山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

左右の画面でコミック見開き表示は可能? 2画面スマホ「LG G8X ThinQ」で電子書籍を試す

「LG G8X ThinQ(901LG)」。カラーはオーロラブラックのみ

 LGエレクトロニクス・ジャパンの「LG G8X ThinQ」は、ディスプレイつきケースを組みわせることで、2画面表示を実現したAndroidスマートフォンだ。左右2つの画面で異なるアプリを表示したり、また1つのアプリを大画面で表示したりと、用途に応じてさまざまな配置を利用できる。国内ではソフトバンクを通じて販売されている(55,440円)。

 前回紹介した「Galaxy Fold」の記事(コンパクトながら見開き表示にも対応。フォルダブルスマホ「Galaxy Fold」で電子書籍を試す)のように、最近は2つ折りができる折りたたみ端末、いわゆるフォルダブルスマートフォンが話題だ。

 本製品もその流れに属する製品のように見えるが、実際には画面そのものは完全に2つに分離していることに加え、片方を取り外して持ち歩けるなど、別ジャンルと言っていい性格を持った製品だ。

 ただし画面が2つに分離しているとはいえ、電子書籍、とくにコミックのように、もともと左右に分かれているコンテンツであれば支障はない。意図どおりに表示できればという前提だが、電子書籍にこそ向いた仕様だ。ディスプレイつきケース込で5万円台で入手できるリーズナブルさも大きなメリットだ。

 今回はメーカーから借用した機材を用い、電子書籍ユースを中心に、この特徴的な2画面構成でどんなことができるかをチェックしていく。

「全部入り」と言っていい仕様。分離させての利用も可能

 まずざっと仕様をチェックしていこう。前述のように本製品は、同梱のディスプレイつきケース「LGデュアルスクリーン」と組み合わせることで2画面表示を実現している。ディスプレイの仕様は左右共通で、パネルは有機EL、画面サイズは6.4型、解像度は2,340×1,080ドット(403ppi)と十分だ。OSはAndroid 9を採用する。

 ディスプレイつきケースは手帳タイプの保護ケースとよく似た仕様で、本体に取りつけると左綴じの状態になる。ケースを外せば単体で持ち歩くこともでき、重量は193gと、このクラスの大画面スマートフォンとしては標準的。外観も一般的なスマートフォンと変わらず、さらに単体で持ち歩くための保護カバーまで付属している。至れり尽くせりだ。

開いた状態。左右そっくりになるよう画面サイズ・解像度を合わせてあるのがニクい。ホームボタン類は両方にあるほか、前面カメラのあるノッチ部(ダミー)まで再現するこだわりよう
左側ディスプレイを背面に折りたたんで1画面で使うこともできる。厚みがあるぶんさすがにゴツい
左から、iPhone 11 Pro Max(6.5型)、本製品(6.4型×2)、iPad mini(7.9型)。2画面を足した状態ではちょうど中間に位置するサイズだ
ディスプレイつきケース「LGデュアルスクリーン」と分離させたところ。単体では一般的な大画面スマートフォンだ
単体で使うためのTPU製保護カバー(右)も付属する
ディスプレイつきケースのUSB Type-Cコネクタに差しこむようにして合体させる

 CPUはSnapdragon 855、メモリは6GB、ストレージは64GBとスペックも高い。最大512GBのメモリカードにも対応している。指紋認証はディスプレイ内で行なうことから、見た目もスマートだ。

 防水防塵対応、おサイフケータイ対応、Qi対応に加えて、フルセグチューナまで搭載するなど、全部入りと言っていい豪華さだ。最近の製品にはめずらしくイヤフォンジャックを搭載しているのも、有線イヤフォン愛用のユーザーに響く仕様だ。

 外部端子はUSB Type-Cなのだが、ディスプレイつきケースに合体させた状態では、USB Type-Cコネクタの先端に専用アダプタを取りつけての充電になる。MacBookのMagSafeと同様に磁力で吸着する仕組みで、数cm離れていても引き寄せられるほど吸着力は強い。ただしこの場合、USB PDでの急速充電には対応しない。

上面および底面。最近の製品にはめずらしくイヤフォンジャックを搭載する(底面左)
左右側面。右側は電源ボタンのみで、左側に音量ボタンと、Googleアシスタントを呼び出せる拡張ボタンを搭載する
ディスプレイつきケースを取りつけた状態では、USB Type-Cケーブルに独自仕様のアダプタを差し込んで充電を行なう
充電中の様子。磁力で吸着する仕組み

ディスプレイつきケースにより左右2画面を実現

 セットアップの手順は一般的なAndroidスマートフォンと変わらない。ディスプレイつきケースは、設定画面のなかにいくつか関連項目があるものの、セットアップ段階では何らかの初期設定を行なう必要もない。

