レビュー

ブースト機能搭載! 4コアで6コアCPUに勝てる「VAIO SX14」が今日発売

~Ice Lake版とComet Lake版で新旧対決させてみた

VAIO SX14(Ice Lake搭載版)

 VAIO株式会社は本日(9日)より、第10世代CoreのIce Lakeを搭載する14型モバイルノート「VAIO SX14」を発売した。VAIOストアでの価格は税込で188,980円からとなっている(製品ページへのリンク)。

 VAIOは同じ第10世代Coreではあるが、10nmではなく14nm製造のComet Lake版VAIO SX14を今年(2020年)の1月に発売しており、こちらは最上位CPUとして6コア搭載のCore i7-10710Uを用意していた。何を隠そうそれは筆者が購入したモデルでもある。

 Comet Lake版のVAIO SX14が発表されたとき、すでにIntelがIce Lakeを発表しており、筆者としては「Ice Lakeを搭載していたら良かったんだけどなぁ」などと思いつつ、購入した記憶がある。そこに来て今回のIce Lake版の登場だ。正直買ってから1年経っていないので複雑な気持ちである。

 搭載パーツの世代の移り変わりが早いのはパソコン業界では仕方のないことだし、「欲しいときが買いどき」といった格言もあるくらいだ。購入前に「ちょっと待ったほうがいいのでは?」と後ろ髪を引かれる思いは当然あるのだが、それを振り払いつつ「良い決断をした」と自分を納得させるのが大切なはずだ……などと平静を装えるほど筆者は大人ではない。

 ちょっと前の話になるが、筆者がGeForce RTX 2080搭載ビデオカードを買ってからわりとすぐにGeForce RTX 2080 SUPERが発表され、思わず目眩がしてしまったことがある。このときの貧乏クジの引き方は相当ひどいもので今回とは事情は異なるが、それでもやはりあまり時間を空けずに新モデルが出て、手元のマシンに“旧”の烙印を押されてしまうのは口惜しい。

 前置きが長くなったが、今回Ice Lake搭載版のVAIO SX14を借りることができたので、筆者が自腹で購入したComet Lake版と性能を比較し、心の平穏を保てるのかチェックしてみることにした。正直に言うと、性能差があまり出てくれないほうが筆者としてはうれしい。

 Comet Lake版の利点は、Ice Lake版にはない6コアのCPUを搭載していることに尽きるのだが、この唯一の心のよりどころが果たして筆者の矜持を保たせてくれたのか、すでに記事タイトルでネタバレしているがどうかご覧いただきたい。

筆者が購入した1世代前のVAIO SX14(左)と、新しいVAIO SX14のブラックモデル。筆者のはALL BLACK EDITIONなので若干配色が異なる
天板のロゴ部分はALL BLACK EDITIONは銀ではなく真っ黒
ALL BLACK EDITIONとのヒンジ部のオーナメントの違い

筐体はこれまでどおりだが細かく改良。大きな変更点はCPU

 VAIO SX14はIce Lake版もComet Lake版も筐体はまったく同じだ。キーボードの打鍵感や実装されているポートの種類も変わっていない。CPUの世代やメモリの規格が変わり、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)がサポートされたといった違いもあるが、基本的に性能のみが向上しており、マイナーバージョンアップにとどまっている。

【表1】新旧VAIO SX14の大まかな違い
VAIO SX14(2020年10月モデル)VAIO SX14(2020年1月モデル)
CPU第10世代Core(Ice Lake)第10世代Core(Comet Lake)
メモリLPDDR4x(最大32GB)LPDDR3(最大16GB)
Wi-FiWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)
バッテリ駆動時間最大22.7時間最大20.5時間
HDMI出力4,096×2,160ドット/60Hz4,096×2,160ドット/24Hz
USB Type-C
(DisplayPort)
5,120×2,880ドット/60Hz4,096×2,160ドット/30Hz
正面
天板
左側面
右側面
閉じた状態
日本語キーボードのレイアウト
タッチパッド
カメラはベゼルの上部に
電源はACアダプタだが、右側面のUSB Type-CポートはPower Delivery対応
底面
LTE通信のためのMicro SIMスロットは底面にある

 今回試用したVAIO SX14は、Core i7-1065G7、LPDDR4x 32GB、PCIe SSD 256GB、Windows 10 Proなどを搭載するほぼ最上位クラスの構成だ。

