山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

5万円台半ば、見開き読書に絶妙なサイズ感の10.4型タブレット「Galaxy Tab S6 Lite」

「Galaxy Tab S6 Lite」。実売価格は5万6,799円

サムスン電子の「Galaxy Tab S6 Lite」は、10.4型のAndroidタブレットだ。iPadと同じミドルクラスを狙った製品でありながら、スタイラスのSペンが付属しつつ実売価格は5万6,799円と、リーズナブルな価格が特徴だ。

 ここのところ、Googleの「Pixel Tablet」、さらにAmazonのFireタブレットの最上位モデル「Fire Max 11」と、10型クラスのタブレット市場が活況を呈している。ローエンドではない一定の性能を備え、さらに価格も10万円は超えないミドルクラスの製品は、以前はiPadくらいしか選択肢がなかったところ、にわかに選択肢が増えつつある状況だ。

 本製品もその1つで、同社の「Galaxy Tab S8」シリーズのエントリー向けという位置づけであり、実売価格は64GBで5万台後半とリーズナブルに設定されている。同じ容量のiPadと比べると1万円安く、さらにスタイラスのSペンが付属するぶんお買い得というわけだ。

 今回はメーカーから借用した機材を用い、電子書籍ユースを中心とした使い勝手をiPadやPixel Tabletと比較しつつチェックする。

ひとまわり小さいサイズ。レイアウトは縦向き前提

 まずは競合製品との比較から。

【表】ほかの製品との比較
Galaxy Tab S6 LitePixel TabletiPad(第10世代)Fire Max 11(第13世代)
発売日2023年6月2023年6月2022年10月2023年6月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)244.5×154.3×7.0mm258×169×8.1mm248.6×179.5×7mm259.1×163.7×7.50mm
重量465g493g477g490g
OSAndroidAndroidiOSFire OS
CPUSnapdragon 720G
2.3GHz, 1.8GHz
オクタコア
Google Tensor G2
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
A14 Bionicチップ
6コアCPU
4コアのグラフィックス
16コアNeural Engine
8コアプロセッサ - 2x Arm Cortex-A78 (最大2.2GHz)、6x Arm Cortex A55 (最大2GHz)
メモリ4GB8GB4GB4GB
画面サイズ/解像度10.4型/2,000×1,200ドット(224ppi)10.95型/2,560×1,600ドット(276ppi)10.9型/2,360×1,640ドット(264ppi)11型/2,000×1,200ドット(213ppi)
通信方式Wi-Fi 5(802.11ac)Wi-Fi 6(802.11ax)Wi-Fi 6(802.11ax)Wi-Fi 6(802.11ax)
生体認証顔認証指紋認証指紋認証指紋認証
バッテリー持続時間(メーカー公称値)最大15時間(ビデオ再生時間)/7,040mAh最大12時間の動画ストリーミング最大10時間最大14時間/7,500mAh
コネクタUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
スピーカーデュアル4基 ※本体のみ2基(上下)2基
メモリカード○(最大1TB)--○(最大1TB)
ワイヤレス充電---
価格(本稿執筆時点)5万6,799円(64GB)7万9,800円(128GB)
9万2,800円(256GB)
6万8,800円(64GB)
9万2,800円(256GB)
3万4,980円(64GB)
3万9,980円(128GB)
備考イヤフォンジャック搭載
Sペンが付属
充電スピーカー ホルダーが付属--

 本製品のライバルとなるのは、iPad、および先日発表されたGoogleの「Pixel Tablet」が挙げられる。またAmazonのFire Max 11も、解像度が本製品ということもあり、電子書籍ユースではライバルとなるだろう。

 本製品はそれらの製品と比べた場合、画面サイズがわずかに小さいものの、そのぶん薄く軽いのが特徴だ。このひとまわり小さいサイズは本製品を見ていく上でかなり大きなポイントとなるので、念頭に置いてこのあとの話を進めていく。

 CPUはSnapdragon 720Gで、過去にAQUOS sense4 plusに採用されていたことからも分かるように、それほど新しいSoCではない。またメモリも4GBとそれほど潤沢ではないほか、Wi-Fiも11acまでの対応(Wi-Fi 5)だ。目標となる販売価格に合わせてハードウェアを取捨選択していった結果だろう。ベンチマークについては後述する。

 Pixel TabletやiPadにない特徴として、メモリカードによる容量拡張が行なえることが挙げられる。本製品は64GBモデルのみで容量違いのバリエーションはないが、メモリカードをデータの保存先として利用できるのは利点だ。ちなみに最大1TBまで対応しているのは、同じくメモリカードに対応するFire Max 11と同じだ。

