山田祥平のRe:config.sys
ドコモのahamoで体験する海外ローミング特別料金ゼロのデジタル・シングル・マーケット
2023年8月26日 06:19
海外渡航の機会が少しずつ増えてきた。今も昔も同じだが、海外渡航でスマホなしでの敢行というのはありえない。というか無理だ。ただ、この数年の空白で、以前の通信、そして、スマホ活用のノウハウが、今もなお、有効かどうかというと怪しくなってしまった。今回は、久しぶりのヨーロッパで体験したローミング通信について、実際の現場からレポートしよう。
通貨が同じならローミングのための特別な課金もゼロであるべき
EU、つまり、欧州委員会が2014年に発表した声明によって、EU圏内ではローミングに際して特別な課金をすることが許されなくなった。あれからもうすぐ10年だ。
この話を最初に聞いた時、本当に素晴らしいと思ったのを覚えている。当時のバルセロナで開催中だったMWCでは記者会見にも出席した。そして、約2年間の猶予期間を経て、2017年6月15日以降、約束通り、EU圏内では、通信事業者各社のサービスでローミング料金は適用されなくなった。ドイツテレコムが先行してサービスを開始し、それもいちはやく体験した。
この施策が実施されるまで、個人的には、海外取材用に、スペインとドイツ、米国の3カ国の携帯電話事業者のプリペイドSIMを年間を通じてキープしていた。なんだかんだで、それなりの金額になる。それが、施策の実施で、ドイツと米国の事業者のものだけでよくなった。ヨーロッパの複数の国のキャリアのSIMをキープする必要がなくなったのだ。最終的にはドイツテレコムと米ベライゾンのプリペイドサービスをキープしていた。
ただ、2020年からのコロナ禍でわけが分からなくなってしまった。だいたい、プリペイドなので、使ったあとは放置し、次の渡航前にWebで適当な額をチャージすれば復活するというのを繰り返していた。いつのまにかベライゾンは日本のクレジットカードを受け付けなくなってしまったが、よくしたもので、指定電話番号にチャージしてくれるサードパーティのサービスを使っていた。
それで、飛行機が着陸し、スマホに電源を入れれば、そのままつながってしまう。それがとてもラクチンだった。1年に1度の訪問でも電話番号はキープされていたので、それもありがたかった。ただ、当時のSIMのステータスが今現在、どうなっているのか分からない。きっとコロナ禍の影響だ。ログインはできるので、アカウントは生きているようなのだが、そのステータスが分からないのだ。
この原稿を書くにあたって、かつて契約していたドイツテレコムのプリペイドプランの現行金額を確認してみたところ、7GBで4週間19.95ユーロ、無制限だと4週間99.95ユーロだった。今のレートだと、それぞれ3,000円超、1万5,000円超だ。もうこれでは話にならない。当面は、ヨーロッパ現地でデータ通信のために現地事業者のSIMを購入することはなさそうだ。
いつの間にか、日本は、とても通信費用が安い国になった。本当は、国力の低下の象徴でもあり、喜んでいるわけにはいかない事態だ。先日、3年ぶりに訪問した台湾の空港で買える中華電信のビジター向けSIM(4G無制限データ量+通話料100台湾ドルつきで1週間500台湾ドル-約2,200円)にはおよばないものの、通常の主要日本国内キャリアのローミング料金はずいぶん安くなってきていて、もはや、金額だけのことで、諸外国のキャリアとの契約をキープしたり、飛行機を降りてカウンターに走ってSIMを入手するべく努力する意味が希薄になってしまった。
たとえば、ドコモの場合、「世界そのままギガ」というサービスがある。国・地域限定割プランと通常プランが提供され、主要国では前者を使うことで利用期間に応じて割引が適用される。最長の30日間の場合は2万2,480円なので、1日当たりの料金は750円だ。データ量の記載がないのは、日本国内で加入しているプランのデータ容量がそのまま使われるからだ。
でも、実は、これはちっとも安くない。今どき、データ通信のために2万2,480円/月も払うというのはシャレにならない。
加入月は日割り、解約月は満額の固定料金
ではどうするか。ドコモの廉価版料金プランahamoを使ってみた。実店舗での申し込みなどはできず、Webや専用アプリでだけ受け付けるプランで、プランに含まれる20GBの月額利用可能データ量を、追加料金なしで利用できる。
さらに、若干の条件がある。まず、海外で最初にデータ通信を利用した日(日本時間)を起算日として15日経過後の日本時間0時以降に、海外での使用時、通信速度が送受信最大128kbpsとなる。また、海外におけるデータ利用量の上限は20GB/月で、それを追加することはできない。
ただし、この利用量上限は月をまたぐとリセットされる。料金の追加もないが、容量の追加もできない。泣いても笑っても海外では20GB/月まで、そして連続15日間以内を死守するしかない。日数制限は、海外利用のフェアユースのためだろう。
