PC Watch的モーターショーの歩き方
~燃料電池からHDDまで
第37回 東京モーターショーが22日から、幕張メッセで開催されている。モーターショーはいわずと知れた自動車の展示会だが、デジタル機器の自動車への搭載が進んだ昨今では、PCユーザーの視点からも興味深い展示がいくつかある。ここではそんな展示を紹介する。
なお、22~23日は報道関係者向けの公開日、24日は特別招待日になっており、一般公開は25日からとなる。
●燃料電池はノートPCからクルマまで
IT関連の展示会で、燃料電池駆動のノートPCをよく見かける昨今だが、東京モーターショーには燃料電池を動力としたクルマがあふれている。
クルマでは水素を燃料とするシステムがほとんどだが、ヤマハが参考出品した燃料電池スクーター「FC06」はノートPCの多くと同様にメタノールを燃料とする「ダイレクトメタノール」方式を採用している。ノートPCが高濃度のメタノールを使用するのに対し、FC06は希釈したメタノールを使用する。
希釈したメタノールを採用したのは、容易に入手できる環境を作りやすいからという。水素や高濃度メタノールは危険物になってしまうが、危険物にならない程度に希釈したメタノールならコンビニなどでの流通が可能になる。希釈メタノールでは高濃度メタノールよりもより多くの燃料とより大きな燃料タンクが必要になるが、ノートPCよりもサイズの制約がゆるいスクーターでは、取り扱いやすさを優先できる。
ただし、水素燃料ではH20、つまり水しか排出しないのに対し、メタノールではCO2を排出してしまう。現在でも排出量はガソリンエンジンなどと比べれば少ないが、将来は室内用ストーブなどと同程度まで排出量を下げるのが目標という。
【お詫びと訂正】メタノールの流通に関して一部不適当な表現がありました。お詫びいたします。
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ヤマハのFC06とメタノール燃料(右)。写真右の燃料はカートリッジに見えるが、FC06はカートリッジ方式ではなく、タンクにメタノールを補給するようになっている。燃費は50km/リッター。ダイレクトメタノール式は扱いが容易だが、CO2を排出する。将来、燃料電池ノートPCを屋内で長時間使うようになると、部屋を換気する必要が発生するのだろうか
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クルマの水素燃料電池の例、ダイムラークライスラーのAクラスをベースにした燃料電池車。床下に水素タンクや燃料電池システム、モーターなどを収める。Aクラスの二重床はこのためにあったのか、と納得の1台
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●クルマにも“眼”を
撮像素子や画像処理技術により自動車が周囲の状況を検地する、いわば「クルマの眼」に関連する展示も興味深い。
オムロンは既存のCCDよりもダイナミックレンジが広い対数圧縮型CMOSイメージセンサ「HDRC」を参考出品。通常のCCDでは飽和してしまうような強い光が入力されても、いわゆる「白トビ」を起こさない。暗所でヘッドライトを浴びるような状況でも周囲の状態を把握できるだけの画像が得られるため、車載センサーに最適としている。他のCMOSと同様、ノイズが多いという課題は抱えるものの、カラー化やデジタルカメラなどへの応用も可能という。
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オムロンはHDCRのダイナミックレンジの広さをCCDと比較してデモ。写真左の部屋を暗くし、車のヘッドライトをつけると、CCDではヘッドライトの光しか映らないが、HDCRでは車や人の姿がちゃんと映る
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東芝の車載用画像処理システム。画像から周囲の車両の様子を検知し、事故を防ぐ
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クラリオンは、後方確認用CCDによる画像のゆがみを補正し、見やすくする技術を参考出品
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●インターフェイスはクルマでも大問題
車載IT機器の発展に伴い、ドライバーによる操作や、ドライバーが受け取る情報は増える一方だ。これらを解決するためのインターフェイスに関して、いくつかの取り組みが展示されている。
トヨタは「Space Touch」を展示。ホログラム表示された3Dの球体を、手で操作することでオーディオやエアコンなどの車載装備を直感的に操作できる。手の動きはホログラムの周囲にあるセンサーで検知しているようだ。ダイレクト感には欠けるものの、ユーザーがやりたい操作が大きく表示され、見やすくわかりやすいインターフェイスになっている。同社のコンセプトカー「CS&S」に搭載されている。CS&Sに乗ることはできないが、同社ブース2階のデモ装置で実際に操作することができる。
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トヨタのSpace Touch。ホログラフ表示された球体を手で移動したり、回転させる。左端はイメージ画面。中央が実際のホログラフ画像。操作しているところを傍から見ると右端のようになる
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日産はステアリングに取り付けられた4つのボタンで、車載装備をコントロールするインターフェイスを展示。複雑な操作を整理し、4つの候補に絞り込んで表示、ユーザーに選択させる。ユーザーの選択肢を減らし、運転しながらの操作を容易にする方向の取り組みだ。こちらも実際に操作して体験することができる
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日産の4ボタンインターフェイス。ボタンとメニューの記号は視認しやすく判別しやすくなっている。選択した操作によっては、フロントウィンドウに情報が表示されることも
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このほか、カーナビ関係では音声認識技術と、あいまいな言語からユーザーのやりたいことを推測し、必要な情報を引き出してくれるエージェント技術の組み合わせなどが目に付く。
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ケンウッド(左)とゼンリンの音声認識のデモ。どちらも画面上の女性キャラと会話する形をとる
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●マイクロソフトは各社のWindows Automotive搭載機を参考展示
PC Watchではおなじみのマイクロソフトが、東京モーターショーに出展している。場所はホールではなくエントランス部で、ブースも小規模だが、未発売の3製品を含むWindows Automotive搭載機を参考展示している。
いずれも一見するとカーナビ専用機のような機器で、触れない状態で展示されている。が、アルパインが独自のSystem On Chipを採用していたり、三洋電機は同社得意のポータブルタイプとしているなど、多様な製品の展開が期待できそうな様子がうかがえる。
