

--この1年半で、富士通のPC事業に対する評価は変わってきましたか。

齋藤 もしかしたら、1年半前には、分社化によって、富士通のPC事業が、どうなってしまうのかといった不安があったかもしれません。その点では、今は少し違う評価が出ていると感じています。「昔のように尖ったモノがまた出はじめた」といった声や、「元気になってきた」といった声もいただいています。

 また、法人ユーザーには、国内での設計、開発、生産体制を背景に実現している柔軟なカスタマイズ対応への認知が広がり、「これだけ顧客の要望を反映してくれるのは富士通しかない」という声もいただいています。量販店においては、店舗内で一番の売り上げ構成比を占めているのは依然としてPCであるという店舗も多く、それらの店舗からは、売り上げへの貢献度に加えて、利益への貢献度も高まり、その背景には富士通の付加価値戦略が原動力になっているという声も出ています。このように富士通のPC事業に対する評価が変化していることは感じます。

--1年半の取り組みは合格点ですか?

齋藤 富士通のPC事業は、2016年度は黒字化しました。2017年度もその方向で走っています。しかし、PC市場全体が良くなっていることを考えると、成長するのは当たり前ですし、合格点だと胸を張って言うわけにはいきません。まだまだやることはあります。

--やり残したことはありますか。

齋藤 これは個人的な感覚でもあるのですが(笑)、1つ挙げるとすれば、Computing for Tomorrowの成果をもっと早く出したかったというところでしょうか。ハードウェアメーカーの発想ですと、どこから見ても非の打ち所がない完成系に持って行ってから、商品を市場投入することになるのですが、Computing for Tomorrowでは、ある程度の完成度まで到達したら、PoCでもいいので出してみて、そこからフィードバックを得て、改善を加え、それを複数の流れを作りながら完成度を高めていくといったような、いわば、アジャイル的な動き方が適していると考えています。ただ、これまでにも早く出し過ぎて失敗に終わったという経験もしていますから(笑)、そのあたりのさじ加減は非常に難しいところもありますね。

2017年度に取り組む3つの重点戦略とは

--2017年度は、すでに第1四半期が終了しましたが、どんなところにPC事業戦略のポイントを置いていますか。

齋藤 1つは、既存のPC事業において、需要に対してしっかりと商品を供給していくという点です。Windows XPの延長サポートが終了したのが、2014年4月であり、2013年度には特需と言える状況となりました。その買い換え需要がすでにスタートしています。2013年度のような特需は想定していませんが、法人の買い換え需要が変化しても、柔軟に対応できる供給体制を構築していくことに力を注いでいます。ここにはWindows 10搭載PCでリプレース提案していくことになります。

 2つ目は先にも触れたComputing for Tomorrowの成果を、2017年度中にはなにかしらの形で出したいという点です。5cmでも、10cmでもいいから滑走路から飛び立ちたい(笑)。この成果が、さらなる価値を提供できるかどうかの試金石になります。大きな石を動かしたいと思っていても、それがまったく動かない石なのか、それとも、少し動かすことができて、これならいけそうだという手応えを感じることができるのか。そうした意味でも重要な1年だと言えます。市場に問うことを優先する姿勢は、ハードメーカーの考え方からの脱皮を意味します。モノづくりの成果だけでなく、意識改革も同時に進め、とにかくやってみるという姿勢への転換が進むという点での成果にも期待しています。

 そして、3つ目が、海外市場への取り組みです。富士通のPC事業の約40%が、欧州を中心とした海外事業であり、ここでの収益性改善が大きな課題です。収益性改善に向けては、PCのベースユニットをグローバルで統一していくことが1つの手段となります。これまでは、カスタマイズの一環として、それぞれの国に特化したPCを製品化していましたが、これを見直し、1つのベースの上で、各国ごとにカスタマイズできるような環境へと移行する考えです。すでにデスクトップPCでは、この考え方を採用しており、これをノートPCにも広げていくことになります。

--2017年度に注目しておくべき商品やジャンルはありますか(笑)。

齋藤 具体的な商品計画についてはお話できませんが、尖った商品はこれからも継続的に投入していきたいと思います。一度、世界最軽量のノートPCの座を獲得しましたから、これからもこの座を維持したいですね。富士通クライアントコンピューティングの開発者のことですから、私がなにも言わなくても、「オートパイロット」で、世界一に挑戦するはずです。同様に、一体型PCでも、もっとも狭額縁なデザインを実現するメーカーであるというポジションは、うちの開発者とデザイナーならば、意地でも譲らないと思いますよ。過去の資産を活用しながら、新たなものにも積極的に挑戦し続けますから、これから登場する商品もぜひ楽しみにしていてください。

レノボとの提携はどうなるのか?

--一方、レノボとの事業提携の話が、なかなかまとまりません。富士通の田中達也社長は、レノボとの話し合いにおいて、大きな問題があるわけではない、早晩決定することになるとしています。しかし、ここまで遅れると、富士通のPC事業への影響が懸念されますが。

齋藤 今、富士通クライアントコンピューティングが打ち出している方針は、我々が取るべき方針であり、それを着実に実行しています。レノボとの話は、それをさらに強化するためものであり、プラスの効果を生むことを前提にしています。つまり、我々が目指す方向性は、これからも変わらないと言えます。