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なぜ「VAIO」は僕らをワクワクさせるのか。ソニー時代からの古株メンバーが集結、本音で語るVAIOの過去と未来

~VAIOメンバー&ライターによるオンライン座談会【PC Watch 25周年特別企画】

座談会はMicrosoft Teamsを使ったオンライン形式で実施された

 「VAIO」と聞くだけで、なぜかワクワクしてしまうという読者も多いだろう。VAIOが世の中に送り続けてきたPCは、多くのPCユーザーを虜にしてきた。PC Watchの誌面を賑わせたPCも数知れず、それらのPCが、日本のPCシーンを常に盛り上げてきたのは周知の通りだ。

 今回、PC Watchの25周年企画として、VAIOの魅力を改めて探るべく、VAIOの開発を統括するVAIO 取締役執行役員の林薫氏を始め、VAIOの開発に長年携わっているVAIO マーケティング本部エグゼクティブプロダクトオフィサーの黒崎大輔氏、VAIO テクノロジーセンター 副センター長・メカ設計部部長の巣山剛志氏に集まっていただくとともに、VAIOユーザーとしても知られ、本誌で活躍するライターの笠原一輝氏、甲斐祐樹氏にも参加を得て、オンライン座談会を開催。これまでのVAIOと、これからのVAIOへの期待などについて、自由に語ってもらった。

ソニー時代から魅力的なPCを提供してきたVAIOシリーズ

コロナ禍ということもあり、オンラインで行なわれた今回の座談会だが、開始前から参加者全員が、この座談会でVAIOについて語り尽くしたいという熱い思いが画面越しに伝わってきた。口火を切ったのは、笠原一輝氏と甲斐祐樹氏のライター陣であった。そして、それに答えるVAIOのメンバーも、いまだから話せるというエピソードも満載で応じてみせた。

笠原(敬称略、以下同) バイオノート505が発売された頃は自分はまだ駆け出しのライターで、当時レビューを書いたことを思い出します。バイオC1は自動車に搭載して、カーナビ代わりに使っていましたね。

ライター笠原一輝氏

 また、バイオWは、説明会に参加したすべてのメディアが「これは売れない」とその場で言い切ったのですが、これは大ヒットになった。ライターが売れないといったPCこそが売れるというのが、それ以来の私の持論です(笑)。

 そのほかにも、おひつ型PCのテレビサイドPC TP1にはそのデザインに度肝を抜かれましたし、Xビデオステーションは何度もHDDを交換して、TV番組を録画しまくりました。さらに……(編集部注:あまりにも数が多いので割愛しました)。

 いま使っているのは、最新世代のVAIO Zです。不満はまったくないですね。

2021年モデルのVAIO Z

甲斐 私がVAIOを使い始めたのは、バイオC1が最初で、バッテリ寿命が長く、取材現場に持ち込むには最適なPCでした。とにかく、使いやすさは秀逸で、スペックがちょっと劣ってきたかなというタイミングになってもしばらく使い続けていましたよ。

ライター 甲斐祐樹氏

 その後も、コンパクトな筐体が魅力のtype Pや、655gまで軽量化したXシリーズを購入して、取材現場にガンガン持ち運んで使っていました。

 PCそのものではないのですが、Wi-FiオーディオのWA1は、かなりの期間使い込みました。こうした周辺機器のユニークさもVAIOの魅力の1つですね。先日、量販店店頭で展示してあるVAIO SX12を改めて見て、欲しくて仕方がなくなっているところです(笑)。

VAIO 林 メディアの方に売れないと言われたバイオWは、オールインワン(一体型)PC市場を切り開く役割を果たすほどのヒットになりましたね。ただ、私が開発したPCの場合、メディアの方々に、「これは売れるぞ」と言われるものが多かったのですが、逆に実売で苦しむことが多々あり……(笑)。

VAIO 取締役執行役員の林薫氏

 インテリアやファッションのように楽しむことができることを狙ったバイオQRは、その代表格ですね。もちろん、採算が取れるラインまでは売れています。正直、もっと売れると思ったのですが(笑)。