展示ホールに出展しているカーナビベンダーからは「Windows CE系のOSは、既存の組み込みOSよりもネットワークへの対応がしやすいが、リアルタイム性が要求される車載端末にはまだまだオーバーヘッドが大きすぎる。先日発表されたT-EngineとのハイブリッドOSで、普及に弾みがつくだろう」といった声も聞かれた。
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マイクロソフトブースでは5つのWindows Automotive搭載機を展示 |
アルパインが開発中のWindows Automotive 4.2搭載機。独自開発のSystem On Chipを搭載するという |
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三洋電機が開発中のポータブルタイプ。OSはなぜか前バージョンのWindows CE for Automotive 3.5 |
デンソーは、Windows Automotive 4.2端末を開発中。他の製品がマルチメディア機能などを統合したカーテレマティクス端末を目指し、カーナビ色が薄れ気味なのに対し、デンソーはカーナビ機能にも注力
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クラリオンと三菱電機はすでに市場に投入した搭載製品を展示 |
【お詫びと訂正】初出時にデンソーがWindows CEベースのGBOOKを出荷している旨の記述がありましたが、誤りでした。現在、同社が出荷しているGBOOKはiTRONをベースとしております。ご迷惑をおかけいたしました関係者の皆様にお詫びして訂正いたします。
●販売台数は1,000台、でも次期CADIASを開発中のクラリオン
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Windows CE 3.0を搭載し、Pocket Wordを動作させているCADIAS。これは技術デモで、市販はされない |
Windows CE系OSを搭載した車載端末といえば、クラリオンの「AutoPC CADIAS」が発売されている。出荷時に搭載されるカーテレマティクス端末が主流を占める中、希少なアフターマーケット向けの端末として注目を集めたが、販売台数は発売後1年を過ぎて1,000台がやっと。
だがCADIASを「将来への布石」とするクラリオンの意気は盛んで、東京モーターショーでの展示にも力が入っている。11月にリリース予定の新ファームウェア、セキュアMMCによるデジタルコンテンツの流通システム、KDDIのCF型の次期CDMA(1xEV-DO)端末とCADIASの組み合わせなどを参考出品。CADIAS関連の展示が同社ブースの約半分を占める。
出品こそされなかったが、当然、次期CADIASも開発中。発表の時期や、どんな製品になるかは明確にされなかったが、現行CADIASよりもカーナビ機能を充実させ、PC色を薄めたものになる可能性が高い、との声も聞かれた。
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KDDIの次期CDMA規格「1xEV-DO」対応のCF端末を装着したCADIASは、2.4Mbpsの高速通信が可能。写真左はAir H"を装着したCADIASと同時に地図データをダウンロードするデモ
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セキュアMMCアダプタ(手間の黄色い機器)を装着して「超流通」に対応したCADIAS。超流通とは、暗号化されたコンテンツをあらかじめCADIASに搭載しておき、再生時に複合鍵だけをサーバーから取得するシステム。コンテンツすべてをダウンロードするよりも、高速にコンテンツを利用できるようになる。セキュアMMC規格には超流通に対応したセキュリティ機能が備わっているとのこと |
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もう1つのWindows CE系OSを搭載した車載端末「G-BOOK」。G-BOOK端末数社が生産しており、松下電器もその1つ。同社はD-SnapやDIGAとともに自社製G-BOOK端末を展示。G-BOOK端末にはHDDやDVDドライブを搭載したものもあるが、松下の端末はSDメモリーカードスロットしか搭載していない。オンラインの情報サービスを中心に組み立てられたG-BOOKだからこそ可能になる端末
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●車載用HDDも
車載用IT機器で注目を集める車載用HDDは、日立製作所ブースで日立グローバルストレージテクノロジーズ製の製品が展示されている。PC用のHDDとの大きな違いは動作温度で、最新の磁気記録技術により、動作温度を大幅に広げてある。
同社の「iVDR」をはじめ、リムーバブルストレージもいくつか展示されているが、ケンウッドは独自の音楽用リムーバブルHDDシステムを展示。中身は2.5インチHDDで、両々は20GB。欧米だけで発売中。日本で発売されないのは、DRM問題が解決されていないからだとか
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日立グローバルストレージテクノロジーズの車載用HDD。動作温度の範囲が広い
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ケンウッドの車載用リムーバブルHDD。PCでエンコードしたデータを中央のアダプタでリムーバブルHDDに転送し、車内で再生する。左が車載ユニット。HDDのフォーマットは独自で、PCでは専用ユーティリティでデータを転送する(写真右)
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●地上波デジタル放送で、“本当の車載TV”を実現
車載端末のもう1つの大きなトピックスは「地上波デジタル放送」。受信条件が悪い車載端末でも、アナログ放送からは飛躍的に改善された画質が期待できるとあって、様々なブースで車載地上波デジタルチューナーが展示されていた。
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松下電器は、走行状態に関わらずデジタル放送の画質が安定していることを、アナログ放送と比較したシミュレーションでデモ
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三洋電機が参考出品した地上波デジタル放送チューナー。このほか、クラリオン、ケンウッドなども出品していた
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東芝とケンウッドはSバンド衛星デジタル放送(モバイル放送)の車載チューナーを参考出品。写真は東芝のもの
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□東京モーターショーのホームページ
http://www.tokyo-motorshow.com/
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