大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
エプソンのエコタンクがいよいよ出荷数の半分超え!?
~碓井社長に2018年の戦略を聞く
2018年1月5日 11:00
セイコーエプソン(以下、エプソン)は、2017年に、新たな領域の製品を相次いで投入した。戦略的製品に位置づけられる高速ラインインクジェット複合機/プリンタは、高速印刷分野への進出や、オフィスの複写機の代替提案に最適な製品として注目を集める一方、高級アナログウォッチ「TRUME」を新たに投入。
また、オフィスの印刷環境をレーザーからインクジェットに置き換える提案を加速するとともに、コンシューマ市場においては、エコタンクの訴求を本格化し、インクカートリッジモデルとは異なる新たな製品軸を明確に打ち出した。
そして、オフィスで紙を再生するPaper Labの一般販売も開始するといった動きを見せた。セイコーエプソンの碓井稔社長に、2017年のエプソンの取り組みを振り返ってもらうとともに、2018年の取り組みについて聞いた。
オフィスで紙を再生するPaper Labは17台を出荷
――2017年はエプソンにとってどんな1年でしたか。
碓井 エプソンは、2016年度から2025年度までの10年間にわたる長期ビジョン「Epson 25」を推進しており、このビジョンの実現に向けて、3カ年の中期経営計画「Epson 25 第1期中期経営計画」を実行しています。2017年度は、その2年目にあたるわけですが、この中期経営計画の最大のポイントは、基礎固めを重視している点です。
基礎固めには、2つの意味があり、1つは、エプソンがこんな製品で、今後成長をしていくという「商品」の姿を見せること、もう1つは、これらの製品を成長させるための「基盤」を作ることです。製品については、2017年に、かなり多くのものを見せることができたと思っています。
――確かに、2017年は、製品という観点では、新たな領域のものがつぎつぎと登場してきましたね。
碓井 まず新たな領域の製品としては、オフィスで紙を再生することができる「Paper Lab」があります。すでにプレミアムパートナーに対して17台の導入が完了し、今後、一般販売を開始する段階に入ってきました。新たな領域の製品であるとともに、これだけの大規模な製品ですから、最初は、品質を確立するという点で時間がかかり、生産ではちょっと苦労しましたが(笑)、月産5台という当初予定の体制にまで達しつつあります。
Paper Labは、もともとは社長直轄のプロジェクトとして展開してきましたが、2017年には、プリンタ事業部のなかに事業として組み込み、今後、販売に弾みをつけたいと考えています。これまでは製品として出すことが重視されてきたわけですが、これからはしっかりと収益を出すことを重視します。
現時点で、引き合いは結構いただいています。プリンタ事業部のなかで、高速ラインインクジェット複合機とセットにして、環境に優しいプリンティングを提案していくことになります。
――Paper Labは、近い将来の姿として、複写機サイズにまで小型化した製品を投入する計画がありますね。
碓井 はい、それに向けての開発は進めていますが、これは、来年(2018年)にでもすぐに製品化できるというものではありません。気持ちとしては、2020年ぐらいには出したいと考えていますが、これを実現するためには課題もありますから、とにかく、いまは「がんばる!」としか言いようがありません(笑)。
オフィスで紙を自ら循環して、インクジェットプリンタによって、印刷にかかるランニングコストを引き下げる可能な環境をいち早く作り上げたいですね。
高速ラインインクジェット複合機/プリンタの立ち上がりは合格点
――インクジェットをオフィスに活用するという点では、2017年6月から出荷を開始した高速ラインインクジェット複合機/プリンタがあります。
碓井 高速ラインインクジェット複合機/プリンタ「WorkForce Enterprise LX」シリーズは、2017年に投入したもう1つの新たな領域の製品であり、オフィスの印刷環境を、レーザーからインクジェットに置き換えていく提案を行なう、エプソンにとってはまさに戦略的製品に位置づけられるものです。
ディーラーとの関係も強化し、販売体制が少しずつ整いはじめ、商談件数も増え、製品に対するフィードバックもいいですね。当初は、高速印刷用途での利用が多いと思ったのですが、既存の複写機からの代替として、オフィスからの引き合いが予想以上に多く、当初想定の2倍ぐらいの引き合いがあります。