 競合製品と異なる点として興味深いのは、前面カメラの配置が縦向きでの利用を前提にしていることだ。前述の3製品は、Web会議やビデオチャットでの利用を想定して横向き前提でのレイアウトが採用されているのに対して、本製品は前面カメラは短辺側に配置されるほか、背面ロゴなども縦向きを前提としたレイアウトなのが珍しい。

最近のタブレットとしては珍しく縦向き利用を前提としたデザイン
ただしベゼル幅は上下左右で均等なため横向きでの利用も違和感はない
前面カメラは短辺側に配置される。最近のタブレットとしては珍しい
背面。こちらもロゴの向きなどからして縦向きでの利用を前提としたデザイン
(横向き利用での)左側面。最近の製品としては珍しくイヤフォンジャックを搭載する
右側面。USB Type-Cポートを搭載する
上面。電源ボタン、音量調整ボタンのほか、右側にメモリカードスロットを備える
背面カメラはわずかに突起のある仕様
重量は実測467g。競合の3製品より筐体が小さいせいか、やや軽い
Sペンが付属する。本体に磁力で吸着させることも可能

ローエンドではないがハイエンドでもない

 アプリについては、サムスンの自社アプリを中心に、Googleやマイクロソフトのアプリを加えた構成になっている。そのほかのサードパーティ製アプリはNetflixやSpotifyを除けばほぼ皆無で、全体的にはシンプルにまとまっている。素のAndroid 13と比べると、標準的なアイコンのデザインはやや独特だ。

ホーム画面。Android 13ベースのOneUI 5.1を採用する
ホーム画面の続きは横方向のスワイプで表示される。Netflixのアイコンが目立つ
アプリ一覧。全体的にはすっきりした顔ぶれ
サムスンの自社アプリの多くはフォルダにまとめられている
Google製アプリも一通り用意されている。Google Playブックスはない
MicrosoftはOffice系を中心に用意されている
クイック設定パネル。サムスン独自のDeXが目立つ
クイック設定パネルの2画面目。明るさ調整のバーは上段ではなく下段にある

 実機を見てまず感じるのは、そのコンパクトさだ。筆者がここ数週間、10.95型のPixel Tabletや11型のFire Max 11など、10型クラスと言いつつ実質11型の製品を使っていたせいもあるだろうが、iPadと並べた時も、高さはほぼ同じで幅だけがスリムであったりと、コンパクトさを感じる要因はあちこちにある。

左が本製品(10.4型)、右がPixel Tablet(10.95型)。サイズ差は意外にある
左が本製品(10.4型)、右がFire Max 11(11型)。この両者はいずれも2,000×1,200ドットでアスペクト比も同じ
左が本製品(10.4型)、右がiPad(10.9型)。奇しくも高さはほぼ同じだ
厚みの比較。いずれも左が本製品、右は上からPixel Tablet、Fire Max 11、iPad。本製品の薄さが分かる(iPadは同じ「7mm」)

 動作速度は決してもっさりしているわけではないが、本製品を使い始めるまでしばらくPixel Tabletを使っていた筆者の感覚からすると、画面の切り替わりなどの操作で、ワンテンポ待たされると感じることがしばしばある。

 実際にベンチマークを取ってみると、スコアはPixel TabletやiPadの半分~3分の1といったところで、その前にレビューしたAmazonのFire Max 11とはほぼ同等のスコアだ。これらは実際に使った感覚ともおおむね一致する。ローエンドではないものの、決してハイエンドではない点は、肝に銘じておいたほうがよさそうだ。

Google Octane 2.0による比較。左から本製品が「19360」、Pixel Tabletが「43570」、Fire Max 11が「22,060」、iPadが「57,408」

10型クラスとしては表示サイズは小さめ

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 解像度は224ppiということで、Pixel Tablet(266ppi)やiPad(264ppi)に比べるとやや低め。ただし実際に画像を比較した限りでは、一目瞭然かというとそうではない。十分に実用レベルといえる表現力だ。

 それよりも本製品の場合、大きなポイントになるのはやはり画面サイズだ。Pixel TabletやiPadよりも一回り小さく、またアスペクト比が細長いことから、画面に表示されるページのサイズは一回り小さくなる。

 もちろんコンパクトと言っても、8型クラスのタブレットと比べれば差は歴然なのだが、10型クラスということである程度の大きさで表示できることを期待して購入すると、意外な小ささに戸惑う可能性はある。8.3型のiPad miniも含め、同じページを表示した場合のサイズの比較を以下に掲載するので、参考にしてほしい。

