山田祥平のRe:config.sys

LINEを使わないとチコちゃんに叱られる

 ボーッと生きているうちに、すっかり国民のインフラとして定着してしまった感のあるLINE。もはや、このツールでコミュニケーションができないと人間関係に支障をきたす雰囲気えある。国や地方自治体も、LINEをインフラとして活用したソリューションの提供に熱心だ。でも、本当にそれでいいのかなとも思う。

場所から人へ

 音声通話やファクシミリが、固定された「場所」にある端末に着信する時代は、携帯電話の浸透によって「人」に着信する時代にとってかわられた。いわゆる固定電話が携帯電話に置き換わったわけだが、LINEと回線交換の電話、そしてSMSは現代の固定電話だとも言える。要するに時代遅れだ。

 確かに移動体通信手段かもしれないが、離れたところにいる個人とのコミュニケーションを1台の端末に固定する。携帯電話を肌身離さず身につけていないと、その着信に気がつくことができない。つまるところ、苦痛かどうかは別にして、人間の努力が求められるわけだ。これはよくない。

 電話番号という世界で唯一無二のIDが、SIMによって唯一無二の端末に固定されているのは、その所有者がその本人であることを証明するにはもってこいなのかもしれない。電話番号の取得、すなわち、携帯電話の契約には本人確認のために公的書類が必要だし、その電話番号への着信をとれる唯一無二の端末でしか機能しないというのも一理ある。

いつでもどこでもどんな端末でも

 LINEの名誉のために言っておけば、スマートフォンとは別に1台のPCでのコミュニケーションはできる。だが2台だ。少なすぎるのだ。

 そんなこともあって、個人的にはLINEのリリース当時にインストールした端末を機種変更したとき以来、ほぼ使わなくなってしまった。まれに、LINEでつながってほしいと言われることもあるのだが、連絡が取りにくいからと断ることがほとんどだ。

 複数の端末を持ち歩き、自宅などにいるときには、メイン端末は充電台におきっぱなしということが多く、着信に気がつかないからだ。これは電話にもSMSにも言えることだ。だからというわけではないが、ぼくは名刺の表面にいっさいの電話番号を印刷していない。住所とメールアドレスだけだ。

 インターネットメールをPCで使いはじめた当時も最初は似たようなものだった。いわゆるPOPでメールをダウンロードするので、メールをPCに取り込んだらサーバーからはなくなる。サーバーに置いたままでダウンロードすることもできるが、あまり推奨されなかった。そんなこともあって、同期がめんどうなので、常用するPCは1台だけというのが好まれたりもした。

 それがWebメールが当たり前になり、メールはサーバーにおいたままで、ローカルにはキャッシュだけを持つというのが普通になった。インターネットメールもIMAPが普及し、端末の数だけキャッシュが持てるようになったことで、いつでもどこでもどんな端末でもメールを読み書きできるようになったのだ。

 その環境と、今のLINEの環境を比べたときに、LINEが社会的なインフラとして受け入れられているのに疑問を感じたりもするわけだ。要するに一時代古い。しかも、そういうインフラを国や自治体が公式なツールとして認めているようなムードはどうかとも思う。

 もっともごく普通のユーザーは端末を1台しかもたない。だからそれになんの疑問も感じない。

LINEは現代のシェル

 折しも、今週、年次のLINEカンファレンスが開催され、数々の発表があった。その内容を1つ1つ見ていると、どうやらLINEは、LINEアプリから一歩も出なくていいようにしたがっているようにも見える。コミュニケーション、コンテンツ、エンタテイメント、コマースといったあらゆる要素をLINEアプリに統合し、いわばOSのシェルのようになりたがっているようにも見える。

 大げさかもしれないが、LINEのヘビーユーザーで、その内容に満足しているなら、OSが変わっても気がつかないか、不便を感じないかもしれない。今、日本のユーザーはiPhoneでLINEを使っていることが多いと思うが、コストなどの理由でAndroidに乗り換えなければならなくなったとしても、あまり困らないのではないか。ここのところの総務省の電気通信業界への口の出し方には、ちょっと抵抗を感じてはいるのだが、その行く末のことを、LINE側はわかっているようにも感じる。

 だったらなおさらクラウドをうまくつかってほしいと思うのだ。膨大な数のユーザーが日常的なインフラとして使うLINEのトラフィックを、すべてクラウド側に蓄積するのは、コスト的にも技術的にもたいへんだとは思うが、できない話ではないと思う。

 リリース当時の3年前に1日でアンインストールしてしまったポケモンGoに、最近になって再びチャレンジしているのだが、これがよくできている。いつでもどこでもどんな端末でも、複数の端末を同時に使ったとしてもつじつまをあわせてゲーミング体験が同期される。

 FacebookやTwitter、Instagramにしても、ユーザーは自分のデータのバックアップや移行なんてことを考える必要はない。新しい端末を手に入れたら、アプリをインストールしてログインするだけで、いつもの環境が目の前に再現される。FacebookのMessengerは、1年前までしか遡れないことや検索が不便な点をのぞけば、おおむね仕様的には満足できている。それこそが、エンドユーザーに負担をかけずにコミュニケーションを楽しめる環境ではないだろうか。

チコちゃんはどう思っているのか

 そろそろLINEには、インフラとして社会的責任のようなものを自覚しなければならない時期にきていると思う。だからこその端末1台制限だといわれそうだが、本当にそうだろうか。

 なんらかのアクシデントで一瞬にして、自分のコミュニケーションの履歴が失われるようなことがあるのはクラウドの時代にそぐわない。LINEの出自は東日本大震災のさいに、電話で連絡がとれなくなったときのコミュニケーション手段だったと聞いているが、バッテリが枯渇しても隣の誰かの端末を借りてログインすればいつものように連絡がとれるというのが本当ではないか。

 今の環境を当たり前だと思わないだけのリテラシーを一般のエンドユーザーに持ってほしい。そうでなくては本当にチコちゃんに叱られる。