大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

メルコ 牧社長が、「メルコ=玄人志向」を明らかにした理由




牧誠社長
 メルコの牧誠社長は、5月14日のアナリスト向け決算発表会において、「メルコが大きなターニングポイントを迎えている」と切り出した。

 メルコからバッファローへの社名変更、それに伴うグループ体制の大きな変更。無線LAN機器のレンタル事業への進出……。まさに、新たなメルコの事業体制が構築されようとしている。

 そして、これまで「謎のブランド」(牧社長)として、メルコとの関係に一切言及してこなかった「玄人志向」を、「メルコのマルチブランド戦略において、重要な役割を担う」(同)と、メルコグループの主要ブランドとして明確にし、そのスタンスが大きく変わったことを示す。

 果たして、メルコでなにが起こっているのか。そして、牧社長がいうターニングポイントとは何なのか。


●決算内容から見えるメルコのターニングポイント

 それは、2003年3月期の決算内容から浮き彫りにすることができそうだ。メルコの2003年3月期の連結決算は、市場全体が低迷するなか、増収増益という明るい決算内容となった。

 決算の詳細は、別稿を参照していただくとして、成熟分野といわれるメモリ事業およびストレージ事業が大幅な成長を見せ、さらに、利益という点でも、これらの分野が大きく貢献しているのが特筆される。

2003年3月期 製品別
通期業績見通し 通期業績見通し(製品別)

 とくに、メモリ事業は、全体の半分となる約20億円の利益をあげており、まさに同社の収益源となっている。

 もともとメルコの弱点は、むしろメモリ事業そのものにあるといわれた。価格変動が激しいメモリ事業に頼ることで、収益性が大きく左右されるからだ。だが、今回の決算を見ると、この点が大きく変わっているのがわかる。

 2002年から今年初めにかけてDRAMの価格変動は例年以上に急激に変化した。例えば、昨年11月には8ドルを超えていたDDR SDRAM 32MBのスポット取引価格は、いまでは3ドル程度という大幅な下落ぶりだ。

 牧社長は、「これまでのメルコであれば、明らかに収益悪化に直結し、赤字を食らっていたはず」としながら、「在庫、調達面での大幅な改善効果によって、この影響を受けない体質ができつつある」と自信を見せる。

 こうした体質改善ぶりは、在庫が前年の73億円から50億円に縮小、メモリ評価損を売上高比4.5%から4.0%に、メモリ在庫補償で売上高比5.8%から3.6%へと大幅に引き下げたという同社の発表数値からも裏付けられる。

 また、ストレージに関しても、ブロードバンド利用の広がりに伴って、「一度は、行き詰まったかに見えたものが、ここにきて、また上昇傾向に転じた」(管理本部長・牧博道取締役)という点も追い風となった。

 牧社長自身も、本社のある名古屋から東京への出張の際には、新幹線による約1時間30分の時間を、テレビで放映されている映画を見る時間に当てるという。そのために、家でハードディスクにテレビ放映された映画を録画しておき、パソコンで見るのだという。「途中のコマーシャルを早送りで飛ばせば、東京までにちょうど1本見終わる」(牧社長)というわけだ。こんなブロードバンドと画像を結びつけた使い方が同社のストレージ事業を後押ししている。

 つまり、本来ならば縮小するはずのこうした成熟分野において、確実に利益を確保できる体制が整ったのだ。これを指して牧社長は、「メルコのターニングポイント」という表現をするのである。

 「これまでのメルコは、新たな分野に挑むが、その市場が縮小すると一緒に業績も縮小する。投資家もそこに不安を持っていた。だが、メモリ、ストレージという成熟分野で利益を確保できる体制ができたのに加えて、引き続き、ブロードバンドのような新規分野に対する投資も積極的に行なえる体制が整った。成熟分野と新たな成長分野の2つの領域に向けて取り組める体制が整った」というのだ。

 そして、こんな表現もする。

 「成熟分野の製品に関しては、1円でも安くしろ、という指示を出すが、新規投資分野については、少しぐらいは無駄づかいをしてもいいから、いい物を作ってくれ、という。同じ組織のなかで、矛盾する指示を出すことに違和感を感じはじめた」。これが、今回の新たな組織体制への変更へつながる根本的な理由だといえる。


●「森の経営」に基づくグループ構想

 牧社長は、若いときから山登りが好きだ。山に登ってこんなことに気がついたという。

 「森は、何千年、何万年と続くが、そこに生えている木は、100年、200年で枯れ、それが養分となり、また新しい木を育み、さらに大きな森を形成する。今後のメルコの事業体制を考えると、これと同じなのではないか」。今回、新たに打ち出したメルコの事業グループ構想を、牧社長が「森の経営」と呼ぶ理由もここにある。

 新たな事業体制では、純粋持株会社としてメルコホールディングスを設置。その下に、株式交換によってメルコホールディングスの完全子会社となったメルコをバッファローに社名変更する。さらに、メルコホールディングスの下には、米国や英国、アイルランド、台湾の海外子会社や、物流を行なうバッファロー物流、有価証券の運用業務を行なうメルコファイナンス、無線LAN機器のレンタル事業を行なうバッファローリース、玄人志向ブランドを手がけるCFD販売などが連なる。

 メルコホールディングスは、森でいう土壌となり、ヒト、モノ、ノウハウを蓄積する。この土壌に生えるのがバッファロー(旧メルコ)をはじめとする各企業というわけだ。そして、新規事業に乗り出す際にも、大きな木であるバッファローの中に取り入れるのではなく、別途、新たな企業を設置し、それぞれの事業形態にあわせたビジネスモデルを構築するという形になる。

