山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

フォルダブルでの読書体験はいかに?「Pixel Fold」で電子書籍を試す

「Pixel Fold」。実売価格は25万3,000円

 「Pixel Fold」は、折りたたみ式の画面を備えたGoogle製スマートフォンだ。たたんだ状態では5.8型のスマホとして、広げた状態では7.6型の小型タブレットとして使えるという、いわゆるフォルダブル式の構造を備えている。

 本製品は既存のフォルダブル端末と異なり、開いた状態では画面が横長になることが大きな特徴だ。多くの電子書籍アプリは、見開き表示をするためには画面が横長でなくてはならず、既存のフォルダブル端末では画面を90度回転させなくてはならなかったのに対し、本製品は自然な向きで見開き表示が行なえる。

 今回はメーカーから借用した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、小型タブレットの代表格である「iPad mini」などと比較しつつチェックする。全般的な製品紹介はすでに平澤氏の手によるレビューが掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。

iPad miniと比べて横は短く、縦に長い

 本製品を何と比べるかは難しいところだが、開いた状態では7.6型というサイズ感からして、電子書籍ユースにおいては、Appleの「iPad mini」がもっとも近い製品と考えてよいだろう。ここでは本体を開いた状態について、iPad miniとその特徴を比較する。

Pixel FoldiPad mini(第6世代)Wi-Fi + Cellularモデル
メーカーGoogleApple
発売2023年7月2021年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)158.7×139.7×5.8mm195.4×134.8×6.3mm
重量283g297g
CPUGoogle Tensor G2
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
64ビットアーキテクチャ搭載A15 Bionicチップ
6コアCPU
5コアグラフィックス
16コアNeural Engine
メモリ12GB4GB
画面サイズ/解像度7.6型/2,208×1,840ドット(380ppi)8.3型/2,266×1,488ドット(326ppi)
リフレッシュレート最大120Hz60Hz
最大輝度1,000cd/平方m(HDR)、1,450cd/平方m(ピーク輝度)500cd/平方m
通信方式Wi-Fi 6E(802.11ax)Wi-Fi 6(802.11ax)
生体認証指紋認証、顔認証指紋認証
バッテリ持続時間(メーカー公称値)最小 4,727mAh
標準 4,821mAh
19.3Wh
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
SIMnanoSIM、eSIMnano-SIM、eSIM
価格(2023/7/9現在)25万3,000円(256GB)10万2,800円(64GB)
12万6,800円(256GB)
備考-Wi-Fiモデルも存在
7万8,800円(64GB)
10万2,800円(256GB)

 画面サイズはiPad miniの8.3型に対して、本製品は7.6型と一回り小さい。ただし画面がアスペクト比4:3よりも細長いiPad miniに対して、本製品はアスペクト比6:5と、電子書籍ユースにベターとされるアスペクト比4:3よりも正方形に近い。そのためiPad miniであれば左右にできる余白が、本製品は上下にできるといった特徴がある。これについてはのちほど詳しく見ていく。

 筐体サイズもこの画面比率が反映されており、横幅はiPad miniに比べ約37mmも短い一方で、高さは本製品のほうが約5mmほど大きい。iPad miniよりも背が高いというのは、製品ページの写真などから受けるイメージからするとやや意外かもしれない。

 一方の厚みについては本製品が5.8mmと、iPad miniの6.3mmよりも薄いが、本製品は上部のカメラが出っ張っていることもあり、デスク上に置くなどすると段差が強調される結果となる。手で持った感触としては確かに薄いのだが、ギャップがある印象だ。

閉じた状態では外側の5.8型ディスプレイが利用できる。厚みはともかく見た目は普通のスマホだ
開いた状態では7.6型のタブレットライクな外見になる。既出のフォルダブル端末と違って画面は横長だ
背面。右側半分は閉じた時にディスプレイとして使用する面にあたる
上が本製品、下がiPad mini。幅は本製品のほうが若干狭い
並べ方を左右に変えてみた。本製品のほうが縦に長いことが分かる
厚みの比較。本製品のほうが明らかに薄い
このように完全に開き切らずに角度をつけた状態で使うこともできる
右側面に電源ボタン一体型の指紋認証センサーを備える。画面を閉じて使う場合にも同じ位置なので迷わない

