大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
ロボピンが司会をし、初音ミクがナビゲートする昨今の記者会見事情
2017年7月3日 13:23
記者会見やセミナーで最新技術を活用するケースが相次いでいる。プロジェクションマッピングの活用やロボットの活用、そして、自動翻訳サービスの提供などだ。
振り返ってみれば、毎月のように、こうした新たな技術を活用した会見やセミナーに出席している。これだけ新たな技術が活用されはじめたのは、これまでにはあまりないことだったと言える。実際に、それらの会見やセミナーに出席してみて、新たな技術の応用を見てみた。
エプソンがプロジェクションマッピングで演出!
セイコーエプソンが、2017年2月2日に、東京・大手町のサンケイプラザで開催したインクジェット複合機「WorkForce Enterprise」の発表会見は、オープニングにプロジェクションマッピングを活用するという驚きの演出で始まった。
イベントなどではこうした演出が始まっているが、IT業界の記者会見でプロジェクションマッピングを活用したのは、このときが初めてだったと言えるだろう。
同社のビジネスプロジェクタ「EB-L1100U」を3台使用し、約1分間に渡る演出で、WorkForce Enterpriseを紹介。オフィスのなかに設置する新たな複合機の姿を紹介してみせた。
また、会見場後方に設置された展示コーナーでは、「EB-536WT」を3台使用して、WorkForce Enterpriseの内部構造をプロジェクションマッピングで紹介。これは、セイコーエプソンの碓井稔社長のリクエストによって用意されたものだという。
WorkForce Enterpriseは、同社がオフィス市場に向けて投入したインクジェット複合機で、これまでのオフィス向けプリンタのビジネスに留まらず、キヤノンやリコー、富士ゼロックスなどが高いシェアを持つ複合機市場や軽印刷市場に、本格的に踏み出すための戦略製品と位置づけられているものだ。
エプソンにとっては、新たな市場へと踏み出す「門出」ともいえるマイルストーンになる製品であり、それだけに、記者会見にも力が入っていたのは明らかだ。
実は、この演出効果は、かなりの短期間で作り上げたものだという。ただ、現場の関係者からは、「記者会見のたびにプロジェクションマッピングを用意するのは大変。せめて年1回程度にしてほしい」との声も挙がる。
常設展示での利用ならば良いが、一度きりの会見のために制作するのは、負担が大きいのも確かだ。現場でのセッティングにも時間がかかるという点も、考慮しなくてはならない。
ちなみに、碓井稔社長をはじめとする説明者が座る座席の後ろにも「EB-L1100U」を設置。超短焦点レンズを組み合わせることで、出席者の影が映ることなく、名前を示したり、ロゴマークを表示したりといったように、ここでも細かな演出をみせていた。
主役は、WorkForce Enterpriseだったが、隠れた主役は高輝度ビジネスプロジェクタだったと言えよう。
なお、このときに作られたコンテンツの一部は、東京・新宿の同社ショールームでも引き続き使用。先ごろ開催された株主総会でも使用したという。
今後の記者会見でも、プロジェクションマッピングが継続的に使用されるかどうかはわからないが、同社がプロジェクションマッピングを用意した会見は、力が入った会見であるというバロメータになるかもしれない。
初音ミクがソニーストア札幌のオープンでナビゲート!
2つめは、2017年4月1日に、北海道札幌市にオープンしたソニーストア札幌において、開店初日の営業時間終了後に開催した「SONY CREATORS NIGHT」で、歌声合成ソフトウエア「初音ミク」がナビゲータとなり、来場者にソニーストア札幌を紹介したことだ。
このイベントは、北海道で活躍しているクリエイターをソニーが招いたもので、プロカメラマンや映像クリエイター、音楽クリエイター、IT系デザイナーなど約200人が参加。ソニーストアの紹介のほか、ソニーの最新製品に触れることができる場として公開した。
実は、「初音ミク」がナビゲータとして、ソニーストア札幌を紹介した背景には、ソニーストアを運営するソニーマーケティングの河野弘社長が、かつて兼務でソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンの社長を務めていた経緯があり、「そのときからお付き合いがあったクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長に、ソニーストア札幌をオープンするときには協力するよ、と言われていた」(ソニーマーケティング 河野社長)のが発端。
札幌に本社を置く同社が協力して、同社の代表的製品である「初音ミク」がナビゲーターとして登場し、ソニーストア札幌を紹介したのだ。
初音ミクは、ソニーストア札幌の狙いなどを紹介。さらに、BRAVIAやαなどのソニーの代表的製品も紹介してみせた。
このイベントを主催したのは、ソニーマーケティングの広報・渉外部だ。マーケティング部門やソニーストア札幌が企画したものではない点もユニークだが、こうした経緯もあって、初音ミクのコメントは、広報・渉外部が考えたという。
担当者は、「どうしても、広報のような言葉づかいになってしまい、初音ミクらしい言葉にするのに苦労した」と明かす。
会場では、初音ミクのサプライズ登場に沸いていた。
富士通のロボピンがAIの会見で初司会!
