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Intel、次世代モバイルプロセッサ「Tiger Lake」の詳細を明らかに

~L2/L3が大幅増加、96EUのXe-LPを内蔵、LPDDR5やPCIe Gen4などに対応

Tiger Lakeのウェハ、10nm SuperFinの製造プロセスルールで製造される

 Intelは「Intel Architecture Day 2020」と呼ばれるバーチャルイベントを開催し、8月13日(現地時間)にその内容を発表した。Intel Architecture Dayは、2018年の12月に第1回が開催されたイベントで、Intelが開発している技術やそのロードマップなどを説明するイベントとして行なわれたものだ。今回のIntel Architecture Day 2020はそれに次ぐもので、製造技術、CPU、GPU、そしてロードマップなどに関して詳細な説明が行なわれた。

 CPU関連では、同社がノートPC向け第10世代Coreプロセッサ(Ice Lake)の後継として開発してきたTiger Lakeに関するより詳細な情報が公開された。

 すでに明らかになっているとおり、Tiger Lakeは新しいCPUとなるWillow Coveと、Intelが単体型GPUにも利用できる新しいGPUとして開発してきたXeの低消費電力版となるXe-LPから構成されており、メモリとしてLPDDR5に対応するほか、PCI Express Gen 4、GNA 2.0に対応することなどが今回明らかにされた。

 また、Tiger Lakeは別記事で紹介している10nmの改良版となる「10nm SuperFin」で製造される計画で、Ice Lakeと比較するとクロック周波数は向上し、逆に消費電力は削減されるという。

L2キャッシュが1.25MBへ、L3キャッシュは12~24MBへとキャッシュ階層が大幅に強化

Tiger Lakeの概要を説明するスライド、イラストには4つのWillow Coveのコアが書かれている

 Tiger Lakeは10nmで製造されるノートPC向けのIce Lakeの後継となる製品で、Ice Lakeの特徴をさらに受け継いで拡張する製品になる。CPUコアはSunny Coveから改良されたWillow Cove。一方GPUは、Intelが単体GPUとして開発してきたXeの低消費電力版となるXe-LPとなる。Ice LakeとTiger Lakeの違いをまとめると以下のようになる。

【表1】Ice LakeとTiger Lakeの概要レベルでの違い(Intelの発表より筆者まとめ)
Tiger LakeIce Lake
製造プロセスルール10nm SuperFin10nm
CPUWillow CoveSunny Cove
L2キャッシュ(CPUあたり)1.25MB512KB
LLC(全体)12/24MB8MB
Control Flow Enforcement対応-
GPUXe-LPGen11
EU数9664
メモリDDR4/LPDDR4/LPDDR5DDR4/LPDDR4
GNAGNA 2.0GNA 1.0
Thunderbolt/USBThunderbolt 4.0/USB4.0Thunderbolt 3.0/USB3.0
PCI ExpressGen 4Gen 3
Willow CoveではL2キャッシュが1.25MBへと増やされる

 Willow Coveは基本的にはSunny Coveの改良版となるが、大きな強化となるのはキャッシュ階層だ。Willow CoveではL2キャッシュがSunny Coveまでの512KBから1.25MBへと強化される。L2キャッシュはメモリ階層の中でもCPUコアに内蔵されているもっともサイズの大きなメモリになるため、メモリレイテンシ(遅延)の削減に大きな効果があると考えられる。さらに、LLC(Last Level Cache、いわゆるL3キャッシュ)も50%増やされ、12MBないしは24MBが搭載されるという。

 今回の発表ではTiger LakeのCPU数やSKUに関しては発表されておらず、それらの詳細はTiger Lakeの製品発表を待つ必要がある。コア数などに関しては言及はなかったが、プレゼン中に表示されたTiger LakeのダイアグラムにはWillow Coveコアが4つ書かれており、最大で4コアということだろう。

 また、Willow Coveではコントロールフロー攻撃への防御機能として「Intel Control Flow Enforcement」が追加される。ただ、現時点ではその詳細はまだ明らかにされていない。

Intel 副社長 兼 シリコンエンジニアリング事業本部 デバイス開発事業部長 ボイド・フェルプス氏

 Intel 副社長 兼 シリコンエンジニアリング事業本部 デバイス開発事業部長 ボイド・フェルプス氏は「Tiger Lakeは、10nm SuperFinの特徴を活かし、低消費電力時の電力を削減しているほか、高負荷時のレンジを広げている。それによりTDPにより制限される性能だけでなく、それを超えたところの性能も拡張している」と説明した。

 また、Tiger Lakeでは電力管理の機能として自動DVFS(Autonomous Dynamic Voltage Frequency Scaling)の機能が用意されており、CPUの負荷に応じて動的に周波数や電圧を変えて動作するほか、パッケージCステート(C7以降のステートのこと)でより深いステート(これまでの製品ではC10まで)が提供されるなどして、より電力効率が改善されている。

省電力管理の強化点
10nm SuperFinで製造されるTiger Lake
同じ電圧でも動作させることができるクロック周波数が引き上げられる
同じクロック周波数で動かせれば電圧を引き下げることができる