 Ice Lakeのグラフィックス機能はComet LakeのGen9よりも優秀なGen11世代のGPUとなっており、実行ユニット数(EU)はCore i7-1065G7で64基と、Comet LakeのCore i7-10710Uより40基も多い。ただ、前述したようにIce Lakeは4コアまでしかラインナップがなく、Comet Lakeのように6コアモデルが用意されていない。

 今回の比較機のスペックを比べると以下のようになる。

【表2】試用したVAIO SX14のおもなスペック
試用機のVAIO SX14
(Ice Lake)
筆者所有のVAIO SX14
(Comet Lake)
CPUCore i7-1065G7
(4コア/8スレッド、1.3~3.9GHz)
Core i7-10710U
(6コア/12スレッド、1.1~4.7GHz)
GPUIris Plus Graphics
(300~1.1GHz、EU64基)
UHD Graphics
(300~1.15GHz、EU24基)
メモリLPDDR4x 32GBLPDDR3 16GB
SSDNVMe SSD 256GB
ディスプレイ14型フルHD液晶ディスプレイ
OSWindows 10 Pro

 なお、VAIO SX14ではTurbo Boost動作時のPower Limitを独自に調整して性能を引き出す「VAIO TruePerformance」という機能を搭載しており、今回はこれを有効/無効にした状態もそれぞれ計測した。

VAIO TruePerformanceを設定するには専用ユーティリティの「VAIOの設定」から行なう。CPUとファンの項目のところで、「パフォーマンス優先」にすれば有効になる。ちなみにVAIO TruePerformanceという機能名はどこにも書かれていない

 利用したベンチマークはCPUの単純な性能を測る「Cinebench R20」、システムの総合的な能力を測る「PCMark 10」、グラフィックス性能を測る「FINAL FANTASY XV BENCHMARK」の3種類だ。実際には3DMarkも実行したのだが、Comet LakeのほうのVAIO SX14で測定ができなかったので掲載はあきらめた。

 まずCinebench R20だが、灰色のバーを見ていただきたい。筆者のVAIO SX14がマルチコア性能でぶっちぎりの1,883ポイントとなった。これにはひとまず筆者の溜飲も下がるかと思いきや、なんとVAIO TruePerformance(以下TP)を無効にした結果の数値だと、TPを有効にしたIce Lakeに136ポイント差で負けてしまっている。

 すでに説明したとおり、Comet Lake版は6コア/12スレッド、Ice Lake版は4コア/8スレッド動作なので、2コア/4スレッドの差があるのだが、TPによるTurbo Boostの調整によってコア数の差を超えてしまっている。改めてTPの効果の高さを実感するとともに、やはりもう“旧モデル”なのだと現実を直視せざるを得なくなった。

 とくにシングルコアの結果ではIce LakeとComet Lakeで明らかなコア性能の差が出てしまっており、スコアが400台を超えられなかったComet Lakeには哀愁が漂っている。

 筆者の絶望はさらに続く。今度はPCMark 10の結果だが、総合性能では約1.3倍ほどの差が出てしまっており、とくにGPUが効くDigital Content CreationとGamingの項目では大きな差となった。後者に関してはダブルスコアを超える結果である。このスコアを見た時点で筆者は意気消沈した。Comet Lakeは負けたのだ。

 筆者に被虐趣味はないが、最後にダメ押しのFINAL FANTASY XV BENCHMARKを計測し、覚悟を決めることにした。もう弁解する余地はない。PCMark 10のGamingの結果と同じように倍に近い性能差が出ている。ちなみに、このベンチマークで表示されるゲーム動作についての評価はIce Lakeが「重い」だったのに対し、Comet Lakeは「動作困難」という目をそらしたくなる容赦ない事実を突きつけてきた。これが死体蹴りってやつか……。

 このほかにも、PCMark 10 Battery Bench(Modern Office)を使ってのバッテリ駆動時間の計測も行なったが、じつはIce LakeのVAIO SX14はバッテリ容量が42.9Whと、Comet Lake版の35Whよりもかなり増えている。そのため結果はIce Lake版が12時間27分、Comet Lake版が9時間8分となった。

 Modern Officeのベンチマークではおそらく6コアを十分に使っていないだろうから、純粋にコアの効率の良さとバッテリ容量の差が出た結果と言えるだろう。もちろんComet Lake版は新品ではないので多少はバッテリがへたっている可能性はあるが、それを差し引いても差はあまり縮まらないだろう。

