山田祥平のRe:config.sys
おもてなしのIT
2020年10月17日 12:00
新型コロナは数カ月で数年分のデジタルトランスフォーメーションを促し、実際にその新しい当たり前を浸透させようとしている。だが、本当にそうなのだろうか。コロナにあがく今だからこそ、おもてなしのITを再考する必要がある。
乗り換え案内が役に立たない
Go Toトラベルの対象に東京が含まれたので、ちょっと遠出をして様子を取材してみようと思い立って出かけてきた。目的地に選んだのは、日本を代表する観光都市、京都だ。
出発前の情報では訪日客が激減しているのはもちろん、観光客の足もまだ遠のいているようだった。Go Toトラベルが追い風となってはいるものの、改善は小幅にとどまっているが、秋以降の回復が予想されているようだ。
京都に着いて、最初に感じたのは、京都駅の構造だ。今回は、飛行機の様子も体験してみるつもりで、羽田から伊丹便を利用し、伊丹からリムジンバスで京都に入った。伊丹の大阪国際空港では京都行きのリムジンバスのチケットをクレジットカードで購入できたし、交通系のICカードを持っていれば、それで乗車することもできた。
京都駅八条口に着いたところで、地下鉄に乗ろうとしたのだが、驚いたのがそのアクセシビリティだ。とにかく案内板がお粗末ではじめての訪問ではとまどうに違いない。道路の横断も必要だった。エスカレーターやエレベーターの整備もひどかった。結局、スーツケースを持ち上げて階段を降りた。
京都の公共の足は市営地下鉄と市バスに集約される。あらかじめ「地下鉄・バス一(二)日券」があることは調べておいたので、それを購入しようとした。このチケットは一日券は900円、二日券は1,700円で、市営地下鉄、市バスのほか、京都バス、京阪バスも乗れるというものだ。市バスの均一料金は230円、地下鉄の初乗りは220円なので1日あたり約4回を乗車すればモトがとれる。
市営地下鉄の改札付近にある自動販売機を見ると、確かにチケットは販売されているのだが、現金でしか購入できない。また、近くに専用の自動販売機もあったのだが、同様に現金のみだった。仕方がないので現金で購入し、地下鉄に乗って荷物を預けるために予約済みのホテルに向かった。
ホテルにチェックインして荷物を預け、近隣のスポットを訪ねてみることにした。地下鉄は大雑把な移動になるので、基本は市バスだ。ところが、この市バスのネットワークが壊滅的に把握しにくい。網の目のように複雑に入り組む路線で、多くのエリアの往来をサポートしている市バスだが、これはもうバス停の位置から通りの名前、行き先のおおまかな方向などを把握していないとわけがわからない。いわゆる一見さんの観光客には無理だ。
そこで役にたつのがGoogleマップで、日本はもちろん、世界中の各都市での公共交通機関での移動を助けてきてくれた。京都もそれで十分だろうとタカをくくっていたのが大きな間違いだった。本当に役に立たなかったのだ。
こちらは、乗り放題のチケットが手元にあるのでバスを乗り継いでも問題ない。そこに地下鉄が含まれてもかまわない。ところがGoogleマップは、なんとか最小の乗車回数で目的地にたどり着こうとする。その方針の相違が、あまり役にたたないルートを提案することになるわけだ。
これらは地下鉄やバスのネットワークを熟知した京都市交通局が率先してサポートするべきだと思うが、そうはなっていない。
たとえば、京都市交通局はポケロケと呼ばれるWebサービスを提供している。これは、停留所を名前や系統番号、現在地を指定して、バスの接近状況を確認できるというサービスなのだが、ルート検索にはまったく役にたたない。
推奨アプリとして『乗換検索 歩くまち京都アプリ「バス・鉄道の達人」』があるが、こちらは公式に京都市交通局が提供しているものではないし、スポットの最寄りバス停の名前を知らなければ著しく使いにくい。そしてバスと地下鉄の併用にも対応していない。
現金しか使えない寺社仏閣と京都市のおもてなし体制
寺社仏閣をいくつか訪ねてみた。拝観時には体温のチェックをされたり、手指消毒を求められるなど感染症対策も行なわれていた。ただ、寺社仏閣では拝観料が必要なのだが、これもまたクレジットカードが使えるところは壊滅的に少なく、現金のみしか受け付けていない。
訪問したのが平日であったことや、秋の紅葉シーズンにはまだ早かったこともあり、観光スポットで見かける人の数はびっくりするほど少なかった。こんなにゆったりと観光できたのは久しぶりだ。
一部の施設では、京都市独自の「京都市新型コロナあんしん追跡サービス」の利用を求められた。これは、店舗や施設ごとにQRコードを発行し、それをスマートフォンで読み取ると、Webページが開き、連絡先情報としてメールアドレスを入力すると、そこを訪問したことがサービス側に登録される。
万が一、施設の利用者に感染者が発生した場合は、同じ日時に居合わせた利用者に対して登録したメールアドレス宛にお知らせのメールが送付されるというものだ。来店登録データは約1カ月で削除されるとされている。
検索ページで「京都市新型コロナあんしん追跡サービス」をキーワードに調べてみるとわかるが、そこでリストアップされるのは、店舗や集客施設へのガイダンスばかりで、エンドユーザーがどうなのかという情報がほとんど出てこない。利用についての詳細説明を施設側に丸投げしているのだ。公共交通機関の利用に加え、観光都市として、これでいいのかという疑問が残る。
DX、日暮れて道遠し
多くのインバウンドをサポートしてきたはずの京都市のIT施策がここまでお粗末だとは思わなかった。冒頭に、コロナが数カ月で数年分のデジタルトランスフォーメーションを促すと書いたが、それにはほど遠い現状に、ちょっとあきれてしまう。これでは、インバウンドどころか、日本人観光客にとっても京都は迷宮だ。大量の観光客が押し寄せていた過去に、いったいどのように機能していたのだろう。
今回の旅行の前に、最後に京都を訪問したのは2018年の夏だった。そのときはビジネス出張での旅行で観光要素は皆無だったため、こうしたことには気がつかず、京都駅周辺のインバウンド観光客の多さに驚いて戻ってきていた。要するに、大混乱していただけなのだと想像できる。
京都エリアでは、かつてのように観光客にあふれてしまうことを嫌うトレンドもあるらしいが、長期的な展望としてはそれではまずいだろう。だからこそ、多くの観光客が訪問してもごったがえすことがないようにITをうまく使ったおもてなしを整備する必要があるはずだ。
それを今しなければ、結局は元通りの混乱が戻ってくるだけだろう。それでは意味がない。これは京都にかぎった問題ではなく、東京だってお粗末そのものだ。日本全国の観光エリアがこぞって考える問題ではないだろうか。