レビュー

Xeon W対応マザー「X11SRA-F」でSupermicroの本気を見る

~14コアのXeon W-2175の実力をあわせてテスト

X11SRA-F

 Supermicroは、Skylake-W世代ことXeon Wに対応したLGA2066マザーボード「X11SRA-F」を投入した。日本国内でもPCショップのオリオスペックが取り扱っており入手できる。価格は58,320円だ。

 今回、台湾Supermicroの協力により、本マザーボードおよびこれに対応した14コア/28スレッドの「Xeon W-2175」をお借りできたので、レビューしていきたい。

Core Xと差別化の色が濃くなったXeon W

 Xeonと言えばワークステーションという言葉が真っ先に思い浮かぶほど、ワークステーション用CPUの代名詞とも言える製品だ。基本はコンシューマ向けのCoreプロセッサをベースとしているが、ECCやRegisteredメモリ対応による高い信頼性と大容量ニーズへの対応や高い拡張性などを差別化要素としてきた。

 かつてHaswell/Broadwell世代までのXeonの多くは、コンシューマ向けマザーボードでもそのまま利用できた。Xeon装着時はECCメモリ対応、Core装着時はECCメモリ非対応といった違いこそあったものの、市場にある多く存在するマザーボードでXeon独自の特徴を享受することは容易だった。

 たとえば、Intel X99プラットフォーム向けに投入された最強のCoreプロセッサは「Core i7-6950X Extreme Edition」で10コア/20スレッドという構成だが、同じプラットフォームでXeon最強の「Xeon E5-2699 v4」を利用すれば、22コア/44スレッドという、現在最新鋭の「Core i9-7980XE Extreme Edition」をも凌ぐ多コア環境を享受できた。

 しかしIntelは、Skylake世代で“コンシューマ向けチップセットでXeonが使える戦略”を変更。コンシューマ向けチップセットからXeonのサポートを削除して、ワークステーション向けチップセットのみでのサポートに切り替えた。これは以前、SupermicroのIntel C236チップセット搭載のXeon対応マザーボード「X11SAE」の記事(新Xeonが利用できるSupermicro製マザー「X11SAE」を試す。Coreプロセッサも利用可能)で紹介したとおりだ。

 ちなみに、Intel C236チップセットの価格は49ドル。一方でコンシューマ向けのIntel Z170価格は価格は47ドルなので、C236に若干のプレミアムがついている印象はある。ところが、今回ご紹介するX11SRA-Fに搭載されているIntel C422チップセットは、コンシューマ向けのIntel X299と同じLGA2066ソケットに対応したものだが、Intel ARKの情報によれば、Intel C422のほうが19ドル安価だったりする。少なくともIntelのチップセットビジネスに与える影響は軽微だと見られ、この戦略変更はむしろマザーボードやPCメーカーの思惑によるものだろう。

 ただ、C236はLGA1151のXeonに加えてCoreプロセッサも使えるという特徴があったのだが、C422は同じLGA2066でありながらCoreプロセッサが使えず、Xeonのみのサポートとなる。

 また、C236はコンシューマで一般的なUnbuffered DIMMに対応し、Xeon搭載時はECCもサポートする仕様だったのだが、C422はRegistered DIMM(RDIMM)またはLoad Reduced DIMM(LRDIMM)のみのサポートで、Unbuffered DIMMには対応しない。コンシューマとの隔たりはC236より強く、むしろサーバー寄りの仕様である。

 ちなみに2月下旬現在、日本国内でDDR4のRegistered DIMMを入手するのはハードルが高い。国内メーカーであるセンチュリーマイクロは、在庫があるため比較的容易に入手できるが、KingstonやMicronは基本的に取り寄せ。某ショップに聞いた話だと、いま全世界がメモリの供給不足の状況下にあるため、Kingstonは1~2週間、Micronは10週間前後の納期。しかも後者はキャンセルされる可能性すらある。現実にはセンチュリーマイクロ一択だ。