この条件でよければ、海外での20GBデータ通信が、2,970円で手に入る。ahamoの契約は、契約料もかからないし、eSIMなら、物理カードの郵送などもなく、Webで申し込んで数十分で開通する。帰国後すぐに解約すれば、契約月なら月額満額、翌月なら、契約月は日割りとなり、解約月が月額満額となる。
月末までに旅が終わるとは限らない。月をまたげば加入月は日割りとなるが、翌月は満額となる。月額満額を覚悟し、200円/日と考えておく。極端な話、電話番号が変わることさえ気にしなければ、15日ごとに解約、新規契約を繰り返せば無限に200円/日が続く。ただ、このために、年に何度も契約と解約を繰り返すことができるのかどうかはグレーだ。明文化もされていないし、公式コメントをもらうのも無理そうだ。
実は今、オーストリア・インスブルック、ドイツ・ミュンヘンあたりを転々としていて、このあとザルツブルク、そして、9月3日にドイツ・ミュンヘンに戻って、翌9月4日に東京に向けて出発する予定で行程を進行中だ。機内泊を含めて全部で19泊20日だ。東京を発ったのは8月17日なので、ahamoの速度制限がかかる15日間が経過するのは、こちらの時間で9月1日の17:00だ。もったいないので128Kbps体験は見送る。だから8月31日で解約するつもりだ。時差のことを忘れないで解約するようにしなければ……。少なくとも、ドイツ、オーストリアでのahamoは、申し分のないパフォーマンスだった。文句のつけようがない。
残りの期間のデータ通信を、どの方法で確保するか迷ったのだが、結局、東京にいる間にAmazonで購入したSIMを使うことにした。保険みたいなものだ。安いだけの理由で選んだThreeというイギリスの事業者のSIMで、EU圏内10GBと3,000分間の通話が含まれるプランのSIMが1,980円だった。
イギリスの事業者は、同国のEU離脱に伴い、EU圏内でのローミングを以前のように有料に戻す動きもあるが、Threeはまだ大丈夫のようだ。ただ、Amazonの商品ページにある「データ通信は3G:という説明を見落としていた。心配になって、サポートにメールで問い合わせたらEU圏内は4Gとの返事が戻ってきた。そして実際、4Gどころか5Gで快適に使えた。
通話のローミングも再考を
なぜ、海外事業者のSIMを別途手配したのかというと、15日間超えで発生するデータ通信の費用を気にしたこともあるが、通話料金への配慮もある。
データ通信のローミング料金は、かなり安くなったどころか、ahamoのように海外と日本国内という場所を気にする必要がなくなり、EU圏内で自分がいる場所を気にする必要がないのと同じ感覚で、世界中どこにいても、いつもの調子でデータ通信ができるようになったのだが、音声通話がばかにならないのは以前のままだ。
EU圏の事業者ならEU圏内の音声通話でもローミング料金はかからない。ところが、たとえばドコモでの音声通話は、滞在国内では80円/分で、日本からの着信にも110円/分かかる。ついうっかり出てしまった電話が何かの勧誘や営業電話だったときのくやしさたるや……。
海外旅行中には、インターネットだけを頼ればすべてOKなわけではない。どうしても電話をかけなければならないこともある。レストランの予約の数分のために数百円のローミング料金を払うのもばかばかしい。油断すると、アッというまに、1,000円を超える。それに電話での予約の時には、こちらの電話番号を聞かれることも多い。その時に答える番号は先方が慣れ親しんだヨーロッパの国番号から始まっている方が無難だ。タクシーアプリなどでも同じことがいえる。今は、EU圏内での着信がEU圏内の別の国からのものであっても特に不審がられることはなくなったようだ。
もちろん、Skypeなど、一般の電話番号との間でインターネット通話ができるアプリを使えば、1分あたりの通話料金は数円で済む。数十円じゃない、数円だ。だが、経験的に、うまくつながらなかったりしたことを覚えている。個人的には年額2,400円でSkype電話番号を確保しているのだが、そこにかけてもらっても着信できなかったことが少なからずあるのでちょっと不安だったりもする。
とりあえずは、日本の携帯電話にかかってきた電話は無条件にSkypeに転送されるように設定し、Skypeを実行するスマホではSkypeアプリに対してバックグラウンドでのモバイルデータの使用を有効にし、バッテリの使用も制限しないようにアプリを設定した上で出国しているが、とにかく春に訪問した2度の台湾を除いて、長期間、海外に出ていないので、状況がよく分からない。
Skypeへの転送で問題がなければそれでよく、今後の旅では頼ることにするが、さて、どうなりますことやら。なにしろ不具合が散見された当時から3年が経過しているのだ。本音としては現地SIMの入手はワクワクするけれど、多くの国で、経済的なメリットは皆無になりつつあるのかなと思い始めているところだ。
現場からは以上です。