 使い勝手でポイントとなる生体認証については、iPad miniは指紋認証のみなのに対して、本製品は指紋認証に加えて顔認証にも対応している。ちなみに指紋認証は、両者ともに電源ボタンと一体化した方式を採用している。

 バッテリ駆動時間は、上記の比較表では単位が不揃いだが、iPad miniは定格定量に変換すると約5,200mAhになるので、iPad miniのほうがわずかに上ということになる。もっともこれについては、デバイスとしての性格が違いすぎて、あまり参考にならないだろう。

 Wi-Fiについては、本製品が発売時期が新しいこともあり、Wi-Fi 6Eに対応しているなどやや有利。コネクタは両者ともUSB Type-Cで、SIMカードはnanoSIMに加えてeSIMもサポートしているのは同様だ。

 ストレージは256GBのみ。同容量で比較した場合、iPad miniのWi-Fi+Cellularモデル(12万6,800円)の約2倍の価格になるが、iPad miniに関しては容量の少ないWi-Fiモデルであれば8万円から入手可能なので、その場合の価格差は3倍近くあることになる。ユーザーにとってのさしあたっての課題は、この費用を捻出できるかどうかだろう。

完全に重なって閉じられるのは秀逸。ネックは滑りやすさ

 では実物を見ていこう。実際に手に取ってまず感じるのはそのずっしりとした重量感なのだが、これは無意識にスマホと比べてしまうからであって、広げた状態ではむしろ軽量に感じる。このあたり、頭の中でスマホと比べるか、タブレットと比べるかによって、相対的な印象が変わるのが面白い。

 本稿は画面を広げた状態での使用感にフォーカスして紹介するので、折りたたんだ状態での使い勝手には基本触れないが、先に発売されているPixel 7/Pixel 7 Proとは側面から背面にかけての意匠がよく似ている。背面カメラ部は、突起そのものはよく似ているのだが、並べるとデザインはかなり違う。

閉じた状態であれば片手で握れるサイズだ
Pixel 7 Pro(左)との比較。本製品のほうがかなり背が低い
本製品を広げた状態。閉じた状態とは印象がまったく違って見える
Pixel Tablet(下)との比較。さすがに10.9型と比べるとサイズ差は歴然だ
カメラ部の突起をPixel 7 Pro(右)と比較したところ。形状はかなり異なることが分かる

 フォルダブル端末として特筆すべきは、本体を折りたたんだ状態で、隙間がほとんど発生しないことだ。多くのフォルダブル端末では、1枚の画面を曲げて折りたたむことから、画面と画面が触れることなく、浮いてしまうケースもあるが、本製品は左右の画面がほぼ完全に密着する形で重なって折りたたまれる。

 それゆえデスク上に置いた時も上部は左右どちらかに傾くことなく、天板とほぼ平行な状態を保つことができる。フォルダブル端末を使う上で、この隙間の不格好さに抵抗があったユーザーからすると、本製品は理想的な形状と言っていいだろう。

底面。閉じた状態でも隙間がほぼ生じないのは驚異だ。ポートはUSB Type-C
上面。カメラの突起がかなり目立つ
側面(外側)。電源ボタンと音量調整ボタンはかなり中央に寄せて配置されている
側面(内側)。折り曲げられたディスプレイのちょうど裏側に当たる。ひ弱な印象はない
重量は280g。スマホとしては重いがタブレットとしては軽量だ

 その一方で、実際に使っていて気になるのは、本体の滑りやすさだ。本製品は、Pixel Tabletのようなマット感のある素材ではなく、Pixel 7に通じる金属感のある筐体を採用しているため、非常に滑りやすい。