 今回、センチュリーマイクロの協力により、DDR4-2666の8GBモジュール「CD8G-D4RE2666VL81」を4枚お借りできた。近年、コンシューマ向けメモリではヒートスプレッダの装備が当たり前になりつつあるなか、敢えて装備していないシンプルなモジュールで、メモリスロットのラッチより若干はみ出す程度の低背タイプ(Very Low Profile:VLP)となっている。VLPモジュールは、高密度ブレードサーバーといった高さ方面で制限が大きいフォームファクタにおいて、エアフローの阻害要因を軽減できるのが最大のメリットだ。

 センチュリーマイクロおなじみの蒼い基板が特徴的で、シングルランクながらチップを表裏に交互に実装しているのも見どころ。レイテンシは19-19-19-43とJEDEC準拠。採用チップはSK Hynixの「H5AN8G8NAFR-VKC」で、8Gbitの2,666MHzネイティブ対応品である。VLPでヒートスプレッダもないため、いったん取り付けると外しにくいが、サーバーやワークステーションはそこまでメモリ換装が頻繁でないことを考えると、このほうがむしろ好都合だろう。

 一言付け加えておくと、今回のテストにおいてCD8G-D4RE2666VL81は一発で問題なく全容量認識され、2,666MHzで何のトラブルもなくすべてのテストを終えることができた。このあたりはさすがワークステーション向けマザーボードと、信頼性の高いセンチュリーマイクロ製メモリの組み合わせのことはある。

今回お借りしたセンチュリーマイクロ製のDDR 4Registered ECC DIMM。1枚あたり容量8GBで、2,666MHz動作
表面のメモリチップと交互に実装しているのが印象的だ
搭載されているチップはSK Hynixの「H5AN8G8NAFR-VKC」。2,666MHzネイティブ動作品だ
第2世代のDDR4レジスタリングクロックドライバ「M88DDR4RCD02」。Montage Technology製だ

手堅い部品採用、5Gigabit Ethernetの搭載も特徴

 さていよいよX11SRA-Fを見ていこう。今回入手したのはパッケージやバックパネル、SATAケーブルが付属しないバルク品なので、パッケージの紹介は省く。マザーボード本体は、コンシューマ向けマザーボードでは近年搭載が当たり前になりつつあるRGB LEDイルミネーションや、豪華なヒートシンクなどはいっさいなく、ワークステーション向けらしい質素な作りとなっている。

 ただ、金属製のパーツで覆われたメモリスロットやPCI Express x16スロットを備えており、実用面では近年のトレンドを押さえている。いっぽうで、プッシュピンによるM.2モジュールのりテンションなど、コンシューマでは見られない、Supermicro独自のツールレスへの工夫も見られる。

X11SRA-F本体。スタンダードなATXフォームファクタだ。メモリスロットやPCI Express x16スロットが金属によって強度が強化されているのが特徴

 CPUソケットはLGA2066で、このあたりはIntel X299マザーボードとなんらかわりない。メモリスロット然りだ。CPUやメモリの装着方法はコンシューマ向けのX299マザーボードと同じであり、特筆すべき点はないだろう。CPUクーラーもLGA2066用のものと互換性があり、選択肢は比較的豊富だと言える。

 ところで、LGA2011-v3のマザーボードの多くは、DDR4メモリはCPUを中心とし、左と右とでは取り付ける向きが異なっていたが(点対称)、LGA2066では向きが統一されている(線対称)。個人的には、点対称の方が理にかなっている印象があって気持ちいいのだが、近年のメモリはヒートスプレッダのデザインが凝っているため、統一感を重視するなら線対称のほうが良い。ただ、X11SRA-FはATX24ピン側のスロットが若干上のほうにオフセットされている。

CPUソケットはLGA2066でCore Xと共通だが、Core Xプロセッサは利用できない

 X11SRA-Fの特徴の1つとして、拡張コネクタ/スロット間でいっさいの排他がないことが挙げられる。3つあるPCI Express x16形状スロットのうち、上の2つはCPUにx16で接続、下の1つはCPUにx8で接続。その間にある2基のM.2スロットは、いずれもx4でCPUと接続されている。排他関係のスロットはない。