一度導入した複写機は、メーカーを換えたがらない傾向がもっと強いかなと思ったのですが、オフィスでいま使っている複写機に対して、スピードや印刷コストなどに不満がある人たちが一定数いるということが理解できたとも言えます。オフィスでもやれるという手応えを感じましたね。そして、日本だけでなく、欧州でも感触がいいですね。北米やアジアは2018年度から本格化させたいと考えています。
ただ、これまでエプソンはこうした価格帯の製品を売ってこなかったわけですから、ようやく地に足が着いた活動がはじまったという段階であり、多くの人にこの良さを知っていただく活動をしなくてはなりません。まずは使ってもらって、その良さを体感してもらっている段階であり、そこで「いい」と判断してもらってから、ようやく稟議を通して、導入に至るということになります。
ここはどうしても時間がかかるところであり、試験的に導入してもらうための機材ももっと用意しなくてはなりません。いまは、当初計画の2倍、3倍という数でこうした機材を用意しています。2018年は、提案するだけでなく、売り切るパワーをつけたいですね。いまは案件がかなり溜まってきていますから、これを2018年に刈り取りたいと考えています。
――高速ラインインクジェット複合機/プリンタは、初年度の立ち上げという点では合格点に到達していますか。
碓井 いや、まだまだという部分がありますが(笑)、立ち上がりの成果という点では、合格点には達しているのではないでしょうか。
エコタンクは新たな「軸」の提案に
――注目される動きとしては、大容量のインクタンクを搭載したエコタンクモデルがあります。2017年度にはいってから、エコタンクの出荷計画を2回上方修正しましたし、日本でも年末商戦ではエコタンクを重点的に訴求していますね。
碓井 エコタンクは、新興国市場を中心に、競合メーカーが参入してくることを警戒していたのですが、結果としては、競合メーカーの参入によってエコタンクの認知度があがり、市場が拡大するとともに、競合メーカーの製品に比べて、エプソンの製品のほうが競争力を持っていたことから、販売台数が増加しました。世界全体でみると、インクカートリッジモデルから、エコタンクモデルへのシフトが加速した1年でした。
また、オフィスで使用しているレーザープリンタの市場にも、エコタンクモデルが浸食しはじめています。エコタンクの当初の計画は、年間730万台でしたが、7月にはこれを740万台に上昇修正し、10月には780万台以上としました。そのうち、新興国市場では700万台以上を占めることになります。
先進国でも少しずつ伸びてきています。日本でもかなり力を入れて訴求していますし、年末商戦に向けたTV CMは、エコタンクモデルに集中していますし、10月以降の販売台数は、前年に比べて、4~5倍にまで拡大しています。
従来は、オフィスでの利用を想定して顔料インクモデルだけだったのですが、2017年はコンシューマユーザーにも使ってもらえるように、フォトクオリティにこだわったり、デザインも変更して、エコタンクがついているという外観を改善したり、A3のマルチファンクションタイプを用意するといったことにも取り組みました。ラインナップもカートリッジモデルと遜色がない品数に拡大しています。
カートリッジモデルは、カートリッジモデルとして、これまでと同じように力を注ぎますが、2017年は、いままでのカートリッジモデルとは違った新たな軸を、日本でも訴求しはじめたわけです。TV CMでは、インクがしょっちゅう切れると感じている人が88%に達していたり、インク代が高いと感じている人が98%に達しているデータをもとに、プリンタユーザーの多くが、これらの点に不満を感じていることを示しました。
これは、カートリッジモデルの否定と捉えられるかもしれません。そうではなく、印刷枚数が多い人には最適な新たな製品として提案したものになります。
そんなに印刷枚数が多くない人であれば、カートリッジモデルのほうが適しており、これを支持してくれるユーザーもいるわけです。エプソンは、そうしたユーザーに対して、カートリッジモデルを提供していく姿勢は変わりません。
つまり、カートリッジモデルからエコタンクへの置き換えではなく、カートリッジモデルに不満があるという人には、もう1つの軸がありますよという提案なのです。カートリッジモデルはすでに浸透しているので、2017年の年末商戦はまったく宣伝をしていません。宣伝はすべてエコタンクに集中し、新たな軸を作るという新たな挑戦です。
エコタンクはプリンタ市場の「第4極」になれるか?
――年末年始商戦におけるエコタンクの手応えはどうですか?
