大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「ウルトラマン」で紐解く2018年のIT業界
2018年1月8日 10:00
2017年は、IT/エレクトロニクス産業にとっては激動の1年だった。
富士通のPC事業がLenovo傘下に入ることが正式に決定する一方、東芝のPC事業の売却が取りざたされるなど、PC業界の再編が続き、日本のPCメーカーの行方に注目が集まる1年となった。
また、経営再建に取り組んでいたシャープが、鴻海傘下で見事再生を果たし、わずか1年4カ月で東証一部に復帰。戴正呉社長が「シャープ復活」を宣言したのも大きなできごとだった。さらに、上場廃止の瀬戸際に陥った東芝も、メモリ事業売却に道筋をつけ、ようやく「新生東芝」の確立に向けた準備が整いはじめた。
こうした動きの裏側で見られるのは、日本のIT/エレクトロニクス企業の事業再編や再生に、台湾、中国の企業が大きな影響を与えているという点だ。だが、その一方で、日本のIT/エレクトロニクス企業が、自らが生き残る領域を明確に選択し、そこにリソースを集中し始めていることも大きな潮流の1つだといえる。
事業再編の総仕上げともいえる段階に突入してきたともいえ、日本のIT/エレクトロニクス企業が、今後、どの領域で、どんな強みを発揮するのかが、これから鮮明になってくるだろう。
そして、IoTやAIなどの新たな技術が進展し、テクノロジの活用が、事業成長や新たな製品、サービスの創出には欠かせないことが、多くの企業にとって常識になってきたことも、2017年の大きな変化だったといえる。
その象徴ともいえるできごとの1つが、IT/エレクトロニクスの業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、2017年5月に開いた総会で定款を変更し、エレクトロニクス製品を生産する企業だけでなく、エレクトロニクス製品を使用し、サービスを提供する企業にまで、会員資格の範囲を広げたことだ。
実際、トヨタ自動車などが、JEITAの正会員として参加。また、2017年10月に開催されたCEATEC JAPAN 2017には、日本の3大メガバンクが初めて揃って出展や講演を行なったほか、大手工作機器メーカー、自動車メーカーなどが出展し、業界の枠を超えた展示会に転換しようとしている。
このことからもわかるように、IoT、AI、ビッグデータなどの浸透とともに、IT/エレクトロニクス産業のビジネス領域が明らかに拡大していることを示した1年だったともいえる。
では、2018年はどんな1年になるのだろうか。
新春恒例の言葉遊びで、2018年を占ってみたい。
今年のキーワードは、ずばり、「ウルトラマン」である。そして、それは、昭和時代のウルトラマンのなかに、今年のトレンドが埋め込まれている。
先に断っておくが、例年に比べて、今年はやや厳しいところもあるので、正月企画ということで、肩の荷を下ろして、笑いながら読み進めていただきたい。
ウルトラマン
ウルトラマンという名前から、まず取り上げたいのは、「ウルトラ」。つまり、Ultra HDである。最近では、4Kおよび8Kという呼称が世界的にも用いられるようになっているが、日本では、いよいよ2018年12月から、BSおよび110度CSにおいて、4Kおよび8Kの本放送が開始されることになる。これにともなって、4Kテレビの普及に弾みがつくほか、すでに8Kディスプレイを商品化しているシャープに続き、本放送開始にあわせて、8Kテレビが各社から登場することになりそうだ。
内閣府の消費動向調査によると、テレビの買い替えサイクルは9.3年になっており、2011年の地上アナログ放送の終了に伴って発生した2009年からの大型需要が買い換えサイクルに入ろうとしている。4K、8Kの本放送の開始は、こうした買い替え需要を顕在化する役割を果たしそうだ。
もう1つウルトラマンといえば、VRコンテンツとして、https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1080132.html「ウルトラマンゼロVR」および「ウルトラファイトVR」がすでに配信されている。360度VRとして制作されたこの作品は、どの方向を見ても、ウルトラマンと怪獣の戦いを間近に見ることができるという斬新なものだ。