笠原 type 505 EXTREMEが登場したときには、こんなに価格が高いPCをどんな人が購入するのだろうかと思いましたね。

VAIO 林 数量限定のPCではあったのですが、いまだから明かせる話をすると、筐体に採用したカーボンが、限定した数量すらできあがらず、PCが作れないという状況に陥りました。世界で初めて本格的にカーボンを使ったPCだったのですが、ある社員はカーボンの製造工場に行ったきり、半年以上も帰ってきませんでした(笑)。ただ、この時の苦労が、最新のVAIO Zで採用したフルカーボンに繋がっています。

VAIO 黒崎 実は、ディスプレイがスライドしてキーボードが出てくるtype Uも、結果として、あまり台数が作れなかったPCです。小型化した高精細液晶パネルの歩留まりが上がらず、想定した台数まで到達しませんでした。

VAIO マーケティング本部エグゼクティブプロダクトオフィサーの黒崎大輔氏

笠原 攻めすぎた結果、作れないというPCも結構あったんですね。同じように、デザイン面でも攻めていますよね。

VAIO 林 もともとデザイナーの発言力が強い社風があるのですが、VAIOのメカ設計チームは、デザイナーの上を行くんだという意識を持って、常にぶつかりあっていましたね。

 デザイナーだけではいい製品は作れませんし、設計チームだけががんばってもいい製品は生まれません。設計チームが強い意思を持ってモノづくりをすることで、デザイン面でも優れた製品ができあがる。そうした文化があったからこそ、攻めたデザインができたと思っています。

VAIO 黒崎 社員全員が、格好良くなければVAIOではないという意識を持っています。デザイナーが作りあげたものに対して、設計側が「それはできない」と言ってしまったら、格好良いVAIOは生まれません。また、設計側のこだわりがあるからこそ、他社にはないPCを作ることができると自負しています。

VAIO 巣山 デザイナーや、メカ、電気、ソフトウェアの設計チーム、そして、製造チームのそれぞれが、お互いに、ハードルを高め合いながらモノづくりをしています。VAIOには、次はこういうPCを作りたいという強い思いを持ったデザイナー、エンジニアが多く、意見を言い合う風土があります。

VAIO テクノロジーセンター 副センター長・メカ設計部部長の巣山剛志氏

 そして、言ったからには最後まで責任を持って商品化する。こうした風土があるからこそ、多くの方々に評価していただけるPCを投入できていると思います。

笠原 VAIO Duo 13のデザインや設計を見ると、よくこんなものができあがったと思います。チャレンジする精神が脈々と続いていることを感じます。

VAIO 林 失敗しても懲りずに挑戦するのがVAIOですね(笑)。正直なところ、VAIO株式会社として再スタートした時点では、尖った部分を少し抑えて、BtoB市場を狙ったバランスのいい製品を作ることを優先しました。

 しかし、そうした中でも、CPUパフォーマンスを引き出す「VAIO TruePerformance」の開発に取り組むなど、挑戦する姿勢は変えませんでした。VAIO TruePerformance は、CPU周りの担当者と熱処理の設計者が「VAIOは何にこだわるべきか」、ということを議論した結果、完成させたものでした。

 マルチコア化した時にTDPのつじつまを合わせるため、パフォーマンスと電力が下がる領域よりも前に、CPUを動かすことでヘッドルームが生まれ、そこを活用することで高い性能を発揮する技術です。この説明を聞いたときに、よくそこに気が付いたと思いました。

 一方で、BtoBに取り組んだ際には、品質を磨き上げることに力を注ぎました。その結果、以前のVAIOよりも品質は格段に良くなりました。

 この時に改めて感じたのは、テーマを見付けると、それに没頭し、徹底して取り組むのがVAIOのエンジニアの特徴なんだな、ということです。言い換えれば、どんな方向にも伸ばせる素地があることにも繋がります。これが、VAIOが挑戦し続けるベースになっています。

甲斐 BtoB向けのPCでは、インターフェイス搭載へのこだわりを強く感じます。かつて、VAIO S11を購入したのは、VGA(ミニD-Sub15ピン)や有線LANポートを搭載していることが理由でした。

 ビジネスシーンで必要とされるものをしっかりと組み込みながら、デザインや軽さにも妥協していないことを感じます。レガシーのインターフェイスは厚みが出て、デザイン面ではマイナスになりがちですが、それを美しくカバーしています。現場では、自分のPCにだけVGAポートがあって、ドヤ感を出せますね(笑)。

 また、ライブ配信をする際にも、1台でカバーできれば、使用したり、持ち運んだりする機材を減らすことができます。これはトラブルを減らすことにもつながりますし、大きな魅力の1つです。

VAIO集大成の「VAIO Z」はどうやって開発されたのか?