碓井 私は、年末年始商戦で、エプソンのエコタンクを「第4極」にしたいと考えています。具体的には、エプソンのインクカートリッジモデルを第1極とし、キヤノン、ブラザーに続く、第4極のプリンタをエプソンのエコタンクにしたいですね。
エコタンクの本体価格は、インクカートリッジモデルの3倍程度になりますから、金額ベースでは、市場全体の10%程度に達するのではないでしょうか。私は、エコタンクという「第4極」のプリンタの世界を作れる自信がありますよ。
実際、日本のプリンタ市場全体は決していいとはいえない状況ですが、エプソンのプリンタビジネスは、エコタンクモデルが新たに加わったことで好調に推移しています。
2017年度は、全世界でエプソンが出荷するプリンタの45%以上をエコタンクモデルが占めると予測していますが、2018年度には、さらに2割は成長させたいですね。構成比は50%を超えることになります。エコタンクはエプソンにとって、もはや成長ドライバーであり、日本においても新たな柱にしていきます。
――カートリッジモデルでは、写真を印刷してもらうため提案など、インクの消費を促すような施策やメッセージが中心でしたが、エコタンクモデルでは訴求方法が変わっていきますか。
碓井 エコタンクモデルの特徴は、環境にも優しく、コストも気にすることなく、安心して使ってもらえるという点です。カートリッジモデルやレーザープリンタにおけるプリンティングの不満を解消できるものであり、印刷枚数が多い人には最適なプリンタであることを提案できます。これは、これまでのエプソンのプリンタに対するアンチテーゼとしての存在でもあり、他社製品に対するアンチテーゼと言えます。
――エコタンクは、企業におけるレーザープリンタからの移行に関しても、すでに貢献していますか。
碓井 オフィスにおけるレーザープリンタからインクジェットプリンタへの移行という点では、エコタンクやスマートチャージの提案がわかりやすいですね。購入してもらったら印刷コストを気にせずにどんどん印刷をしてもらい、生産性をあげてもらえるという提案ができるわけです。
これは、プリンタ市場全体に向けた大きなメッセージです。コストも環境も気にすることなく、安心して使ってもらえる新たな製品という、新たな軸を作り上げたいと考えています。レーザープリンタを使っていた人も、新たな観点からプリンタを買ってもらえる製品です。
――ここ数年、オフィスにおけるプリンタをレーザーからインクジェットに置き換えることを推進してきましたが、それはどこまで進んだと判断していますか。
碓井 それは、まだ緒についたところですね。ただ、以前に比べると、インクジェットをオフィスで利用することに対する理解が進み、インクジェットはコンシューマ向けプリンタだけのもの、という意識はずいぶん薄れてきたのではないでしょうか。
すでに、顔料インクを採用したり、FAX機能をつけたり、ドキュメントフィーダを搭載したりといったように、ビジネス用途向けの製品もラインナップしており、現在、エプソンのプリンタのうち、ビジネス向けが約2割を占めています。
そして、一部からは、インクジェットはオフィスに適しているという声が聞かれはじめていますから、どこかのタイミングでこの動きが一気に加速するのではないかとも思っています。
インクジェットはオフィスに適していると思っていても、もう少し様子を見ようという企業もありますからね。エプソン社内でも、インクジェットプリンタに一斉に変えた時期がありましたが、コストが下がるといっても、一方でリスクを感じてしまい、担当部門はなかなか変えたがらないという様子が見られました。
エプソンでさえ、そんな状況でしたから(笑)、多くの企業が「様子見」という状況になるのは理解できます。もともと問題なく動いている「社内システム」ですから、そこにメスを入れようという企業が少ないのも確かです。そこをなんとか変えていきたいですね。
じつは、エプソンがインクジェットプリンタに置き換えた結果、年間3億5,000万円の印刷費用が、1億5,000万円にまで減少しました。エプソンはプリンタメーカーですから、社内の印刷枚数に制限をかけるといったことはしませんから(笑)、トータルの印刷枚数にはそれほど違いがないかもしれませんが、コストを気にすることになく、安心して印刷できる環境になったわけです。