 本体側が右画面、ケース付属のディスプレイが左画面という配置ゆえ、メイン画面はあくまでも右側で、必要に応じて左側をオンにして使う。左右が同じ厚みだった前回のGalaxy Foldと異なり、本製品はケース側のディスプレイが本体に比べてかなり薄いため、左側を持って使うことは考えにくい。左手で持つ場合も、筐体右側を支えることになる。

 なおこのディスプレイつきケースは、180度まで開くと奥にあるもう1つのヒンジが可動し、背面まで折り返すことができる。この状態では、背中側に来るディスプレイは消灯し、手帳タイプのスマートフォン用ケースを背面に折り返したようなスタイルで利用できる。

 またこれとは逆に、内側に折りたたんだ状態では、本体を覆うケース側ディスプレイの背面(カバーディスプレイ)の小窓に時刻や通知、バッテリ残量を表示できる。前回のGalaxy Foldもそうだったが、閉じた状態でも情報を参照できるという、設計の苦労が偲ばれる構造になっている。

設定の「表示」のなかにデュアル画面絡みの設定画面がある。左側画面に常時表示するアプリを設定しておくこともできる
前回レビューしたGalaxy Foldと異なり、本製品は左右のディスプレイの厚みは異なるほか、画面に段差もある
右手を用い、本体にあたる右側を持つのが一般的な持ち方だろう
左手で本製品を持つ場合も、重量バランスの関係で、右側を持つことになる
ディスプレイを背面にぐるりと回すこともできる
ディスプレイを折りたたんだ状態。これならば左右どちらの手でも持てる
カバーディスプレイ部には時刻や通知などを表示できる。ちなみに情報を表示できるのは上部の小窓のみで、その下はディスプレイではない
カバーの背面。合皮のような加工が施されている

アプリを全画面表示する「ワイドモード」は対応アプリ不足?

 さて、その2画面表示だが、メイン画面側の右端にある小さなタブをダブルタップすることで、画面の操作メニューが表示される。このメニューからは、画面の左右入れ替えや移動、1つのアプリを両方の画面で表示する「ワイドモード」への切り替えなどが行なえる。またデュアル画面をオフにする機能も用意されている。

よく見るとメイン画面の端に小さなタブが表示されている
タップするとディスプレイにまつわる操作メニューが表示される
「ワイドモード」をタップすると対応アプリを全画面で表示できる。これはChrome
上下スクロールが必要な画面であれば、90度回転させたほうが使いやすい

 このうち、両方の画面を用いて1つのアプリを全画面表示する「ワイドモード」の対応アプリは少ない。事実上Chromeだけ、と言っていい状況で、全画面表示で使いたいアプリの筆頭であるGoogleマップも非対応ときている。

 これはそもそも本製品が、「2画面を使って1つのアプリを全画面表示」することよりも「2つの画面にそれぞれ別のアプリを表示」することを主眼に置いているためだ。

 たとえば、

  • ホームページを見ながら電話を掛ける
  • スポーツ中継を見ながら実況サイトを表示する
  • 位置情報ゲームと地図アプリを並べて表示する

などだ。探せばまだまだ出てくるだろう。これらは2画面構成である本製品ならではの使い方で、1画面を強引に(上下などに)分割して使うスマートフォンとは、使い勝手は比べものにならない。

メニューに「ワイドモード」が表示されないアプリも多い。これはGoogleマップ
左右2画面の表示はさまざまな組み合わせが可能。たとえばホームページを見ながら電話をかけるのも容易だ
フルセグチューナでTVを視聴しながら番組ホームページを見たり、実況サイトを見ることもできる
撮影済みの写真を参照しながら構図を合わせて新しく写真を撮るというのは、意外なニーズがあるかもしれない

有志作成の“神アプリ”を使えば電子書籍の全画面表示も可能だが……

 さて、電子書籍ユースについて見ていく。コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を、テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を用いている。

 本製品は左右2画面構成ということで、電子書籍の見開き表示に期待が集まるが、今回試したなかでは、本連載で以前から検証対象としている国内主要5ストア(Kindle、楽天Kobo、BookLive!、紀伊国屋書店Kinoppy、BOOK☆WALKER)のアプリは、いずれも見開き表示の前提になるワイドモードに対応しない。さらに少年ジャンプ+やマガポケといったコミックアプリも非対応ときている。全滅だ。

 電子書籍関連で唯一利用できたのは、本製品にプリインストールされているebookjapanだが、これはワイドモード対応のブラウザ(Chrome)をビューアとして使うおかげ対応しているように見えるだけだ。つまりブラウザビューアが利用できればどんなストアでもコミックの見開き表示は行なえるわけで、それを「対応」と表現するのは違和感がある。

ebookjapanは、ブラウザビューアであればワイドモードボタンが表示される
左右の見開きで表示された。ただし表示は最適化されておらず、お世辞にも快適とは言えない。ちなみにアプリ版のebookjapanはワイドモード非対応だ