 特に本製品は取り出したあと画面を開くというアクションが伴うことから、うっかり手が滑って落下しそうになることもしばしばだ。本製品は高価なこともあり、このあたりは非常に気を使う。利用に当たって保護ケースは必須であり、それらの出費も予め考慮しておきたい。

 ベンチマークについては、一足先に発売されたPixel Tabletや、昨年発売されたPixel 7 Proとほぼ横並びだ。プロセッサが同じGoogle Tensor G2なので、これは当然といえば当然だろう。ちなみにiPad miniと比べると2割ほど低いが、このあたりはOSの違いなどもあり一概に良し悪しは言えない。

折りたたんだ状態のホーム画面。一般的なスマホのそれと相違ない
開いた状態のホーム画面。Pixel Tabletからウィジェットを除いた状態と酷似している
アプリはGoogle製一色。Pixel TabletにはプリインストールされていたGoogle Playブックスもない
設定画面。「画面消灯」がデフォルトでは30秒と極端に短いので設定を変更しておくとよい
本製品は閉じた状態・開いた状態いずれも同じ方向で使うことが多いと考えられるので、自動回転はオフにしておいたほうが快適だ
Google Octane 2.0でのベンチマーク結果。本製品は「42191」
Pixel 7 Pro(左)は「45723」、Pixel Tablet(右)は「44637」とほぼ横並びだ

紙の本に似た読書スタイルが可能。表現力も十分

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。電子書籍アプリは特に断りがない限りKindleを使用している。

 解像度については380ppiと、iPad miniの326ppiよりも上で、タブレットというよりもスマホに近い解像度だ。電子書籍を表示するデバイスとしてはかなり高解像度な部類に入り、細かいディティールもしっかり表現できる。

 また折れ目こそありながらも、左右の画面がきちんとつながっているので、見開きのページが真ん中で分割されることがなく、テキストが折り目の部分にかかってもきちんと読める。こうした快適さは、一般的なタブレットを使っている時の感覚に近いものがある。

コミックを表示した状態。上下にやや余白はできるが全体としてのバランスはよい
iPad mini(下)との比較。コミックは一回り小さく表示されるが、横幅から想定されるほどのサイズ差はない
テキストを表示した状態。画面のサイズを活かした余白の少ない表示が可能だ
iPad mini(下)との比較。iPad miniのKindleアプリは左右の余白部分にまで表示を広げられないので、画面あたりに表示できる文字数は本製品のほうがむしろ多くなる
表示クオリティの比較。左が本製品、右がiPad mini。解像度がほぼ等しいことから細部のディティールは酷似している
折り目にテキストがかかっても問題なく読める
【動画】ページをめくっている様子。片手で持つ場合、このように角度をつけて保持し、親指の側面でページを左右にめくるという、紙の本とよく似たハンドリングになるのが興味深い

 また前述のように、本製品は従来のフォルダブル端末の多くと違って、開いた状態で画面が横長であるため、見開き表示のために本体を90度回転させなければいけないこともない。また画面を完全に開き切らずに若干閉じ気味で使用する場合も、そのままの向きで本のページを閉じ気味に支えた状態を再現できる。これだけでも過去の製品と比べて圧倒的な優位性がある。

 それゆえ本製品は画面の自動回転は原則オフにしておいて差し支えないのだが、ストアのページやライブラリなど、多くの本のサムネイルが並ぶ画面では、本体を90度回転させた縦長のビューのほうが、一覧性が高くなる場合がある。このあたりはケースバイケースで対応すべきだろう。

 またそもそもの問題として、このサイズで見開き表示はつらいという人もいるだろう。8.3型のiPad miniも見開き表示には賛否両論あるが、本製品はさらに一回り小さいので、iPad miniのサイズで苦になるかならないかが、本製品を快適に使えるかどうかのひとつの基準となるだろう。