 PCI Expressのレーンは、Core Xが上位SKUでも44レーン、下位SKUが28レーンに制限されているのとは対照的に、Xeon Wシリーズは下位から上位まですべてのSKUでCPUから48レーンのPCI Express 3.0の提供が約束されている。このため、上記5つのスロットをすべて埋めても規格どおりに動作する。

 また、C422チップセットも24レーンという破格の数のPCI Express 3.0を提供している。最下部のx4スロット、およびSATAポートに並ぶ2基のU.2ポート(x4接続)はC422側に接続されているため、上記のスロットに影響をおよぼすことはない。当然、6つあるSATA 6Gbpsポートも同時利用可能だ。I/O周りの強さは、コンシューマ向けとは一線を画している印象を受ける。

すべてのPCI Express、M.2スロットがいかなる構成でもスペック通りに動作する
PCI Expressスロットの間にM.2スロットを2基実装している
M.2モジュールはツールレスで装着できるという優れもの
SATA 6Gbpsは6ポート。また、U.2も2ポート備える

 機能面では、AQUANTIA製の5Gigabit Ethernetコントローラ「AQtion AQC108」の搭載が目立つ。このチップはC422チップセットにPCI Express 3.0 x1で接続されており、十分に性能を発揮できる。今回機材の関係で5Gigabit Ethernetの威力を試せなかったが、本機をオフィス内のサーバーにするような用途で、大いに威力を発揮するだろう。

 ネットワークコントローラとしてもう1つ、IntelのI210-ATが採用されている。こちらはOS上から通常のGigabit Ethernetコントローラとして使えるほか、ボード上に装備されたBMC(Base Management Controller)のAST2500と連携し、リモートから管理できるIPMI 2.0の受け口としても動作する。ちなみにIPMIの詳細については、以前Atom C2750を搭載したマザーボード「A1SAi-2750F」のレビュー(Atom C2750マザー「Supermicro A1SAi-2750F」レビューでも触れているので、興味のある読者はそちらをご覧いただきたい。

 背面に用意された2基のUSB 3.1ポートは、ASMediaのUSB 3.1コントローラ「ASM3142」による提供。ASM3142は現時点で最新のUSB 3.1コントローラで、マニュアルによると、C422とはPCI Express 2.0 x2による接続でとなっている。仕様上、本コントローラはPCI Express 3.0 x2の対応となるはずで、マニュアルの誤記の可能性もある。このほか、SuperI/Oには「NCT6792D-B」、オーディオコーデックとしてRealtekの「ALC1220」などを採用している。

AQUANTIAの5Gigabit Ethernetコントローラ「AQtion AQC108」。筆者が活用できるのはいつの日か……
ASMediaの最新USB 3.1コントローラ、ASM3142
IntelのGigabit Ethernetコントローラ「I210-AT」。IPMI 2.0インターフェイスも兼ねている
ASpeed製のBMC「AST2500」は電源が供給された時点で動作し、IPMI 2.0による管理に対応。また、2Dグラフィックス機能も備えている
オーディオコーデックはRealtekのALC1120
AST2500のビデオ機能およびRealtekのオーディオコーデックはジャンパー設定で無効にできる
SuperI/Oとなる「NCT6792D-B」
背面インターフェイス。USB 3.1×2、USB 3.0×4、USB 2.0×2、5Gigabit Ethernet、Gigabit Ethernet、ミニD-Sub15ピン、PS/2、音声入出力

 CPUの電源周りに目を向けよう。PWMコントローラには、Primarion(Infineon)の「PXE1610CDN」を採用。このコントローラは最大6+1フェーズを制御できるが、本製品の実装を見るに5+1フェーズの利用に留まるようだ。その電源フェーズのうち5つの主要フェーズをになうDriver MOSFETには、Infineonの「TDA21470」を採用。最大効率は95%以上で、1つあたり70Aの出力が可能。よって、5フェーズで350Aもの供給が可能になる。

