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LINEと繋がるもう1つのLINE空間

 LINEが千葉・舞浜で事業戦略発表イベント「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」を開催し、同社の今後の各種施策を発表した。発表内容は多岐に渡るが、中でも興味深いのが「LINE@」サービスだ。その背景には何があるのかを考えてみた。

LINE@アカウントをすべてのLINEユーザーに開放

 タダでは何も得られない。無料と銘打っていても、そのどこかにビジネスモデルが隠れていて、なんらかの形でマネタイズされてサービスなどが運営される。新聞や雑誌の総ページ数のうち半分近くは広告だし、TVの53分番組では10%がCMだ。なぜ53分などという中途半端な時間にするのかというと……といった話を始めるとキリがないが、どっちにしてもLINEだって無料である限り、広告で運営されている面が多い。

 その広告収入を支えているのが、いわゆる企業やブランド、芸能人といった公式アカウントと、その公式アカウントと友だちになってくれる可能性をもった5億6千万人超のユーザーだ。

 さらに、LINEには公式アカウントとよく似た仕組みとして、「LINE@」がある。こちらは導入や運用に際して今のところ費用がかからない。その代わりに露出という点では公式アカウントに劣るのはご存じの通りだ。

 新たに始まるLINE@は、従来のLINE@と同名で、この仕組みをLINEから切り離し、新たに別のサイバー空間を作ろうという試みだ。そして、これまでは企業や実店舗にしか発行されなかったLINE@アカウントが、個人にも開放される。さらに、誰でもいくつでもアカウントを取得することができるようになる。ちょうど、面識のある相手と実名で繋がるFacebookと、アカウント属性が百花繚乱のTwitterの関係にも似ているかもしれない。

 LINE@を利用するには、新たに提供されるLINE@アプリが必要だ。そのアプリを使ってアカウントを登録して使い始める。LINE@アカウントはオープンなもので、例えばサイトにそのアカウントへのリンクを置いたり、パンフレットに刷り込んだり、店頭の看板に大書したりすることを想定しているようだ。このあたりもTwitterに似ている。

 LINEとLINE@の空間は、ゆるやかに繋がっている。LINEアカウントからは従来通り、LINEアプリを使ってLINE@のアカウントをフォローすることができ、今までの公式アカウントやLINE@アカウントと同様に友だちになれて、トークもできる。向こうからはフォロワー全員に対するメッセージの一斉配信もできる。だから、特に意識しない限りは、従来のLINEアカウントは今までと何も変わらないように見えるかもしれない。

 LINEとしては、LINE@アカウントを、全てのLINEユーザーに開放することで、オープンなコミュニケーションを個人、組織が行なえるようにしたいということだ。

なぜ、スタンプにうさんくささがないのか

 LINE@アカウントでLINEアカウントにメッセージを送るには、LINE@アプリを使う必要がある。そして、1つのアカウントを複数人が管理できる仕組みが提供される。LINEがITのアーリーアダプタに敬遠されていたのはマルチデバイスをまるで無視したデザインだからというのが大きいが、この仕組みをうまく使えば手持ちの全てのデバイスで自分宛のメッセージを受け取るようなこともできるかもしれない。

 LINE代表取締役COO 出澤剛氏は、これまでの電子メールマーケティングが衰退しつつあることを強調する。750の企業が公式アカウントを取得し、メッセージのリーチを実感している今、90%のメールマガジンは開かれることもなく、未読のままでスクリーンのはるか下方に消えてしまう。かつてのマーケティングは、ユーザーの電子メールアドレスを集めることが基本のキであったが、今は、それを知ったところで、読んでもらえるかどうかどころか、相手に届くかどうかさえ分からない。だからこそ、企業は、そのマーケティングのためにユーザーとの関係を取り戻したがっているという。

 LINEの強みはスタンプだ。無料のスタンプなら使ってもいいが、有料なら使わないというユーザーはたくさんいる。公式アカウントが提供するスタンプは広告であるかもしれないが、そこには、広告につきもののうざさ、面倒くささがないのがLINEのスタンプだという。

 なぜなら、スタンプは広告主が送るわけではないからだ。ユーザーが自分自身の意志でダウンロードして、自分自身の感情を込めて使い、友だちに送る。受け取った側がそれを無視するのは、友達を無視することになってしまう。普通の人間ならそれは難しい。だからこそ、スタンプは、広告メディアとして確実なリーチが得られるのだと出澤氏は話す。

 さらにLINEは、TVと店頭を繋ぐような手法を、よりダイレクトに、よりインタラクティブなものとして提供し、人と社会を繋ぐ方法を考えている。単なる広告メディアを超える手段としてLINEを使えるようにして、それを社会インフラへと進化させようというのだ。

 今までの方法では全員に送るか送らないかの2択だった。でも、これからは最適な相手に最適なメッセージを送ることができるようになるという。そのために、LINEがAPIを提供する。そして、そのAPIを企業がもともと持っているデータベースと接続し、既存の顧客データベースと連携させる形でCRMのインバウンド、アウトバウンドに使えるようになるようだ。これがLINEビジネスコネクトだ。

 例えば、TV局にとっては番組をリアルタイムで見てもらうことが重要だ。そうでないとビデオ視聴でCMが飛ばされるしまうからだ。そのために、LINEを使ってリアルタイムで反応が必要なシチュエーションを作る。そのためにもオープンな空間を作る必要があった。そして、ヒトとモノ、ヒトとカネ、ヒトとビジネスを繋ぐ社会インフラにしていこうというのがLINEの考えだ。

 となると個人情報がクライアントに企業側に漏れてしまうかというと、その心配はないそうだ。LINE内部で管理用に割り当てられている番号で運用されるため、万が一、その番号が大量に漏洩したところで使い道はないということらしい。

メッセージングプラットフォーマーとしてのLINE

 いずれにしても、今回のLINE@刷新により、LINEのコミュニケーションインフラとしての立ち位置は、ちょっとだけ変化するのではないか。印象としては、いよいよ本格的にマネタイズに走り始めた感がある。

 そうはいっても、エンドユーザーにとっては何も変化はない。スタンプが牽引したLINEの成長だが、情報ではなくエモーションをやりとりするというその使い方は、今まで通りだろう。だが、そこに、企業という他社がわけ知り顔で入ってくる。それが嫌ならオプトアウト、つまり、友だちを解除すればそれでいい。

 かつては毎日のように届き、郵便ポストをいっぱいにしたダイレクトメールがめっきり少なくなり、それは、大量のメールマガジンに変わった。場所を取らないことや、始末するのに手間がかからない点では進化ではある。ただ、メールマガジンの購読停止にメールシステムは関わらない。購読停止のリクエストを無視してメールマガジンを送りつけることだってできる。もちろんそれは迷惑メールと名前を変える。

 メッセージングプラットフォームとしてのLINEは、企業とユーザーとの間に立ち、プラットフォーマーとして、ユーザーが望むコミュニケーションだけを媒介する。新しい広告の形というのは、そうでなければ受け入れられないということなのだろう。なんといっても、うざければ即ブロック、あるいはブロック後、友だち解除だ。見たくもない広告は見たくないが、見たい広告は見たい。そんなわがままを支えるインフラがLINEということか。中には公式アカウントが提供するスタンプをダウンロードしたら即ブロックなどというユーザーもいるという。それをうまくコントロールしなければならないマーケッターは大変だ。

(山田 祥平)