3つめは、ロボットが司会を務めた記者会見だ。これも、初めての試みだといって良いだろう。
富士通が、東京・有楽町の国際フォーラムで2017年5月16日に開催した、同社AI「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」に関するビジネス戦略会見において、同社のメディエイタロボット「ロボピン」が司会を行なったのだ。
この会見は、同社の年次イベントである「富士通フォーラム2017」の報道関係者向け内覧会にあわせて開催されたもので、富士通にとっても製品発表が集中するタイミングだ。そこで、広報IR室が知恵を絞り、新たな取り組みに挑んだのが、ロボピンの司会への起用だった。
会見の冒頭には、広報IR室の社員が開会の挨拶を行ない、通常通りの会見スタイルでスタートしたが、いきなり司会者から、「なお、本日は、コミュニケーションロボットのロボピンに司会をお任せしたいと思います。では、ロボピン、よろしく」との言葉が出て、出席した記者たちは唖然。ひな壇の横に置かれていたロボピンがいきなりしゃべりだし、「紹介ありがとう。私の名前はロボピン。本日の司会を担当させていただきます。初めての記者会見での司会、非常に緊張していますが、がんばりますので、皆さん暖かく見守ってください」と、会見をスタートさせたのだ。
実は、この日の日刊紙朝刊には、富士通が出資するロボットベンチャーであるユニロボットと共同開発を進めてきた「ユニボ」の記事が掲載されており、富士通フォーラムでは、富士通のAI事業との組み合わせによるユニボの展示に関心が集まると見られていた。
富士通フォーラムの主役は、発表済みのロボピンよりも、ユニボになると予想していただけに、会見場にロボピンが置かれていたことには、ちょっと違和感を覚えたのも確かだ。だが、ロボピンは、ユニボの話題を超える大役をこなしてみせたわけだ。
ロボピンは、記者会見で、出席者の紹介や、会見の進行、そして内覧会までの案内をそつなくこなし、会見は無事に進行していった。
気になったのは、記者からの質疑応答のところだ。
さすがに、記者を認識して、指名するというところまでは技術が追いついていない。成り行きを見守っていると、ロボピンは、「では、ただいまから、ご質問をお受けしたいと思います」としながらも、「あっ、その前に。せっかく手を挙げていただいても、手が短くて、当てることができないので、質疑応答だけ替わってもらえますか」と、司会者にサポートを要請。自らの体形をネタにしたジョークを交えながらのバトンタッチには、会場から笑い声があがった。
あとで聞いてわかったのだが、広報IR室の司会者にとっても、記者会見の司会はこの日が初めてだったという。
ただでさえ緊張する初めての司会で、ロボピンの操作を行ないながら進行するという、いわば「余計な」負担がかかる役割も果たすことになったのだが、司会者は、司会を進行しながら、スムーズにロボピンと会話を行なってみせた。
ここでは、ロボピンにしゃべらせるために手元のボタンを押す仕組みとしていたが、このタイミングがうまく行くように何度も練習したという。
ロボピンともども、2人同時の司会テビューは大成功だったと言えよう。
日本マイクロソフトがリアルタイム日本語翻訳に挑戦!
最後が、日本マイクロソフトが2017年6月9日、東京・品川の同社本社において開催した、チャットベースのコラボレーションツール「Microsoft Teams」に関するセミナーにおいて、講演内容のリアルタイム翻訳に挑んだことだ。
「チームコラボレーションが導く新しい働き方改革!-噂のMicrosoft Teams:その可能性に迫る-」と題したこのセミナーは、日本において、初めてMicrosoft Teamsを正式に紹介するローンチイベントに位置づけられ、情報システム部門や経営層、ユーザー部門などから150人が参加した。事前の募集では、定員を大きく上回る500人以上の申し込みがあったという。
セミナーでは、米Microsoft Microsoft Teams製品部門のダン・スティーブンソンシニアダイレクターが、Microsoft Teamsの開発経緯や特徴などについて説明したが、ここでは同時通訳レシーバーを参加者に配布。通訳者による日本語での聴講ができただけでなく、Teams上のチャンネルにも、リアルタイムで翻訳した内容を掲載。それを参加者が見ることができるというサービスを行なった。
この自動翻訳はまったく人を介在せずに行なったもので、会場の後方に、ノートPCを一台設置。内蔵マイクで拾った英語の音声を、Azureのコグニティブサービスを利用して日本語に翻訳。それを、Teamsに設定されたスティーブンソンシニアダイレクターのチャンネルに掲載した。
Teamsには、マイクで収集して判別した英語のテキストと、それを翻訳した日本語のテキストの両方を掲載していたが、残念ながら翻訳精度は高いとは言えず、同時翻訳の品質に追いつくまでにはまだ時間がかかることを感じる結果となった。
だが、それでも、ノートPCを1台会場に持ち込めば、簡単に自動翻訳サービスとしての利用ができることや、メモとして残す程度の役割であれば、十分活用できるレベルのものに到達していることを示してみせたのには意味がある。
しばらくは、補助的な役割としての活用になるだろうが、機械学習によって、発話の拾得精度や、日本語への翻訳精度があがれば、より現実的な使い方ができるようになるかもしれない。
会見やセミナーでの新技術の活用に期待!
このように、ここ数カ月、記者会見やセミナーにおいて、新たな技術の活用による演出や支援を見る機会が増えている。見方を変えれば、技術の変換点を迎えていることを示すものとも言えるだろう。
AIやロボティクス技術の急速な進化を見ると、これからどんな技術が記者会見やセミナーで活用されるようになるのかが楽しみだ。
最先端技術を持つIT業界、電機業界だからこそ、こうした新たな技術の活用には積極的に挑戦してもらいたい。