山田祥平のRe:config.sys

コロナ禍が育んだJabraの決定版全部入りヘッドセット

 誰もがヘッドセットやイヤフォン、そしてウェブカメラに注目した3年間だった。そのあいだの特需と言ってもいい需要が特定カテゴリのベンダーに集中した。Jabraもその1つだ。今回は、文句なしの最高峰のヘッドセットと言ってよさそうなJabra Evolve2 Flexを試してみた。

会議とデバイスのハイブリッド対応

 コロナ禍がもたらした環境変化の1つとして、会議や打ち合わせ、商談営業などのビジネスにおける対面コミュニケーションの多くがオンラインに移行したことがある。

 逆に、通常の長電話での通話は少なくなったようにも思う。突然電話がかかってきて、そのまま1時間近く話をするということはほとんどなくなり、5分の打ち合わせにも、あらかじめ時間枠を設定し、オンライン会議を設定するようになった。

 Microsoft TeamsやZoomといったオンラインコミュニケーションのプラットフォームが日常的に使われるようになり、エンドユーザーもそのことに慣れた。

 そして、そのために使うカメラやマイク付イヤフォン、ヘッドセットといったデバイスも著しい進化を遂げた。音楽専用に近かったイヤフォンも、マイクを内蔵するのが当たり前になり、ノイズキャンセルのニーズも急激に高まった。

 さらに、最新のノートPCが装備するマイク入力処理の性能も素晴らしい。どんなにうるさいところであっても、まるで静寂の中で話しているかのように相手に言葉が伝わる。

 PCベンダーの話では、今まで装備されていてもあまり使われることがなかったマイクやWebカメラが急に使われるようになり、いざ使おうとして故障等が発見されるケースが目立つようになったという話もある。

 JabraはデンマークのGNグループが持つ音響機器のブランドの1つで、1869年に電気通信事業者として創業した歴史のある会社だ。Jabraブランドもすでに四半世紀近い実績がある。

 日本法人としては、GNオーディオジャパン株式会社がJabraのビジネスを展開している。世界でもっともオンラインコミュニケーションに最適化されたデバイスを調達できるベンダーの1つと言っていい。

 そんなJabraが、その集大成に近いかたちで提案するのが同社初の折りたたみ式ヘッドセットの新製品「Jabra Evolve2 65 Flex」で、この2023年春に発売された。従来のシリーズをアップグレードしたもので、もう足りないものは何もないと言ってもいいくらいの出来映えに感心してしまう。

 同社によれば、コロナ禍によって、これまでの会議のあり方が一変し、開催される会議の8割以上が完全リモート、またはハイブリッドになったという。そして、Z世代に代表されるデジタルネイティブは、インターネット接続ができる場所はどこでもオフィスだと捉えているという。

 この製品は、折りたたみができるヘッドセットで、コンパクトに同梱フェルトケースに収納でき、外出時の持ち運びも気にならない。ビームフォーミング対応のブームマイクを実装し、アクティブノイズキャンセル(ANC)にも対応するオンイヤーカップスタイルのヘッドセットだ。

 重量は136gと負担は小さい。ヘッドセットだが耳のせタイプで圧迫感は少なく、音楽を楽しむにも十分な没入感が得られる。

 ただ、ノイズキャンセルの観点からは、優秀なANC機能ではありながら、カナル型の完全ワイヤレスイヤフォンや密閉型ヘッドフォンにはかなわない。いわゆる驚くような静寂は得られない。だから、旅客機などでの長時間のフライトなどには、効果がないとは言えないが、向いていないかもしれない。

 もっとも飛行機の中で完全ワイヤレスイヤフォンというのは、居眠りなどで耳から落として紛失する気しかしない。個人的には確実に数時間単位で眠るであろう国際線の飛行機の中では絶対に完全ワイヤレスイヤフォンは使わない。ヘッドセットなら、紛失の心配はなさそうだが、物理的に邪魔になって座席のヘッドレストに耳を預けられないのだけが不満だ。

コロナ禍が育んだヘッドセットの集大成

 Jabra Evolve2 65 Flexの充電は、Type-Cポートまたはワイヤレス充電パッドを使い、約2時間でフル充電、カタログスペックではANCオンで最長21時間の音楽再生が可能だ。

 マルチポイントに対応、各種デバイスとはBluetoothで接続する。その接続とは別に、USB Type-Aポートに装着する極小のアダプタが同梱され、それともペアリング済みだ。このアダプタを使えば、USBアダプタを差し替えるだけで任意のデバイスとのペアがその場で確立するのは便利だ。

 このアダプタはBluetooth接続でありながら、PCなどからはオーディオインターフェイスとして機能しているように見える。簡単とは言え、いちいちBluetoothでペアリング作業をするよりはずっと手っ取り早い。また、デバイスそのものはGoogle Fast Pairにも対応するなど、接続については至れりつくせりだ。

 最大8台のBluetoothデバイスとペアリングできるが、ヘッドセット側から接続先を切り替える機能はないし、2台と接続しているときに、別のデバイスからの再接続要求に応えることはできない。ここは残念な部分だ。

 BOSEのイヤフォン/ヘッドフォンやGoogle Pixel budsは、たとえばマルチペアリングで2台のデバイスと接続されているときにも、すでにペアリング済みの別のデバイスから接続を要求すれば、最初のデバイスが切断され、新しいデバイスとしてつながって使えるようになる。

 エンドユーザーは、すでにペアリング済みなら、つなぎたいデバイスから接続を要求するだけで、そのときどのデバイスと接続されているかを気にする必要がない。これができるのは地味に便利だ。

 左右のヘッドカップを結ぶアームの内側にセンサーが実装されていて、ヘッドセットが頭に装着されているかどうかを検出するようになっている。このセンサーが、ヘッドセットの脱着による再生の一時停止や再開を自動制御する。

 また、右側のイヤーカップの後部にビジーライトが実装され、通話中は赤に点灯する。これで外観だけで取り込み中であることが分かるようになっている。

 マイクはブームアームで、普段はイヤーカップに収納されたようになっていて、パッと見はオーディオヘッドフォンのように見える。ブームアームを引き出すと、マイクのミュートが解除されて使えるようになる。

 このあたりの機能は、会議にも使うし、音楽鑑賞にも使うという、ビジネスオンとビジネスオフのハイブリッドなスタイルを地で行くものだと言えそうだ。

 この全部入りコンセプトによるパーフェクトに近い製品には、コロナ禍中のニーズを丹念に拾い、それらをひとつひとつ実装している点で、Jabraという老舗ベンダーの底力が感じられる。コロナ禍が育んだ、ヘッドセットの集大成だ。

 かつての業務用ヘッドセットは、丸一日それを装着して電話などに対応するオペレータが、いかに快適に、そして健康的に業務に取り組むことができるかだけを考えて作られていた。

 だが、今は違う。仕事を離れて音楽を楽しむこともあれば、自宅で大画面TVに接続し、深夜に家族の邪魔にならないように映画やゲームなどのコンテンツを楽しむために使ったりもする。

 つまり、ハイブリッドなワークスタイル、ライフスタイルに、ハイブリッドな音響デバイスを組み合わせて、少しでも快適な環境を得るというのが今のトレンドだ。

 ストレートに言えば、コロナ禍によって究極のヘッドセットが完成したという印象を持った。その徹底ぶりに、今回はちょっと降参だ。

 コロナ禍が収束しつつある今、オンラインコミュニケーションに注力していたベンダーの新たなビジネスモデルがどうなっていくのか気になっていたが、こうしたハイブリッド対応は1つの解であり、将来の成長も楽しみだ。