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【PC Watch 25周年特別企画】大躍進のAMDが導き出した成功の方程式とは

 この20年くらいを振り返ったとき、ともすれば、製品競争で競合に後塵を拝することも多かったAMD。しかし、Ryzen CPUの投入で状況は一気に塗り替えられた。将棋の藤井聡太二冠が将棋のAI研究用にRyzen Threadripperマシンを自作、PlayStationやXboxがAMD製SoCを搭載、スパコンでも採用が増えるなど、近年の同社は話題に事欠かず、性能面でも競合へのリードを維持している。

 だが、直近でAMD製品に興味を持ったユーザーは、過去のエポックメイキングな製品などについてあまり知らないかもしれない。そこで今回、日本AMD株式会社ストラテジック・アカウントセールス本部シニアマネージャーの小澤俊行氏とコンシューマー事業部ナショナル・セールスマネージャーの土子秀人氏に話を伺ってきた。過去を振り返りつつ、今の成功の方程式がどのように導かれたのかを紐解いてみよう。

日本AMD株式会社ストラテジック・アカウントセールス本部シニアマネージャーの小澤俊行氏
日本AMD株式会社コンシューマー事業部ナショナル・セールスマネージャーの土子秀人氏

実はIntelとほぼ同時期に設立。50年超の歴史を持つAMD

Q:とくに自作PCに興味のある方なら知らない人は少ないと思いますが、AMDの成り立ちについて教えてください。

A:AMDは1969年に米国サニーベールで設立しました。この前年にIntelが設立していますので1年違いです。AMDは早くから互換プロセッサーの製造も手掛け、PC向けのほか、サーバー向け、スーパーコンピュータ向けのCPU、そしてGPUを製造するメーカーとなりました。

 また、日本AMDの設立が1975年ですのでまもなく50周年を迎えます。

Q:AMD製品の特徴をシンプルに表わすならどのようなものでしょうか。

A:AMDのCPUはいわゆるx86互換プロセッサですが、x86の中で独自の路線を切り開いてきました。エポックメイキングな出来事を振り返ると、2000年に「Athlon 1GHz」をリリースしました。当時はまだCPUクロックがMHzの時代でしたが、1GHzを超えるクロックのCPUを初めて投入したのはAMDです。

 また、2003年にはOpteronでAMD64を導入しました。このAMD64はx86-64技術として標準化され、他社製品にも採用されています。

 2006年にはATI Technologiesを買収し、CPUとGPUが融合するAPUというロードマップを描きました。

 このように、AMDは「テクノロジーは世界を変える」を標語に昔も今もテクノロジでリーダーシップをとるポリシーを貫いています。

Q:AMDの現在の社内の雰囲気というのはいかがでしょうか。

A:AMDという会社として、従業員規模では拡大していますがフットワークの軽さは変わっていません。これはCEOのリサ・スーのリーダーシップによるものが大きいでしょう。

 リサはエンジニア出身で社内の端々まで詳しく、トップから末端までの意思伝達がスピーディに進んでいます。製品サイクルが短い現在において、こうした舵切りの速さが重要なのではないでしょうか。

ロードマップを着実に実現し、性能と信頼を勝ち取ってきたRyzen

Q:Ryzenは現在、CPUで性能をリードする存在です。その強みについて教えてください。

A:AMDはRyzen以降、ロードマップに対して常にコミットしてきました。ロードマップを示し、それを忠実に守ってきたところが強みと言えます。毎年新製品を投入し、性能を向上させてきたことがユーザーの信頼を勝ち取ることができた理由だと考えています。

 とくにマルチコア、マルチスレッド化を進めてきた点は大きいでしょう。ゲーム配信プラットフォームのSteamのデータでは、6コア以上のCPUを搭載しているユーザーが4割を超えています。4コアで十分だった時代から、現在は6コア、8コア、それ以上へとマルチコア化が進んでいます。