「VAIO Z」は実に5年ぶりとなる2021年2月に装いを新たに登場した。全面カーボンファイバーというこれまでになかった挑戦もそうだが、薄型軽量筐体にハイエンドCPUを詰め込むなどといった意欲的な設計は、頂点の「Z」シリーズに相応しい仕上がりで、大きな話題を呼んだ。

笠原 私が使っているVAIO Zは、ハイエンドモデルとして、削ぎ落とすところは削ぎ落しながら、使い勝手を維持している点が気に入っています。

 いい意味で想定外だったのはマイクの性能ですね。オンライン取材でも、外部マイクは使わなくなりました。また、開くだけで5Gに繋がり、すぐに接続できる手軽さも、一度使いだすともう戻れないですね。いまは、家の中でも5Gで接続していますよ(笑)。

VAIO 黒崎 VAIO Zの開発では、どのインターフェイスを残すのかといった議論を、社内でずいぶんとやりました。

 加工が難しいフルカーボンの筐体ですから、あまり穴を開けたくないですし、VAIO Zを利用するユーザーであれば、自分で持ち歩く周辺機器を選択でき、USB Type-Cといった新たなインターフェイス環境への移行も積極的であると想定しました。USB Type-Aを非搭載にすれば賛否が出るのは分かっていましたが、思い切ってなくすことにしました。

VAIO ZのインターフェイスはThunderbolt4(USB Type-C)×2、HDMI、イヤフォンジャックだけ

VAIO 林 VAIO Zでは、熱設計に関しても、パフォーマンスだけを追求するのではなく、静音にも徹底的にこだわっています。音の周波数分布をもとに、消さなくてはいけない周波数を特定し、開発者はその音を無くさない限り、利用者が不快な気分になると言い切って、羽の枚数を変えたり、ブレードの形状を変更したりといったことを繰り返しました。

 このように、PCを構成する主要なところで、マニアックとも言えるほど、徹底してこだわる開発者が多いことがVAIOの強みだと言えます。

VAIO Zの内部

笠原 「ブーン」という音よりも、「シャーッ」という静かな音がするんですよね。

VAIO 巣山 熱設計は、またまだ進化させたいですね。いまはCPUの上にプレートを置いて、ヒートパイプを伸ばして、ファンで冷やす構造ですが、今後はヒートパイプを全面に広げたような構造で、CPUからの熱を直接吸い取るようなことも考えられるわけです。これからも、様々な考え方を取り入れていきたいですね。

甲斐 パフォーマンスと使いやすさに妥協しないVAIO Zと、ビジネスシーンに必要とされるものをすべてのものを詰め込んだVAIO SX12やSX14は、それぞれに独自のコンセプトがあって、その中で妥協しないこだわりをすみずみに感じますね。

 コロナ禍で、リモートワークが普及すると、オンラインでの仕事が増加したり、場合によっては、Slackを同時に10本立ち上げたりといった使い方も始まったりして、ノートPCにも高いパフォーマンスが求められるようになっています。

 今後は、オフィスやバーチャル空間に、常に接続しているという使い方も一般化するでしょうし、そうなると、パフォーマンスの高さや、静音性へのこだわりはますます重視されることになる思います。

笠原 いま“オタク”がやっていることは、5年後には一般ユーザーには広がると思っています。つまり、VAIO Zで実現している性能は、5年後には一般的に使われる性能だと言えるのではないでしょうか。ところで、VAIO Zのフルカーボンの筐体は、あれだけ複雑な形状に加工する必要はなかったように感じますが。

VAIO 林 VAIOの開発者はみんな“M”なんですよ(笑)。ただ、軽量化を維持しながら、強度を出すためには立体構造にすることが重要で、その点でも複雑な加工をしています。VAIO Zは、PCの未来を指し示したいというも思いがあります。