 Xeon WシリーズはCore Xシリーズとは異なり、駆動倍率がロックされているためオーバークロックができず、TDPも140W程度だ。350Aという数字は、仮に1.2Vで駆動したとしても420Wの消費電力を賄える計算だ。大半の電源回路は50%負荷時でもっとも効率が良くなるようになっているが、本機のようなワークステーション用途ではCPUへの高負荷が継続することを踏まえると、きわめて適切な選択だと言えるだろう。

 このほか、メモリの電源供給用にPrimarionのPWMコントローラ「PXE1310CDM」、Driver MOSFETに「DA21232」を2セット使用しており、このあたりも抜かりはない。メモリが2チャネルしかない下位モデルでは、1フェーズのみの採用も少なくないが、本製品のように4チャネルメモリでメモリモジュールを8枚セットするような用途だと2フェーズのほうがベターだ。

 アルミ個体コンデンサは、一部FPCAP製のものだと思われるものが載っているが、電源周りのものについてはわからなかった。若干印刷や表面加工が異なるため、同じFPCAP製の可能性は低いのだがよくわからない。ただ、基板の色に合わせてすべて黒で統一されている。

電源は5+1フェーズ
ヒートシンクは比較的おとなしい
PWMコントローラはPrimarionの「PXE1610CDN」
CPU用のDriver MOSFETはInfineonの「TDA21470」
メモリ用にPrimarionのPWMコントローラ「PXE1310CDM」、Driver MOSFETに「DA21232」を使用
チップセット付近に「PXE1110CDN」がある。もしかしたらチップセット用かもしれないが、詳細は不明

 さて、Supermicroのマザーボードと言えば、できるだけ距離が最短となるような配線が特徴なのだが、X11SRA-Fもその特徴を受け継いでいる。とくに基板裏面を見れば一目瞭然だ。

 先述のとおり、Xeon WはすべてのSKUで48レーンのPCI Expressが確保されており、本製品はすべてのデバイスがいっさいの排他となることがないわけだが、そのため、PCI Expressのマルチプレクサ/デプレクサやPCI Express Hubチップの実装もない。CPUからのPCI Express信号線は、できる限りの最短の距離を通って、直接PCI ExpressやM.2スロットに接続されるという、大変気持ちのいい実装となっている。

本体背面の配線が特徴的だ
いっさいのチップを介さずにPCI Expressスロットへ直結
チップセット付近の配線も特徴的だ
メモリの配線

GUIベースのUEFIはひとクセあり。常時起動/負荷に向く

 Supermicroは一般的に、コンシューマ向け製品ではGUIベースのUEFI、サーバー向け製品ではCUIベースのUEFIが採用されているのだが、本製品に関して言えばGUIベースであった。この点は筆者にとって意外であった。

 設定できる項目はワークステーションらしからぬ豊富さで、CPUの各種機能のオン/オフ、メモリの動作クロック、拡張カードの設定、ストレージの設定、IPMI機能の設定、システムのイベントログの閲覧など、多岐に渡る。さすがにコンシューマ向けマザーボードのように、電圧の設定やメモリのタイミングのチューニングといったことはできないが、ワークステーションといえば「とりあえずデフォルト設定を使え」という印象が強いため、環境に合わせて細かに設定できるというだけでも嬉しいポイントだ。

 UEFIの項目自体には問題はないのだが、このUEFIは若干“クセ”がある。たとえばプルダウンリストは、なぜか上方向に開くのだが、項目が多すぎると上の枠をはみ出してしまい、内容が確認できない。また、項目のマウスオーバーで項目がハイライトされてしまい、キーボードがハイライトしているものとは異なり2つもハイライトされてしまう。さらに、1つ深い階層からメニューを抜けたさいに、これまで選択していた項目ではなく、常に一番上の項目がハイライトされてしまう。もっとも、UEFIの操作は頻繁に行なうものではないので、実際の使用で困ることはないのも事実ではあるのだが。