 ゲームをただそのままプレイするという方々ばかりではありません。ゲーム中にチャットをし、OBSを用いて実況配信するといった使い方も増えています。そうした用途では最低でも6コアが必要です。快適さを求めるならばさらに多くのコアを必要とします。Ryzenは最大16コアまで選べるところが強みと言えるでしょう。ゲーミングユーザーに向けた最大のアピール点です。

Q:ほかにも高性能の恩恵にあずかれるシーンはありますか。

A:昨今ではコロナ禍において、オンライン会議やオンライン学習、その際の背景合成といった新たなニーズも生まれてきました。

 大学生でノートPCを買うというのは一般的ですが、もともとはオフラインでレポートを書くといったような、そこまで性能を求めない用途を想定していました。ところがコロナ禍で授業がオンラインとなり、安価なノートPCでは処理し切れないという想定外のことが起きています。背景合成などは6コア以上が必須です。実際、大学生の自分の子供がRyzen 3からRyzen 7のノートに乗り換えて、オンライン授業が快適になったと話していました。RyzenノートPCの中でも8コアのRyzen 7がもっとも売れているというのはこうしたところにあると思います。

 新しいRyzenが登場するごとにノートPCを更新していますが、すごいのはRyzen 3000シリーズから4000シリーズ、4000シリーズから5000シリーズへという1世代ずつの更新でも性能向上を体感できることです。OS起動時間やOfficeを開く際などの時間が短く、速くなり、一方でバッテリ駆動時間が延びているのです。2~3世代ぶりに更新したようなときなら性能向上を感じるものですが、たった1世代で違いを感じられるのは我々の製品の強みだと思います。

性能ニーズが高まる中、躍進するRyzenノートPC

Ryzenを採用するHPの「ENVY x360 13」

Q:今の話にも出ましたが、最近は各社がRyzen搭載ノートPCをリリースするようになりました。

A:Ryzenの性能によるゲーミングノートPCという需要が大きな要因ですが、ゲーミングだけでなく、今やRyzenはスリム、プレミアムノートPC分野にも進出しています。HPのENVY Xシリーズなどは早くからRyzen搭載モデルをラインナップしています。性能とバッテリ駆動時間の向上もスリム/プレミアムノートPC分野に進出できた大きな理由と言えます。

 ノートPCシェアで見ると最高で29%程度、現在25%といった状況で、価格コムのランキングを見ますとトップ10のうち6機種、ゲーミングノートPCに限れば7機種がAMD搭載機でした。Ryzenが登場する前のノートPCシェアは4%未満でしたから、当時と比べると6~7倍まで成長しました。

Q:Radeonについてはいかがでしょうか

A:Radeonも今、ようやく花開いているという感じがします。PC用ビデオカードだけでなく、APUとしてや、ゲーム機、電気自動車のテスラに採用されるなど組み込み分野でも採用が進んでいます。

 AMDは現在唯一のCPUとグラフィックス製品を提供するメーカーですが、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアもかなり力を入れて開発していて、今ではRyzen + Radeon + Radeon softwareで「R+R+R」という形で訴求しています。

 この組み合わせによって、例えば、Smart Access Memory(SAM)はCPUとGPUメモリ間のボトルネックを解消して性能を引き上げ、可変レートシェーディングのRadeon Boostはキャラクター移動時の画質低下を抑えつつ高フレームレートが得られ、FidelityFX Super Resolutionは超解像技術で低解像度のレンダリングから高品質の高解像度映像を生成、Radeon Anti-LagはGPUが生成する映像のタイムラグを抑えてゲームにおける入力の体感速度を向上させます。こうしたソフトウェアを含めた総合力をアピールしていきたいところです。

 ソフトウェアについては最適化や安定性というところも問われます。安定性の面でも、そしてゲーム開発メーカーとの最適化についても、AMDはAdrenalin Softwareから変わりました。いまは発売時からRadeon製品にすでに最適化されているゲームも増えています。