 では、これら電子書籍ストアアプリで、本製品を使って見開き表示を行なう方法はないのだろうか。現時点では、有志が開発した強制ワイドモード化アプリ「G8X WideMode」を利用するのがもっともお手軽だ。

 この「G8X WideMode」をインストールすると、クイック設定パネル内に「ワイドモードボタン」が追加される。これをタップすると、その時点で右画面にあるアプリが全画面で表示される。本製品のユーザーの間では神アプリ扱いされているだけあって、たいへん重宝する。

Yutaka Tsumori氏作の「G8X WideMode」。本アプリをインストールすれば、クイック設定パネル経由で現在表示中のアプリをワイドモードで全画面表示できる
たとえばこのように、右画面に電子書籍アプリを表示しておく。ここではBOOK☆WALKER(BN Reader)を使用している
続いて、クイック設定パネルを表示し、「ワイドモード」アイコンをタップする
全画面で見開き表示された。ブラウザビューアのようにアドレスバーも表示されておらず、表示としては完璧だ
テキストコンテンツでは画面をフルに使った表示が行なえる
こちらは「少年ジャンプ+」。コミックそのものだけでなく、ホーム画面も全画面で快適に表示できる

 ただし、全画面で表示できても、どの電子書籍アプリも必ず見開き表示になるわけではない。本製品は、左右を足した画面サイズは2,340×2,160とわずかに縦長であり、その結果多くのアプリは、左右つながった画面のまんなかに単ページで表示されてしまう。前回のGalaxy Foldと同じ症状だ。

 なかには、BOOK☆WALKER(BN Reader)や少年ジャンプ+のように、きちんと見開きで表示できるアプリもあるのだが、割合としてはごくわずかだ。見開き表示ができない場合、最後の手段としてブラウザビューアを試し、それが気に入らなければあきらめるしかないのが現状だ。

多くの電子書籍アプリでは、強制的にワイドモード化すると見開きではなく単ページで表示されてしまう。これは画面が縦長なのが原因と見られる
単ページでしか表示されない場合、本体を90度回転させれば見開きになるが、ページは縦に、画面は横に分割されるので、まったく実用的ではない

 一方、テキストコンテンツであれば、ページが中央に寄ることもなく、全画面での表示が問題なく行なえる。中央の行が画面の切れ目にかかる場合はあるが、見た目も紙の本的で、なかなか快適だ。ただしこの場合も前述の「G8X WideMode」が必須で、標準機能だけでは、電子書籍の表示にいたって優しくない仕様だ。

 本製品は、解像度が403ppiと十分、かつ筐体は331gと決して軽くないとはいえ(7.9型のiPad Miniより約30g重い)、文庫本のように片手持ちが可能なので、紙の本のように保持しつつページをめくれる。こうした他製品にない秀逸な特徴を持つだけに、電子書籍との相性の悪さは、惜しいとしか言いようがない。

テキストコンテンツは、文字サイズや行間の設定によっては、このように行が左右に分割されてしまうこともある
前述の問題点さえ気にならなければ、紙の本とそっくりのスタイルで読書が楽しめる
表示サイズは7型のKindle Oasis(右)に体感的には近い

2画面同時利用にメリットを見出せるか

 以上のように、本製品で電子書籍が快適に使えるかどうかは、現状ではこの「G8X WideMode」頼みという状況だ。それゆえ、電子書籍目当てで本製品を購入するのは、あまり積極的におすすめできない。

 もちろん単ページ表示を良しとするのであれば現状でも問題はないが、見開きでの利用を考えているのであれば、たとえベータ版のような位置づけであっても、公式から同様の機能を持ったアプリがリリースされるのを待つべきだろう。「G8X WideMode」は有志が作成した外部アプリであり、ある日いきなり使えなくなる可能性もあるからだ。

 ただし本来の使い方、つまり2画面の同時使用をメインに考えているならば、話は別だ。ディスプレイケースが付属しながら5万円台とリーズナブルで、購入にあたって20万円オーバーのGalaxy Foldほどの覚悟は必要ない。またベンチマークでも「Pixel 4 XL」、「Galaxy Fold」に引けを取らない。ゲーム用途などには最適だろう。

Sling Shot Extremeによるスコアは5,776と、「Pixel 4 XL(5,741)」、「Galaxy Fold(5,755)」と同等だ

 いずれにせよ、広い画面が使えるのが売りで、それを持ち歩くときにコンパクトに折りたためるGalaxy Foldと違い、左右2画面を連結した本製品は、2つの画面を並べて使えることがメインであり、1つのアプリを大画面で使うのはあくまでもサブという位置づけとなる。こうした性格の違いは、購入前に把握しておきたいところだ。

iPhone 11 Pro Max(左)との本体サイズ比較。単体での利用も何ら遜色ない