山田祥平のRe:config.sys

クラウドとデバイス連携、その背景としてのテクノロジー

 技術的には明日からでもできそうなことなのに、いろんな理由でできなくしていることはたくさんある。スマートライフをキープするためには、できる限りフレキシブルな運用ができるデバイスが望ましい。コストの問題もあれば、大人の事情もあるだろうけれど、その方向性を考えてみたい。

新型スマートウォッチで興味を持ったPolarの方向性

 スマートライフを支える重要なデバイスとして、スマートウォッチ/バンドに代表される活動量計がある。24時間365日身につけているだけで各種の情報を記録し、場合によっては異常を検出して警告もしてくれる。

 また、各種のスポーツに対応し、移動を含む運動を記録する。その履歴を見るだけでも楽しいし、今後の健康により役立つような工夫にも貢献する。将来は、きっとAIが多角的な総合分析をしてくれるようになるのだろう。すでにそういう方向性を持たせたアプリもたくさんある。

 先日、PolarからプレミアムGPSアウトドアウォッチ「Polar Grit X2 Pro」が発売された。Polarは1977年に北フィンランドのクロスカントリースキーコースでウェアラブルデバイスを使った心拍測定からビジネスをスタートしたメーカーだ。人体を探求し続け、フィットネスやスポーツ、ヘルスケア分野でのテクノロジー活用に注力する、この分野における先駆者的な企業だ。発表会で新製品の概要説明を聞いてきた。

 製品としては総重量79gの有機EL丸型1.39型ディスプレイを持つ腕時計で、解像度は454×454だ。GPSアウトドアスポーツウォッチを自称し、高度なナビゲーションやスポーツトラッキングが自慢の究極のアウトドア&アドベンチャーウォッチをセールスポイントとする。

 説明を聞いて少し興味を持った。Polarのスマートウォッチは以前からマークはしていたものの、それほど深く調べているわけではなかったが、発表会の説明で、この時計のクラウド連携のユニークさを実感できた。そこで同社にお願いして実際に体験してみることにした。手元に届いてから1週間ほどと、短い期間だが身につけて試してみた。

Polarのユニークなクラウド連携

 スマートウォッチ/バンドの多くは、1台のスマホとペアにして組み合わせることで、活動履歴などを時計本体だけでなく、スマホでも確認することができる。多くの場合、その時計メーカーのスマホアプリをインストールし、時計本体とスマホをBluetoothペアリングして各種の連携を行なう。これによってスマホの通知を時計で確認したり、スマホで再生中の音楽プレーヤーを時計でコントロールするといったことができるわけだ。

 活動記録については時計メーカーが提供するクラウドに保存され、インストールしたスマホアプリから参照ができることが多い。

 悩みの種はデータを参照できるデバイスがスマホに限定されることがほとんどであるということだ。複数のスマホで参照できるが、PCやタブレットの対応はないことが多い。

 だが、Polarデバイスは違う。そのデータを同社のクラウドが預かるのはもちろん、そのデータをPCのブラウザ、各種OSのタブレット、複数のスマホなどなど、いろいろなデバイスから同時多発的に参照できるのだ。

 そもそも、スマホとペアリングしないと利用を開始できないスマートウォッチがほとんどな中で、この時計はPCとのペアリングもできるアーキテクチャだ。ケーブルで時計をPCのUSBポートに接続することで、Polar FlowSyncアプリを使い、時計内に保存された活動記録等をクラウドにアップロード同期し、その履歴を含むデータをブラウザのWebアプリPolar Flowで参照することができるのだ。

 さらに、この操作によってスマホとのペアが解消されるわけでもない。PCとの接続中にも、スマホとの連携が解除されることはなく、メッセージ着信や各種アプリの通知は継続する。

 こうしたシステムアーキテクチャによって、スマホの小さな画面では把握しにくい週単位、月単位での活動記録遷移の参照、大きな画面での広い範囲の地図表示などで移動を含む活動などを効率よくチェックすることができる。スマホの小さな画面での確認体験とは段違いの分かりやすさだ。これはゲレンデをあちこち移動しながらのウィンタースポーツや、ハイキング、ウォーキング、マラソン、ジョギングなどの活動結果を参照するときにはありがたい。睡眠時間のトラッキングひとつとっても、大きな画面は視認性が高い。

 Android OSでは、Google Fitが各種ヘルスアプリと連携し、それらが蓄積したデータを一元的に参照することができる。だが、このGoogle Fitはスマホでしかデータを参照できない。その代わりといってはなんだが、Googleのスマートウォッチ Google Pixel Watchシリーズは、Fitbitアプリでデータを蓄積し、クラウド連携して、PCのブラウザでの参照が可能だ。

 手元のスマートウォッチで、PCのブラウザでのデータ参照ができるのはGoogle Pixel Watchシリーズだけだったのだが、Polar Flowは、それとは比べものにならないくらいに柔軟な使い勝手を持っている。

ハードウェアとしてのPolar Grit X2 Pro

 スマートウォッチとしてのPolar Grit X2 Proは、時計盤面の外周左側に2個、右側に3個もの物理ボタンを持っていて、GUIを含めタッチに頼らずに各種操作ができるように設計されている。他のスマートウォッチのようにスマホの通知を表示する機能もあるが、スマホの通知すべてがそのまま表示されるのがうっとおしい場合もある。アプリごとに表示するしないを選んだりができないのだ。ここはちょっと考えてほしかったところだ。

 また、日本語化、特にその文字表示は大味な印象がある。別の言い方をすれば表示が大きく明確で視認性がよいともいえるのだが、文字間隔、行間隔などへの考慮が足りず、メッセージ通知の表示などが読みにくくなってしまっているのが惜しい。

 内蔵バッテリでの駆動時間はパフォーマンストレーニングモード43時間、省電力トレーニングモード140時間、スマートウォッチモード10日間をスペックとするが、実際のアウトドア利用で5時間程度のGPS位置情報取得を含むアウトドアスポーツ記録をすると、24時間持つか持たないかといったところだ。トレーニング抜きでも5日間程度といったところだろうか。

 個人的には腕につけた時計は時刻を常時表示してほしいので、迷わず、そういう設定にしているが、トレーニング記録をしたらその日は満充電に戻すようにし、毎週決まった曜日、たとえば日曜日の夜に再充電といった運用になりそうだ。

雲をつかむくらいに難しいクラウドデータの活用

 データをクラウドに保存し、いろいろなデバイスから参照できるようにするというのは、そんなに難しい話ではないと思う。なのに、それができるスマートウォッチが少ないのは、きっと技術以外の理由があるのだろう。センシティブなデータを預かる以上は、マルチデバイスで参照できるようにするよりも、本人確認がたやすいスマホからのアクセスのみに限定したいという方向性になってしまうというのは、分からないでもない。

 今週は、LINEヤフー社が2度目の行政指導を受けたことが話題になった。行政サービスまでもがインフラとして活用する国民的サービスとしてのLINEだが、そもそも、実状をよく調査もせずに利用を開始した行政側の責任はないのだろうか。

 以前からずっと指摘されてきたように、LINEのサービスを利用できる端末を1台のスマホに限定し、紛失、盗難や機種変更、災害時利用などで不自由を強いることも分かっていたはずで、そんなサービスを住民サービスのインフラとして使うこと自体に問題はなかったのだろうか。

 スマートウォッチのクラウド連携と端末連携、特定サービスによるインフラを行政サービスが使うことによる端末依存の不自由さ。これらはまったく異なる事象ではあるが、なんとなく、クラウド利用の行き着く先の方向性として、どちらもよく考えなければならないことではないだろうか。