 なお、Ice Lake版の新バッテリは軽量化しつつ容量が増やされているので、本体の重量はじつは新旧で変わっていないのだ。この点については、ただCPUやメモリを変えるだけでなく、モバイルノートとしての使い勝手を少しでも向上させようとするVAIOの開発姿勢が読み取れる。マイナーチェンジとは言え、こういった部分にも改善が入っているのは素直に喜ばしい。


 まとめだが、Comet Lake版のVAIO SX14を使用している筆者からすると、コアの世代の違いによる性能差はやはり大きく、コア数では勝っていたものの、VAIO TruePerformanceでその差をひっくり返されるなど、VAIO SX14の新モデルとして十分な能力を備えていることを証明する結果となった。

 もちろん、筆者のように前世代のComet Lake版を使っているユーザーが買い換えるほどの性能向上ではないが、数世代前のモバイルノートからの変更を考えているのであれば、十分満足させてくれるだろう。

 すでに第11世代CoreのTiger Lakeが発表されているので、Tiger Lake版が出るまで待ちたいという人は当然いるだろうが、VAIOはビジネス向けを中心に展開し、その方針として十分に性能や安全性などを担保できるモバイルノートを提供しているので、すぐに最新世代のCPUを搭載するモデルが出る可能性は低いと思われる。

 筆者はなんだかんだで現在のComet Lake版VAIO SX14でも十分に満足しているし(決して負け惜しみではない)、前のノートパソコンから買い換えて、かなり仕事の効率は上がった。旧機種にされてしまうのは悲しくはあるが、こうして国内メーカーから新モデルが出たことを素直に祝福することにしよう。

おまけ : VAIO SX14に使える便利なアイテム

 最後にVAIO SX14ユーザーである筆者から、持っていると便利なお役立ちアイテムを紹介したい。

 すでにモバイルノートでUSB PDの充電機能を使用している人はかなりいることと思う。筆者自身、USB PD対応のディスプレイに接続して、画面を出力しつつ電力供給を受けるようにしており、ACアダプタは使っていない。

 ただ、VAIO SX14の残念な点として、本体の右側にそのためのUSB Type-Cポートがあるため、ケーブルが飛び出すかたちになり、多少マウスを離して使わなくてはならないのだ。これが結構邪魔である。

USB Type-Cポートの位置
ケーブルを装着するとマウス操作の邪魔になる

 そこで、Amazon.co.jpで売っているUSB Type-CのL字変換コネクタ(価格は千円ちょっと)を試しに買ってみたところ、問題なく使えている。商品の説明にはUSB 3.1準拠と書いてあり、10Gbpsでの転送が行なえるという。筆者は転送速度まで細かく測ってはいないが、USB PDの充電は問題なくできているし、4Kディスプレイに60Hzで画面表示が行なえることも確認できている。

Amazon.co.jpで買ったUSB Type-CのL字変換コネクタ
これでマウス操作の邪魔にならない

 弊害があるとすれば、HDMIとLANポート、ミニD-Sub15ピンが使えなくなることだ。もしこれらのポートを活用していないのであればぜひ試してみてほしい。次に新筐体のVAIO SX14が出てくるのであれば、左側面にも同様のType-Cポートを用意してくれることを強く願いたい。

 もうひとつはキーボード面の皮脂汚れだ。VAIO SX14のキーボード面はツヤツヤとした合金で非常にきれいなのだが、皮脂汚れがつきやすい。とくに手首を置くパームレスト部分はしばらく使っているとくっきりと汚れが浮かび上がってくる。

写真だとわかりにくいが、パームレスト部分には皮脂汚れがつきやすい

 重曹を含んだOAクリーナーなどでも拭き取れるが、無水エタノールとキムワイプを使うときれいに油汚れが拭き取れる。筆者は何度かこれでパームレストとキートップを拭き取っているが、表面のコーティングが剥がれたことはない。以前開発者の方に消毒用エタノールのような不純物が混じったものは良くないと聞いたことがあるので、無水エタノールを使うほうが安全そうだ。もちろんこうした薬品の使用は自己責任となるだろうから注意されたい。

カメラのレンズの掃除などでも役に立つキムワイプと無水エタノール