近い将来、名古屋で熾烈な戦いが新たに勃発することになるかもしれない。 というのも、「ビックカメラが名古屋駅前に進出する」との噂がまことしやかに流れているからだ。
ビックカメラ側では、具体的な出店計画などについては、明らかにしていないが、JR名古屋駅の新幹線ホーム側の出口となる太閤通口の駅前エリアへの出店が濃厚といわれており、地元関係者の間では、大須電気街 vs ビックカメラとの構図が、早くも描かれようとしている。 ●ヨドバシ梅田 vs 日本橋の二の舞か?
噂されているのは、生活創庫アピタ名古屋駅前店の跡地。同店は今年8月の閉店が発表されているものだ。名古屋駅前とはいえ、高島屋、名鉄が進出する表玄関とは異なり、裏口エリアともいえる場所で、集客という点では不利ともいえる立地だ。 だが、大須関係者は、大阪・梅田の裏口エリアに出店したヨドバシカメラと、秋葉原、大須と並んで3大電気街と称される大阪・日本橋電気街との戦いを、これとダブらせる。 「大阪戦争」では、ポイントカード制度による価格戦略と、圧倒的ともいえる集客力を武器にしたヨドバシカメラが躍進。日本橋電気街の集客率を大幅に引き下げたのは記憶に新しい。
駅裏口への出店とたかをくくっていては、大須電気街も、二の舞になりかねない、というわけだ。 ●エリア戦略で対抗準備進める こうしたなか、名古屋・大須電気街のパソコンショップで構成される大須AICは、2003年度の事業方針を発表した。 冒頭、挨拶にたった月城朗会長(=グッドウィル社長)は、「ヨドバシカメラの梅田出店と日本橋電気街の出来事は、大須にとっても対岸の火事と捉えるわけにはいかない」と危機感を募らせた。
昨年、大須AICでは、ヤマダ電機が大須電気街に隣接する地域へ進出したことで、一丸となってこれに対抗した経緯がある。電気街への直接進出ではないにしても、わずか数百メートル離れた地域への出店であり、初の電気街近接地域への出店に関係者は戦線恐々としていた。 これに対して、大須AICの昨年の事業方針説明では、「大須電気街は専門店の集まりであり、プロフェッショナルならではの対応が行なえることが他社との差別化になる」(月城会長)として、ヤマダ電機への対抗を図った。 商戦期での共同キャンペーンや、メーカーを交えた各種施策、そして、無線LANスポットも開設するなど、例年以上に話題づくりに力を注いだ。 それから約1年を経過したわけだが、「この1年の経過を見れば、ヤマダ電機出店の影響はなかったといっていい」(大須電気街関係者)というように、大須AICとしての共同戦略が、ヤマダ電機の影響を最小限に抑えた。つまり、この戦いには勝利したといっていい。 その大須電気街が、今度は、ビックカメラと一騎打ちという構図になるのだ。 出店の時期は今年とも、来年とも言われており、まだ明確ではない。 生活創庫の閉店が8月末といわれているだけに、この場所への出店だとすれば、まだ準備の期間はある。 月城会長は、「これから我々が取り組んでいかなくてはいけないことは、大須としてのエリア戦略の徹底。エリアとしてのメリットをどう出すか、ということを真剣に考えていかなくてはならない」と話す。 続けて、「大須AICは、かつての大須PC店会の頃から数えて、今年で15期目を迎える。節目の年にあたり、もう一度原点に戻ろうと考えている」と月城会長は話す。 大須AICの原点とは、加盟会社が連携して、大須地区の活性化を目指そうというものだ。それが、ひいては、ビックカメラへの対抗策になると暗に強調しているようでもある。 22日に行なわれた大須AIC総会の最後に、突然、月城会長が、かつて同会会長を務めたエイデン・松山保夫取締役、マイコンテック・神谷泰良社長の2人を特別顧問として、役員に復帰させる決議を求めたのも、大須AICが、いま一度原点に戻って、エリア戦略に強化したいという気持ちの表れともいえる。また、副会長を2人体制とし、大須AICとしての活動を、より活発化できる体制も作った。 神谷社長も突然の役員復帰決議に対して、「会員が一丸となって取り組んでいくことが必要。微力ながらお手伝いしたい」と挨拶、協力体制をとることを惜しまない姿勢を示した。 ●大須電気街の共同施策が続々
11月中旬の大須新名所誕生セールは、11月にオープンする新ショッピングビル「OSU 301」のオープンに合わせたもの。大須観音、万松寺の2つの寺社の門前町であり、古着の店が集まる店であり、そして電気街を持つ「大須」全体での一大イベントとなりそうだ。 また、昨年から実施している無線LANスポットである「街角ブロードバンド・大須エアースポット」も5月中旬には、「大須エアースポット2」として、利用できる範囲を従来の4倍程度にまで拡大する。 「これまでは赤門通、新天地通沿いだけだったものを、仁王門通、東仁王門通、大津通、裏門前町通にまで広げたい。また、大須AICの情報や、お買い得情報などを無線LAN利用者に提供するといった工夫を凝らしたい」(大須AIC事務局・乾敏幸氏)と話す。
大須電気街としての共同戦略がさらに強化されることになりそうだ。 ●ビックは姿を見せるのか? 「まだ、個人的な私案であるが」と月城会長は前置きしながら、「大須のグッドウィル、大須のOAシステムプラザ、大須のコムロード、大須のエイデンというように各社ともに“大須”を冠にしたアピールをしてはどうかと考えている」と話す。 大須自体の露出度を高めることで、さらに認知度を向上させようというわけだ。 OAシステムプラザ大須店・亀山幸三店長も、「それぞれの店が特徴を出すことが、大須の特徴を出すことにつながる。店舗の成長と大須の成長はイコールである」と、会員各社のエリア戦略にかける想いを代弁する。
まだ、ビックカメラは、具体的な形を大須電気街の前に見せようとはしない。 大型カメラ量販店未踏の地において、この戦いが本当に実現するのかを疑問視する声があるのも事実である。 しかし、大須電気街がその対策にいまから余念がないことだけは明らかだ。 【お詫びと訂正】初出時に「生活創庫」の表記が誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。
□大須AIC
(2003年4月23日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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