 また、ソフトウェア技術では常にオープンソースコミュニティにコミットしています。SAMやFidelityFXのように、自社の過去の製品のみならずライバル製品まで利用できるオープンなスタンスは、XboxなどでRadeonのソフトウェア技術が採用される後押しになっているのだと思います。

Q:ゲーム機で採用が進む理由はどこにあるのでしょうか。

A:ゲーム機でのAMD製品のメリットはCPUと高性能GPUの両方の技術を持っており、それを組み合わせたSoCを作れるところにあります。そして組み込み分野はサポートがとても重要です。現在AMDではエンジニアを増やしており、サポート体制を重点的に拡充してきたことは大きな理由に挙げられるでしょう。

AMDのイメージが「性能リーダー」へ

Q:EPYCについてもお聞きしておきたいと思います。海外だけでなく国内でもEPYC採用は進んでいるのでしょうか。

A:海外に比べればやや保守的な日本ですが、HPC、HCI/VDIといったEPYCの強みを活かせる市場で採用する大学や企業も増えています。名前を挙げることができる範囲でも東京大学、東北大学、沖縄科学学術大学院大学、GMOインターネットなどがあります。

 EPYCを採用していただける背景にあるのがRyzenの躍進、成功です。サーバー製品導入の決定権を持つ方たちにも「Ryzenの性能がよい」という話が届いたことで、まずは試してみようという雰囲気が生まれました。そのテストでの性能がよければ採用が増え、大手からも引き合いが増えるといった良い循環が生まれています。

Q:AMDにユーザーが抱くイメージの変化というのを感じていますか。

A:日々、AMDに対するイメージがよくなっていると感じています。まずは自作PCでしたが、これがOEMデスクトップPCやノートPCにも影響を与え、今、歯車がかみ合った非常によい流れができていると思います。

 最初にAMD Ryzenを知ってもらうというところまでが大変でした。日本はブランド信奉者が多いと思います。例えば日本は価格が高いiPhoneのシェアが飛び抜けて高いです。PC業界で言えばIntelのブランドが強いです。そのブランド信奉をRyzenが切り崩すことができたというのは大きな出来事です。

Q:製品の供給という点ではいかがでしょうか。AMDと言うよりは半導体産業自体の問題と言えますが、AMDとしてどのようなことを行なっていますか。

A:新しいITデバイスが次々生まれ、自動車などでも多くの半導体を搭載するようになりました。半導体製造のキャパシティは限られていますから、さまざまな業種、さまざまな企業が奪い合う格好です。われわれの分野で、ももともとデータセンターなどのニーズが高まっていたところにコロナ禍によってオンライン会議やオンライン学習、巣ごもり需要といったPCニーズが高まっています。

 しかし半導体はすぐに増産できるということが難しいものです。生産数が限られているため、AMDの強みである部分に選択と集中をする必要があります。われわれの強みでありお客さんから求められているところはテクノロジでありマルチコアです。一般向け製品で言えばRyzen 9や7、5です。こちらについては徐々に改善してきているところです。Ryzen 3やそれよりもリーズナブルな製品で最新世代を求める方の声には、応えきれていないところは大変心苦しいですが、こうした状況にあります。

Q:最後に読者へのメッセージをお願いします

A:今のRyzenは、ノートPCの世代ごとに性能差が体感できるすごさがあります。性能もバッテリライフも、性能が求められている今まさに最適な製品です。これはAMDが毎年のようにロードマップをしっかりとコミットできているためです。最新のRyzen 5000シリーズ搭載ノートPCにぜひとも一度触れてみてください。

 また、CPUでは今、Ryzen 5を推させてください。快適な性能を得られる6コアでありながらコスト性能に優れた製品です。パーツ価格が高騰している今まさにオススメのモデルです。グラフィックスではRadeon RX 6600 XTです。現在の状況で価格競争力のある魅力的な製品です。また、AMD JapanのTwitter(@amdjapan)でもさまざまな情報を発信しております。今後ともAMDをよろしくお願いします。