VAIO Zの特徴的なカーボン加工

 その時代には存在しなかったはずのものが、そこにあることを指す「オーパーツ」という言葉がありますが、type 505 EXTREMEは、2004年に発売したにも関わらず、そのデザイン性やカーボンを採用した筐体などは、2021年の新製品として投入しても、遜色がない完成度があります。

 時代を飛び越えて先に出てきてしまったようなものをVAIOは作りたいと思っています。VAIO Zの開発にはそうした思想があり、だからこそ、誰もチャレンジしないようなことをやっているのです。

 VAIO Zは、製品を作り上げたあとに「もうこれ以上はできない」と思うギリギリのところを攻めているのですが、それでも、しばらくすると「これもやりたい」という話になりますね。

 振り返ってみると、VAIOとしてソニーから独立して以降、自分たちが追求してきた「やりたいもの」が、ようやく結実したのが、2021年2月に発表したVAIO Zだと言えます。5年先でも通用するPCが手に入ったという購入者の声を聞いて、うれしく思っています。

VAIO 黒崎 VAIO Zには大きな期待感があり、市場に投入するときに、これが認めてもらえるのかどうかという点に、とても怖さを感じました。今回のVAIO Zは、VAIOが挑戦する姿勢やその成果、ハードウェアの価値についても、市場に認めてもらえたと思っています。

 性能だけでなく、カーボンが持つ暖かさがいいというような感性の部分でも評価をいただいています。また、キーボードも一新し、ここでも「世に問いたい」という思いを持った大きな挑戦をしています。フィーリングをかなり変えているので、ここも心配だったのですが、多くの方々からポジティブな評価をいただいている点はうれしいですね。

VAIO Zのキーボード

VAIO 巣山 PCとしてのパフォーマンスについては、最も自信がある部分ですが、外部のラボで行なった性能評価では、圧倒的な結果が出ており、ラボの研究者たちが驚いているという声をもらいました。一瞬だけのパフォーマンスであれば出すことは容易なのですが、VAIO Zでは、長時間の継続利用でもパフォーマンスが落ちないような熱設計も行なっています。

笠原 VAIO Zで培ったノウハウは、将来のVAIO SX12やSX14にも使われるわけですよね。

VAIO 林 そうなります。時期は言えませんが(笑)。VAIO Zでの数々の挑戦は、VAIO Zのためだけのものではなく、今後のVAIOの様々な製品に活かされます。それによって多くの人に、VAIOの良さを実感してもらうことが大切だと思っています。

笠原 それは、とても楽しみにしています。ただ、個人的には、ハイエンドモデルであるVAIO Zには、他社のハイエンドモデルと同様に、パッド部のクリックボタンはいらなかったかと思うのですが……。

VAIO Zのタッチパッド

VAIO 林 PCは、人がやりたいことをサポートするツールです。その際に、ストレスが生まれてはいけません。そう考えたときに、クリックボタンがあった方がいいと考えました。

 例えば、Excelのセルをクリックする際には、クリックボタンがあった方が便利です。VAIOには「機能美」という言葉があります。単に美しいだけでなく、美しいことには意味があって、それを実現する美しさを追求しています。そのこだわりの結果だと言えます。

甲斐 VAIO Zは、価格だけを見ると、高いと思う人が多いでしょうね。ただ、私は、ハイスペックなPCが役に立つのは、一般的にPCを使っている人だと思っています。

 Googleドキュメントを使って重たいと感じている人は、最新のPCに買い替えるだけで、サクサク動く環境に変わったりということがよくあります。それによって、仕事が終わる時間が1時間早くなったり、ストレスから解消されたりするわけです。

 一時的な投資額は高く見えても、年間で見れば1日あたりの投資額は少ないもので済みますから、その投資対効果を理解してもらいたいと、いつも思っています。これは、VAIO Zだけでなく、SX12やSX14も同じで、妥協しないパフォーマンスを実現しているVAIOだからこそおすすめできます。

VAIO 巣山 PCを使っていると、日常的に発生する待ち時間があります。こうした時間を削っていくことが、ストレス解消にもつながります。これは、VAIOがこだわっている部分の1つでもあります。