本体を90度回転させると単ページで大きく表示できるが、こうした使い方をするケースはかなり稀だろう
本体を軽く曲げた状態だと紙の本と変わらない見た目で読書できる
ライブラリを表示した状態。上下に約1.5冊分しか表示できない
90度回転させると上下に2.5冊分表示できるようになる。こうした使い方はありだろう

 ページめくりなどの動作もサクサク高速で快適に利用できる本製品だが、実際に使っていて気になったのは、本製品はタブレットとしては左右ベゼルの幅が狭いことから、電子書籍ストアのアカウントなどの入力を行なっているときに、うっかり画面に触れてしまって別の画面に遷移してしまうミスが起こりやすいことだ。

 これが電子書籍のページめくりであれば、たとえ誤操作をしてもすぐに戻れるので実害はないのだが、テキスト入力中にこうした操作ミスが起こると入力内容がすべて消えてやり直しになってしまう。電子書籍ストアのインストール直後のログイン操作は、本製品を折りたたんだ5.8型の画面で行なったほうが、ストレスは溜まらないかもしれない。

本製品は左右のベゼルがかなりスリムなので、持ち方によってはうっかりページがめくられるなどの誤作動が起こりやすい
6:5という特殊なアスペクト比ゆえ上下にできる余白の処理は、ストアによっても異なる。もっとも多いのは白のままで、KindleのほかKinoppy、ebookjapan、BOOK☆WALKERなどがこのパターン
余白が黒、もしくはほぼ黒なのはGoogle Playブックスや楽天Koboなど意外と少ない
グレーで塗りつぶすパターンの中には、下部のホームバーが表示されたままになるストアもあり、やや没入感がそがれる。DMMブックスやBookLiveがこのパターン

敢えて要望すべきところもほぼない完成度の高さ。問題は価格?

 以上のように本製品は、iPad miniと同等かわずかに小さな表示サイズを、iPad miniよりも少ない表面積で実現している。表示性能が高いことに加えて、二つ折りにしてコンパクトに持ち歩けるという利点もあり、電子書籍にはかなり適したデバイスと言っていい。

 中でも軽く曲げた状態でのホールド感は非常に高く、文庫本を片手で保持しながら読むのと感覚的にも近い。画面サイズはある程度大きくなければ読みづらいが、大きすぎて持ちづらいのは困るというユーザーでも、本製品ならば受け入れやすいはずだ。

文庫本サイズゆえ、このように軽く折った状態での読書はフィット感が高い
寝転がった状態で頭上にかざして読書する場合は、完全に広げた状態で3本指で本体を支え、人差し指でめくるという、6~8型デバイスと同じスタイルが使える

 そんな本製品でネックになる点は主に2つ。1つは言うまでもなく価格だ。25万円前後という実売価格は、通常のスマホの2~3倍に相当し、10万円台ならばギリギリためらわない人であっても、さすがに躊躇するだろう。

 もう1つは、価格とも関連するが、とにかく扱いに気を使うことだ。保護ケースで覆って滑りにくくするのはもちろんだが、これだけ高価となると、普段使いにおける気の使い方からして違ってくる。筐体の剛性からしてひ弱には見えないが、可動部のある端末であることに変わりはない。うっかり破損させかねない怖さは、数万円台のスマホの比ではない。

 そもそもフォルダブル端末は、「折りたたむことで持ち運びやすくなる」のが最大の売りのはずが、その高価さゆえ「壊すのが怖いので外出時への持ち出しがはばかられる」という、矛盾した状態になっている。では20万円オーバーの価格がいきなり半額になれば解決するかというとそれも難しいだろう。一方で、製品から得られる一味違った体験からして、この20万円台というのが決して法外な価格とも思えないのも事実である。

 デバイスとしての完成度は非常に高く、敢えて要望すべきところもほとんどない(個人的にはカメラスペックを落として薄型化してほしいが多数派の意見ではないだろう)が、本製品のようなフォルダブル端末が今後普及していくかは、価格を含めていかに気軽に触れられるようになるか、その施策次第といえそうだ。