X11SRA-FのUEFI画面
CPUに関するさまざまな機能のオン/オフが可能
PCI Express周りの設定
メモリの動作クロックも設定可能だが、基本的にXeonではロックされているため、SPDの値以上には設定できない
SATAの設定。ドライブがHDDなのかSSDなのか指定できるが、メリットは不明だ
イベントログ
ブートデバイスの設定
このように、項目が多いと表示が切れてしまう不具合がある。選択はできるので実害はないのだが

 ちなみにX11SRA-Fは、CPUが起動する以前--電源ボタンを押さずとも、マザーボードに電源が供給された段階で--BMCであるAST2500が起動し、この時点でIPMIによる電源の操作や遠隔管理が可能になる。また、電源ボタンを押して起動すると、BMCによるさまざまな機能のチェックが行なわれる仕組みだ。

 このため、一般的なマザーボードよりも起動にかなり時間を要する。実際に計測してみたところ、電源オフからOS起動画面にたどり着くまで約2分、再起動で同じくOS起動画面にたどり着くまで約1分20秒かかった。

 付け加えておくと、X11SRA-Fはコンシューマ向けマザーボードでは当たり前のS3ステート(サスペンド)には対応していない。このことからも、本製品は個人が普段の業務やエンターテインメントで使うものよりも、オフィスに置いて常時起動しておき、ある程度の負荷をかけ続ける用途を前提に設計されていることがよくわかる。

14コアのSkylakeをテストする

 さて、今回はマザーボードとともに動作検証用にSkylake-WのXeon W-2175(14コア、2.5GHz~4.3GHz)もお借りできた。せっかくの機会なのでXeon W-2175の性能も見てみることにしよう。

 PC Watchではこれまでに、18コアの「Core i9-7980XE」と16コアの「Core i9-7960X」、そして10コアの「Core i9-7900X」の性能をご紹介したことがある(18コア/36スレッドの怪物CPU「Core i9-7980XE」を検証)のだが、14コアの「Core i9-7940X」についてはレビューをしたことがない。Xeon W-2175はCore i9-7940Xより動作クロックは低いのだが、アーキテクチャが共通なので、今回のベンチマーク結果はCore i9-7940Xを購入するさいの参考にはなるだろう。

 ただし今回は妥当な比較対象と呼べる環境を用意できなかったため、参考程度までに筆者の自作PC(6コアのCore i7-5820Kを4.2GHzまでオーバークロック)のベンチマークスコアを掲載する。動作環境が異なるが、同じSkylakeアーキテクチャのベンチマークスコアを比較したいのであれば、Core i9-7980XEのレビュー記事や、Core i9-7900Xのレビュー記事(エンスージアスト待望のCore X+Intel X299プラットフォームを試す)を参考にされたい。テスト環境は下表のとおりだ。

【表1】テスト環境
環境テストPC自作PC
CPUXeon W-2175(ES品)Core i7-5820K(4.2GHz OC)
メモリDDR4-2666 Registered ECC 8GB×4DDR4-2133 8GB×4
マザーボードX11SRA-FX99 Taichi
ストレージIntel 330 120GBPlextor M5P 512GB
ビデオカードGeForce GT 630GeForce GT 1080
OSWindows 10 Pro(64bit) Fall Creators Update

 ちなみにXeon W-2175はベースクロックが2.5GHz、Turbo Boostクロックが4.3GHzで、今回テストした限り、確かに最大4.3GHzの駆動が確認できたのだが、全コア負荷時の動作クロックは3.3GHzであった。Xeon W-2175はCore Xとは異なり、Turbo Boost Max Technology 3.0に非対応のため、電力や温度に余裕があったとしても、全コアが4.3GHzに引き上げられることはない。発熱もTDP 140Wという割には極めて穏やかな印象を受けた。