 メルコが打ち出した新たな体制のなかで、見逃すことができない取り組みがある。それはマルチブランド戦略による幅広いユーザー層へのアプローチだ。それに向けて、具体的には2つのアプローチを行なう。ひとつは、無線LAN機器のレンタル事業への取り組みだ。すでに4月から一部キャリアと提携して事業をスタートしているが、「早くもほかのキャリアから申し入れがあるほど」というように出足は好調だ。

 これは、キャリア経由の無線LAN機器のレンタル事業を行なうもので、新たな流通形態として、そして、これまでメルコが手つかずだったパッシッブユーザーの取り込みを図る狙いがあるという。

 「これまでメルコが対象としてきたパソコンユーザーは、能動的に利用するアクティブユーザーであった。だが、ブロードバンドが家庭に広がり、さらに画像を取り扱う環境が増えることで、一般的にテレビ番組を楽しむような受動的なパッシッブユーザーが増加する。2006年には、2,000万の家庭においてブロードバンドが利用され、そのうち半分で無線LANが導入されるだろうと推測されており、家庭内にも無線LAN機器が続々と増えていくことになる。これに伴って、パッシッブユーザー向けの取り組みが必要になってくる。これらのユーザーに対しては、個別に販売していくだけでなく、キャリアに向けたレンタル方式による浸透を図る」というわけだ。

 同社の試算によると、初年度は月間15,000台から2万台、年間で20万台規模の無線LAN機器がレンタルされるだろうとしている。

 メルコから、バッファローリースが仕入れる規模は年間20億円程度と見られ、バッファローリースの初年度実績は赤字になることは明白だ。2004年3月期の連結決算見通しで、売上高、利益ともに前年比微増としているのは、この影響があるからだ。

 「単月黒字化は、2年度目の後半から。年間では3年目以降からの黒字化を目指す」とする。今後3年を見越した先行投資というわけだ。

 牧社長も、「無線LAN機器は、種まきの時期。収穫を焦るつもりはない」と言い切る。「家庭における無線LAN機器市場で、デファクトを獲得するには、無線LAN機器を個別に販売していく一方で、レンタルによる展開が必要である。さらに、家庭に広がった後には、セットトップボックスやコードレスIP電話といった、無線LAN機器に接続する新たな市場展開が期待できる。テレビまではやるつもりはないが、テレビのメーカーに無線LAN製品をOEMするという事業も期待できる。無線LANは、互換性などの点でノウハウの蓄積が必要であり、OEMにも大きな可能性がある」。

 今後の家庭におけるブロードバンド市場の広がりを見た上での、長期的な展開をすすめようというわけだ。


●認知された玄人志向の行方

玄人志向の位置付け
 そして、もうひとつが、これまで同社があえて触れてこなかった「玄人志向」を、メルコによる取り組みであることを明確に示したことだ。

 牧社長は、これまで、玄人志向とメルコとの関連性に一切触れてこなかった理由を次のように語る。

 「玄人志向の特徴は、ノーサポートだという点にある。バッファローブランドの場合には、メルコが責任をもって製品を保証する体制となっていること、使いやすくするためにユーティリティを付加したり、マニュアルを整備したりという作業が発生し、結果として製品化するまで2〜3カ月かかるというものもある。それに対して、多少使いにくくても、あるいは少しぐらいバグがあっても、それを理解するユーザーに対して、いち早く製品を提供するというのが玄人志向の考え方だ。だが。玄人志向も、メルコがやっているということを明確に示せば、バッファローブランドと同等のサポートを求める声が出てくるだろう。そのため、あえて、知る人ぞ知る、というブランドと位置づけた」。

 今後は、「積極的ではない」としながらも、「メルコのひとつのブランドであることをオープンにしていく」ことを牧社長は明らかにする。

 一昨年の事業開始以来、玄人志向のノーサポートという手法が、市場に定着してきたことで、メルコ=玄人志向としても、バッファローブランドと同様のサポートを求めるユーザーがない、と判断したことも今回のオープン戦略につながっているようだ。

 「玄人志向は、あくまでも上級ユーザーをターゲットとするブランドであり、中級ユーザーをはじとめする幅広い層にはバッファローブランドで提供、そして自分自身ではブランドを選択しないようなユーザー層に対しては、キャリアを通じたレンタル事業でアプローチする」というように、今回の玄人志向ブランドの明確化と、新たなレンタル事業の展開は、バッファローブランドの上下を埋めるための戦略であることが明確だ。

 さらに、同社は、デジタルテレビなどと絡めたホームアプライアンス向けネットワーク周辺機器市場の創出にも、近い将来的には乗り出す考えである。いわば、多様化するパソコンおよびホームネットワークユーザーに対して、マルチブランドで展開していく姿勢を示したものともいえる。

 一方、玄人志向の製品が、台湾製やノーブランド製品に押され、シェアが横這いで推移していることからテコ入れが必要だというのも事実だろう。玄人志向=メルコという構図がいよいよオープンになったことで、玄人志向ブランドの売れ行きにどう影響するのだろうか。

 そして、これまでの玄人志向にはなかったような新たな取り組みにも期待していいのだろうか……。

□関連記事
【5月14日】メルコ牧社長、「玄人志向」を認知
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0514/melco.htm
【5月13日】メルコ、バッファローに社名変更し、持株会社制へ移行(Broadband)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/1426.html

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(2003年5月19日)

[Text by 大河原克行]


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