 こうした改良により、同じ電圧をかけても、Willow CoveはSunny Coveより高いクロック周波数で動作する。たとえば、TDPで決められた枠内で動作する場合でも、Tiger LakeはIce Lakeよりもより高いクロック周波数で動作させることができる可能性が高いということだ。逆も言えて、同じクロック周波数で動かせれば、Tiger LakeはIce Lakeよりも低い電圧で動作させることが可能になるため、消費電力を大きく削減できる。

Turbo Boost時には電圧もクロック周波数もより大きく引き上げることができるようになり性能は大きく向上する

 そしてTDPの制約がないTurbo Boost時には、電圧もクロック周波数も大きく引き上げられる。これにより、ピーク性能は大きく引き上げられるため、同じ熱設計のノートPCに搭載した場合、Tiger LakeはIce Lakeに比べて大幅に性能が引き上げられることになる。

青がSunny Coveのクロック周波数、黄色がWillow Coveのクロック周波数。このように同じ処理をさせてもWillow Coveがより高いクロックで動くことがわかる

 今回IntelはWillow CoveとSunny Coveを比較したが黄色で表示されているWillow Coveの周波数はSunny Coveに比べて大きく引き上げられていることがわかる。

Xeの統合型版となるXe-LPを内蔵しているTiger Lake、EUはIce Lakeの64から96へと増やされている

Tiger Lakeに内蔵されているXe-LP

 Tiger Lakeに内蔵されているGPUは、Intelが単体型GPUのアーキテクチャとして開発してきたXeの低消費電力版のXe-LPとなる。Xeはさまざまな利用用途に対応できるように、伸張が可能(英語ではスケーラブルと表現する)なように設計されており、このTiger Lakeに内蔵されているXe-LPだけでなく、ゲーミング向けのXe-HPG、HPC向けのXe-HPなど複数のバリエーションが用意されている。

 Tiger Lakeに内蔵されているのはそのもっとも小さなバージョンとなるXe-LPで、ぞの実行ユニット(EU=Execution Unit)は最大96基になっている。アーキテクチャは異なるものの、従来のIntel内蔵グラフィックスのGen11が内蔵されていたIce Lakeでは最大64EUになっていたので、その点でも大幅に強化されている。

 また、L3キャッシュは3.8MBに強化されているほか、メモリコントローラや周辺部分も強化されており、より効率よくメモリ帯域を活用することが可能になっている。

 Tiger Lakeでは、ディスプレイーメモリ間に双方向64bのダイレクトデータパスが用意されており、最大で64GB/sの帯域を実現するという。これによりSoCのインターコネクトを経由しなくても、メモリからディスプレイに出力することが可能になり、より柔軟なディスプレイ出力を可能にする。

 また、イメージプロセッシングユニットとなるIPU6では、最大で6つのセンサーに対応し、最初の製品群では4K30pまでに対応し、2,700万ピクセルの静止画までに対応。アーキテクチャの潜在能力としては4K90pの動画や4200万画素の静止画に対応することができる。

メモリは最大でLPDDR5-5400へ対応、TB4やPCI Express Gen 4に対応している

メモリコントローラや内部ファブリックの進化

 CPUとGPU、メモリコントローラの接続に利用されるリングもデュアルリングへと強化され、Ice Lakeに比べて2倍の帯域幅となる。実際にメモリは、Ice LakeではDDR4-3200、LPDDR4-3733までの対応となっていたが、Tiger LakeではDDR4-3200に変わりはないが、LPDDR4はLPDDR4x-4267へと引き上げられ、最初の製品群では対応しないが、後にリリースされる製品でLPDDR5-5400への対応が追加される。また、TME(Total Memory Encryption)と呼ばれるメモリの暗号化機能も追加される。

GNA 2.0に対応

 AIへの対応もTiger Lakeの大きな特徴で、CPUの命令セットとしては新しくVNNI(Vector Neural Network Instructions、AVX512の拡張)に対応しており、CPUを利用してディープラーニングの推論を行なう場合に、FP32に変えてINT8を利用することで、推論時の性能を大きく引き上げることができる。また、Ice Lakeで導入されたGNA(Gaussian & Neural Accelerator)も強化され、GNA 2.0となり、CPUの処理能力を20%引き下げる効果がある。

ディスプレイ出力、イメージプロセッシングユニットの進化

 また、すでに発表されているとおり、Thunderbolt 4コントローラを内蔵しており、USB 4の規格にフル対応している。また、PCI Express Gen 4に対応しており、CPU側にもレーンが用意されており、PCI Express Gen 4に対応したSSDを直接CPUに接続できるほか、PCH経由で接続する場合に比べてレイテンシ(遅延)を100ns以下で接続することができるようになり、OSの応答性などを高めることができる。なお、CPU側のレーン数などはCPUのコア数などに依存しており、具体的なスペックはTiger Lakeの正式発表時に行なわれる見通しだ。

I/O関連の進化

 Intelによれば、Tiger Lakeはすでに大量生産が開始されており、PCメーカーなどOEMメーカーへの出荷が開始されている。搭載した製品は2020年のホリデーシーズン(英語圏でのホリデーシーズンとはクリスマス商戦期、日本で言うところの年末商戦期のこと)が見込まれている。