山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
コンパクトながら見開き表示にも対応。フォルダブルスマホ「Galaxy Fold」で電子書籍を試す
2020年1月24日 11:00
「Galaxy Fold」は、開くと7.3型、閉じると4.6型になる、いわゆるフォルダブルタイプのスマートフォンだ。CPUはSnapdragon 855(オクタコア)、メモリは12GB、ストレージは512GB、Wi-Fi 6対応とハイスペックで、さらに前後6つのカメラ、NFC、顔認証、指紋認証、Qiなど機能も充実している。メーカーはサムスン電子で、国内ではauを通じて販売されている。
設計変更による発売延期を経て、昨年(2019年)10月末にようやく発売にいたった本製品だが、実売価格は約24万円と、性能や機能と同様、こちらもモンスター級だ。折りたたみ式というギミックに興味津々ながら、この価格で二の足を踏んでいる人も多いはずだ。
もっとも、現時点では価格がネックだったとしても、仮にそれが将来(後継機も含め)クリアされたときのために、仕様や機能面のメリットおよびデメリットについて知っておくのは悪いことではないだろう。発売からやや時間が経ったが、今回はメーカーから借用した機材を用い、電子書籍用途を中心に、本製品の特徴をチェックしていく。
スマートフォンとタブレットの中間サイズ。利用には保護カバー必須
まずは外観を見ていこう。筐体は左右から中央に向かって折りたたむ構造で、画面サイズは7.3型。昨今の6型クラスの大画面スマートフォンより大きく、iPad mini(7.9型)よりコンパクトという絶妙なサイズだ。重量は約276gと、ややiPad mini(300g弱)寄りで、見た目よりもずっしりくる。
ディスプレイは継ぎ目こそないが、完全に開いた状態でも中央部分がわずかにへこんだ構造になっており、1枚物のパネルではないことはすぐにわかる。とはいえ画面表示ではまったく違和感はない。タッチ時にまれに浮きを感じるのが多少気になるくらいだ。
一般的なスマートフォンでは上部中央にある前面カメラは、位置がちょうど折り目にあたるためか右寄りに配置されており、外観上の特徴になっている。一般的なスマートフォンと異なり、上下左右のベゼルがわずかに盛り上がっているのも目立つ。
電源ボタンと音量調整ボタンは右側面にある。それゆえ開いた状態と閉じた状態、いずれの場合にも右側に来る配置だ。電源ボタンの下には指紋認証センサーが配置されるほか、前面カメラを使っての顔認証にも対応する。
充電端子はUSB Type-Cで、本体右下に配置される。スピーカーは左上と左下にあり、本体を横向きにすると左右に配置されるレイアウトになっている。
折りたたみ機能は、ワンプッシュでの開閉機構こそないが、軽く力を加えるだけでパタンと閉じ、また開くことができる。以前紹介した「M Z-01K」のように力を入れないと開閉できないこともなく、片手でも十分に開閉が可能。構造的にもひ弱さは感じない。
ただしもともと高価な製品である上、表も裏も滑りやすく、さらに左背面はディスプレイでもあるため、利用にあたってはかなり気を使う。同梱の保護カバーを取りつけてはじめて、おそるおそる使う状態から脱却できる。
なお購入時点で画面を覆うシートや、セットアップ完了後の画面などでは、メインディスプレイに市販のフィルムを貼らないよう繰り返し注意喚起がなされている。貸出機のフィルムをはがせる状態にあったことが故障につながった、初期モデル回収の一件が影響しているようだ。
本体は右手持ちが基本。折りたたんだ状態での利用はあくまでおまけ
セットアップの手順は一般的。Galaxy関連のアプリをインストールするか否かを問うプロセスが間に挟まるが、2つ折りの製品だからと言ってとくに変わったところはなく、Androidのフローそのままだ。キーボードが左右に分割されているのが目立つくらいだ。
ホーム画面は、キャリアであるau製のアプリが2画面目に並ぶほかは、一般的なAndroidのホーム画面と相違ない。インストール済アプリはドロアーに格納されており、画面を上にスワイプすると一覧が表示される。
ホーム画面で特徴的なのは、「ホーム」ボタンや「戻る」ボタンが画面中央ではなく、右寄りに配置されていることだ。前述のように、電源ボタンや音量調整ボタンの配置も右側が基準になっており、それゆえ本製品は「画面の左側ではなく右側がメイン」と考えておけば、開いたときに片手で扱いやすいのはもちろん、閉じた状態での利用にもシームレスに移行できる。
その折りたたんだ状態については、想像したよりもはるかに幅がなく驚かされる。もともと横幅があまりないのをさらに半分にたたむため、横幅はiPhone SE並にスリムになる。
このスリムさは、現行のスマートフォンよりも幅がせまく持ちやすいことをアピールするためかもしれないが、それよりはむしろ一般的なスマートフォン並みの幅にして、開いたときの横幅を広げてほしいという人もいるはずで(筆者がそうである)、好みは分かれそうだ。
ただ、本製品はあくまでも開いた状態がメインであり、折りたたんだ状態はサブと考えるべきである。もともと本製品は、大画面をコンパクトに持ち歩く手段として折りたたみ機構を導入し、そうなると閉じたときに画面がまったく見えなくなるので最小限の情報が見られる画面を本体裏につけるという流れで、現在のかたちにいたったと考えられるからだ。
もちろん、電車内で吊革を持った姿勢などで、安定性を重視して折りたたんだ状態で使うことは否定しないが、メインはやはり開いた状態だろう。そうした前提で考えれば、握りやすさ、ポケットへの入れやすさにフォーカスした折りたたみ時のスリムさは、決して間違っていないように思う。
ベンチマーク結果も紹介しておこう。Sling Shot Extremeによるスコアは5,755と、以前レビューした同じAndroidデバイス「Pixel 4 XL」の5,741とほぼ同等。本製品はCPUがSnapdragon855、メモリ12GBというモンスター級のスペックだけに、このスコアも納得だ。
見開き表示はサイズは十分も、向きが疑問?