コミックの見開き表示に適するサイズだが、左右にはかなり広い余白ができる
上が本製品、下がPixel Tablet。もともと画面サイズがひとまわり小さいことに加えて、アスペクト比の関係もあり本製品のほうがページが一回り小さく表示される
上が本製品、下がFire Max 11。アスペクトが同じため、余白も含めてまるごと縮小したような格好になる
上が本製品、下がiPad。本体の横幅はほぼ同じながら、iPadはほとんど余白ができず、本製品よりも2回りは大きく表示できる
画質の比較。上段は左が本製品(224ppi)、右がPixel Tablet(276ppi)、下段は左がFire Max 11(213ppi)、右がiPad(264ppi)。髪など細い線がやや太く見える傾向はあるが全体的にはそう差はない
11型クラスの製品と比較すると小さく見えるが、8.3型のiPad mini(下)と比べるとさすがにサイズ差は歴然だ
雑誌コンテンツの比較。左が本製品、右がPixel Tablet。本製品のほうが余白があることが分かる
左が本製品、右がFire Max 11。こちらは単にひとまわり縮小したかのようなサイズ感
左が本製品、右がiPad。アスペクト比によって没入感が大きく変わることが分かる
画質の比較。上段は左が本製品(224ppi)、右がPixel Tablet(276ppi)、下段は左がFire Max 11(213ppi)、右がiPad(264ppi)。注釈レベルの小さい文字もつぶれることはない
左から、iPad mini、本製品、iPad。ボディサイズだけならiPadのグループだが、ページの表示サイズで見るとiPad miniに近い印象を受ける

 なお電子書籍の利用にあたって、できれば設定を変更しておきたいのが、ナビゲーションバーの方式だ。本製品は、最近のAndroidとしては珍しく、ジェスチャーナビゲーションではなく3ボタンナビゲーションが有効になっており、下段のボタンによって天地が圧迫されてしまっている。

 特に電子書籍ストアのライブラリ表示ではかなり露骨に影響が出るので、なるべくであればジェスチャーナビゲーション(本製品での呼び名は「スワイプジェスチャー」)に切り替えたほうがよいというのが筆者の意見だ。

設定の「ディスプレイ」から「ナビゲーションバー」を開く
デフォルトでは「ボタン」になっているのを「スワイプジェスチャー」に変更する
デフォルトの「ボタン」のままだとこのようにライブラリ表示中も下段にアイコンやボタンが表示され、天地が圧迫される
「スワイプジェスチャー」に変更するとこのように天地に余裕ができる。本製品のように横長の画面ではかなり効く

 ところで本製品はAndroidということで、音量調節ボタンを使ったページめくりにも対応しているが、実際に試した限りでは、画面が横向きでの利用はあまり実用的ではない。

 というのも、横向きの場合は音量調整ボタンは左上に配置されるのだが、隣に電源ボタンがあるぶん本体端からの距離があり、左手で操作するには指をかなり伸ばさなくてはいけないからだ。指紋認証センサーが誤反応するため押しづらかった前回のPixel Tabletとはまた違った意味で、実用性はいまいちだ。

 一方で、本体を縦向きに使う場合は、この音量調整ボタンが右手人差し指で極めて操作しやすい場所に配置されるので、逆に実用性は高い。ボタンは表面が平たいタイプではなく突起があるタイプで、繰り返し押すと指先が痛くなってくることにさえ気にしなければ、十分に役に立つだろう。

音量調整ボタンによるページめくりも可能だが、横向きだと端からの距離があって押しにくい
縦向きだとちょうど右手で握る位置付近にボタンが来るのでちょうどよい

このサイズ感が気に入るかどうか

 以上のように、最近相次いで登場している実質11型クラスのタブレットの中ではやや小ぶりだが、8.3型のiPad miniでは見開き表示をするのに小さすぎるというユーザーには、逆に絶妙のサイズ感だろう。

 実際に使ってみた限り、本製品に合うかどうかは、このサイズ感が気に入るかどうかでほぼ決まってしまうように感じる。可能ならば店頭などで現物を手に取ってサイズ感をチェックしたほうが、より納得のいく製品選びができるだろう。

幅がスリムなため、ある程度の手の大きさがあれば鷲掴みにできてしまう

 かつてタブレットを購入するにあたっては、iPadの5万円前後というのが1つの基準だったが、今やそのiPadは実質6万円台半ばからと、相場自体がかつてより上がった状況にある。

 そんな中で本製品は、価格とスペックのバランスが、なかなかいい線をついている。イヤフォンジャックやメモリカードスロットなど、古いタブレットからの買い替えを考える人の背中を押しやすい端子類が健在であることもポイントだろう。

 最後に、これは本製品とデザインがよく似たFire Max 11にも言えるのだが、背面はやや滑りやすく、うっかり落下させてしまう危険は相応にある。同時発売のブックカバーをはじめとして、筐体側を保護カバーはなるべく早いタイミングで追加しておいたほうが、長期にわたって安全に使えるはずだ。