 グラフ1~グラフ3は、SiSoftware Sandra 2017によるCPUの性能のテストだ。グラフ1のCPU演算性能のテストでは、AVX2命令による整数演算性能や、AVX/FMA命令による浮動小数点演算性能がテストされる。このテスト今回比較対象に挙げたCore i7-5820Xは、Xeon W-2175と同じ命令集が使えるため、性能の差はクロック/コア数の差にほぼ比例する。

【グラフ1】CPU演算性能
【グラフ2】CPUマルチメディア演算性能
【グラフ3】暗号化処理性能

 たとえばCore i7-5820KのWhetstone浮動小数点AVX/FMAは166GFLOPSだが、4.2GHzと6コアで割って、3.3GHzと14コアを掛ければ304.33FLOPSとなる。一方で整数演算のCore i7-5820Kのスコアはかなり悪い(同様の計算で381.33GIOPS)のだが、じつは筆者が以前に計測した値よりも悪くなっている。おそらく、Spectre/Meltdownの対策パッチにより、性能が低下しているのだろう。

 グラフ2のCPUマルチメディア演算性能については、Xeon W-2175のみ新命令のAVX-512が使えるので有利である。Core i7-5820Kでは代わりにAVX2やFMA命令が利用されるので、こんなものだろうといったところ。

 グラフ3の暗号化処理性能については、暗/復号化の性能でXeon W-2175が(コア数や価格に比例するほどの)明確な優位性はないが、ハッシュ処理の性能ではAVX-512が使えるので、これまたCore i7-5820Kを大きくリードしたかたちだ。

 続くグラフ4はメモリ帯域、グラフ5はデータサイズ別のメモリレイテンシ、グラフ6はデータサイズ別のメモリバンド幅を示す。Core i7-5820KはDDR4-2133動作、Xeon W-2175はDDR4-2666動作なので、この差も納得のものだ。クロック差以上にXeon Wのメモリバンド幅が広いのは、メモリコントローラの改良と言ったところだろうか。

【グラフ4】メモリ帯域
【グラフ5】データサイズ別のメモリレイテンシ
【グラフ6】データサイズ別のメモリバンド幅

 Skylake-X/W世代では、キャッシュ階層が大きく変更されているのだが、グラフ5とグラフ6はその効果を如実に表わしている。データL1については、Haswell-E/Skylake-X/Wともに32KBで変更がない。しかしプライベートL2(1コア占有)は256KBから1MBに拡張されているため、1MBまではL1に匹敵するバンド幅でアクセスできる。共有L3も高速であり、最低でもHaswell-Eの2倍のバンド幅でアクセスできる計算だ。

 計測結果に若干のブレがあり、Sandraが用意するデータブロックがCPUのキャッシュにフィットしない可能性もあるのだが、ざっくり言って関係性はこうだ。注意したいのはCore i7-5820Kで、これはCPUコアを4.2GHzにオーバークロックしたときの比率である。L1/L2は動作クロックに比例するのだが、L3はリングバス上にあり、筆者はこのクロックを変更していないため、非オーバークロック時からの乖離が大きくなっている。

【表2】キャッシュ性能比
CPUL1のレイテンシを1としたときのL2のレイテンシ比率L1のバンド幅を1としたときのL2バンド幅の比率L2のレイテンシを1としたときのL3レイテンシ比率L2のバンド幅を1としたときのL3バンド幅比率
Xeon W-217531.06752.4260.408
Core i7-5820K@4.2GHz2.820.9532.0660.274

 このことから言えることは、IntelはSkylake-X/Wの設計において、L1とさほど変わらない性能(ただし遅延は3倍)のL2を4倍に増量することで、スレッド間の依存性が低い処理の高速化を図ろうとしている意図が明確にわかることである。

 余談だが、Xeon Wにはプロセッサの情報を保存する小容量のEEPROM「PIROM: Processor Information ROM」が実装されている。RFIDでリーダーで外部からプロセッサの情報読み取れると、Core Xにも実装されており話題となったのだが、Core Xでは実際に利用できなかったのに対し、Xeon Wでは利用可能になっていると見られる。しかし、手持ちのNFC対応スマートフォンをかざしても、とくに情報が得られなかった。