むしろ、印刷枚数を制限している企業こそ、印刷コストのコストダウンが図れ、安心して多くの枚数を印刷できるというプラス効果が大きいと言えます。
また、ドイツでは予想以上の反響となっているのですが、これは環境に優しいというメリットが受け入れられているからです。インクジェットプリンタのほうが消費電力が少なく、さらに、レーザープリンタで使用するトナーは、粉であるために健康面で心配があるといったことも背景にあるようです。
2018年には、ある企業が、大量にインクジェットプリンタを導入したといった事例がいよいよ紹介できるかもしれません。そうした動きが明らかになると、企業ユーザーの導入にもさらに拍車がかかるかもしれませんね。これまでは「インクジェットがいいのはわかっているが」という状況だったものが、「やっぱりインクジェットで良かったんだ」と思ってもらえれば、導入に弾みがつくことになるでしょうね。
今後、カートリッジモデルのラインナップは増えない
――エコタンクモデルの構成比が50%を超えると、経営へのインパクトは、どうなりますか。
碓井 カートリッジモデルは、本体を生産するとマイナス計上しなくてはならないという課題がありましたが、これがなくなりますから、四半期利益の振れ幅は少なくなると言えます。しかし、まだ半分はカートリッジモデルですからね。少しずつ振れ幅が収まることになると思います。
しかもカートリッジモデルも本体価格が高くなってきていますから、以前ほどカートリッジモデルのマイナス幅が減っています。いずれにしろ、プリンタ事業の収益の振れが小さくなるというメリットはありますね。
――EPSON 25期間中のどこかで、カートリッジモデルのラインナップを絞り込むということもありそうですか。
碓井 もちろん、カートリッジモデルの市場がシュリンクしはじめたら、ラインナップを減らすということもあるかもしれません。今年(2017年)もカートリッジモデルのラインナップを増やしているわけではありませんから、今後、これ以上、カートリッジモデルのラインナップを増やしていくということはないと言えます。カートリッジモデルが支持されている状況が続くかぎり、カートリッジモデルは継続的に製品提供をしていきます。
一方で、エコタンクに対する需要が拡大したり、こんな製品がほしいというのであれば、エコタンクのラインナップは拡大することになると思います。2017年は、社内の意識改革も含めて、エコタンクの位置づけが明確になり、それを市場に対しても訴求できたと考えています。
エプソンは、世の中の人たちがプリンタに対して思っている不満や、こうしてほしいと思うことを聞き入れた上で、その仕組みに思い切って変えていこうと考えたわけです。エプソンの経営理念では、「なくてはならない会社になる」ことを目指しています。EPSON 25でもそれを実現することが重要な要素になります。エコタンクモデルは、なくてはならない会社になるための提案の1つだと言えます。
――2017年度第1四半期には、プリンタの主要部品を調達している取引先のインドネシア工場が火災となり、プリンタの生産に遅れが生じました。しかし、かなり短期間でリカバリをしたと感じましたが。
碓井 とはいえ、生産の遅れという点で大きな影響が出ました。第2四半期には増産体制を敷くことでリカバリはできましたが、空輸をしたり、人を短期的に増やしたりといったことで想定外の費用が発生し、決算にも影響が出ています。
ただ、これは、もう一度、体制を見直すいい機会になりました。部品の調達についても、以前は複数から調達していたものの、最近は1社に集中する傾向が強まってきていたので、新たな調達ルートを開拓し、複数からの調達体制へと戻しました。
また、ヘッドなどの基幹部品の在庫はしっかりと確保をしていたのですが、それ以外の部品については、できるだけ減らしたいと考えて絞り込んいたわけですが、今回の火災は、こうした体制が影響したと言えます。ただ、複数のルートにすると、当然、管理費用を含めてコストが上昇します。
汎用的な部品の在庫をどう持つかということも改めて考えなくてはいけません。リソースが限定的なところはある程度、在庫を持つ体制とし、そうしたなかで、コストを最低限に抑えるための施策が必要です。
エプソンは、なぜ「TRUME」を発売したのか?