VR/ARは、2016年に元年と言われたが、2017年には各社からさまざまなデバイスが登場し、2018年には、さらに参入メーカーの増加やデバイスのラインアップ拡大、コンテンツの品揃え強化が期待される。ビジネス用途での利用も広がりがみられるのは確実で、IT/エレククトロニクス産業における成長領域の1つに位置づけられている。
ウルトラセブン
ウルトラマンに続くのが、ウルトラセブンだ。
セブンといえば、2020年1月に延長サポートが終了するWindows 7ということになる。日本マイクロソフトでは、サポート終了の2年前となる2018年1月から、新OSへの移行に向けた積極的なキャンペーンを開始する計画を立てており、その詳細が1月中にも発表されることになるだろう。
同社の平野拓也社長は、「Windows XPの延長サポート終了時には、不要な特需を生み出し、多くのパートナー企業に迷惑をおかけした。とくに中小企業や公共機関に対する認知徹底が遅れたという反省がある。2020年のWindows 7とOffice 2010のサポート終了に向けたキャンペーンやメッセージの発信は、早めに取り組んでいく」とし、Windows XPの反省を踏まえて、終了2年前から、移行に向けた訴求を開始する姿勢を示す。
つまり、2018年からは、Windows 7からの買い替え需要が本格化する可能性があるのだ。
2009年10月のWindows 7の発売時には、発売イベント会場に、セブンつながりでウルトラセブンが駆けつけたが、延長サポート終了にあわせて、改めてウルトラセブンの力を借りるのもいいかもしれない。
帰ってきたウルトラマン
順番では、次が帰ってきたウルトラマンということになる。
「帰ってきた」ということでは、プログラミングをあげておきたい。
1970年代に、マイコンが登場した時代や、1980年代のPCの草創期には、プログラミングをすることが一般的だった。多くのマイコン少年たちは、マイコン雑誌に掲載されたプログラムのソースを自ら打ち込んで動作させていたわけだ。
それから約40年の歳月を経て、2020年度からは、小学校でのプログラミング授業が必須化される。改めて、プログラミングが注目を集めているのだ。まさに「帰ってきた」という状況である。
それにともなって、PC業界が期待してるいのが若年層へのPCの普及だ。一時期はスマホに押されて、PCを所有する若年層が減少。スマホで育った社会人1年生がPCのキーボードを打つことができないといった問題が一部で指摘されていたほどだ。
プログラミング教育の必須化に伴い、子供にPCを買い与えるといった動きが出ることも見込まれる。実際、この動きは少しずつ見られており、一部の大手量販店には、「はじめてのパソコン」コーナーを用意し、小学生向けのPC販売に力を入れ始めている例もある。量販店からも、「家族連れで訪れて、子供用のPCを購入していく例が増えている」との声が聞かれる。2018年からは、子供向けPCという新たなトレンドが生まれることになるかもしれない。
ウルトラマンエース
ウルトラマンエースからは、やはり「A(エース)」を頭文字としたAIを取り上げておきたい。
周知のように、AIの広がりは急ピッチで進んでいる。実際、われわれの生活のあらゆるところでAIが活用されており、家庭内、企業内を問わず、知らず知らずのうちにAIの恩恵を受けているといった状況が生まれている。
現地時間の2018年1月9日から米ラスベガスで開催されるCES 2018でもAIは重要なトレンドになることは間違いないだろう。また、2018年は、AIの広がりとともに、エッジコンピューティングも注目を集めることになりそうだ。
そのなかで、AIという切り口で注目しておきたいのが、スマートスピーカーだ。これは、2018年にブレイクが期待される製品の1つだ。
筆者のオフィスには、Amazon Echoを設置しているが、実際に使ってみて感じたのは、音楽を聴くときの手軽さだ。声をかけるだけで、お気に入りの音楽を再生してくれるという利便性は一度体験したら戻れない。今年は、さまざまな機器との連携がどう広がるのか、どんなサービスが登場するのかに期待したい。