 一口にRFIDと言っても、NFCはそのうちの規格の1つにすぎないため、別の規格によって実装されている可能性もあるのだが、少なくとも現時点では、筆者はこれがRFIDとして機能していることを確認できない。

次世代アーキテクチャを先取りして体感できるプラットフォームか

 さて、ここでX11SRA-Fの話題からちょっと外れるのだが、筆者の“妄想”にお付き合い頂きたい。筆者はSkylake-X/Wが“今世代”ではなく“次世代”Intel CPUのアーキテクチャを先取りしたものだと思っている。その根拠は下の4点に集約される。

1.AVX-512専用レジスタ
2.FIVRの搭載
3.L2/L3キャッシュのリバランス
4.リングバスの廃止

 1は言うまでもなく、現時点においてSkylake-X/W/SPだけの特権だ。ISSCC 2018で明らかにされているが、AVX-512ユニットの実装はかなりの面積を取っている。Intelは10nmのCannon Lake世代で、AVX-512をメインストリームにもたらすと見られるが、これは14nmだと実装コストが高くつき、メインストリームに見合わないためだと思われる(もっとも、命令のみ対応し既存の256bitレジスタで2回に分割演算して対応する可能性もあるのだが……)。

 2は、Haswell世代で実装されたものの、Broadwell世代での簡略化を経てSkylake世代で省かれてしまったものだ。Intelは、モバイルを中心とした低消費電力プラットフォームで効率が悪くなることを挙げているが、これはIntelがサーバー向けCPUでまず最新アーキテクチャを投入し、それをメインストリームやエントリーに対して徐々に“下ろしてくる”ウォーターフォール型戦略をやめ、Broadwellを当初よりモバイル向けに注力して設計したからだ。Skylakeも高いTDPスケーラビリティを持っているのだが、開発の原点は明らかにモバイルだ。

 3は、Skylakeには導入されなかった特徴だ。Skylakeは命令デコーダとμOPキャッシュを拡張するなど、フロントエンドの改良に注力したものの、L2とL3はリバランスされなかった(L2は256KBのまま)。おそらく、Skylake開発当初は、多コア/多スレッドをメインストリームにもたらすAMD Zenアーキテクチャがそれほど脅威に思っていなかったのだろう。

 現在、メインストリーム向けのKaby Lake/Coffee Lakeは、Nehalem-EXおよびSandy Bridge世代で導入されたリングバスの構造を採用している。これはコア数が少ない構成だとさほどボトルネックにはならないが、コア数が増えれば増えるほどレイテンシが増えることになり、そのためリングバスを多重化してレイテンシを解消する必要が生まれてくる。Skylake-X/W/SPでは新たにコア間を直接結ぶメッシュバスを採用しているわけだが、これはRyzenに代表されるように、多コアCPUがいよいよメインストリーム普及期に入ることを先取りしている象徴だと言える。

 正直、10nmのCannon LakeやIce Lakeの情報が公開されていないので、確実なことは言えないのだが、Skylake-X/W/SPは、次世代アーキテクチャで考えうる要素を取り入れ、コスト度外視で14nmで製造したプロセッサだと言えるのではないだろうか。Skylakeという名前を冠しているものの、その実態はまったくの別物だ。将来的にCannon LakeやIce Lakeにこれらの特徴が実装されるのならば、Intelにおけるウォーターフォール型戦略が復権することになる。

 妄想が長くなってしまったが、Skylake-X/W/SPはそんな期待をもさせてくれるプロセッサだ。「Coffee Lakeで6コア/12スレッドになったからこれでいいや」で満足せず、時代を先取りしたいのなら、Skylake-X/Wはぜひとも体験しておきたいプラットフォームだと言える。X11SRA-Fはその一端を担う製品として、非常に価値のあるものだ。