VAIO 黒崎 VAIO Zにしたことで、一般的なPCに比べて多く支払う金額は、平均すると1日300円ぐらいの増加なんです。これを支払う価値がある、と思ってもらえなくてはいけないですね。

笠原 私は、「VAIO Zを買ってよかった」という一言に尽きます。性能の高さには大満足です。どんなアプリを使っていても待つことはありませんし、性能に余裕を感じます。

 ライターの仕事は、1つの作業に関わる時間が短くなればなるほど、ほかの仕事ができ、その結果、稼ぎを増やすことができます。VAIO Zが10万円高くても、作業が効率よく進み、原稿を1本多く書くことができ、そこで10万円分を稼ぎ出せれば、その投資はカバーできるわけです。

 個人事業者はそうした計算をしやすいと思うのですが、企業のITマネージャーにも、そこを正しく理解してほしいと思います。業務効率が上がらないPCを使っていることほどマイナスなことはありません。いいPCを購入すれば、それだけのリターンがあります。

 生産性が向上するのはもちろん、従業員のモチベーションも上がる。そのメリットをもっと理解してほしいですね。私は、VAIO Zへの投資は、すでに取り返したと思っていますよ。自分に返ってくるメリットを考えると、VAIO Zの価格は適正だと言い切れますね。

VAIO 林 VAIO Zのユーザーターゲットに、「ビジネスアスリート」を掲げています。アスリートは、自分の能力を最大限発揮するために、道具に投資をします。それと同じようにビジネスシーンにおいても、最高の道具を活用することで、自分のパフォーマンスを最大限に発揮したいと思っている人がいます。

 笠原さんや甲斐さんには、まさにそうした使い方をしていただいているわけですね。私たちの挑戦が、ユーザーのみなさんの挑戦をサポートする武器になり、相棒になれることが喜びです。

VAIOの開発を支える長野県安曇野市の本社工場

長野県安曇野(あずみの)市に、VAIOの本社がある。ここには、開発拠点と製造拠点が併設されており、国内開発、国内生産体制が敷かれている。入口には、「VAIOの里」と記された石碑があり、この場所から、VAIOが全世界に送り出されていることを示している。

長野県安曇野市のVAIO安曇野工場

VAIO 林 VAIO Zのマザーボードは、設計は国内で、実装を海外の協力工場で行ない、それを使って、PCを安曇野で組み立てる仕組みになっています。実装部分は、部品の集積化や自動化によって、海外生産でも高い品質を確保できるようになっています。

 VAIOがこだわっているのは、人が手に触れて感じる部分の仕上がりや品質であり、そこはすべて国産とし、安曇野で組み立てを行ないます。例えば、筐体を構成する部品の調達であるとか、精度が求められる組みつけの部分などがそれにあたります。

笠原 VAIO Zでは、液晶ディスプレイのハウジングがベゼルまで一体化しているために、コの字の部分に液晶パネルを滑り込ませるようにして取り付けていますよね。

VAIO 林 その組み立ては、安曇野の製造ラインでないとできません。この仕組みを提案したときには、製造現場から「あり得ない!」と言われましたよ(笑)。

 ただ、こうしたことを製品の構想、企画段階から、製造現場と話し合いをしていますから、どう改良すればいいのか、どこに気をつければ組み立てができるのかということを詰めていくことができます。

 安曇野の地で、設計チームと製造チームが一体となり、モノづくりを進めていることは、VAIOの大きな強みです。これが分離していたら、VAIO Zは作れなかったと言えます。

VAIO 巣山 それぞれの部門が培ってきたノウハウや常識というものがありますから、それを超えたり、破ったりする際には、大きな抵抗が生まれます。その際に、設計チームが独りよがりで推し進めたら、抵抗は大きくなるだけです。

 VAIOとしてやりたいことを実現するためには、製造現場や製造技術、品質保証部門が一体にならなくてはいけません。これらのメンバー全員が、1つの建屋の中にいますから、腹を割って、「やりたいことはこれなんだ」という話ができ、同じ目標に向かって進むことができることは、VAIOらしいPCを生む原動力になっています。