さて電子書籍用途について見ていこう。コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を、テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を用いている。ストアはKindleストアを利用している。
本製品は有機ELディスプレイを採用し、画面サイズは7.3型、解像度は1,536×2,152ドット(362ppi)と、品質は十分だ。ちなみに現行の読書端末のなかでは、Kindle Oasisにもっともサイズが近い。
ちなみに電子書籍アプリ側に「中央の折り目にはテキストを表示させない」という設定があるわけではないので、折り目の部分にもテキストが表示されるが、左右が分割されている「M Z-01K」のように行全体が継ぎ目によって隠れる問題もなく、いたって快適だ。
ただしコミックの表示は、やや癖がある。じつは本製品は、通常の持ち方でコミックを表示しても画面は単ページ表示にしかならない。その理由は、本製品は開いた状態でも、画面自体は「縦長」だからだ。
本体を左右に折りたたむという構造からして、開くといかにも横長になりそうだが、じつはそうではない。正方形よりも少し横幅がせまい程度とはいえ、縦長であることに変わりはなく、それゆえ見開きではなく単ページ表示になってしまう。
では見開き表示にするにはどうすればよいかというと、90度回転させて画面を横向きにするしかない。Kindleなど国内主要5サイト、さらに「少年ジャンプ+」と「マガポケ」を試したが、いずれも(何らかの裏技がある可能性はあるが)この仕様だった。画面回転アプリを使っても、単ページ/見開きを維持したまま回転できないのでお手上げだ。
それゆえ本製品の見開き表示では、一般的にイメージされる「2つ折り端末=紙の本のように中央が折れ曲がって左右に見開きが表示される」という状態にならず、ページは見開きなのに画面は上下に折れ曲がるという不思議な状態になる。
もちろんこれは折りたたむ最中にのみ生じる違和感で、完全に開いた状態では気にする必要はないのだが、生理的にはかなり気持ち悪い。写真を見れば、その意味がおわかりいただけると思う。できるならば本体側でこれらが制御できてほしいところだ。
もう1つ気になるのは、画面ギリギリまでコンテンツを表示する一部の電子書籍サイトにおいて、カメラのあるエリアが、ページの内容を隠してしまうことだ。
これはiPhone Xの登場直後に、ページの内容がノッチ部分に重なっていた症状と似ているが、やや特殊な仕様ゆえ、電子書籍アプリ側の対応は期待薄だろう。本体を180度回転させるなどの回避策はあるが、頻度が高いとストレスになりそうだ。
ちなみに本製品は3アプリ同時使用機能を備えている。挙動はiPadOSの「Split View」と似ており、読書中にメモを取ったり、ブラウザやSNSアプリなどを同時表示できるが、iPadほどの画面サイズがないため、電子書籍を読みながらとなるとかなり窮屈だ。そのほかの用途では出番があるかもしれない。
「新しいもの好き」な人以外にも響く実用性の高いデバイス
筆者個人は本製品の発売延期にいたる報道を見聞きして、ハードとしての完成度が低いのではと疑問を持っていたが、実際に使ったかぎりでは(当初のモデルとどのくらい変わったのかわからないが)、完成度は高い。価格についてはさておき、単体のガジェットとしては致命的な問題点もなく、十分におすすめできる。
とくに電子書籍用途では非常に魅力的だ。そもそもこのサイズで見開きを表示できる電子書籍系のタブレットを探すとなると、せいぜい7型サイズのタブレットか、もしくはiPad miniしかない。
その点、この横幅で、余白の少ないアスペクト比で、見開き表示が可能なだけで本製品は貴重な存在であるほか、折りたたんでコンパクトに持ち歩けるという、ほかの製品にないプラス要因もある。
見開き表示の挙動は前述のようにやや疑問点もあるが、見開きそのものができないというわけではなく、全体からすると些末な問題だ。本稿では電子書籍用途以外はほぼノーチェックなので差し引く必要はあるが、トータルで見ると「新しいもの好き」な人以外にも響く、実用性の高いデバイスという印象が強い。
その上で、本製品のようなフォルダブル端末が今後普及するためには、やはり価格がもう一段階下がることが必須だろう。現時点でも利益は薄いと推測されるが、将来的に(後継製品も含めて)10万円台前半まで下げられるか否かが、1つのキーと言えそうだ。