もう1つAIを活用した動きでは、自動運転があげられる。IT/エレクトロニクス産業と、自動車産業との結びつきがより緊密になるのは明らかで、自動運転の進化は、2018年以降、さらに加速することになりそうだ。
ウルトラ警備隊をはじめとする昭和時代のウルトラマンシリーズに登場した各警備隊が使用していたクルマには、自動運転機能は搭載されていなかったようだが、運転支援機能や自動運転機能は、これからの常識になっていきそうだ。
ウルトラマンタロウ
昭和時代のウルトラマンシリーズは、ここで約半分に達したが、ここからは、さらにこじつけが強くなることを、先に断っておく。
ウルトラマンタロウは、「太郎」という日本人の代表的な名前を付けており、ここには長男という意味が盛り込まれている。長男といえばトップ。つまり、トップシェアということにこじつけておきたい。
2017年11月に正式発表されたように、富士通のPC事業を担う富士通クライアントコンピューティングに、Lenovo・グループ・リミテッドが51%を出資し、Lenovo傘下に入ることになった。2018年第1四半期(2018年4月~6月)にも、これが実行されることになる。
これによって、レノボ・ジャパンと、すでにLenovoグループ入りしているNECパーソナルコンピュータに、富士通クライアントコンピューティングを加えると、43.7%のシェアを獲得。1つの陣営が4割を超えるシェアを持つのは、1995年にNECが持っていたシェア40%以来、実に22年ぶりとなる。
新たなLenovo陣営は、3つの人格によって構成される長男ということになるが、このなかで、富士通クライアントコンピューティングが、いかに独立性を維持した形で事業を推進することができるかが、2018年の注目ポイントだ。
独立性の維持ができなくなった途端に、富士通が培ってきたPC事業のビジネスモデルが崩れることになり、傘下に収めたメリットが大きく損なわれる可能性があるからだ。富士通ブランドのPCが挑戦的な製品を出しつづることができるかどうかに注目しておきたい。
ウルトラマンレオ
ウルトラマンレオでは、レオよりも、このシリーズに登場したモロボシ・ダンに注目したい。
モロボシ・ダンは、ウルトラセブンに変身することができるが、このシリーズでは、変身能力を失い、MAC隊長としてレオをサポートすることになる。まさに、自らの働き方を変えた「働き方改革」である。
働き方改革は、政府の旗ふりのもと、いまや日本全体をあげた取り組みになっている。2018年は、この名称が「生産性革命」に変わる可能性もあるが、IT機器の利活用が不可欠となる働き方改革は、IT/エレクトロニクス産業にとっても、大きな追い風となっている。
こうした追い風を受けて、タブレットとしても、PCとしても利用できる2in1 PCの売れ行きが上向いているという。どこでも、オフィスと同じ環境で仕事ができるというのが働き方改革の基本。それにあわせて、2in1が注目を集めているというのだ。
働き方改革の提案は多岐に渡る。IT/エレクトロニクス産業にとっては、働き方改革に向けた提案をどれだけ加速できるかが、産業全体の盛り上がりを左右することになりそうだ。
アストラ
レオのシリーズでは、アストラも登場する。アストラは、ラテン語で「新星」という意味。IT/エレクトロニクス産業においては、新星といえるものは数多く存在するが、PCの観点から1つ取り上げておきたいものがある。それが、エプソンのエコタンク搭載プリンタである。
もともとプリンタは、本体を安く販売して、カートリッジで儲けるというビジネスモデルであったが、エプソンは、最初から大容量のインクタンクを搭載したエコタンク搭載プリンタを、2017年の年末商戦に向けて本格的に訴求しはじめた。
年末には、例年行なってきた年賀状需要にあわせたテレビCMを最小限に抑え、エコタンク搭載プリンタを徹底的に訴求。インクがしょっちゅう切れると感じている人が88%に達していることや、インク代が高いと感じている人が98%に達していることを、同社の調査結果から示してみせた。