笠原 それぞれの現場からのフィードバックが、建物の中をグルグル回って、製品が仕上がっていくわけですね。

VAIO 巣山 しかもお互いに「できない」とは言わない(笑)。「やってやる」という気持ちを全員が持っている。だからこそ、VAIOはチャレンジが続けられるのだと思います。

甲斐 アイディア段階からスタートしたり、踏み込んでいいものを作ろうとすると、そばにいて、すぐに話しかけて、肌感覚で理解し、一緒にやることは大切だと思います。

 私自身、モノづくりのスタートアップ企業に在籍していたことがあるのですが、最後の1週間は工場に詰めて、現物を前にしながらやり取りをして、完成度を高めていくことになります。

 コロナ禍では、すぐそばにいる、という距離感の近さはますます大切になっていますから、安曇野にすべてのチームが集結しているVAIOの体制は、多くのモノづくり企業にとって羨ましい環境だと言えるのではないでしょうか。

笠原 VAIOでは、「安曇野FINISH」によって、品質を担保していますね。

VAIO 林 VAIO Zは基板実装以外はすべて安曇野で生産しています。別の製品では、ある程度のところまでは協力会社にお願いし、最終的な品質チェックは安曇野でやるといったように、「安曇野FINISH」には、いくつかのレベルがあります。VAIOが自らやらないといけない部分は、必ずVAIOがやるということにはこだわっています。

笠原 梱包箱の中に、安曇野FINISHのスタンプを押したカードが入っているのですが、それを見るだけで安心しますし、職人がしっかりと作り上げてくれているということを感じますね。

VAIO 林 実はVAIO Zのモノづくりでは、安曇野の設計、製造チームだけでなく、国内の様々な企業の協力を得ています。例えば、VAIO Zでのフルカーボン化では、初めてのことばかりで、それぞれに得意技を持つ企業が集まることによって、ようやく完成させることができました。

 最初の加工はこの会社でやって、次の加工はこっちの会社にお願いをして、というような形です。それぞれの会社での製造に立ち会うわけですから、それはそれで大変でした。日本全国津々浦々を回って、ようやく完成しました(笑)。

Windows 11がさらにVAIOの可能性を広げる

Windows 11が、2021年10月5日に正式にリリースされる。Microsoftでは、これを「新たな時代において、新たな生活を支える基盤になることを目指すOS」と定義し、この先の10年を切り拓くOSと位置付ける。Windows 11とVAIOとの組み合わせによって、どんなPCの世界が生まれるのだろうか。

Windows 11

笠原 Windows 11の登場は、メリットばかりだと思っています。安定性が期待できますし、セキュリティも強化される。そこに対して、VAIOがどんな魅力的なハードウェアを開発してくれるのかが、いまから楽しみですね。

VAIO 黒崎 OSによる新たな機能の提案は大歓迎であり、それによって、PCが進化することに期待しています。PCの進化に貢献するという点では、VAIOも、Microsoftも姿勢は同じです。OSの進化によって、ハードウェアは大きな刺激を受け、それによって、PCはさらなる進化を遂げることができます。

 例えば、Windows 11で拡張される外部ディスプレイ機能は、いまの時代にマッチした機能ですし、VAIO自らも重視してきました。相乗効果が発揮できると思います。また、音声入力が日本語に対応することになりますが、PCの新たな使い方の提案に繋がるという期待があります。

 ちなみに、現行モデルでのWindows 11の動作については、現在検証中ですが、必要とされる基準は満たしていると考えています。動作確認が完了次第、情報を公開していく予定です。すでに、サポートページに、対象となる見込みの機種については情報を掲載していますので、VAIOユーザーのみなさんは、それも参考にしてください。

VAIO 林 個人的には、Windows 11の世界で、VAIOはひと暴れしたいと思っていますよ。それを楽しみにしていてください。

ほかには作れない「VAIOらしさ」を誰もが感じる理由

VAIOには、「VAIOらしさ」という言葉が使われる。PCにおいて「らしさ」という表現が用いられ、それが高い評価を伴った意味で使われるケースは稀だ。そこにVAIOが培ってきた歴史の重みがある。