――もう1つ、新たな製品として、2017年9月から、高級アナログウォッチ分野に進出し、新ブランドである「TRUME(トゥルーム)」を発売しましたね。
碓井 TRUMEは、まずは、ブランドを知ってもらい、扱っていただける店舗を増やすというところが最初の取り組みですが、高級時計専門店での取り扱いが増え、その点では、手応えを感じています。エプソンは、時計を作る基盤をもともと持っており、汎用的なムーブメントから、グランドセイコーに代表されるような匠の技を求められる高機能なものまで作り上げることができます。
じつは、技能五輪の時計分野では、3年連続でエプソンの若手社員が金賞を獲得するといったように圧倒的な強さを誇っています。2017年も、精密機器組立、時計修理において、金賞を含む、5人の技術者が入賞しました。
ただ、エプソンが時計を作っているということはあまり知られていないんです。エプソンは、時計のすべてを作ることができます。そして、若手技術者が優勝するということは、それを育てる先輩技術者も優れた技能を持っている証とも言えます。
この技術基盤や事業基盤にもっとレバレッジを効かせたい、そして、この技術をもっと活用したいと考えて、TRUMEを投入しました。
一方で、ウォッチをやっている技術者は、こだわりを持っている人たちが多い。そして、ウォッチは、さまざまな切り口で製品化することができます。機能性だけでなく、個性を際立たせるということも可能です。
しかし、ブランドというのは、個性を1つの枠にはめることにもつながります。その枠を一度開放することがレバレッジを効かせるいい方法なんです。既存の製品の枠から外れて、個性豊かな製品を作っていくことが、技術基盤を高めることができる。それが、TRUMEに取り組んだの狙いの1つでもありました。
エプソンのなかで、豊かな発想を持った人が、新たなブランドで自由にモノづくりをすればいいと思ったわけです。これはスイスの時計メーカーがさまざまなブランドを作っているのと同じです。枠を広げようと考えるのであれば、ある程度の数のブランドを持っていたほうがいいわけです。
――エプソンはオリエントを取り込んだことによって、TRUMEをあわせて4つのブランドがありますね。これはまだ増えていくことになりますか。
碓井 これからどういう形で取り組んでくのかは、様子を見る必要がありますが、いまは、「EPSON MORMENT(エプソンモーメント)」というメッセージのもとで、TRUME、ORIENTSTAR、WristableGPS、smart canvasという4つのブランドを展開し、エプソンのテイストや、エプソンの個性を発揮できる「窓口」を用意しました。
しかし、これからもっと個性を発揮したいと考えれば、ほかにもブランドを広げていくこともあるでしょう。「このブランドは、このデザインだ」と決められてしまったら、個性を発揮しようと思っても、それは無理です。ただ、むやみにブランドを広げることはしませんし、そのブランドの顔が見えること、そして、ある一定の事業規模を持つことが大切です。お客様にこういうものを届けたいとか、自分たちはこういう思いで作ってきたと言えるものを、しっかりと出していきたいですね。
エプソンは、これからもウォッチの技術を磨き続けますし、ここで培った技術はプリンタやプロジェクタをはじめとするほかの製品にも反映することが可能です。エプソンは、時計の技術を持つことを強みの1つとして、さらに強化していきたいですね。
――TRUMEは、まずはどういう領域にまで到達すれば成功ということになりますか。
碓井 まずは、高級ウォッチの販路を開拓することが大切です。そして、この分野における認知度を高めることができればと考えています。技術はあっても、販路や認知度はゼロからのスタートですから、これを作ることが大切です。
そして、販路や認知度というのは、エプソンのウォッチ事業の次のステップにもつながっていきます。確かな技術や優れた機能を通じて、感動を与えたり、所有欲を満たしたりといったことが提供できれば、TRUMEは成功だと言えるのではないでしょうか。
2018年はスピード感を重視する1年に
――2018年は、セイコーエプソンにとってどんな1年になりますか。
碓井 2018年は、「Epson 25 第1期中期経営計画」の最終年度に突入しますし、次の成長に向けて、基礎固めをしっかりと進めるとともに、スピード感をもっと意識する1年にしていきたいですね。
世の中の動きが速いですし、とくにエプソンが属している領域の動きはさらに速いですから、そうした動きを捉えていないと、他社とのコラボレーションもうまくいかない。しかも、その流れに乗っていくのではなく、流れを作り出していくことが大切です。それぐらいのスピード感を持って行かなくてならない。
いまはまだスピード感が足りないと思っています。エプソンがスピード感をもつことができるかどうかという意味で、正念場の1年になると考えています。
――2017年には、これだけ多くの新たな製品が登場していますが、それでもスピード感が足りないと。
碓井 確かに多くの新たな製品は登場しましたが、これを一気に立ち上げていく必要があります。そのためには、これまで以上にスピード感を持つことが大切です。「これだけ出したから、それで満足」というわけにはいきませんし、製品を出したから基礎固めができたというわけではありません。
売上げを牽引し、利益を牽引し、成長軌道に乗せるところまで一気に立ち上げていかなくてはなりません。ただ、焦ってはいけませんけどね(笑)。基盤固めの時期は、苦労が先行し、収益もあがりにくいものになりますが、どこかでそれが吹っ切れると、事業の姿がいいかたちになり、成長に転じていきます。
私たちが新製品で取り組んでいるのは、大きな流れに乗っていくものではなく、エコタンクへの挑戦や、レーザープリンタからインクジェットブリンタへの転換など、自分たちが中心になって新たな流れを作っていくというものばかりです。2018年までは苦しい時期が続くかもしれませんが、2019年以降は、しっかりとした成長につなげたいですね。