これは、既存のインクカートリッジ方式を否定するような内容だが、同社では、印刷枚数がそれほど多くない人にはカートリッジモデル、印刷枚数が多い人にはエコタンク搭載プリンタという2つを両立した提案と位置づけている。
年末商戦の結果は、エコタンク搭載モデルの販売台数シェアは約3%に留まったが、販売金額シェアでは約9%を獲得。存在感をみせてきた。販売金額では、第3位のブラザーに匹敵しているからだ。
じつは、大学生協では、すでに販売台数で10%を獲得するところまで広がっており、セイコーエプソンの碓井稔社長が語る「国内プリンタ市場の第4極を目指す」という言葉を現実のものにしようとしている。2018年は、エコタンク搭載プリンタの認知度とメリットが知れ渡れば、一気にシェアが拡大する可能性もある。
実際、セイコーエプソンが2018年度に全世界に出荷するプリンタの半分以上はエコタンク搭載プリンタになる可能性もある。まさに、新星ともいえるのがエコタンク搭載プリンタといえるだろう。認知度をいかに高めることができるかが課題だが、それによって構成比がどんな勢いで変化するのかを注目しておきたい。
ウルトラマン80
昭和のウルトラマンシリーズの最後が、ウルトラマン80である。
2017年12月に、JEITAが発表したCPS/IoTの利活用分野別世界市場調査によると、2030年のCPS/IoT市場規模は世界で404兆4,000億円に達し、そのうち、日本は19兆7,000億円になり、2016年と比較すると約2倍へと大きく成長するとの予測を発表した。そして、各種機器におけるIoT化率は2030年には80%を超える見込みを明らかにした。80%の機器がネットワークに接続されることになり、IoTの進展は2018年以降、急加速することになるのだ。
ウルトラマン80は、この80%という数字を捉えて、「IoT」としたい。
この数字は、2030年という先のものだが、現時点でもわれわれの生活を取り巻くあらゆるところにIoTが広がっている。2020年には、約500億個のデバイスがインターネットに接続されることになると予測されているが、ここでは人とデバイスがつながるだけでなく、機器と機器がつながり、自動的に判断し、われわれの生活をより豊かにすることになる。IoTを活用した新たなサービスの登場にも注目したい1年だ。
そのほかのウルトラ
ちなみに、初代ウルトラマンが放映される前には、ウルトラQが放映されていた。
Qといえば、量子コンピュータ (Quantum Computer)ということになる。2018年は、量子コンピュータに対する動きがもっと活発化するだろう。2018年は次世代のコンピュータがもたらす新たな世界を垣間見ることができるかもしれない。
ウルトラマンに関連して、いくつかの観点からもIT/エレクトロニクス産業の動向を捉えてみたい。
ウルトラの父とウルトラの母が住むのが「実家」だとすれば、そこにおけるコネクテッドホームの実現も、2018年の注目点だ。ここでは、家電製品とのつながりだけでなく、さまざまな産業との連携によるサービス創出が期待される。
一方、架空のキャラクターとして登場するウルトラマンキングは、ウルトラ兄弟にしてみれば、神様のような存在。神様といえば、「経営の神様」と言われた松下幸之助氏が創業したパナソニックが、2018年3月に、100周年を迎える。100周年を機に開発した製品がどんな形で登場するのにかにも期待したいところだ。
PC業界は、ここ数年低迷を続けているが、業界関係者の声を聞くと、「底を打った」との見方が広がりはじめている。それは、これまでに述べてきたように、PC業界を取り巻く環境に追い風となる要素が生まれ始めているからだ。
働き方改革、Windows 7の延長サポート終了、プログラミング授業の必須化などのほか、2020年の東京オリンピック開催に向けた景気上昇、2019年10月に見込まれる消費増税に伴う駆け込み需要なども、PC業界にはプラス効果になる。
ゼットンに敗れたウルトラマンをゾフィーが蘇らせたように、PC業界も蘇るきっかけを掴んだといえそうだ。その動きが2018年から見られることになるだろう。
今年の言葉遊びは、カラータイマーがなるほどの危機レベルだったかもしれないが、冒頭に述べたように笑って読み流してもらいたい。