笠原 様々なPCを使ってきましたが、私がVAIOを買う理由は「尖っている」からです。ほかにないものがあるPCがVAIOなのです。今回、VAIO Zを購入したのは、Intel Core H35シリーズのプロセッサを搭載して、重量が1kgを切っているPCは、これしかないからです。

 最も性能が良くて、薄くて、軽いPCが、いまはVAIO Zであるということです。いま、一番尖ったPCが欲しい人、ほかの人と違うものを持ちたい人には、断然VAIO Zをおすすめします。

甲斐 私は、PCを購入する際には、スペックシートを横に並べて比較をするのですが、いつも最後に残る差別化要因が多いのがVAIOなのです。

 かつてのtype PXシリーズは他社にはないPCでしたし、VAIO S11も小型化した筐体に、あれだけ多くのインターフェイスを搭載しており、当時は比較できるPCがないほど優れていた。

 使いやすさという点で見ても尖っているのがVAIOです。ただ、尖っているという話になると、どうしてもVAIOはPC上級者のものというように聞こえます。しかし、むしろPCリテラシーが低い人ほど使ってもらいたいですね。VAIOであれば、パフォーマンスの面でも安心だし、インターフェイスの面でも安心です。買った後に困らないPCだと言えます。それがVAIOらしさだと言えます。

VAIO 林 VAIOは、コンピューティングパワーを使うことで、お客様にどう貢献できるのかということを、常に考えてきました。ただ、かつてのVAIOは、自分たちが考えている未来に向かってお客様についてきてほしいという、独りよがりのところがありました。

 会社が独立して以降、VAIOとお客様が目指している場所をもっと近付けなくてはいけない、お客様のことをきちっと見た上でVAIOが目指す未来を提案していかなくてはいけない、というように姿勢が変わってきたと言えます。

 その一方で、VAIO Zでお見せしたように、PCの未来を指し示す役割を、VAIOは果たしていきたいと思っています。VAIOの社員は一人一人が、自分の中にVAIOらしさの信念や定義を持っています。大きなベクトルは揃っていても、それぞれが目指すVAIOらしさがあるからこそ、高いモチベーションが発揮できるのではないでしょうか。

VAIO 黒崎 VAIOの特徴は、感性を活かしたモノづくりにあります。そして、VAIOの社内には、誠実で、真面目な人が多くて、実直なモノづくりを得意としています。それでいながら、熱い情熱を持っていて、自分たちが作りたいものしか、作りたくないという意志も強い。むしろ、言われたものを作るというのは苦手かもしれませんね。だからこそ、VAIOのPCには人間味が表れて、他社にはないユニークなものを作り上げることができるのではないでしょうか。

 そこにVAIOらしさがあると言えます。いまの製品ラインナップだけで十分とは思っていません。ビジネスユーザー、コンシューマユーザー、そして世界中のユーザーに、もっとワクワクを届けていきたいと思っています。

VAIO 巣山 VAIOとして独立してからは、BtoB市場に絞り込んでPCの開発を進めてきましたが、その分野のPCであっても、心に残ったり、感情を刺激したりといった製品を投入し、お客様から選んでいただけることができたと自負しています。

 これがVAIOの財産であり、魅力であり、そして、ユーザーからの期待値であることを改めて感じています。VAIOの開発に関わる人たちは、無邪気で、素直であり、しかも、それを許す企業風土があります。上下関係をあまり意識しないで議論ができ、最後までとことんやり抜くパワーも持っています。そうした風土がVAIOらしいPCを生む土壌になっているのではないでしょうか。

VAIO 林 VAIOの価値というのは、世の中がカオスになる中で、どの方向に行くか分からないというときにこそ、選択肢が提案できる点にあります。PCはもう完成形に近付いたと言われることがありますが、いまは様々なCPUやOSの選択肢があり、用途も広がっています。いまこそ、VAIOの価値が提案できるタイミングであるとも言えます。これからのVAIOにもぜひ期待していてください。


 現在VAIOは「VAIOストア 2021オータムキャンペーン」を開催中。VAIO Zを含めた各種モデルが割引価格で販売されており、最大11万9,000円引きが行なわれるほか、新規会員登録で最大2万5,000円引きクーポンも提供されている。期間は11月1日まで。